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No.188へ返信

all 第36回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/06/25(Thu) 23:46:39 [No.187]
時が流れても - 秘密@11073byte 超遅刻&ネタ - 2009/06/27(Sat) 22:01:08 [No.202]
揺れる感情 - ひみつ@14776 byte 大遅刻〜 - 2009/06/27(Sat) 19:21:36 [No.200]
しめきり - 主菜 - 2009/06/27(Sat) 00:32:01 [No.198]
[削除] - - 2009/06/27(Sat) 00:05:34 [No.197]
メビウスの宇宙を越えて - ひみつ@1542byte - 2009/06/26(Fri) 23:58:10 [No.196]
リタイム - ひみつ@10192byte - 2009/06/26(Fri) 23:56:50 [No.195]
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それは黒くて無様な話 - ひみつ@8417byte - 2009/06/26(Fri) 19:21:50 [No.191]
祈りは今放たれて - ひみつ 8800 byte - 2009/06/26(Fri) 03:11:50 [No.190]
はいけいぜんりゃくおげんきですか? - ひみつ@13325 byte - 2009/06/26(Fri) 00:40:12 [No.189]
ドルジの『ド』は - ひみつ@8612 byte - 2009/06/25(Thu) 23:54:10 [No.188]


ドルジの『ド』は (No.187 への返信) - ひみつ@8612 byte

 お日さまが一番上にのぼったころのこと。
 芝生のなかに、ぐでんと横になった大きな猫が一匹いました。
「ぬぉー」
 そう、ドルジです。
 ドルジはぽかぽかの光をあびて、お昼寝をしていました。
 そよそよとふく風が、体をなでていきます。
 とても気持ちよさそうです。
 しかしとつぜん、ぐごごごご、という音があたりをゆらします。
「ぬお?」
 それはドルジのお腹の音でした。
 ドルジは体をのばすと、横になっていた体をおこしました。
 そして、のっそのっそと歩きだしました。
 目ざす場所は、中庭です。
 そこにはなんと、小皿に山もりになったモンペチがおいてありました。
 だれかが、猫たちのためにおいたのでしょう。
 ドルジはその山に近づき、十匹分はありそうなモンペチをもしゃもしゃと食べはじめます。
 おやおやドルジ、そんなに食べたら、ますます太ってしまいますよ?
「ぬおっ」
 そんなのかんけぇぬおっ! そんなのかんけぇぬおっ! とばかりにドルジはモンペチをぺろりとたいらげます。
 ドルジの『ド』は、『ど』うでもいいの『ド』なのです(体重的な意味で)。
「ぬきゅー♪」
 ちろりと口のまわりをなめて、ドルジは満足そうです。
 ご飯を食べたらお昼寝……と思いきや、ドルジは立ちあがります。
 そうして、きょろきょろとなにかを探しはじめました。どうやら遊び相手を探しているようです。
 中庭にたくさんあるうちの、一番大きな木の下にいきました。



『ねーねーみおちん、なにしてるの?』
『見てわかりませんか?』
『本を持ってますネ。これははるちんと遊びたい合図と見たー!!』
『……ふんっ』
『鼻で笑われた!? しかも見下すような目のオプションつき! あああ体ごとそっぽを向いて拒否するフルコンボ! やめて、私のライフはもうゼロよ!! とかいいつつドサクサ紛れに抱きついてみる』
『HA★NA★SE』
『ぎゃー!! 傘が目にー!!??』
『三枝さん。そこは「目がー、目がー!」と言うべきです』



「ぬーん」
 しかし、お昼になるといつもいた人はいませんでした。パンの耳をわけてもらおうと考えていたドルジは、少しだけがっかりです。
 気を取り直して、ドルジはまた歩きはじめました。
 いつも散歩する道を、いつもよりゆっくりと歩いていきます。
 風はそよそよ、お日さまぽかぽか。くんくんと鼻を動かせば、自然のいいにおい。
「ぬんぬん、ぬ〜☆」
 ついついうれしくなったドルジは、ご機嫌におどりだしました。
 ドルジの『ル』は、らんらん『る』ーの『ル』なのです。
 そんなドルジの前に、大きくてきれいな建物があらわれました。
 人間さんが、女子寮とよんでいる場所です。



