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No.104へ返信

all 第33回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/05/14(Thu) 23:29:45 [No.96]
ある姉妹の日常 - ひみつ@801 遅刻って何?  - 2009/05/16(Sat) 22:06:39 [No.120]
9268byte - ひみつ@801 遅刻って何?  - 2009/05/16(Sat) 22:12:59 [No.121]
忘れても忘れても - ひみつ@11650 byte遅刻だよ…orz - 2009/05/16(Sat) 01:10:12 [No.114]
締切 - 主催 - 2009/05/16(Sat) 00:13:38 [No.109]
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新着メールは1件です - ひみつ@5897byte - 2009/05/16(Sat) 00:01:30 [No.107]
木漏れ日とフレンチクルーラー - ひみつ@13764byte - 2009/05/16(Sat) 00:00:18 [No.106]
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百合少女ーガチレズガールー - ひみつ@20252 byte - 2009/05/15(Fri) 23:23:33 [No.104]
ツァラトゥストラが語った事はともかく奴は己が道を往... - ひみつ@11042 byte - 2009/05/15(Fri) 21:46:26 [No.103]
忘れるよりも忘れさせてと忘れた貴方に伝えたい。 - ひみつ@8990 byte - 2009/05/15(Fri) 17:14:36 [No.102]
色褪せていく写真 - ひみつ@2932 byte - 2009/05/15(Fri) 16:51:39 [No.101]
大切な落とし物 - ひみつ@17900 byte - 2009/05/15(Fri) 16:02:50 [No.100]
空を渡る紙飛行機 - ひみつ@9925byte - 2009/05/15(Fri) 06:23:43 [No.99]
レコンキスタ - ひみつ@5615 byte - 2009/05/15(Fri) 02:59:29 [No.97]
サイズ誤りです。実際は12450byteです。 - No97投稿者 - 2009/05/15(Fri) 03:12:54 [No.98]


百合少女ーガチレズガールー (No.96 への返信) - ひみつ@20252 byte

 突然だけど、私は西園美魚ちゃんのことが好きである。ライク的な意味じゃなくて、ラブ的な意味で。とりあえず恋の相談といえばじょしこうせーの定番なので、友人のこまりんに相談してみた。美魚ちゃんって可愛いよね。ふぇ、美魚ちゃん? うん、可愛いね〜。だよね。ちっちゃい背とか、ちんまい胸とか最高だよね。ああ、後、美魚ちんってさ、肌凄くスベスベで触ったら気持ちいいんだ。頬とかもういつまでもプニプニしていたいですヨ。というか唇もいいよね。まるでサクランボみたいに小さくてツヤツヤしてて、食事中とかあの唇の中に食べ物が吸い込まれていくの見てると、はるちんなんか変な気分になっちゃいますヨ。そこまで言ったところで、隣を見るとこまりんはいなくなっていた。なんでだ。
 仕方がないのでこういう系統の専門家である姉御に相談してみた。美魚ちん、あいらびゅー。ふむ、しかし全ての可愛い女の子は私のものだ。故に美魚君も私のものだ。なんだと、こんちきしょー。勢いに任せて姉御に踊りかかってみた。負けた。なんでだ。
