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――例えば水俣病やイタイイタイ病に代表されるような病気は毒性成分の堆積によります。食物連鎖の上に行くに従って毒が溜まっていく仕組みになっていますので、捕食者には毒が蓄積しやすいのです。 毒は上に積もる その日、真人は朝早くに目を覚ました。その日も、といった方がより正しい表現なのかも知れない。 真人の目覚めはとてもいい。夢と現の間をまどろむ事もなく、目覚めと共にガバリと体を勢いよく起こすのが常。 「ふぅ、今日は理樹と一緒に筋トレをする夢を見ちまったぜ」 そして見た夢の内容を軽く口にするのがクセになっていた。真人曰く、夢は心の筋肉だそうだ。 深い眠りについている理樹が聞かない方がいい言葉はさておいて、真人は理樹を起こさないようにゆっくり2段ベッドから降りていく。実際にはギッシギシと常人ならばすぐに目を覚ましそうな音をたてているのだが、慣れとは恐ろしいもので理樹は一向に目を覚ます気配もない。 真人は冷蔵庫から麦茶を取り出すと、一気に煽って睡眠中に失った水分を取り戻す。 体を動かす時に水分は重要だ。不足すれば脱水症状で倒れてしまいかねない。 「さあ、行くか!」 早朝のメニューはランニング10キロに腕立て伏せ30回を3セット、スクワット50回を5セット。 ドアを開けながら真人は思う。いくらなんでもこの早朝トレーニングの量は少なすぎるのではないかと。 ――食物連鎖の上辺と聞くだけでは語弊が生じますね。下層に位置する植物の危険性に言及していません。確かに植物は捕食をしませんが、多くの物質を生涯の間ため込み続けるという性質を持ちます。もちろんそれは自然界における毒も含めまして、人間が除草剤などとして散布する毒物も例外ではありません。そのような毒性物質もどんどん植物はためこんでしまいます。 「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」 スクワットの5セット目を始める。もぞりと布のこすれる音。なぜか理樹はいつも筋トレが終わる直前に目を覚ます。 「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」 「おはよう、真人」 「ああ理樹、おはよう。もうすぐ筋トレが終わるから待っていてくれ」 「気にしないでいいよ」 そう言って理樹はベッドから這い出して洗面所の方に向かう。顔を洗って歯を磨く。いつもの朝の行動だ。それをスクワットをしながら見送った真人は、直後ふうと息を吐きながら汗を拭う。 「いい汗かいたぜ」 汗をたっぷりと吸って不快なグラデーションをかもしているシャツを脱ぎ、用意しておいたエクササイズマッスラー29を適量飲み干す。 筋肉によさそうと言われているものを、例えば大豆とか魚の骨の粉末とかクコの実の粉末とか、節操なく配合したドドメ色の物質が入っていたペットボトルを空にした真人。そして理樹とは違ってシャワー室へと足を運ぶ。以前にシャワーを浴びずに食堂に向かった時、汗臭いはぼけーと鈴に牛乳をぶっかけられた事がある。 ちなみに、鈴曰く消臭効果を狙っているらしい。ちなみに、そのまま学校に行ったら授業が成立しなかった。 消臭効果が足りないのか、量が足りないのか、シャワーの水の代わりに牛乳を使ったらいいんじゃないだろうか。真人が最近頭を悩ませている事柄だ。 ――更に注意が必要なのは飼育されている食用動物です。日本の法律において彼らの食事を制限することはできません。つまり彼らには農薬たっぷりの穀物を与えたところで、なんの罰も受ける事はないです。もちろん良心的な人々も多いですが、そうではない人々もまた多いという事を忘れてはいけません。豚を例にあげてみますが、毎日のように毒に汚染された穀物をこれでもかと食べさせられ続ける豚たち。