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all 第34回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/05/28(Thu) 21:27:13 [No.128]
そして、おほしさまに - ひみつ。ちこく。5116byte - 2009/05/30(Sat) 10:31:46 [No.145]
しめきり - しゅさい - 2009/05/30(Sat) 00:43:04 [No.142]
[削除] - - 2009/05/30(Sat) 00:04:04 [No.141]
キミを待つあのソラの下 - ひみつ@9898byte - 2009/05/30(Sat) 00:00:54 [No.140]
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羂索は空から - ひみつ 6470 byte - 2009/05/28(Thu) 23:03:44 [No.134]
空の頭はいつまでも - ひみつ 14421 byte - 2009/05/28(Thu) 22:49:16 [No.133]
ふと空をのぞんでみれば - じみつ(誤字) 13946 byte - 2009/05/28(Thu) 22:26:03 [No.131]
婚礼には焼肉が必要だ。 - ひみつ 9131 byte - 2009/05/28(Thu) 22:16:03 [No.130]


羂索は空から (No.128 への返信) - ひみつ 6470 byte


時々空を見上げる癖がついたのはいつごろだっただろう、ふと思った。
見上げたからと言って視線の先には雲ぐらいしか存在せず、特に面白くない。
なのに何故自分は空を見上げるのだろう。改めて考えてみると訳がわからなかった。
そんな事を考えていたせいか久しぶりに遅刻しそうになってしまった。
時間ギリギリに教室つき、机に座る。
いや突っ伏してみた。乱れた息は中々整わず、少し鬱陶しかった。
教師が淡々と点呼をしていく。高校にもなったのにわざわざ点呼なんて煩わしいだけだと思う。
なので空を見上げた。窓際の最後列と言うポジションは少し顔を上げただけで空が見える。
曇っているから、特に感慨も浮かばなかったけれど。その代わり、一つ同時に決心した。
今日は授業をサボって屋上に居よう。良い天気とは言えないけれど。

空へと続く扉はいつもは施錠されており、生徒は行くことが出来ない様になっている。
だがこの前、窓からなら行けるかも、と思いつき工具箱を持ってきてみたら
割りと簡単にドライバーだけで窓が開いた。
それ以来、制服のポケットにはドライバーを入れている。
小さなそれを使って、屋上へと出る。
その瞬間に始業のチャイムが鳴り、同時に背徳感と興奮が生まれた。
他の生徒は大人しく椅子に座り授業を受けていると言うのに、自分だけは屋上に居て
自由に動き回ることが出来る。たったそれだけで、特別な感覚がする。
わくわくする気持ちを抑えずに屋上を見渡してみた。
特に何も無いが兎に角、空が近かった。そして、もっと近くで見たいと思った、
そう思い、窓へと戻る。そこに足を掛け、一息で体を持ち上げる。
登りきったそこは、さっきの場所よりも空が近かった。
当たり前と言えば当たり前だけれど、近かった。
手を伸ばせば手が黒く染まってしまうのでは無いかと思うほどに。

そのまま暫く手を伸ばしていた。もしかしたら手が染まるかもと期待して。
体が黒くなってしまったらどうなるのだろう。そう誰かに訊きたかった。
いつも一緒に居た幼馴染なら、そう問うた瞬間に考え始めるだろう。
そして痺れを切らしたあいつがあいつを蹴り、それを困り顔で見つめるあいつ。
そんないつもの光景を呆れた様に見るあいつもそこには居るだろう。
一人一人がとても個性的な幼馴染は、今ここには居ない。
もう少し時間が経てばここに来るかも知れないが、少なくとも今は居ない。
五人が揃っていないと、自分のどこかが欠けているような感覚さえする。

伸ばしていた手を引っ込め頭の後ろで組み、その場に寝転んだ。
その視線の先には当然のように空があった。黒く、時に白く、存在していた。
吸い込まれそうに厚い雲なのに、何故か先程の様に手を伸ばしたいと思わなかった。
何故だろう、と一瞬考えたがすぐに首を振った。理由などわかりきっているから。
ただ、寂しいのだ。一人はやはり寂しい。
一人が好きだ、なんていう人が居るがそれは嘘だろうと思う。
話し相手が居ない、自分以外の体温を感じられないなんて想像もしたくない。
やはり誰かと一緒に居たい。子供っぽいかもしれないが、本心だ。

