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「唐突ですが直枝さん、ここで問題です」 「本当に唐突だね…」 久しぶりに裏庭の昼食会。 挨拶する間もなく西園さんからクイズを出された。 新着メールは1件です 「問題は全部で三問です。二十点獲得で豪華景品をプレゼント、です」 「へぇー、何が貰えるのかな?」 珍しく西園さんのテンションが高いのでとりあえず乗ってみることにした。 「因みに二十点到達しない場合は厳しい罰ゲームが待っています」 「えぇっ!?」 「恐らく来ヶ谷さんでも耐えられないと思います」 あの来ヶ谷さんも耐えられないような罰ゲームって一体… 興味もあるけど、やっぱり恐いので真面目に答えることにしよう。 「……冗談です」 「あ、なんだ。冗談かぁ」 ちょっと残念と思いつつもほっと胸を撫で下ろした。 「というのが冗談です。では第一問」 フェイント!? 「823×376×99-7は?」 「40,826,395」 「……」 「……」 西園さんの表情が強張る。 僕は何も言わず、涼しげな表情で西園さんを見つめた。 「少々お待ち下さい」 そう言ってポケットから電卓を取り出した。 が、ボタンを押す人差し指が直前で止まる。 僕がにっこりと笑顔を送ると、逆に西園さんの表情は不機嫌なものに変わった。 「正解は?」 僕は出来るだけ意地悪そうに尋ねた。 すると、西園さんの表情はますます不機嫌なものに変化した。 具体的に言うと、むすっとからむす~っとくらい。 全然具体的じゃないけど、ちょっと可愛いと思った。 「直枝さん、十点獲得です」 「うん、ありがとう」 あ、怒ってる怒ってる。 この辺にしておこう。 そもそも答え合ってるか分からないし。 「では第二問です」 「うん」 少し落ち着いたのか西園さんの表情はいつもと同じものになった。 でも内心悔しくて興奮している姿が見て取れた。 「今日の私の昼食は何でしょう?」 む。 これはまた難しい問題を出してきた。 やっぱりおにぎりかサンドイッチかな? 西園さんの周りの芝生に目を向けてみる。 「直枝さん、そんなにスカートをじろじろ見ないで下さい」 「いやいやいやっ!見てないからっ!ただちょっと芝生を」 ざっと見た限りパンくずとかは落ちてないから… いや待てよ。 「西園さん。もうお昼食べた?」 「いいえ、まだです。先に食べたら答え合わせできないじゃないですか」 「それもそっか。うーん…」 …あれ、だとすると僕が来るのを待ってたってこと? 「ねえ、西園さん」 「ではヒントです」 あれ、無視された? 呆気に取られる僕を他所に西園さんは小さな可愛らしいお弁当箱を取り出した。 「一瞬だけ中身を見せます。それで当てて下さい」 とりあえず僕の疑問は置いておくことにした。 「ん。おっけー」 「では、行きます」 バッ! シュバッ! 速っ!? 殆ど何も見えなかった。 だけど、蓋を開けた瞬間、ほんのりと醤油の匂いがしたのを僕は見逃さなかった。いや、嗅ぎ逃さなかった。 「では直枝さん。答えをどうぞ」 ふふん、と少し得意げな西園さん。 きっと他人に披露する機会のない隠し芸の一つなのだろう。 でも、その芸も僕の嗅覚の前には無力! 「西園さんの昼食は、焼きおにぎりだ!」 どうだ!と言わんばかりに意気込んでみたけど冷静に考えると凄く恥ずかしい。 なんだかんだ言って僕も結構楽しんでるみたいだ。 「ふふ…」 西園さんが笑った。 笑うのは別にいいんだけどなんだか邪悪な笑い方だった。 以前、何処かで見たような気もするけど。 「引っかかりましたね、直枝さん」 「えっ!?」 「答えは、これです」 西園さんがゆっくりとお弁当箱の蓋を開ける。 中に入っていたのは。 「こ、これってまさか!?」 「はい、ライスバーガーです」 直枝に電流走る! 両面をしっかりと焼いたライスプレートに和風ハンバーグを挟んだそれは正しくライスバーガーだった。 「初めて見たよ…西園さんがここまで手の込んだことをするなんて」 「残念でしたね直枝さん。一週間作り続けた甲斐がありました」 え?一週間ずっとライスバーガーを? これはもしかして… 「ねえ、西園さん…」 「では第三問です」 またスルーされた… 「最終問題です。これに正解すれば九点ゲットです」 「待って、正解しても罰ゲーム確定だよねそれ」 僕の言葉に西園さんは押し黙る。 ちっ。 あ、舌打ちした!女の子が舌打ちした! 僕の中でまた一つ、『女の子は舌打ちしない』という幻想が壊された。 「………冗談、です」 うわ、なんか凄く嫌そう。 そんなに豪華景品を渡したくないのか罰ゲームをさせたいのか。 後者でないことを祈りたい。 いや、前者でも嫌だけど。 「では第三問です」 そう言った西園さんの雰囲気が少し変わった気がした。 「忘れないためのコツというものがあります。直枝さんにはそれが分かりますか?」 西園さんの出した問題は余りにも抽象的過ぎた。 忘れないためのコツ。 それはどういう意図で出された問題なのか。 「制限時間は昼休みの間までです。それまでなら何度答えても構いません」 西園さんの表情は一言で言い表すなら穏やかだった。 僕の答えを期待しているような、それでいて既に諦めているようにも見える。 きっと西園さんなりの考えがあるハズだ。 なら僕はそれに答えたい。 「えーと、メモを残しておくとか?」 だけど、僕の頭では単純なものしか浮かばない。 「半分正解で半分間違いです」 半分正解。ならもう半分は何だ? 考える。 西園さんが求める答えを。 キーンコーンカーンコーン。 だけど、僕は結局答えに辿り着けなかった。 「時間切れ、です」 西園さんが言う。 表情はいつもと変わらない。 変わらないからこそ、僕は少し辛かった。 「本当はもっと、簡単な、当たり前のことなんです」 「人は物事を常に頭に置いておくことはできません。ある程度は覚えていても必ずいつかは忘れてしまいます。それでも人が忘れずにいられる方法――」 びゅっと強い風が吹いた。 だけど、僕は目を閉じず西園さんを見失わないようにした。 「それは、思い出すことです」 思い出すこと。 それはとても簡単で、当たり前のようなこと。 だけど、僕はその答えに辿り着けなかった。 「罰ゲーム、いいよ」 それで済むのなら安いくらいだと思った。 僕らは誰ともなく立ち上がって向かい合った。 「では、目を閉じて下さい」 言われた通りにする。 真っ暗な視界に太陽光が瞼を通して入り込んでくる。 今はその眩しさが鬱陶しい。 ふと温かいものが触れる。 驚きのあまり、思わず目を開けてしまった。 目の前には悪戯っぽく笑う西園さんの姿。 「罰ゲームは、まだ先にします」 「だから代わりに私が豪華景品を頂きました」 そう言って西園さんは校舎へと向かっていく。 何か言わなくちゃ。 「西園さん!」 振り返る。 言わなくちゃ。 「僕は忘れないよ!何度だって西園さんのこと、思い出すよ!」 月並みな言葉。 僕にはこれ位しか言えなかった。 ふと、西園さんが戻ってくる。 そして、 「…正解です」 そう言って、僕の唇にキスをした。 [No.107] 2009/05/16(Sat) 00:01:30 |
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