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ああ、もう、その、なんていうか。 あたしは理樹くんにベタボレなのだ。 『彼にお弁当を作るまで』 げげごぼうぉえっ、ってはきそうになる自分をこらえる。ふふん、そう何度も何度もはいてばかりいられない。理樹くんもやめたほうがいいって言ってるし、はかないように訓練したんだからね。しかし、それにしても。 あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ、もう、なんでこんなに理樹くんのこと好きになっちゃったんだろ?ってくらい理樹くんのことが好きだ。そりゃ、あたし恋したことなかったわよ?恋したいって思っていたわよ?恋もしないまま死ぬなんて、まっぴらごめん、って思っていたわよ?だけど、まさかここまで理樹くんのこと好きになるなんて思わなかったし、理樹くんがあたしのことを好きになってくれるなんて思わなかった。 だって―――。 『理樹はあたしんだ』 『包容力のあるおねーさんが理樹君を、ずっと包みこんでやる』 『はるちんトラップにかかれば、理樹くんを落とすなんて、わけありません』 『リキは胸がつつましやかな私と一緒になるべきなんです』 『おかしはぁ、人を幸せにするんですぅ、だから理樹君も私が幸せにするんですぅ』 『直枝さんは恭介さんと結ばれるべきです』 こんな感じでいつも理樹くんを狙っている、女の子たちが、周りにいたから。 ……最後のはどうかと思うんだけど、西園さんは間違いなくそんな感じで理樹くんをみていた。男と男って何が面白いわけ?彼女の嗜好が理解できない、考えただけで怖気が走る。 とりあえず想像してみる。 『僕は恭介のことがすきだからっ』 『俺もだ、理樹……、俺もお前のことがずっと昔から好きだったっ』 見つめあう、二人。男と男。やがて、その距離がゼロになって……。 … …… …………………… ……………………………………………………………………なしよ、なし、ぜんっぜんなしっ。 今、一瞬胸がときめいたのはあたしの気のせいっ。 気のせいったら、気のせいっ。 そ、それはともかく。大事なのは、あの中の誰かと一緒になるんだろうな、と思っていた理樹くんが、あたしを好きで、あたしも理樹くんが大好きだってことだ。 そのことを意識しただけで、胸が幸せな気持ちでいっぱいになる。 今、あたしは、本屋で理樹くんのためにお弁当を作るための本を探していた。好きな人のために料理って一回つくってみたかったからだ。今まで料理はやったことがあるけど、お弁当をつくるってことがなかったし。考えてみれば、一人のために料理をつくるってこともなかったわね……。彼のためにお弁当をつくる。考えただけで悪くない話だった。 「どんな本がいいかしらね……」 本屋にはたくさんの料理本がところせましと並べられていて、こうもたくさんあると迷ってしまう。 「……料理の、本をお探しですか?」 その声にびっくりして、振りむくとそこには西園さんがいた。いつの間にあたしの近くにいたのよ?まったく気づかなかった。 「う、うん…」 しかし、そのことをおくびにも出さず、一流のスパイとして、無難な返答をする。 「でしたら、この本がお勧めです、もしよろしかったら、料理の道具もお貸ししましょうか?」 ☆ 西園さんに本を選んでもらって、料理の道具も貸してもらった。 砂糖や塩二袋、米5キロ、にんじんとかじゃがいもとかそういう野菜や肉といったものから、料理に使う、計量スプーンやおたまや、かなり大きななべやガスコンロ2つといった非常にたくさんのものを借りた。これなら自分の部屋で料理を作れる。 しかもアドバイスまでもらった。食材はさすがに遠慮したんだけど、西園さんがいうには実家からたくさん送られてきたので、少しでも受け取ってくれる人を探していたらしい。西園さんってほんとにいい人ね。……ちょっとアレだけど。 「さてっと、つくるわよ」 そういって、料理を作り始める。こう見えても、あたし、料理には自信がある。メニューを決めて、包丁で野菜を切り始めると、小気味よい音が聞こえてくる。自分でいうのもなんだけど、結構手馴れていると思う。 ……理樹くん、あたしの手料理。おいしいって言ってくれるかな? 『おいしいよ、沙耶さん』 理樹くんがそう言ってくれると思うだけで、すごく幸せだ。もし、耳元で甘くささやいてくれたらエクスタシーだ。 