彼らの中も毎日有害な物質が蓄積され続けています。 「いっただっきまーす!」 これ以上の幸福はないと、危機とした笑顔で朝食にとりかかる真人。それを見てうんざりとした表情をしている一同。特に鈴。 「なんだお前は。なんで朝からカツ丼なんて濃いものを食べてるんだ。見てるだけで食欲なくす」 そう言う鈴の前にはバタートーストとサラダ、カップゼリーという女の子らしい慎ましい朝食セットが。 「だってよぅ、カツ丼だぜ鈴。カツ丼ならいつだって腹一杯になるまで喰いたくなるのが人間じゃねぇか」 「それはお前だけだ」 珍しく冷静な突っ込みを入れる謙吾。これでリトルバスターズジャンパーを着ていなかったら完璧だったのだけど。 真人と謙吾、そして要所にハイキックを混ぜた鈴のやりとりを見ながら理樹に目配せをする恭介。 「いや、この騒ぎなら普通に話をしてても気がつかれないと思うよ」 「そうだな。 それで理樹、どうして真人は朝からカツ丼なんだ? いくらなんでもいつもはもっとまともな物を注文していただろ」 「ああ、それね。昨日の夜は真人が決めたカツ丼の日だったんだ。だけど食事時に財布が見つからなくて僕が代わりに素うどんを奢ったから」 「なるほど。その後財布を見つけて、昨日の夕食の分を取り返そうと思ったんだな」 「そういう事だと思うよ」 ズズ〜とお茶をすすり、プハーと息を吐く二人。 「よし、このまま三人で言い争うのもつまらないだろう。ここは変則バトル、バトルロワイヤル方式で決めようじゃないか」 「ほぅ、それは面白そうじゃないか」 「へっ。この筋肉の前には何人だろうと無駄に決まってるぜ」 いつもと違った展開に目を輝かす男二人だが、焦るのは鈴。 「きょーすけ、ちょっと待て。あたしをこのバカ2人とひとくくりにするとはどーいう了見じゃぼけー!」 「ん? そうだな。確かにハンデがありすぎるな。よし、理樹は鈴と協力する事。2人でタッグマッチだ」 「ちがう、そういう問題じゃない! ま、まあ理樹と一緒ならやってやらんでもないが」 後日、理樹は語る。その時の鈴はかなり萌えたと。 「じゃあ僕と鈴が組で」 理樹がそんな事を言っている間に、わらわらと下らない物を持った観客たちが恭介が招集をかけた訳でもないのに集まっていた。彼らも彼らで大分慣れてきたようだった。 「それじゃあバトルスタートだ!」 ――そして現代において捕食者の頂点に立つのは人間です。わたしたちは農薬まみれの野菜を食べ、毒物をため込んだ動物性タンパク質を摂取します。これは天然の物でも例外ではありません。むしろ海や山には産業廃棄物など猛毒が大量に存在すると言っていいでしょう。そのような毒物は人間の体内にも積み重なっていき、やがて四大公害病のような重篤な障害を発症させるのです。 机に突っ伏している真人と謙吾。ピンピンしている理樹と鈴。 「ばかだろ、お前ら」 そんな二人を見下しての鈴の言葉。ぐぅの音も出ない。バトルロワイヤルだというのにバカ二人は真っ先にぶつかり合い、そして消耗したところをタッグペアに狙いうたれた。 「くそぅ。謙吾さえ先にぶっ潰せば筋肉の足りない理樹と鈴なんて瞬殺する予定だったのによぅ」 「そういうお前らはおつむが足りん」 「ありがとよ」 「なんでお礼を言うの!?」 「え? つまりその分筋肉があるって褒め言葉だろ?」 「そういう意図は全くないと思うけど」 ちなみに謙吾は真人と一括りにされたショックが大きすぎるらしく、机に突っ伏して身動き一つしない。体のダメージを全く引きずっていない辺りが彼らが彼らである所以だろうけど。 「ところでよぅ、理樹よぅ」 教室をキョロキョロと見渡しながらの真人。彼の目には一心に勉強するクラスメートたちの姿が。 「今日って何かあったっけ」 「普通にテストがあるよ」 「…………マジか?」 「マジだよ」 一瞬の沈黙。 「悪い理樹! カンニングさせてくれっ!」 