『ヴェールカっ、ヴェールカっ、スっトレっルカ〜』
『あ、クーちゃんだ。こんにちは〜』
『こんにちはなのです』
『かわいいわんちゃんたちですね〜』
『よかったら、小毬さんも一緒に遊びませんかっ?』
『ふえぇ!? うーん……でも、いつも吠えられてるし……』
『大丈夫です! このおもちゃを使えば安心して遊べるです』
『それじゃあちょっとだけ……ほわぁっ!!?』
『わふーっ!? のしかかっちゃダメです! 噛んじゃダメです! ぱだじじー(待って)!! すとーい(止まって)!!』
『うわあぁぁぁん!! やっぱり大丈夫じゃないぃぃ……』



 けれど、そこにもやっぱり、だれもいませんでした。
 こうなったら、意地でもだれかと遊びたいドルジです。ぬふー、と気合いをいれて、かけだします。
 次についた場所は、放送室でした。この時間はいつも、肉球にこだわる女の子がいて、やさしい音が聞こえてきていたのです。



『誰だ? ……なんだ猫か。いや、お前は本当に猫なのか?』
『ぬー』
『ぬーではない。猫ならにゃーと鳴いてみせろ』
『ぬー』
『意地でもにゃーとは言わない気か。その心意気にもずくをやろう。なんだ、いらんのか。……ん? ピアノが気になるのか?』
『ぬおっ』
『はっはっはっ。その手ではうまく弾けんだろうに。……む? ……手……肉球……ぷにぷに……クドリャフカ君……ドルジよ、少し肉球を触らせてくれって私から逃げられると思うなっ!!』



「ぬおー?」
 放送室の窓に、顔をべたっとくっつけます。ですが、真っ暗でなにも見えませんでした。やさしい音も聞こえてきません。
 今日は肉球をさわらせてもいいかな、と考えていたドルジは、やれやれだぜと首をふりました。
 ドルジは次を目ざします。



『おい恭介、こんなところを教師に見つかりでもしてみろ。怒られるだけではすまんぞ?』
『大丈夫だ。見つからなければ怒られない!』
『うお……ここまで開き直られると、逆に悪いことしてない気がするぜ』
『気がするだけだ。立派な校則違反だ』
『おいおい謙吾っちよぅ。ならついてこなけりゃよかったじゃねえか』
『む……』
『吐いちまえよ。楽になるぜ?』
『屋上、最っ高ー!!!!』
『だよな! 屋上イヤッホォォォウ!!』
『屋上イェイイェイ!』
『よっしゃ、野郎ども! コーラで乾杯だ!!』
『『『かんぱーい!!!!』』』
『誰だー! 屋上にいるやつはー!?』
『『棗恭介です!!』』
『この裏切り者ぉぉぉぉぉ!!??』



 この学校で、一番お日さまに近い場所に、ドルジはいました。ですが、ここにつくまでにだれとも会うことはできませんでした。
 そこでドルジは、ごろりと横になりました。疲れてしまったので、少しお休みです。
 ドルジの目の前には、だんだんと形を変えていく雲。ふわふわと浮かんでどこかへと飛んでいきます。
 丸い雲は、あんぱんに見えますね。三角形の雲はおにぎりでしょうか? 四角いパンのような雲もあります。
 おいしそうな雲を見ているうちに、ドルジのまぶたが重くなっていきます。
 とうとう、上のまぶたと下のまぶたが仲良しさんになってしまいました。



『にゃーにゃー。ふりふり』
『……鈴』
『にゃんにゃかにゃん、にゃんにゃかにゃん。びょんびょん』
『鈴?』
『もふもふ、ふかふか。くるりんぱっ』
『鈴ってばっ』
『うなぁぁ!? 理樹! いつからそこにいた!?』
『鈴が連れてきたんじゃないか……』
『ぜんぶ見てたんだな? ぷらいばしーのしんがいじゃー!!』
『いやいやいや、』
『ばつとして、ドルジをおひめさまだっこしろ!』
『重すぎてできないよ!!』
『じゃ、じゃーあれだ。かわりに、あたしを、だっこしろ……』
『え……う、うん』
『――――っ!! ほ、ほんとにやるなー! はずかしいだろぼけーっ!!』
『ええええー』



