![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
「中学一年の時…私は、貧乳だった」 学校が無いナイスな日、つまりは日曜日に自称学校のアイドル、葉留佳君を招待した私は二分後にお茶を噴出された。うむ、予想通り。こんな事もあろうかと用意しておいたトレイを犠牲にして、葉留佳君の唾液たっぷりのエロティカルな液体をガードした。うう…トレイ、君の犠牲は忘れない、だから安らかに眠れー!なんて一人芝居している葉留佳君は放っておいて、とりあえずお茶のおかわりを淹れてやった。葉留佳君はずずーっと一息で飲み干して、私に尋ねてきた。 「姉御はひんぬーだったの?」 「うむ。まあ中学三年にはもう平らでは無くなっていたがな」 「わー遠回しな自慢来ましたヨ奥様方!ちくしょー!」 テーブルをガタガタ揺らして抗議らしものをしてくる葉留佳君の足の裏をくすぐって黙らせた所で、ちょっと昔の話をしてみようと思う。まあなんだ、ぶっちゃけ特に面白い話でもない。そう呟くと葉留佳君はえー、だのもっと面白い話がいいー例えば姉御の恋バナとか!だの言ってきた。なので、今から話すのは一種の恋バナだとか適当に言ったらものすごい勢いで迫ってきた。というか頭と頭がぶつかりそうだった。キスしそうだった。それだけは遠慮したい。 「本当に恋バナなの?!」 「…ああ、おそらくな」 「おそらくかー…まあいっか、教えて話してぷりーず」 テーブルに突っ伏してやる気なさそうに催促してきたので今度は脇をくすぐってみた。凄い勢いで転げまわってベッドの足の角に頭をぶつけた。まあ、自業自得だろう。そうに違いない。 一応催促されたので、話しはじめる事にした。 中学一年の時、私は貧乳だった。今でこそ男子たちの自家発電の糧となるほどの身体だが。昔は鈴君や、笹瀬川女史と同じぐらい平らだった。まるで水平線のように滑らかでぺったんこだった。その頃はまあ誰にも興味がなく、ただただ本を読んで過ごしていた。もしかしたらあの頃、あの子がカッコイイとかあの先輩って実はみたいな会話が交わされていたかも知れんが。いつも本ばかり読んでいた私に声をかける輩も居なかったし、別にどうでも良いと考えていた。これからの人生もずっとそうやって生きていくものだと思っていたし、何より一人が好きだったんだ。だから回りが色恋沙汰やスタイルの話で盛り上がっている中には加わらなかった。特にスタイルに興味は無かったな。 けれど、そんな私にもちょっとした転機が訪れたんだ。 紅茶を音を立てて飲み干した葉留佳君の足を蹴る。もっと上品に飲めんのか君は。わざとらしく顔をゆがめて視線を向けてきたが、無視して上品に紅茶を飲む。うむ、美味い。ソーサーにカップを戻した瞬間に、葉留佳君が思い出したように呟いた。 「転機?」 「ああ。私にとっては凄い出来事だったんだぞ」 へえーほえーなんて感心したように声を上げる。悪い気はしないが、他人からしたら特に面白くないと思うぞ、なんて言ったらどんな反応をしてくれるだろうか。興味はあるが、今横道に逸れるのは遠慮したい。なので続きを話すことにした。 その転機とやらが訪れたのは、中学一年の夏ごろだった。水泳の授業が行われる時期で、周りの女子はきゃーきゃー言っていた。私といえばまあこの暑い中水浴びが出来るのだから喜ばしいような、面倒だから別にやらなくても良いんじゃないかだからうっとうしいような。そんな二律背反な気持ちを抱えていた。ちなみに友達なんぞ一人も居なかったぞ。だから決別したその気持ちは私の中のみで暴れていたんだ。 もやもやしつつ、プールの時間を迎えた。男子学生が好きな装備ベスト3に入るとか入らないとか噂されているスクール水着に身を包んで、だ。ちなみにわかっているかも知れないが、その時は可愛い子を見つけても特に何も思わなかったぞ。 プールサイドに集まって、狭い場所でやっても意味がなさそうな体操をしているときにふと気がついた。 ほぼ男子全員がこっちの体操を真剣に見ていたんだ。それも見ている事を隠そうともしないでずっと。けれど、生徒には視線が向けられていない事に気がついて視線を辿って見た。するとそこには。 まだ学校に来て間もない女性教師が水着姿で体操していたんだ。その教師はまあその頃の私目で見ても凄く、綺麗だったんだ。男子が凝視するのも仕方ないと思わせるほどに。スタイルも良くて、胸も大きくて。まあ今では私のほうが大きいだろうがな。けれど、中学生から見たらもう異次元のような造形美で。思わずくらくらしたのを覚えているよ。 その時ふと思った。もしかして、スタイルが良いと人気が出るのか、なんて。思ってからすぐ、馬鹿馬鹿しくなって頭から冷たいシャワーを浴びた。馬鹿げた考えも一緒に流れてしまえと思いつつ。けれど、結局体育の時間中ずっと考えた。去年までランドセルを背負っていた子供が無い知恵振り絞って考えた。 一人で居るのは今更辛くない。けれど、一人くらい話相手が居ても良いじゃないか。そのためにはスタイルが良くなれば良いのかも知れない。ほら見ろ、今も先生に女子が集ってきゃあきゃあ騒いでいるじゃないか。あんな風にはなりたくないのか。