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珍しく美魚一人の食事だった。だけど独りではない。少し前と同じような、中庭で小鳥と戯れながらの食事。パンの耳をみんなに差し出して、ささやかな時間を地面で共有する得難い時間。みんなと喧嘩した訳でも、みんなが嫌になった訳でもない。たまには昔のような時間に浸るのもいいなと、ふと思っただけだ。 やがて食べる物がなくなったと分かった小鳥はめいめいが思う通りに空へと飛びたっていく。どこまでも遠く、彼らが思う場所へ。 本から目を離して彼らを見送った時、ふと頭によぎる。彼らを見送る時、本から目を離して空を見上げる美魚だけど、突発的にわいた疑問に再び本に視線を戻す気にもなれない。 僅かな雲に彩られた青空。人はそれにどんな感慨を抱くのだろうか。 ふと空をのぞんでみれば 「という訳で、これからリトルバスターズ定例会議を行います」 委員会用の会議室を借り切っての美魚の言葉。もちろん司会進行は彼女自身だ。ちなみに書記は小毬で、ホワイトボードに丸っこい字を書いている。 「定例会議も何も、今回が初めてな気がするのだが」 「ええ、今回が初回ですから。でも安心して下さい。毎週この時間に会議室は押さえておきました」 自分が出した質問だったが、戻ってきた返答に来ヶ谷も呆れてしまう。そんなやりとりを見つつ、理樹はこっそりと隣の恭介に話しかける。 「どうやったの?」 「何がだ?」 「この会議室を押さえたの。委員会とか部活とかで取るの大変なはずだけど、ここ」 最初はキョトンとしていた恭介だったが、理樹の言葉を聞いて言いたい事は理解したとばかりに返事をする。 「今回の事、俺はノータッチだ」 「へ?」 「と言うか、一回ならともかく定期的に会議室を取れる自信なんて俺にもないな」 よく見たら恭介は微かに冷や汗をかいている。どうやらマジ話らしい。 「ソフトボールだって会議室をとるのは難しいのに、いったいどうやって」 「本当に取れてるわ……」 少し離れた場所で佐々美は呆然としてるし、佳奈多は何かのプリントを見て頭を抱えている。あれは大方、会議室のシフト表とかそういう類のプリントだろう。 「美魚さんってさ、たまに異常な行動力を見せるよね。例えば同人誌を作るときとか」 「すまん理樹。その事は忘れさせてくれ」 「ごめん恭介。墓穴を掘った」 「出来れば掘ったという言葉も使わないでくれ」 妙なトラウマを発動していく二人はさておき、全員を見回した後で厳かに口を開く。 「と言っても、次回以降の議題も決まっていませんが」 「ダメじゃんそれ!」 「大丈夫です。毎回みんなが集まって話し合う、順番に議題を決める。それが次からのミッションです」 しれっと言う美魚。 「そうだな! それも等しくミッションさっ」 そしてミッションという言葉に異常な食いつきを見せる恭介。恭介がそういうならば否と言えるはずがない。とりあえず話が進んでいく。 「では早速今回のお題ですが」 いったん区切りを入れる美魚。 「空です」 「異議ありっ!」 瞬間大声をあげる来ヶ谷。そんな彼女に目を細める美魚。 「なぜでしょうか、来ヶ谷さん」 「西園女史ならば同性愛について熱く語ってくれると思っていたのに! そしてその話を聞いて真っ赤になるクドリャフカ君や書き出して真っ赤になる小毬君を楽しみにしていたのに!!」 興奮のるつぼといった風情で大声をあげる来ヶ谷。 「……あーちゃん先輩の苦笑いが見えるようだわ」 佳奈多の言う通り、隣は寮長室だという事は忘れてはならない。ここにいるのは隣が校長室でも大騒ぎをするようなメンバーだけど。 「ならば次回、来ヶ谷さんが同性愛としての議題でお話になっては?」 「違う。私は可愛いものが好きなだけで同性愛者ではない」 「来ヶ谷さんが可愛いものを愛でるにはどうしたらいいのかという議題にすればなんの問題もありません」 「うむ、なんの問題もない。話を進めてくれて結構だ」 「ええっ!? そんな私的な議題でいいのっ?」 理樹のつっこみ。 「では改めまして空についての話です。漠然とした問いになりますが、みなさんは空についてどう思いますか?」 しかしそれはスルーされた。つっこみがスルーされるという得難い経験をした理樹は軽く落ち込んでいたりする。 