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秋風が吹く夜、私は寮の自室を出て一人、物思いに耽っていた。 それは大切な姉、佳奈多のこと。 前よりは優しくなったが、その毒舌はあまり変わらなかった。 そこでもっと素直で可愛いお姉ちゃんを見たいと思うのは妹として普通の思考である。 だからいろいろがんばった。耳に息を吹きかけたりとか、背中を人差し指でつーっとなぞるとか。 1瞬だけ「ふひゃあ!?」なんて大げさに驚いてくれるんだけど、すぐに元に戻って怒られるからなあ…… それが今回はマジギレされて、追い出されて今に至るというわけだ。 ちょっぴり考えた結果、姉御の力を借りるという結論に至った。あの人はこういうことには協力してくれそうだし。 善は急げということで、駆け足で姉御の部屋へ向かった。 すぐに到着して、すぐにいるか確認。ノックをすると声が返ってきたのでいるみたい。 とりあえず素直なお姉ちゃんを見たいというと、ゆっくりとドアが開き、中に入れてくれた。 靴を脱いでそろえ、殺風景な部屋を見渡す。落ち着きが無かったのか、座れといわれたのでその通りにして本題に入る。 「ふむ、つまり素直で可愛い佳奈多君を今夜食べるので手伝って欲しいと。わかった」 「今夜以降が違いますヨ」 「何だ面白くない。まあでも素直にさせることなら出来る」 「どうやって?」 「それはな……」 そう言って怪しげな笑みを浮かべる姉御。何か企んでいるに違いない顔だった。 「飲ませた相手を恐ろしいくらい素直にさせる薬がここにある。名前を精神解毒薬というらしい」 手渡された薬は液状のものだった。紫色のいかにも怪しい色をしている。 姉御の説明によると、それを溶かして飲むと心の毒が浄化され、好意を抱いているが素直になれない相手に対して素直になれる。 しかし微量の毒を含んでおり、120mlの水に1滴が原則。それ以上は身体に悪影響を及ぼす可能性が出てくるらしい。 つまりは毒をもって毒を制す、ということか。 よし、さっそくお姉ちゃんに使ってみよう。どんな表情が見れるのか楽しみで仕方がない。 想像しただけで楽しくなってくる。ルンルン気分でスキップしながら帰ろうとした。 しかし私の腕を姉御の手ががっちりと掴んでいた。 「まて葉留佳君。佳奈多君への想いを聞かせてくれ。それを使うにはそれなりの理由が必要だからな」 「いや、それは関係ないかと……」 「言わなければやらんぞ?」 なんていうか、恥ずかしい。本人に伝えるのもむず痒いが、姉御に言うのも気が引ける。 でも言わないと貰えないのかー。こんな時には、「ようし」とこまりんマジック。うん、準備オッケー。 「え、えっと、いつもは素っ気ないんだけどたまに優しくしてくれるところとか、私のことをちゃんと見ていてくれること。 あとは私だけに見せてくれる表情があることかな。照れたり、笑ったり、そんなお姉ちゃんが大好き!」 姉御はしばらく余韻に浸りながら薬を渡してくれた。表情は呆れてはいたが、どこか満足そうな雰囲気だった。 言ってるときはーー言い終えてもだけどーーものすごく恥ずかしかった。でも言葉は勝手に溢れてきたから困ったものだ。 炊事場を借り、姉御の指示通り120mlの水に薬を1滴垂らして魔法の薬が完成した。それをビンに入れ、蓋をする。 「これでいいの?」 「うむ。気が楽になる薬だと言って渡すといい」 「わかった。姉御ありがと!」 薬を左手に持ち、一礼して部屋を出た後、私たちの部屋の前に着いた。ふう、後はこれを飲ませるだけ。 いざとなると緊張するものですネ。ここは少し落ち着いて、素直に謝って部屋に…… 「なにしてるの?」 「うひゃう!?」 緊張していたところへ声をかけられたものだから腰が抜けちゃいましたヨ…… その声の主は意外にもお姉ちゃんだった。 開けてくれたってことは許してくれたのかな? 表情もいつもどおりだし。 「さっきは少し大人気なかったわ……ごめん」 「ううん、私の方こそ。それで、さっきこれ貰って来たの。リラックスできるらしいよ」 「ありがと、貰っておくわ」 許してもらえてよかった。しかも普通に受け取ってもらえたし。 これからの展開にわくわくしながら部屋へ入る。 さっさと飲んでもらおうとお姉ちゃんのほうを向くと、意外なことにもう飲んでいた。 味に違和感があるのか顔をしかめていたけど、結局無言のまま全部飲みきった。 少しボーっとしてると、上気した顔と潤んだ瞳で、上目遣いで見つめてくるお姉ちゃんが視界に写った。 普段の刺々しさは無くなり、仄かに輝く灯のような印象を受けた。 ていうかこれは効き目抜群ですネ。でもいきなりすぎてどう対応していいか分からない。 助けて姉御! とか考えていると本当に姉御が現れた。 「どうだ、って聞くまでもなしに効いているな」 「上手いこと言わなくていいですヨ。効きすぎじゃありませんか?」 「実はな……あの時渡した水、私が開発した無臭の酒なんだ。