 ドルジが目を開けると、青かった空は、まるで燃えるように赤くなっていました。
 ドルジは夢を見ていました。それはあたたかくて、やさしくて、きらきらと光っている時間でした。
 そんな楽しい時間をまた過ごしたくて、ドルジは走りだしました。フェンスをよじ登り、雨どいと窓枠を伝って地面におりて。ただひたすらに、走りました。
 校舎をぐるっとまわりました。
 だれもいません。
 中庭を抜けました。
 だれもいません。
 裏庭を通りました。
 だれもいません。
 部室棟を過ぎました。
 だれもいません。
 グラウンドにたどりつきました。
 それでも、だれとも会いません。
 どこにもだれもいません。
 ドルジは、たった一匹のドルジでした。
「ぬきゅーっ!!」
 ドルジは夢を見ていました。それはあたたかくて、やさしくて、きらきらと光っている時間でした。
 それはたしかにここにあった、大切な、宝石のような思い出だったのです。
 リーダーの男の子がいて。筋肉の男の子がいて。剣道な男の子がいて。おかしを食べてる女の子、ピアノをひいてる女の子、さわがしい女の子、犬さんみたいな女の子、日傘をさしてる女の子。
 そして、ねぼすけさんな男の子と、猫さんみたいな女の子。
 そんなみんなとすごした、楽しい毎日。
「ぬきゅーっ!!」
 いつ、なくしてしまったのでしょう?
 なぜ、気づいてしまったのでしょう?
 どうして……大切なものだと、それを手にしているときに、気づけないのでしょう?
「ぬきゅー……!」
 なくしてしまった時間を思って。
 大切だった時間を思って。
 取り戻せない時間を思って。
 一匹では広すぎるグラウンドで、なきました。



『――制服汚れますネ』
『――目ざせ、武道館』
『――頑張るのですーっ』
『――はらほらひれ〜……』
『――もっとよく見て当てろ』
『――見えた!』
『――その年で生えてきたのかい。球筋に出てるぜ』
『――筋肉が通りまーす!』
『――筋肉ないなぁ、僕……』
『――ねこにやつあたりかっ!』



 空は暗い青。端っこのほうだけ赤く。ドルジの影を、長くのばします。
 と、その長くのびた影の先に、女の子が立っていました。
 女の子は影をなぞるように歩き、ドルジの頭をなでました。
「ドルジ?」
「ぬー……?」
「くちゃくちゃなつかしいな。いや、それほどでもないな。くちゃなつかしい、ぐらいだな」
 その女の子は、ドルジがよく知っている女の子でした。猫さんみたいな女の子です。
 女の子は、ポケットからケータイをとりだすと、どこかへとかけました。
「理樹か? 聞いておどろけ。なんとドルジを見つけた。……そうだ、そのドルジだ。……そつぎょーいらいだから、一ヶ月ぶりぐらいだな。そんなことより今すぐグラウンドにこい。それから、ばかとばかと馬鹿兄貴と、あと……とにかくみんなだ。みんなをよべ。全員集合、りゃくしてぜんしゅーだ!」
 ドルジは、女の子に聞きます。どうして? と。女の子は、ドルジに答えます。
「きょーすけが、『今日は、校外学習で学校にだれもいなくなる……しのびこむなら今のうち』とか言いだしてな」
 その一言で、ふたつの謎が解けました。学校に誰もいない謎と、いなくなったはずの女の子がいる謎。
「ぬおー」
「よしよし、ひさしぶりだからな。みんなでたっぷりあそんでやるぞ」
 ドルジはうれしくて、なつかしくて、女の子にすり寄ります。女の子は勘違いをしましたが。
「ぬー」
 記憶のなかにある、大切な時間は決して戻りません。
 ですが、それは悲しいことではありません。
 楽しかった思い出は、さらなる未来へと歩き出す力になります。
 たとえ苦しいことがあっても、辛いことがあっても、乗りこえられるのです。
 それはきっと……。
「ほら、みんなきたぞ!」
「ぬきゅー♪」
 ドルジの『ジ』は、独り『じ』ゃないの『ジ』だからです。





          おしまい。


[No.188] 2009/06/25(Thu) 23:54:10

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