![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
「ドルジ、おまえどうした?」 「ぬお〜」 「寝てるのか?だとしたらそれはいびきなのか?それとも寝言なのか?」 「ぬお〜」 「おまえは寝言までその鳴き声なのか……やっぱ変なやつだな」 「ぬお〜」 そして、おほしさまに 僕は夢を見た。僕が夢を見ることはない。しかし…なぜ、突然夢を見ることが出来たのか。それだけが、謎に包まれたままだった。 夢は起きたらすぐ忘れるとよく耳にした。 だけど。 僕は忘れなかった。忘れられなかった。幸せな夢でもない。夢の内容を手帳へと書いたわけでもない。誰かに話したわけでも、二回、三回も続けて見たわけでもない。一回だけ、初めて見た夢だった。 また、悪夢は永い間記憶に残るとも聞いたこともある。 でも。 僕が見た夢は悪夢でもなかった。誰かに殺されてしまう夢、誰かを殺してしまう夢。大切な人がみんないなくなってしまう夢。そんなことはなかった。 そして、夢で見たことが実際に起こる事。所謂予知夢というもの。そんな風にも見えなかった。 僕が見たのものはただ、ずっとドルジが出てくる夢だった。何をするわけでも何かがしたいわけでもなく、僕の夢にはドルジが居座っていた。夢の中では何も起こる事はなかった。そして、ぬお〜という鳴き声が耳から離れる事はなかった。 今朝、真人に僕の夢の内容は伏せて少し話してみたら、僕が夢を見たことに少し驚いていたけれど……その後すぐに、こんなことを言い出した。 「なあ理樹、知ってるか?」 「なにが?」 「寝てる時に見た夢は、起きた時にすぐ空に昇って星になっちまうみたいなんだぜ?」 「へぇ……」 初めて聞いた説だった。 「もしかしたらさ、オレが見た筋肉の夢も星になっているんじゃねーかと少しワクワクしてるんだっ!星の名前も付けられるみてぇだし、最近オレはどんな名前にしようか迷ってるんだ。理樹も一緒に考えてくれねーか?いまんとこの名前の候補はだな……」 マッスルスター……マッスル星……筋肉……どれもこれも似たようなものばかりだった。 「それで、真人。誰がそんなこと言ってたの?」 「あん?あぁ、謙吾のやつから」 「多分、それ真人をだますための嘘」 「な…なんだってー!?」 とてもショックを受けていた。 僕は授業中でも、授業が終わった後でも夢のことを引き摺って考えていた。 今朝、真人が言った事を思い出していた。その時は適当に流していたけど、今になって急に気になり始めた。そう思ったときにはもう既に僕は窓の外を見上げていた。しかし、今は昼。当然星は見当たらない。いや……見えない、と言った方が正しいのかもしれない。 僕はまだひとつ気にかかることがあった。ドルジのことだ。どうしてもドルジのことが気になった。昨日は鈴と一緒に居たところを見かけた。なら、今日も一緒に居るはずだ、と思い僕は席から立ち上がる。教室に飛び交う様々な話に興味を向けることもないほど、今の僕はドルジのことでいっぱいだった。廊下を抜ける途中 、真人と謙吾がバトルをしていた。だけど、僕は脇目も振らずに駆け抜ける。そして、僕は中庭へと出た。 辺りを見渡すと、鈴と猫が数匹。そこにドルジは居なかった。鈴を見てみると、ずっと空を見上げている。他の猫達もそうだった。ドルジのこともそうだけど、鈴に少し疑問に思った僕は、迷わず鈴に話しかけた。 「ねえ、鈴」 「……」 鈴の表情を観察してみると、驚いたような。考えているような。謎に包まれた物を見ているような。そんな風に僕には見えた。 「鈴」 肩に手を置いてみると。 「にゃっ!?」 「そんなびっくりしなくても……」 「なんだ、理樹か。びっくりさせんな」 ごめん、と心の中で謝っておく。そして鈴は今、何をしているのか僕は訊ねた。 「空を見上げてただけだ」 「それはわかってるから……じゃあさ、なにを見てたの?」 「ドルジ」 その鈴の一言に、僕は心臓がドキドキと鳴る。鈴の表情も変わらぬままだ。この瞬間に、その名前が出てくるのがとても予想外だったからだ。また、同時に疑問が浮かぶ。鈴が空を見上げていて、なぜドルジを見ていたのか。それは、ドルジが空を飛んだ。でも、なぜ空を飛んだのか……理由が見つからない。わからないことだらけだった。僕は少しでも疑問を減らそうと、鈴に深く追求することにした。 「その……ドルジは昨日どうしてた?」 「昨日は、そうだな……ずっと寝てた。ぬお〜と鳴きながらずっと寝てた」 「放課後、ドルジはどうしてた?」 「寝たままだった」 「寝顔はどんな風だった?」 「笑ってた。寝ながらゴロゴロ転がりそうだった」 「じゃあさ、なんでドルジは空を飛んだの?」 「そんなの知るかぼけっ!ていうか質問攻めはやめろ!」 怒られてしまった……でも、質問だらけだったのも悪かったかなと思い、一旦僕は空を見上げる。また戻ってくるのかなと考えたけど、その様な気配はひとつも感じられない。真人が言ってた事から、僕の夢が原因でドルジは空に昇ってしまって、星になったのかと思った。でも、逆に考えたらドルジが空に昇るからこそ、僕はドルジの夢を見たのかとも考えられる。だけど…このことは誰にもわからない。 「そうだ、理樹」 「え、なに?」 「ドルジが空を飛ぶ時、羽が生えてた」 「羽……?」 「そうだ。あれは鳥のような羽じゃなくて天使の羽のようだった」 そこで僕はひとつのあることが思い浮かぶ。 そう、それは。 「死」 死の間際に天使に迎えられたと、僕は考えた。また、流れ星は死を意味すると聞いた。何処から、誰から聞いたかはもう覚えていない。僕が見た夢が星となって、そして流れ星となって――。だけど、そう考えても不思議と悲しい、という感情は浮かんでこなかった。また、ドルジのぬお〜という鳴き声が聞こえるかもしれなかったからだ。 ひとつだけ、鈴に訊ねたい事があった。 「ねえ、鈴。最後にひとつだけ質問いい?」 「なんだ…?そんな深刻な顔して」 今、僕はそんな顔してたのかと思った。そう言われてすぐに表情を直す。 「別れに立ち会えるのと、立ち会えないのってどっちが悲しいのかな?」 「…知らん」 鈴は少し考え込んだけど、僕の質問は一蹴された。 「そっか」 僕は、そう言うことしか出来なかった。 [No.145] 2009/05/30(Sat) 10:31:46 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。