そう考え始めると、一気に人恋しくなってしまった。
教室に戻ろうかと思ったが、まだ授業が終わっていない。
今戻ったら何かと面倒なので仕方なく、起こした体をまた倒し、空を見つめた。
だけど、すぐに顔を横に向けた。面白くない。
何か面白いものは無いかと制服を探る。漫画が出てきた。
スクレボの最新刊だった。適当にページを開いて読んでみて、すぐにしまった。
何回も読み返していると台詞を覚えてしまうな、と思いながら。
漫画をしまって寝返りをうった。校門の先の景色が見えて、なんだか悲しかった。
立ち上がって、ずっと先の景色を見てみた。
自分の視力はそこそこ良いとは思ってるが、それを最大限利用しても、雲は途切れなかった。
当たり前だ、と苦笑してもう一度眺めた。今度はただただ、ぼーっと。
やはり悲しい気持ちになった。何故だろう。

チャイムが鳴った。
考えるのを止め、とりあえず教室へと向かう。窓の鍵を閉めるのを忘れない。
教室へ向かう途中、ある人物を見つけた。やけに人懐っこいという印象が強い、クラスメイトだった。
詮索されるのも嫌だったので、彼女の進行方向とは逆に歩き出した。
次の時間はどこで時間を潰そうか、いっその事寮にでも帰るか。と思ったときだった。
足音が背後から聞こえた。何気なく振り返ってみると。
すごく綺麗なフォームでクラスメイトが迫ってきていた。フォームを指摘したかったが
とりあえず逃げることを最優先した。気がつくのが少し遅かったとは言え、結局は男と女。
女が男に運動で勝てるはずは無いと力を抑えて走った。
だが、あっさりと捕まってしまった。なんだこいつ、足速すぎるだろう。
仕方なく、口で応戦することにした。

「廊下は走っちゃいけないんだぞ」
「お互い様よ」
「こっちは正当防衛だ」
「まあ良いわ、さっきの時間どこに居たの?」

こっちのペースに引き込む隙も無いまま、問われてしまった。
今度論争の特訓でもするか。
そう思いつつ、こう反論してみた。

「ちょっと夢と希望を探しに地下の大迷宮へ」
「あっそう。で、どこに居たの?」

スルーされてしまった。これは痛い。
だが一つだけわかったことがある。これを上手く使えばこの場から逃げられるかもしれない。

「なあ、一つ訊いていいか?」
「良いわよ?何?」
「お前スクレボ読んでないだろ?」
「何それ?」
「やはりな…あの台詞に反応しないのは読んでない奴だと決まっているからな」

制服を掴まれていた右手をゆっくりと離し、そっとその手にスクレボ最新刊を持たせた。
そしてゆっくりと向きを変え、手を振りながらこう言った。

「じゃあな…今度会うときは敵同士だぜ…」
「クラスメイトが敵になるわけないでしょう。ほらさっさと教室へ行く!」

名台詞がスルーされた。何故だ。
この台詞は原作を知らない奴が聞いても必ず感動するんだぞ。
まさか言った台詞が間違っていたのか。その可能性を探るためにも寮に戻らなくては。
だが再び制服をがっちりと掴まれてしまったために動くに動けない。
ここで仕方なく秘密兵器を出すことにした。息を吸い、彼女の耳元で囁く。
正直これはやりたくは無かった。お互い恥ずかしくなるだろうから。

「頼む、見逃してくれ…あーちゃん」
「…」

呆然となり力が抜けた彼女の腕を振り払い、距離をとった。
当の本人は掴んでいた制服が右手をすり抜けた事すら気がついて居ないらしく、まだ空中を掴んでいた。
心の中で彼女に謝りつつ、寮へと駆け出した。
寮へは五分位で到着した。それでも全力で走れば流石に息が切れた。
自分の部屋に入る前に寮の壁にもたれ掛かり息を整えていると、こんな声が聞こえてきた。


「やっぱり止めた方が良いんじゃない?見つかりでもしたらどうするのさ」
「そのときはこいつのせいにすればいい」
「なんで俺のせいなんだよ!」
「うっさい!見つかるだろぼけーっ!」
「お、あそこが寮じゃないか?」

個性が服を着てやってきたかのようなその集団は、男子寮へと向かってきた。
その集団を見た時、不思議にも空が見たくなった。
ふと上を見上げると、厚い雲の切れ間から光が差し込んできていた。
その光を手でさえぎりつつ、どうすればあいつらが驚くような登場の仕方が出来るだろう、と考えた。
考えた末に、一つの案が浮かんだ。
だが、あまり時間が無い。急いで寮に入り、二階の廊下の窓に到着した。
用意しておいたロープを傍の柱に括り付け準備完了。

四人が窓の傍に来た。ロープを掴み、一気に飛び降りた。
そして落ちながらこう言った。

「ミッション・スタート!」

今日のミッションはこいつらを一日楽しませること。
久しぶりに面白くなりそうだ、と笑いが止まらなかった。




「ところで馬鹿兄貴、授業はどーした」
「自主休校だ」
「つまりサボったんだね…」


[No.134] 2009/05/28(Thu) 23:03:44

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