 そんなこんなでバスターズの皆に相談したところ、全滅だった。というか変な目で見られた。なんでだ。これでも好きになった理由はちゃんとあるのに。
 あれはそう私が食堂のおばちゃんの手伝いをしている時のこと。私が紙パックの牛乳をちょっぱって飲んでると、ふらりと美魚ちんが飲み物を買いに来た。こいつぁ、いけねぇ。親友の中の親友。通称、超親友であるこのはるちんが、飲み物をお裾分けしないと。約0.2秒(気分的に)で結論を出した私は牛乳をちゃぷちゃぷ揺らしながらダッシュした。はろー美魚ちん。私と生臭い仲になろうぜー。そんなことを叫んでみたところ、美魚ちんったら驚いたらしく財布から出したばかりの硬貨を落としてしまった。なんとなく硬貨の行き先を追っていると、なんと私のほうに向かってくるではないか。ふっふー、これを拾って友情ポイントゲットですヨ。とか思っていたら、いつのまにか硬貨と足の裏がドッキングしていた。ぐらりと体が後ろに倒れそうになる。硬貨如きに、このはるちんが負けるかーとか思ってみたけど、敵は万有引力とかなんかそんな感じのものを味方につけてらっしゃった。ばたーんと派手な音を立てて私は尻餅をついた。三枝……さん? 打ったところを摩っていると聞き馴染んだ声が聞こえてきた。けど、なんか変に押し殺したような声で迫力があるんですけど。およ? そういえば私の牛乳は? キョロキョロと首を動かしてみたところ、私の休み時間の友、牛乳さんは超親友であるところの美魚ちんに中身をぶちまけていた。頭から。
 美魚ちんの頬を白い液体がつーっと滴り落ちる。とりあえず尋ねてみる。おいしい? うふふ、三枝さん。あれ? 美魚ちんったら笑ってる? なんだ怒ってないじゃん。さすが超親友。このぐらいで私達の友情にヒビは入らないのだ。私は美魚ちんに向けてにっこり微笑んだ。美魚ちんもにっこり微笑み返してきた。どこからか取り出したライトセイバーを持って。いやいや、美魚ちん、それなに? うふふ、人は怒りが頂点に達すると笑えてくるというのは、ホントのことだったんですね。え、頂点? 真人君風にいうなら有頂天に達しちゃった? はい、それはもう。今から謝ったら許してくれる? 美魚ちん、更ににっこり。ダメです。そうして美魚ちんはライトセイバーでビスビスと叩いてきた。うふふっとか笑いながら。なんかちょっと楽しそうだった。最初は痛かったけど、なんか美魚ちんが楽しそうにしているものだから私も楽しくなってきた。というか美魚ちんの笑顔が素敵に見えてきた。端的に現すとゾクゾクときてキュンときた。
 こうして私は美魚ちんに恋をした。ちなみに私は、Mではない。






 初夏の気持ちいい日差しが降り注いでいる。美魚ちんは今日も今日とて中庭で、ご飯を食べていた。今日はサンドウィッチらしい。双眼鏡で拡大された視界に、ハムと野菜の色合い鮮やかな食材を挟んだパンが見えた。どうやらパン物、ご飯物と交互に作ってるらしい。ここ一週間ぐらい美魚ちんの後を付回した私がいうんだから間違いない。ちなみにはるちんの辞書ではストーカーと書いて恋する乙女と読む。美魚ちんが膝に置いた本に視線を向けたまま、小さな弁当箱からサンドウィッチを一切れ取った。そのまま小さな口を精一杯開けながらパンを噛む。桜色に色づいた唇が白いパンを変形させていく。半分も口に入れないうちに噛み切るとこくんと、小さな白い喉を鳴らして飲み込んだ。口元に残ったパン屑を小さく舌を舐め取っていく。さくらんぼのような唇の上を、りんごのように赤々とした舌がなぞって行く。はるちん、うっとり。そこで自分に突き刺さる視線に気づいた。双眼鏡を上にズラしてみると、凄く嫌そうな顔をした美魚ちんと目が合った。とりあえず手なんか振って見る。あ、ため息付かれた。
「何をしてるんですか、三枝さん?」
 美魚ちんはそれはもう素晴らしいぐらい冷たい視線で迎えてくれた。ちょっと心がキュンとなった。
「三枝さん?」