「へーいみおちん、それって漠然とし過ぎじゃね? そんな事を言われたってぱっと言葉なんて出てこないって」 葉留佳の言葉に冷ややかな視線を浴びせる美魚。一睨みで水も氷になりそうな冷たさだ。 「想像力のない馬鹿は置いておきまして」 「馬鹿扱いされたー!? ちょっとみおちんそれは納得出来ないですヨ。私を馬鹿馬鹿いうなら真人くんに話を聞いてからにして貰いましょーか」 「へ? オレ?」 くってかかる葉留佳を他人事で見ていた真人はいきなり自分に話をふられて目を丸くする。 「そうそう。真人くん、空って聞くと何を思い浮かべる?」 「そうだな。どのくらいの筋肉があれば空を飛べるんだろうな」 即答。葉留佳のチャシャ猫笑いが凍りつく。ついでに会議室もシンとなる。 「とある学者の意見によれば、2m程度の大胸筋があれば空を飛べるらしいが」 「2mの大胸筋、か。面白ぇな、燃えてきたぜ!」 そう言うとガバリと席を立ち、その場で腕立て伏せを始める真人。 「ふんっ! ふんっ!」 「さて、葉留佳さん」 「う……」 美魚の、とても綺麗な満面の笑み。 「あなたの称号は『井ノ原さんより馬鹿』です」 「みおちんすまんごめん許してそれだけはー!!」 泣き崩れる葉留佳だが、残念ながら称号は変わらない。 「ふんっ! ふんっ!」 「何名の方々が葉留佳さんと同じ称号を得るのでしょうか?」 美魚の言葉に緊張が走る。視線は自然とマジ泣きをしている葉留佳へと。いくらなんでも人間としての尊厳を傷つけられたくはない。 「ふんっ! ふんっ!」 「では、次のいけに……発言者は」 「今すごい不穏な事をいいかけたよねっ?」 「ふんっ! ふんっ!」 「…………」 「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」 「やかましいです」 ズビシと傘を真人の額へブチ込む。腕立て伏せをしていた真人はそのまま潰れるように地面に落ちた。 「一撃KOか、初めてみたな」 感心したような恭介。だがこれが意味する事は、答えられなかったら尊厳を傷つけられ、うざかったなら物理的に黙らされるという事。 恐怖の女王、西園美魚。ここに爆誕。 「では小毬さん。あなたは空と聞いて何を思い浮かべますか?」 「ふぇ? 私?」 「はい。小毬さん、あなたです」 ホワイトボートに、 『はるちゃん・真人くんよりばか 真人くん・筋肉でお空を飛びたい』 と書いていた小毬は手を止めてうーんと唸る。 「私はねぇ、お星さまが大好きなんだ」 お下げをまとめた、星形の飾りを揺らしながらにっこりと笑う小毬。 「だからね、お空はお星さまがいっぱいあってとってもキレイで輝いているところ。見ていて全然飽きないところ」 「小毬さんらしいですね。では能美さんは?」 「私ですか? そーですね。空の向こうには宇宙があるじゃないですか。ですから、乗りこえるところでしょーか。ア パッシッグ ポイントなのです」 あっと言う間に空についての意見が埋まっていく。小毬がクドの意見を英語でスラスラと書いていき、クドがそんな綴りなのですかー。と会議室に響くのが可愛らしい。 「みおちーん! ここは一つ私にも名誉挽回の大チャンスを!」 「汚名返上の間違いでは? 葉留佳さんに名誉があった試しがないと思いますが」 「さっきからみおちん毒が多すぎるっスよ〜。ほらほら、一緒のベッドでにゃんにゃんした中じゃないですか」 「妄想を現実化するのはやめて下さい」 「現実だって! ベッドで一緒に理樹くんにねこっ娘のコスプレさせたじゃん!」 ぶっと何人かが吹き出す音がした。特に理樹が何か金切り声をあげたりしているがもちろんスルー。 「次は是非とも私も混ぜるように」 「了解っス、姉御」 「本人の意志を無視した話を続けないで!」 「では葉留佳さん、改めて空についてどうぞ」 「空と言えばアレですよ、理樹くんの女装の時の下着の色が空色でしたネ」 「完璧ですね、葉留佳さん」 「でしょでしょ? 私の事見直したー?」 葉留佳と美魚はグッとサムズアップしあう。 「お願いだからそういうカミングアウト大会はしないで」 「え〜と。はるちゃんは理樹くんの下着の色が空色。って、ほぅわぁー!?」 