君が帰ったあたりに間違って渡したことに気づいた」 「え? それじゃあ原因はそれ?」 「正確には薬と酒の相乗効果だな。偶然とはいえ予想以上のものを見ることができそうだ。今夜はここに泊めてもらおう」 「それだけはダメッ!。葉留佳は私と一夜を明かすの!」 「ちょっ、その言い方エロくない?」 「それは……言葉だけじゃ嫌って事?」 そう言うと同時に、そっと優しく抱きしめられた。いきなりそんなことされたら私…… あ、なんか姉御の目つきが危ない。このままじゃ二人共ピンチなのでは!? 私じゃ姉御にかなわないし、でも今のお姉ちゃんは…… 「もし今夜を邪魔するならリトルバスターズメンバー全員にあなたのことをゆいちゃんと呼ばせます」 酔った勢いで姉御の弱点を突いていた! 「くっ……それなら明日から君たちは校内認定カップルと放送しよう。いいのか?」 「名誉なことじゃない。ね、葉留佳」 突然キャラが変わるとどう対応していいか分からない…… そのまま動揺していると、今のお姉ちゃんには敵わないと思った姉御は仕方なさそうに退散した。 ただ、その後姿からは赤いオーラが感じられた。 私に薬を渡したこと、それを酒と間違えたこと、酔ったおねえちゃんに敵わなかったこと、それらに憤りを感じているのだろう。 ああ、明日から私たちは校内認定カップルになってしまうのかな…… とりあえずほろ酔い状態のお姉ちゃんを連れて中に入った。 いつもとは全く違い、緊張感ゼロのその姿は、他の人に見せるのがもったいないくらい可愛い。 しばらくはとりとめのない話をして過ごした。 やはり薬の影響があるようで、いつもと対応が全く違う。 性格が丸くやわらかくなり、私が望んだとおりになった。 しかし少しずつお姉ちゃんの様子が変わってきたことに気づく。 少し切なげに見えるのは気のせいではないだろう。 「葉留佳……今まで、ホントにゴメンね?」 「いいよ。今こうして2人で居れるだけでうれしいし」 「ぐすっ……葉留佳ぁ……」 もう二度と離れないと言いたそうに、泣きながら私に寄りかかる。 今まで見たことも無いほど弱々しく。 さっきまでは素直なお姉ちゃんを見たいと思ってたけれど、私はどうやら間違えていたようだ。 素直になること、それは本当の自分を出すこと。お姉ちゃんの全てを知っているわけがなかった。 それを知ろうと思って今回のことを思いついたのだが、予想外だった。 いや、知らないことを知ることは予想外の連続なのだろう。 本当のお姉ちゃんはこんなにも脆く儚い。それが今日分かった。 だから私はその頭を撫でる。ゆっくりと、優しく。 うん、たまには姉的立場になってみるのも悪くない。 数分後、お姉ちゃんは泣き止んだ。でも互いに離れたくないからこのままでいる。 その表情はとても穏やかなものになっていた。ああ、この顔を見たかったんだ。私はそう思った。 すると突然声をかけられた。 「ねえ、葉留佳、その……キスしない?」 「ええ!? 酔っているとしてもさすがにそれは……」 「そうね、私は酔っているわ。葉留佳という唯一の妹に」 言い終えると同時に、そっと優しく抱きしめられた。さっきは姉御がいたけど、今は誰もいない。二人だけの部屋。 動揺している隙を見てか、お姉ちゃんの顔が近づいてくる。5cm、1cm、そして…… 「んっ……」 唇が触れ合った瞬間、身体に衝撃が走る。それと同時に暖かいものが私の心を満たしてくれた。 でもそれだけじゃ満足できなかった。お姉ちゃんも同じみたいで、二人抱き合う。 お互いの身体を隙間なく埋め尽くすくらいの深い交わり。 それは心の隙間も埋まり、とても暖かく幸せな温もりがある。 さっきの質問に答えるとするなら、言葉だけでは嫌。 ならば、それを望んでいいのだろうか。私を受け入れてくれるだろうか。 さっきまではそんなこと考えなかったのに…… 一旦離れて表情を窺う。 そこには……規則正しい寝息を立てるお姉ちゃんがいた。 あれ、なんだろうこの感じは。 知らずに済んだ安心感と知りたかった好奇心がごっちゃになってる。 考えてるうちにお姉ちゃんが寝返りをうって抱きついてきた。 それだけで満たされたのかは分からないが、そのまま眠りについたことは紛れも無い事実だった。 朝が来た。窓の外には2本の木の枝が絡み合っているのが寝惚けた眼に映る。 お姉ちゃんはというと、私を抱いたまま依然として眠っていた。 ずっと起きていたらどうなったのか、そんなもしもを考える。 線と線が交われば点ができる。ならば私とお姉ちゃんが交わればどうなるんだろう。 考えるのが苦手な私はすぐに答えを求めてしまう。それは別に悪いことじゃないと思うんだ。 だから今夜、答えを知る。 今更お酒や薬のせいになんて絶対にさせないんだから。 覚悟しててね、お姉ちゃん。 [No.162] 2009/06/12(Fri) 23:53:01 |
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