「や、やはは、なんでもないですヨ」
「そうですか。でしたら先ほどは何をしていたんですか?」
「別に何も?」
「何もしてないのに、双眼鏡なんて持ってるんですか?」
「ああ、これはあれですヨ……」
 愛しの君を見ていたのさ! 歯をキラリと輝かせる。私のことですか? もちろんそうですヨ。そんな恥ずかしいです。美魚ちんが頬を仄かに赤らめながら体をモジモジさせる。ふっ、何も恥ずかしがることはないさ。さぁ、行こう。どこへですか? 二人の理想郷を作りにさ! 約0.5秒(やっぱり気分的に)でそんな妄想を繰り広げてみた。色々なものの乖離っぷりに自分でも怖気が走った。というか最後ぐらいから完全に私じゃないし。
「もしかして……」訝し気な視線を向けてきていた美魚ちんが、持っていたサンドウィッチを掲げた。「これですか?」
 コクンと首を傾げる美魚ちん。
「お腹、空いてるんですか?」
「んー、別にそんなこともないようなこともないような気がしないでもないですヨ」
「どっちですか?」
「食べていいの?」
「はぁ、どうせ余らせてしまいますし」
「んじゃご馳走になりますヨ!」
 きょほーとか奇声を上げんばかりの勢いで美魚ちんの隣に座り込む。そのまま美魚ちんの持っている食べかけのサンドウィッチに齧り付いたりしてみる。一緒に、美魚ちんの指にも齧り付いちゃったけど気にしない。むしろこれ幸いですヨ! とか思いながら美魚ちんの指を舐めてみた。スベスベとした感触が大変心地よかった。咀嚼しながら美魚ちんの顔を見てみると、とても嫌そうな顔で睨んでいた。そのままハンカチを取り出すと私の唾液が付いた指を拭いていく。
「三枝さん……」
「美魚ちんさっき食べていいって言ったよね?」
「言いましたが、何もわたしの食べかけを選ぶことはないでしょう。というか近いです」
「え、そうかな? これぐらい普通ですヨ。スキンシップ、スキンシップ」
 上半身を必死に逸らせている美魚ちんに向けて首を傾げてみせる。まぁ、実際、近いけど。私と美魚ちんは隙間もないほど密着していた。顔に至っては10cmぐらいしか間隔がない。つまり美魚ちんが何か喋る度に、ぷるりと瑞々しく震える唇をこれでもかと見ることが出来た。おまけに吐息まで掛かってくる。ふっふっふー。女の子同士ならスキンシップの名の元になんでもオーケーになるのですヨ! というわけで美魚ちんにしな垂れかかって見る。
「これは新手の嫌がらせでしょうか?」
 美魚ちんはプルプルと震えながらぽつりと吐き捨てるように呟いた。何故か美魚ちんの視線は私の胸元に注がれていた。今、私のそれなりに育った胸は美魚ちんの二の腕にぎゅっと押し付けられている。私はニンマリと口元を緩めると、美魚ちんに向かって微笑みかけた。何か嫌な予感でも感じたのか、美魚ちんがこれまで以上にぐーっと上半身を逸らす。
「ねぇねぇ、美魚ちん、嫌がらせって何?」
「……なんでもありません」
「そかそかー。美魚ちん気にしてたんだね」
「わかってて聞くなんて、すごく……人でなしです」
「やはは、大丈夫ですヨ! 美魚ちんの夢色乙女街道一直線な悩み、このはるちんが解決してあげますヨ」
 いいながら体を美魚ちんの背後へと滑り込ませる。漸く私の言った意味に気が付いたのか、美魚ちんがじたばたと暴れ始めた。しかし、もはやはるちんは止められないのだ。おもむろに美魚ちんの胸に手を添えてみる。「んっ!」という可愛らしく押し殺した声と共に美魚ちんの体が跳ね上がった。
「三枝さん、なにするんですか?」
「え、だから揉んで大きくして上げますヨ」
「結構です。今すぐ離して下さい」
 振り返って私のことを見つめる美魚ちんの瞳は、それはもう釘でも打てるんじゃないかってぐらい冷たかった。しかも押し殺した声で喋るものだから、凄く迫力がある。そうあの白い液体を浴びた日の美魚ちんのように。ゾクゾクと来た。来たのでワキワキと腕を動かしてみた。むっ、なんかあんまり感触が。こんちきしょー、この布邪魔だぞー。とりあえず更に力を入れてみる。あ、なんかふにっとした感触が若干。おお、なんか美魚ちんの耳が後ろからでも分かるぐらい真っ赤に。とりあえず噛んで見た。「んっ、や!」なんて奇声を上げて美魚ちんが体をくねらせる。