「小毬さんも律儀に書かなくていいからっ」 自分ですごい事を書いている事にようやく気がついた小毬に理樹が全力でつっこみを入れる。 「まあ、葉留佳さんの称号は変わりませんが」 「みおちんのSっ子ー!!」 「どちらかというと、Mです」 「だからなにこのカミングアウト大会!?」 てんやわんやの大騒ぎ。ちなみに美魚の欄には『Sっ子Mっ子』と書かれていた。小毬はやる時はやる子らしい。 「ほんと、葉留佳の脈絡のない話は脱線がしやすいわね」 「そんなお姉ちゃーん」 「さて、では続きまして空について。今発言した佳奈多さんにお願いします」 美魚が次に指名したのは佳奈多。そし指名された佳奈多は作業のように、つまらなそうに口を開く。 「空についても何も、空は太陽光線が青の光線が拡散されて青く見えるからでしょう。地上、人が見上げるという行為をする部分から宇宙までの距離を空と呼ぶ。それ以上でも以下でもないでしょう」 「なんだ佳奈多君、面白味のない答えだな」 来ヶ谷がちゃちゃを入れる。佳奈多はそれにムッとする訳でもなく、淡々と答えを返した。 「面白味がある必要性がありませんから。ただ私が思った通りの事を言っただけです」 「いかんな、それでは人生つまらないだろう」 「別にそうは思いません。しかしそれなら来ヶ谷さんは空と言われて何をイメージしますか?」 佳奈多に問われてうむと頷く来ヶ谷。そして窓の外を眺める。つられてみんなも窓の外を見る。 「空と言っても青だけじゃない。白い雲も上にはある。だから、私は空を見上げてこう思うんだ。 あの雲の形は、今日の佳奈多君のぱんつの形に似ているとか、あの青と白のコントラストは、葉留佳君のぱんつのストライプを連想するとか」 「なにその斬新なロールシャッハテスト!?」 全力で理樹がつっこんだ。ちなみに件の姉妹は顔を真っ赤にしてスカートを押さえている。 「あ、姉御〜。どうしてそんな事を知っているんで?」 「はっはっは。おねーさんに知らない事はない」 「出来ればそれは知らないでいて欲しい事ですから」 「うむ。そういう事ほどよく知っているぞ、私は」 色々と最低な事をサラリという来ヶ谷。そんな来ヶ谷を見ながら神妙な顔をして口を開くのは美魚。 「来ヶ谷さん」 「ん? なんだ、美魚君」 「ちなみに、恭介さんと理樹さんと宮沢さんの今日のパンツは?」 「わーーーー!! それで恭介と謙吾は空って聞いて何を思い浮かべる!?」 自分の都合の悪い方向に話が逸れてきたと感じた理樹は全力で話を元に戻す。美魚も少し不満そうな顔をしたが、来ヶ谷から聞き出そうとはしない。 「では、また後で」 「ああ、また後で」 「いや、また後にしなくていいから。それで恭介と謙吾の答えは?」 一生懸命な理樹に後押しされてちょっと引き気味な恭介と謙吾だが、この話の流れに乗らないと自分にもダメージがきかねない。結構真剣に答えを探す二人。 「そうだな……俺にとって空は気持ちのいい場所かな。 剣道場で竹刀をずっと振っているとどこか頭の中が麻痺してくるんだ。そういう時に軽くロードワークをして空の青を見上げると心が晴れ晴れとしてくるからな」 「たしかにそうね。剣道場って閉塞感があるから」 そう同意するのは佳奈多。剣道部員だった彼女にも、今の言葉に思う所があるのだろう。そして自然にみんなの視線は恭介に。満を持しての真打ち登場である。 「……何か物凄いプレッシャーを感じるんだが」 冷や汗を流す恭介だが、全員からの視線とプレッシャーは全く減らない。っていうか、むしろ間を空ければ開ける程増えていく。 「では恭介さん、どうぞ」 「ふ、任せておけ」 だがそこは流石恭介というべきか。コホンと一つ咳払いをしてから口を開く。 「俺にとっての空。それは――空さっ!」 沈黙。ダメな意味での。 「見上げてみろよ、あの空を。そこに空がある、青空も夜空も夕焼けも。つまりは空、それ以上の言葉はいらないはずだぜ?」 続く沈黙。とてもダメな意味で。 そんな耐えがたいような沈黙が続く中で、口を開いたのは鈴。 「このバカ兄貴。思いつかなかったら思いつかなかったって素直に言えばーか」 「はい、すいません」 「鈴に素直になれって結構キツイよね」 理樹の言葉にうんうんと頷くみんなと、落ち込む恭介と、どういう意味じゃぼけーと騒ぐ鈴。 「はっ!」 と、いきなり目を見開く美魚。