エクスタシーっていえば、エッチした時の理樹くん…… げげごぼうぉえっ。 なに考えてんだあたしはぁぁぁっ。って、久しぶりにはいたああああああああああああああああああっ。もうこの癖治った、って思っていたのにっ。あーもう、それもこれも、全部理樹くんが悪いんだ。理樹くんが、その、いきなり、あんなところで。 げげごぼうぉえっ。 うわあああああああ、まただああああああああ。 と、とりあえず落ち着こう、あたし。心臓がバックバクいってるし、しかも、だんだん苦しくなってきた。理樹くんのこと考えてだけいるんじゃなくて、今は料理に集中しないと。 ザクッ 指切ったぁぁぁっ。 ☆ 2時間後。 ええ、そうよ、どうせあたしは好きな男の子のことを思い浮かべるだけで、包丁で指切るわ、火傷するわ、料理焦がす馬鹿よ。今日の授業のときだって、ぼーーっとするなって散々注意されたわ。滑稽でしょ?滑稽よね?笑うでしょ?笑いたいでしょ?笑えばいいわ、あーーーーーーっ、はっ、はっ。 ぜーーー、ぜーーー、ぜーーーっ。すごく、疲れた。 まったく料理ができていないからなおさらつかれてる。自分の部屋の中を見渡すと、どこの難民キャンプかとおもうくらいひどい有様だった。 「ああ、もう時間がないっ」 今日の探索が始まるまで時間がない、もうお弁当つくるの無理かもしれない。 ……そんなの、いやだ。最後なんだから、これくらいのこと――好きな人のために料理をつくるってことくらい、してみたい。 それを西園さんの言葉一つでとりやめるなんてことをしたかった。 ふとさっき本屋であった西園さんの言葉が思い起こされる。 『好きな人のためにお弁当をつくるといっても緊張しないでください。いつもどおりの感じでいってください…あなたは特にそうしたほうがいいように思います、世の中にはお弁当箱に卵焼きとクッキーを入れる方もいますので自由でいいと思いますよ』 卵焼きとクッキーはさすがにないでしょっ、ってつっこみたかったけど、そうよね、平常心って大事よね。 いつもの料理を作る感じでいけばよい。現実の世界でなんども難民の子のために料理をつくったんだから、それくらいできるはずだ。 いつものように、いつものように…。 しかし、実際にやるにはどうすればいいだろうか? ふと、大きななべが目に入った。 「多人数相手に作る気持ちで作ればいいかもしれない」 ふと、そんな言葉が口から出た。 思っただけだけど、実際に口に出すといい案に思えた。……そんな気持ちで作り始めた。 よし、野菜切るとき3回しか指切らなかった。さっきまでのことを考えるとすごい進歩だ。効果、ほんとにあるものね。 「あとはなべにいれて、肉ジャガつくって、と」 これもいつもどおり、大きななべで作ることにしよう。 あれ?これコンロに乗り切らない。せっかくいいアイディアだと思ったのにっ。 と、ふと見ると、コンロがもうひとつ転がっていた。 すっかり忘れていたけど、コンロ二つも貸してくれたんだっけ。あ、コンロ二つ使えば乗り切るかもしれない。 「うん、これでOKね」 コンロ2つを横に並べて、その上になべをのせた。ちょうどいい感じになべがのっている。 「いい感じじゃない♪」 これで大丈夫だろう、なんとかまにあいそうだ。 ……うん、いい感じで、あったまってきたし、これで。 バボンッ あたしは死んだ。 ☆ 「コンロを二つならべると非常に危険、ということは常識だと思うのですが」 「わざとだろ、お前?」 そういう恭介さんの言葉にわたしはむっとする。 「もちろんわざとですが、沙耶さんが悪いんです、私だって直枝さんを恋人として狙っているのに、まるでそんなこともないように考えていらっしゃるんですから、いくら恭介さんにいろいろ用意してもらって、沙耶さんの手伝いをしろ、といわれても、仕返しの一つくらいしたくなります」 沙耶さんの境遇は恭介さんから聞いて知っていましたけれど、あんなことを考えられていては手伝うわけにはいきませんでした。ここまでうまく嵌まるとは思いませんでしたが。 「何でお前は沙耶が考えていることがわかったんだ?」 「口に出ていました」 そういうと恭介さんは頭を抱えた。 「お前に任せておけば安心だと思ったんがなぁ。NPCを使うわけにもいかないし、男だと警戒されるだろうし、鈴に頼むわけにはいかないし、来ヶ谷にたのんだら、沙耶がいじられそうだし、三枝や能美にたのんだらいまいち不安だし、二木は俺を敵視しているし、小毬に頼んだら裏で何を考えているかわからないし」 ひどい言われようですね、皆さん。