「離して下さい!」
「えー、もうちょっといいじゃん。スキンシップですヨ」
「楽しんでいるのは三枝さんだけじゃないですか!?」
「私は美魚ちんの為を思ってやってるんですヨ!」
「でしたら離して下さい。次の授業に間に合わなくなります」
「次? 次ってなんだっけ?」
「体育です!」
 体育ですと!? 私の頭の中にスパッツをはいた美魚ちんの映像が浮かぶ。ぴっちりとした黒い布地に包まれた決して肉付きはよくない美魚ちんの太股。白と黒とのコントラストの上を汗がつーっと伝っていく。ああ、いい。その隙を付いて美魚ちんが逃げ出されてしまった。少し走ったところで乱れた制服を直すと大きく息を吐く。それからきっと睨みつけてきた。その目には涙が浮かんでいたりなんかした。そのまま美魚ちんは校舎のほうへと駆け出した。
 私は、その後ろ姿を見ながら腑に落ちないものを感じていた。美魚ちんが泣くところなんて見たことなかったから、罪悪感を感じてるのかなっとか思ったけどどうもしっくりこない。私は美魚ちんの座っていたところに座りなおすと、その理由を考え続けた。
 あ、美魚ちんの体温の名残があって暖かい。






 昼下がり。頭上ではモチベーションが下がったらしい太陽のあんちくしょーが傾き始めていたりする。そのせいか、学校中どこか気だるげな雰囲気に包まれていた。それはグラウンドで今、授業を行っているクラスも一緒だった。どうやら今日はマラソンらしい。双眼鏡で覗く私の眼に、ダラダラと走る皆の姿が見えた。あ、こまりんみっけ。皆がやる気なく走っている中、真面目に走っているっぽい。でもこまりんはこまりんでありこまりんでしかないわけで、あっさり抜かれていた。あ、スピード上げた。あ、転んだ。見事なほどの空回りっぷりだった。今度から空回りんって呼ぼう。まぁ、こまりん……じゃなかった空回りんはどうでもいいとして。
 私は視線を空回りんの後方へと移動させる。そこには最近、体育に参加し始めたラブリー美魚ちんがいた。美魚ちんは、苦しそうに息をしながら覚束ない足取りで走っている。その顔は上気し、苦しそうに歪んでいる。限界だったらしくその場で立ち止まった。そのまま空を仰ぐように顔を上げると息を吐いた。私はここぞとばかりに双眼鏡の脇についたノブを回し最大望遠にする。その精度たるや、教室にいながら美魚ちんの表情を完全に見ることが出来る。無駄にハイテク装備が満載な双眼鏡だった。
 少し前、授業をサボって廊下を歩いている時にいた女の子に話しかけたら「ええ、そうよ。スパイなのにあっさり一般生徒に見つかったわよ。笑えるでしょ? 笑いたいんでしょ!? 笑えばいいじゃない! あーっはっはっはっはふえーん!」とかワンブレスでいいながらバックを落としていった。その中に入っていたのだけれど、このハイテクっぷりを見るに本当にスパイだったんですかネ? まぁ、いいや。美魚ちんの愛らしさの神秘に比べれば、スパイぐらいいても不思議じゃないし。

美魚ちんは未だ上を向いたまま荒い呼吸をしていた。頬を伝った汗が、美魚ちんの真っ白い鎖骨へと落ちていく。白い肌に出来た陰影を通り、そのまま汗は体操服の内側へと吸い込まれていった。美魚ちんが呼吸するたびに体操服の内側にある慎ましやかな胸が僅かに上下していた。私は食い入るように美魚ちんの姿を見続けていた。と、ふいににゅっと黒く長い髪が割って入ってきた。こんちきしょー、邪魔だぞぅとか思って、双眼鏡を動かすとニヤニヤしている姉御がいた。姉御は胸元からデジタルカメラを取り出すと見せ付けるように軽く振る。それから奇妙にキビキビした動きで両腕を動かし始めた。え、ブロックサイン? 