「本当に悪いよ、自分で勉強するって選択肢はないのっ?」 「オレはオレの筋肉を信用している。だがな理樹、いくら筋肉様でもテストじゃあ助けてくれねーんだよ!」 「極めて当たり前の事だよね、それ」 いくらなんでもカンニングをさせるのは論外だ。だったら今から少しでも頭に叩き込むのがいいのかも知れないが、理樹とて自分の勉強がある。テスト直前の大切な時間をおいそれと手放す訳にはいかない。 それじゃあ他に誰かいるかと教室を見渡してみる。 恭介は食堂から真っ直ぐに自分の教室に向かってしまったし、いつの間にかいなくなっていた鈴は小毬とクドと一緒に楽しそうに、けれど一生懸命に勉強しているので真人を頼むのは可哀想だ。突っ伏している謙吾には流石に無理だろう、勉強から乱闘までに移行するギネス記録に挑戦なんてしたくもない。空気読めずに教室で騒がしくしている葉留佳は論外だ。彼女に勉強を教えるというコマンドはチートを使っても会得する事は出来ないだろう。 「となると後は2人しかいない訳だけど」 ぼーと窓の外を見ながらエロい事を考えているであろう来ヶ谷か、教室内で堂々とBL本を読んでいる美魚か。彼女たちに勉強を教えてもらうのは、ある意味人間として終わっている気がしないでもない。 真人をみる。今更か。 「なんだよ理樹、じっと考え込んだりしてよぅ」 「いや、何でもないよ。それでテストだけど、まだ時間があるし勉強をするっていうのはどう?」 「うげっ、勉強かよ。まあ理樹と一緒ならいいか」 「ちなみに僕は自分の勉強があるからね。暇そうなのは来ヶ谷さんか、美魚さんかな」 ガシッっと理樹の肩を鷲掴む真人。ずずいと前に迫り出す様はどこからともなく美しくないですと聞こえてきそうな体勢だ。 「頼む理樹っ! オレの事を思うなら来ヶ谷だけはやめてくれっ!!」 「来ヶ谷さんは勉強を教えるの、上手いけど」 「そういう問題じゃねぇんだよ、分かるだろ?」 「なんとなくね」 ちらと横目で窓の外を見ながらえへえへと笑っている来ヶ谷をみる理樹。全般的にリトルバスターズの男性陣は来ヶ谷を苦手としているのは分かっている。 だがそれは他のメンバーが苦手とされていない訳ではない。 教室の反対側、入り口近くの席でうふふふふと淑女のような笑みを浮かべている美魚の手にはでかでかと18禁のマークがついたBL本が。それのせいで恭介や謙吾だけでなく、理樹もやや美魚の事が苦手だ。もちろん来ヶ谷も美魚も悪い人ではないことは分かっているし、嫌いでもなくむしろ好きなのだが。 「それに僕らならともかく、真人ならそこまで苦手って訳でもないか」 そう結論つける理樹。 「それじゃあ美魚さんに頼みに行こうか」 「西園か。そうだな、そっちで頼む」 ――蓄積されていく毒物は、わずかな時間で症状を表さないのが最も恐ろしい点と言えるでしょう。他の病気でもそうです、潜伏期間が長ければ長い程その治療は困難になると言えます。そういう意味において毒物の蓄積は場合によって、親子で継続してしまう事すらあるのです。その毒性成分は脳やホルモンに悪影響を及ぼし、低知能や奇形児が誕生する原因になっていると言われています。蓄積されていく毒物は、次世代の子供たちにその負債を残していくのです。 「――と、こんな所でしょうか」 「すまん。説明して貰って悪いが全く分からん」 「ふふふふふ。わたしの貴重な読書の時間が割かれたあげくがこれですか。これは理樹さんも同罪ですね。 やはり新刊はあえて理樹さんが井ノ原さんを襲う、ギャップ萌えな展開に」 「わー! しないでしないでそんな展開!!」 「ところで理樹さん。井ノ原さんもですがもう少しで授業が始まりますがテスト勉強の方は――――」 キーンコーンカーンコーン……―― [No.160] 2009/06/12(Fri) 18:25:23 |
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