ですが、同意できるあたり、私も同罪でしょうか。 「恭介さんはもう少し女心を勉強したほうがいいかと思います、私だって、怒ることくらいあるんですよ?」 「大体、お前、ほんとに考えていなかったのか?」 「だから女の子の気持ちを恭介さんはまったくわかっていないというんです」 まったく、本当に恭介さんは女心についてわかっていない。 「すまん」 「考えていたに決まっているじゃないですか」 「……」 「まぁそれはともかく、今度こそ、沙耶さんうまくいくといいわね……」 ☆ ――で、また死んで再スタート、っていうわけね。笑っちゃうわねっ、滑稽でしょ、笑えばいいわ、あーーはっはっ。 しかも理樹くんと、いえば。 『見るのはいいけど、はだけるだけにして。さっきも言ったけど、勇気、ないから』 『…うん、わかった』 あたしのところに来ないで、なんか別の女とチチクリあってるしっ。ってかだれよ、この女!? ……まぁいいわ、理樹くんがあたしのところにくるまで料理、極めてやるんだから。 次にはあたしのところに来るんだろうから、時間ができた、と思おう。 実際結構料理の練習できたしっ。次、あたしのところに来たら……。 『…小毬さん、もっと抱いて、いいかな?』 『理樹君が…ずっと一緒にいてくれるなら…』 ……次、あたしのところにきたら……。 『男の子は…やっぱりパンツみたらドキドキするの? 『そ、それは、そのっ』 ……次、あたしのところにきたら……。 『ふふっリキかわいいです、かんだとき、すっごいかわいいです…』 『クド、何か違う趣味に目覚めてない…?』 …… 『…理樹くん、心臓がどきどきだな』 『そ、そりゃあ、どきどきするよ…』 …… 『直枝さん、わたしはもっとあなたに触れたい、キスよりも、その先を知りたい、あなたと』 …… 『あはは、かわいい、理樹くん、大好き』 ―――っていつにくるのよ、理樹くん!?ってか何人の女とチチクリあってるのよ!? こ、こんどこそ、あたしの番よねっ。あたしの番っ。ってか西園さん、ほんとに理樹くんのこと、好きだったんだ。あんなことを思って悪かったかもしれない。 心の中で謝罪しつつ、あたしは夜の校舎で理樹くんがくるのをじっと待った。 ―――――― ――――― ―――ってなんでこないのよっ、ああ、もう、この世界の理樹くん、ほんとに何してるのよ。 まぁいいわ、探しに行くんだからっ。 『僕、恭介のことがずっと好きだったんだ』 『……理樹、おれも実はお前のことっ』 って、理樹くん何しているの!?西園さんがほんとに幸せそうにしているしっ、こうなったら先手必勝よ、今度、新しい世界が始まったら、こっちから理樹くんに告白してあげるんだからっ。 「理樹くん、あたしあなたのこと好きなの」 そういって変わった、理樹くんの驚いた顔が、やがてすまなさそうな顔に変わった。 「でも、ボク、女の子だよ?だから沙耶さんの気持ちには答えられない」 そんなの、関係ない。 「恋愛に年齢も性別も関係ないのよ……、これからお姉さんが優しく教えって……なんなのよ、こんな展開っ」 ――――――――それから本当にいろいろなことがあって。 予定通り、学校の裏庭で、男の子の理樹くんと結ばれた。 「こんなこと、ほかの誰にもしないんだよ、沙耶さんだからするんだよ」 「……(この、大うそつきっ)」 エッチの時、そう思ったけど、こうして結ばれると本当に幸せなんだからしょうがない。うわ、最悪、他の女に幾度と手を出してるのに、幸せなんて。 だけど、エッチの時、ほんとに幸せだった。 そして手元にはお弁当。何度も何度も世界を体験してようやく作ることができた。 好きな人にお弁当を作る。 そんななんでもないような夢がようやくかなう。……もう、理樹くんと、今度こそほんとに別れてしまうだろうけど、ほんとに幸せだった。 「あたし、馬鹿よね」 そういった言葉が空に溶ける。そして、あたしはいった。 「さよなら、理樹くん」 そういって、あたしは理樹くんの待ち合わせ場所に向かった。 ――最初で最後のお弁当をもって。 理樹くんはきっと、おいしいって言ってくれる、その希望を胸に添えて。 おわり。 [No.11] 2009/03/07(Sat) 00:10:45 |
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