 
ワタシ、ミオクン、トル。オマエ、パンツ、ヨコス。コノヨ、トウカコウカン。

 なんか解読したらそんな感じになった。姉御は姉御すぎるぐらい姉御だった。これはいくらなんでも乙女であるはるちん、調著しちゃいますヨ。でもそんな要求をする姉御だからこそベストアングルの撮影が期待できる。いや、でも愛しの美魚ちんのそんなあられもない姿を姉御に見せるだなんて。頭を悩ませていると再度、姉御が奇妙な動きをし始めた。えーっとなになに。チナミニ、キョヒケンナイ。なんでだ。ダマレ、マケイヌ。負け犬言われた! というか私は何も言ってないのに、どうして意思疎通が出来ているんだろう。気にしないことにした。まぁ、姉御だし。深く考えるとなんかヤバ気な組織に狙われそうなので考えないようにしよう。忘れよう。忘却しよう。
 仕方ない。私も女だ。パンツぐらいなんだ。美魚ちんの写真のためならそれぐらいどうってことないですヨ! リョウカイシタ。思ったと同時に姉御がブロックサインを送ってきた。いや、いくらなんでも早過ぎですヨ? 
 顔を引きつらせながら見てみると美魚ちんが姉御に話しかけた。まぁ、目の前であんな奇妙な動きを続けられたら当たり前だけど。美魚ちんは姉御と少しだけ話すと、ついっと私のほうを見上げてきた。電光石火の勢いで隠れてみた。今、自分がいる教室を見渡す。人は誰もおらず、代わりに机には制服だけがぽつねんと置かれていた。私は今、授業をサボって美魚ちん達のクラスにいたりした。ちなみに例によって風紀委に追いかけられていたところ、やもなく身を隠しただけである。狙ったわけじゃない。というか狙ってたりしたらただ変態ですヨ。うんうん頷きながら、私は窓から離れる。そして美魚ちんの席までいくと、そっと机の上にある制服に触れた。あ、まだ仄かに暖かい。私は美魚ちんの制服を持ち上げた。それを鼻先にぎゅーっと押し付けてみたりする。洗剤の匂いと石鹸の匂い、色々な匂いがない交ぜになったものが私の鼻腔を通り過ぎていく。私は大きく息を吸うと、それを肺の中へと導いていく。
「美魚ちんの匂いだー」
 呟いてみる。とても幸せな気持ちになれた。そのままぎゅーっと制服を強く抱きしめてみた。口元が緩んで仕方なかった。と、その時、ガララというドアの開く音がした。首が折れそうな勢いで、そちらを見ると何故か美魚ちんがいた。美魚ちんは私は一瞥すると首をコクンと傾げた。あ、可愛い。
「三枝さん?」
「は、ハロー、美魚ちん」
「何をしてるんですか?」
「み、美魚ちんこそどうしたの? まだ授業中ですヨ?」
「わたしは来ヶ谷さんに、三枝さんが教室にいるだろうからあるものと貰ってきてくれと言われたのですが……」
 あんちくしょー。即日、受け取りですか。私はグラウンドにいるであろう姉御へと恨めし気な視線を向けようとした。けれど美魚ちんの「三枝さん」という声で固まった。えーとえーと、こういう時はあれですヨ。ってこんなときの対処法なんて知らないですヨ! 