なりたくないと言えば嘘だ。けれどあんな風に騒ぐのは苦手なんだ。だったらどうすれば良い。やっぱりスタイルがよければ良いんじゃないか。そうに違いない。そうか、それで良いのか。よし、じゃあ今日から頑張ろう。大きく頷く代わりに力強く、腕を回した。水が高く、光を反射しつつ、跳ねた。 それからの日々は特筆すべき価値も無い、ただの馬鹿馬鹿しくて子供っぽい経過だ。身体によさそうな物ばかり食べて、背が伸びるようにカルシウムを取ったり、髪を伸ばし始めた。 その結果、中学三年の頃には今の身体に近いスタイルなった。 けれど、周囲は何も変わらなかった。私の変化に目を丸くするだけで、ただそれだけだった。話しかけてくる者等、一人も居なかった。変わったのは私だけで、周りは何も変わっていなかった。 そして、その頃には水着教師は中学校から去っていた。 ふむ、沢山話したら喉が渇いてしまった。私は紅茶を一気に、けれど優雅に飲みきった。カップを戻し聞き手に視線を向けると、まるで幽霊を見ちまったぜこりゃ呪われたなやべーよおいみたいな顔をしていた。何故か腹が立った。後ろに回りこんでうなじを舐めてみた。 「うひゃあああああっ!?」 すると、まるで蛙のように飛び跳ねた。見ていて滑稽だったのでとりあえず笑っておいた。一通り笑い終えたら葉留佳君がこちらを見て何か言いたそうにしているのに気がついたが無視する事にした。今度は私が聞き手になる番だろうと自己完結。それに葉留佳君のことだ、私が促さなくても我慢できなくなってすぐ話し出すだろう。 「ねー姉御ー」 「なんだね葉留佳君」 「その話ってさーマジ?」 「マジだが」 「ほえーはえーうひゃー」 まあ何を言いたいかはわかる。私らしくない、と言いたいんだろうな。私だってそう思うさ。しかもこれは私の忌まわしい過去の話なのに、何故こんなことを葉留佳君に話す気になったんだろうか。意味がわからない。誰か説明してくれ。 半分以上訳を考えるのが面倒臭くなったが少しだけなら、と目を瞑った。 「あれ? おーい姉御ー? おねむっスかー?」 すると葉留佳君が良い感じに勘違いしてくれたのでこのままで居ようと思い、後ろにあった椅子に体重を預けた。 せっかくの機会だ。薄目を開けて葉留佳君を観察してみることにする。ずるずるずはーっと緑茶を一気飲みした。テーブルに湯のみを置いてそのままぐだーっとした。何故だかとても可愛かった。葉留佳君がうーん、と伸びをした。それによって強調される胸。ぐっときた。余談かも知れないが、最近変に葉留佳君が魅力的に見える。くそ、何でよりによって葉留佳君なんだ…! もやもやした気持ちで居ると、見られていることに気がついていない葉留佳君がぼそっと呟いた。 「今日は良い日だなー姉御の昔話も聞けたしお茶は美味しいし」 もうおねーさん我慢の限界が近いよ。よし決めたぞ葉留佳君、今日は君を帰さない。同じベッドで寝て一緒に朝を迎えて手を繋いで登校しよう。そして途中で嫉妬と心配が混ざり合ったような表情の君の姉と出会う。そしてその可愛さからそのまま拉致って保健室にでも行こう。狭いベッドに三人で禁断のめくるめく甘い世界へと飛び立とうじゃないか。 そんなことを考えていたらいきなり葉留佳君から忍び笑いが聞こえてきた。なんなんだ君は。正直気味悪いぞ。仕方なく何故笑っているのかを聞きだすことにした。 「なあ葉留佳君」 「あ、姉御おはよーはよー」 「こんにちわ、の時間なのは無視してやろう。で、何故そんなに笑っているんだ? 特に面白い話でもなかっただろう?」 「うーん、まあ確かに聞いててちょっぴり心が痛むお話だったし」 「だったら何故」 うーんうーんなんて口に出しつつ首を傾げていた葉留佳君だったがやがて何か思いついたらしく、明るく微笑んだ。何故か悔しくなる程可愛かった。 私に指をびしっ!と効果音付で突きつけた葉留佳君が笑顔でこう言った。 「多分、姉御が可愛かったから!」 可愛い、か。封印指定度限界値突破の思い出話を語ってやって、その感想が可愛い、か。何故だろう、凄く、腹が立ってきた。思わず葉留佳君を抱きしめてしまった。一瞬力士のように鯖折りでもして、また入院させてやろうかと思ったが流石に可哀想だからやめてやった。うむ、感謝すると良い。 「だからおねーさんに咽び泣きながら感謝の意を原稿用紙三十枚分程言ってくれても構わんぞ」 「いや、いきなり抱きつかれた上にそんな事するのはちょっと…げほ」 「どうした葉留佳君、いきなり真面目な発言をして」 「いやーおしとやかなはるちんも可愛いかなーなんて思っちゃったりしてー!」 「キモいぞ」 「ばっさりだー!?」 ついでに気がついた。多分、話そうと思った理由なんて無かったんだって事に。多分、私は誰かにこの話しを聞いてもらって笑って欲しかったんだろう。それだけだったのにこの子は可愛いなんて言ってくれやがった。なんて滑稽なんだろう。 とりあえず、もう一回抱きしめてみた。あったかくて、なんだか気持ちよくて、悔しかった。 [No.191] 2009/06/26(Fri) 19:21:50 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。