ちらりと視線の隅で美魚をとらえた理樹は首を傾げながら美魚の方を見る。 美魚はその視線を無視して日傘を開き、さかさまに持つ。 「なに、それ?」 「パラボラアンテナです」 訳の分からない事を言いながら日傘を北東の方向に向ける美魚。 ――空? そうね、やっぱりスパイにとっては空は重要で、そして安心できない場所ね。目に見えないとは言え、監視衛星にずっと見張られているっていう意識を持たなきゃいけないから。 そうよ、そうなのよ。そんな所で人様に見せられないような行為をしてたわよ。おかしいでしょ、自分初めてを敵対組織の映像記録に全部残されていたスパイは滑稽でしょ、笑いなさいよ、笑えばいいじゃないの。あーはっはっはっは。 何かが聞こえた。 「さて、残りは理樹さんと鈴さん、佐々美さんですか」 スルーした。 「では、理樹さんからどうぞ」 「僕? そうだね、僕にとっての空ははじまりかな」 そう言って昔に思いを馳せる理樹。 「僕を引きこもっていた部屋から引っ張りだしてくれたのは、恭介だった。その時の空はやっぱり広くて、感動したんだ。あの時の空を見なきゃ今の僕はないしね。だから僕にとっての空ははじまりだね」 「理樹、いいこと言うじゃねーかこんちきしょう!」 満面の笑みを浮かべる恭介。だが。 「始まりの恭介はあんなに格好良かったのに、今はどうしてこうなっちゃったんだろう?」 「……お前らは一度は俺をおとしめなきゃ気がすまないのか?」 「どちらかというと」 「誰だ今すごい事言ったのは!?」 落ち込んだり怒ったりの恭介は全員の顔を見渡すが、全員が全員しれっとした顔をしている。 「そんな事を言われたくなければとっとと就職先を見つけろぼけー! いつまで心配かけるんだ!!」 そこに妹の叱責が飛ぶ。兄としてはそこをつかれるとシュンとするしかない。 「では鈴さんにとっての空とは?」 「気持ちのいいものだな。あいつらと一緒に芝生で空を見上げながら昼寝とかすると、最高に気持がいいんだぞ。特にドルジの腹枕は天下一品だ。あれは病みつきになる」 微笑を浮かべて嬉しそうに言葉にする鈴。その表情を見れば今言った言葉なんか霞むくらいにそれが鈴にとってのお気に入りなんだと分かる。 そうしてみんなして微笑ましい気持ちになると、最後に佐々美がゆっくりと口を開く。 「最後はわたくしですわね。わたくしにとっての空は目標、目標ですね。バットを振りぬいてボールを彼方まで飛ばす時、自分のスイングや芯に当てる事も重要ですけれど、そこに目標があった方が感じがいいのですことよ。ですから空のどこかに目標を定めて、そこに向かって振りぬくのですわ」 言いきる佐々美。どこか通じるものを持っている謙吾はうんうんと頷いているし、そうではないメンバーも佐々美のソフトにかける情熱にかける言葉がない。 そしてしばらく余韻に浸った後、美魚が静かに口を開く。 「最後に素晴らしい話が聞けてよかったです。ではこれで第一回リトルバスターズ定例会議を――」 「あ、待って美魚さん」 締めくくろうとした所で理樹から待ったがかかった。ちょこんと首を傾げながら美魚は理樹を見る。 「どうかしましたか、理樹さん?」 「まだ大切な人の意見を聞いていないよ」 「まだ聞いていない人がいましたっけ?」 「うん」 間髪いれないでそう言う理樹に、会議室全体の顔ぶれを見渡して見るが話していない顔はない。未だ地面に倒れている真人でさえ話したのだ。 「誰でしょう?」 「美魚さんだよ。美魚さん、空について何も話してないじゃないか」 「わたし、ですか?」 「そう、美魚さん、美魚さんは空についてどう思ってるの?」 理樹の問い。それに頭で考える前に、美魚の口から言葉が出てくる。 「自由でしょうか」 その言葉が出てから頭に情景が思い浮かぶ。地面でパンをついばんだ小鳥たちが空を飛ぶ。高く高く、どこまでも高く自由に空を飛ぶ。鳥たちが空を飛ぶ姿を地上から見れば美しく、鳥たちが地上を眺める景色は美しい。そんな情景が思い浮かぶ。 「空は自由で、きっと美しいものなのだと思います」 綺麗なオチにはピクピクと痙攣する真人が邪魔だった。 [No.131] 2009/05/28(Thu) 22:26:03 |
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