「それで、何をしているんですか? それわたしの制服ですよね?」
「えーと、これはあれですヨ。ボタンが解れてたから直してあげようかなって……」
「はぁ……授業中にですか? それに先ほどの三枝さんはわたしの制服を、その抱きしめているみたいに見えたのですが」
「え、えぇ? そうかなぁ。美魚ちんの気のせいじゃない?」
 言いながら視線を忙しなく辺りに動かす。さぁ、今こそはるちんズブレインを生かす時。ほら早く、私に素晴らしくこの場を切り抜ける方法を。とか思ってもはるちんズブレインはまったく機能する様子もなかった。むきー、この駄脳めー。自分で思って少し悲しくなった。
「三枝さん、今日のあなた、少し変ですよ? 昼休みの時もそうでしたし」
「えーと、だからそのそれはあれですヨ」
「あれ?」
「うん、えっと……美魚ちん、好き!」
「……はい?」
 まったく廻らない駄脳が出した結論は、まさかの告白だった。さすがはるちんズブレイン。予想の斜め上を行ってくれますヨ。言われてほうの美魚ちんはといえばこれでもかと首を傾げていた。そのまま一度、瞳を伏せた後、私のことを見詰めてきた。
「……それは友人として、という意味ではないですよね?」
 言いながら美魚ちんは視線を私の顔と自分の制服へと交互に動かす。とりあえずニヘラっと口元を緩めながら制服を机に置いてみる。数秒か。または数分経ったのか。無言の時が過ぎた。心臓がバクバクとうるさい。美魚ちんの琥珀色の瞳が私のことを見つめていた。ああ、もう美魚ちん可愛いなこんちきしょー! 私は元来、沈黙に耐えられない人間なのである。はるちんは沈黙が嫌いなのである。はるちんの天敵は沈黙ですと公言して廻ってもいいぐらいなのである。なんかそれすると長髪を後ろでしばったごついオッサンまで敵に回しそうだけど、そこら辺は真人君でもけしかけて置こう。うん、そうしよう。さっきまで壊れかけたの自動車のエンジンよろしく回らなかったはるちんズブレインは、今、無駄にフル稼働していた。ぶっちゃけ、私は混乱していた。
「三枝さん……」
「な、なに?」
「本気ですか? というより正気ですか?」
「失礼な。はるちんは、いつだって正気ですヨ!」
 いや、混乱してるけど。
「だって好きなんだもん!」
「わたし達、女性同士ですよ?」
「そんなの関係ないですヨ。美魚ちんも男×男、好きじゃん!?」
「……それは、そうですが」
 美魚ちんが困ったように唇を噛んで、視線を忙しなく動かす。なんか若干、怯えているっぽかった。
「少しお聞きしたいのですが、その……先ほどわたしの制服を抱きしめて、いえ鼻に押し付けていたように見えたのですが、あれは……」
 美魚ちんがまっすぐ私のことを見詰める。琥珀色の瞳が、揺れていた。なんか若干、怯えられてるっぽかった。私は、はてっと首を傾げてみる。小動物みたいに怯えている美魚ちんは、凄く可愛い。可愛いんだけれど、なにかがしっくりこなかった。理由を考えてみるけど、さっぱりわからない。それよりも今は怯えているっぽい美魚ちんになんて言い訳するか考えないと。さぁ、さっきからフル稼働し続けているはるちんズブレイン。今こそ、ナイスでグッドな言い訳を!
「だって良い匂いなんだもん!」
 告白に続いて出たのは、やけっぱちだった。どこまでも斜め上をいくはるちんズブレイン。誰だー。こんな脳に育てた奴はー。私だった。
「それは」若干、引きながらもきっぱりという美魚ちん「洗剤の匂いです」
「違いますヨ!」
「違いません」
「私は美魚ちんの匂いが好きなんだもん! だって美魚ちんが十日ぐらい着替えなった服の匂いとか嗅ぎたいもん!」
 気が付いたらとんでもないことを口走っていた。無言の時がしばらく流れた。美魚ちんは当たりを見回すように、ぐるりと目を動かした。それからゆっくりと息を吐く。堪えきれずに私がフォローの言葉を入れようとした瞬間、美魚ちんが駆け出した。それはもう脱兎の勢いで。
「ちょ、待ってー! 違う違う。今のノーカン!」
 叫びながら追いかける。
「って、早っ!?」
 教室を出て、廊下を走っているだろう美魚ちんの姿を見て驚く。教室から出るまで数秒ぐらいしか経ってないはずなのに美魚ちんの姿は、遥か遠くにあった。遥か? ハルカ……はるか。はっ、これはもしや美魚ちんの無言のメッセージ!? 「うふふ、わたしの返事が聞きたかったら追いかけてきて下さいね。葉・留・佳」とかなんかそんな感じの。はるちんズブレインはフル稼働のし過ぎでオーバーヒートした模様。漫画とかだったら耳から煙とか出てると思う。
 わーふー、待つのですー。脈絡なくどこぞのひんぬーわん子の真似をしながら追いかける。あ、美魚ちんが振り返った。なんか表情が物凄い必死だった。美魚ちんがまた速度を上げる。けれど、それも長くは続かなかった。元々、美魚ちんは運動があまり得意ではないはずで、加えて既に体育で結構な距離を走っているのだ。美魚ちんの軽快に廊下を踏みしめていた足が、段々覚束なくなっていく。ふっふっふー。美魚ちん、敗れたり! 私はポケットからありったけのビー玉を取り出すと、どっせーいとかいいながら廊下にばら撒いた。勢いよく転がっていくビー玉は前方へと扇状になりながら広がっていく。それに気がついていない美魚ちんの足が、すぐ真下にきたビー玉を踏んだ。バランスを崩した体がぐらりと揺れた。これぞ、勝機! とか思いながら美魚ちんへと飛び掛る。
「くらえー、はるちんギャラクティックラグビングエキセントリックタックル!」
 叫びながらラグビー部よろしく美魚ちんの腰目掛けてタックルをかましてみた。そのまま重力に従って二人もつれ合いながら倒れる。バターンとかビターンとか、そんな感じの音が辺りに響き渡った。驚いた徒達が、何事かと廊下に顔を出す。とりあえず手をヒラヒラと振っておいた。生徒達は「なんだ、三枝かー」とかいいながらすぐに顔を引っ込めた。とても釈然としないものを感じたけれど、今はそれどころではなかった。私の目の前には黒いスパッツに包まれた美魚ちんの太股があった。なんとなくほお擦りしてみる。少し汗ばんだ、きめ細かい肌の感触が大変心地よかった。ふ、ふふ。ふいに押し殺したような笑い声が聞こえてきた。
「う、うふふふふふ」
「み、美魚ちん?」
 私は突然、笑い出した美魚ちんの顔を覗き込む。美魚ちんはゆっくりと立ち上がると、私のことを見つめてきた。その表情は笑顔だった。それはもう素敵なほどの。けど、目だけが、冷たかった。何故だか、その目を心臓が高鳴った。
「三枝さん?」
「は、はい!」
「そんなにわたしのことが好きですか?」
「え、う、うん」
「そうですか。それでしたら行きましょう」
「え、どこへ?」
「購買部です。たしか今日はバナナが売っていたはずです」
「ば、バナナをどうするの?」
「本当はきゅうりこそが至高だと、わたしの内の何かが囁きますが今日のところはバナナで代用しておきましょう」
 意味不明なことをいいながら美魚ちんは私の襟を掴むと、そのまま引きずり始めた。その間も口元を三日月形に開いて、なんか凄く楽しそうだった。
「ああ、どうしてわたしが三枝さんごときから逃げ回らないといけなかったのでしょう。最初からこうしてればよかったんです」
「み、美魚ちん、急にどうしたの? ていうかキャラ変わってない!?」
「気のせいです。ええ、でも三枝さんに感謝しなければいけませんね。今、とても清清しい気持ちです。そうわたしは、今遂に解き放たれたんですね」
 なんかうっとりしている。唐突な心変わりに私はついていけなくて呆然と見詰めていた。そんな私に向けてにっこりと微笑む美魚ちん。
「そんなに物ほしそうな顔をして、もう少しも我慢できないんですか? 三枝さん、なんていやらしい娘。安心してください。これからたっぷり苛めてあげます」
 美魚ちんは、そういうと本格的にわたしをどこかへと連行し始めた。あの細腕のどこにそんな力があったのか、汗一つかかずに私を引きずっていく。その瞳には嗜虐的な光が爛々と灯っていた。これから自分がどうなるのかわからない恐怖とか不安とか、色々あるんだけれど何故だかその瞳を見ていると、凄く満たされた気分になった。端的いうとキュンキュンきた。
 
 わたしは引きずられながら、窓の外に広がる空を見る。お父さん、お母さん、お姉ちゃん。はるちんは今、とても幸せです。


[No.104] 2009/05/15(Fri) 23:23:33

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