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夏休みがあのような形で終わってしまったため、その分を取り戻すということでリトルバスターズのメンバー五人は恭介と鈴のおじいちゃんの家へ遊びに来ていた。 発案者は鈴だった。 「じーちゃんちに行きたい。暑いし暑いし暑いから涼しいところへ行きたい」 恭介は無論断固拒否したのだが、他のメンバーが譲ってくれなかったのだ。 「そういえばあれ以来一回も行ってなかったね」 「ふむ、まぁ少しぐらいは練習をサボったとしても罰はあたらんだろう」 「ついにこの筋肉が第4形態に進化する時が来たか・・・」 「いや、そもそも言ってる意味が分からないから。」 思い思いに適当なことを口走っている。真人は筋肉を第4形態に進化させるためだろうか、スクワットと腹筋(腹ワットとでも呼んだ方がいいのだろうか)を同時にやっている。 おじいちゃんの家に行ったのはみんなが本当に子供のころが最後だ。不慮の事故とかで亡くなってなければいいのだが。だが、あの恭介を赤子の手をひねるようにしてしまう人だ。そうそう簡単に天国からお迎えは来そうにない。 恭介は苦虫を踏みつぶしたような、そんな顔をして黙っていた。数瞬、間を開けてから口を開いた。 「一つだけ条件がある」 「何?」 「ただ涼みに行くだけじゃ面白くない。それなら近くのコンビニにでも一日中居座っていればいいだけの話だ」 「それで?なんだよ恭介」 恭介はぱーっと目を輝かせながら言った。 「向こうでサバイバルなゲームをしようぜ」 いきなり何を言い出すのか。まぁ恭介のことだ、とにかく面白いことをしてくれるだろう。みんなが恭介を凝視する。 「それでなにをやるんだ、バカ兄貴」 目を閉じてつぶやいた。 「秘密」 「何だよ、教えてくれたっていいじゃないかよう」 真人は腹ワットをやめて片手腕立て伏せと背筋(エビ反りで空中片手腕立て伏せ)を同時にやっている。そろそろ第3.5形態ぐらいに進化した頃だろうか。 「だめ。やることを最初から教えちまったら面白くないだろ。それに」 しらっとした顔で言った。 「俺もまだ何をやるか決めてないんだ」 だが恭介の顔を見て、何か面白いことはしてくれるんだろうなという確信はみんな湧いたようだ。 「別にいいだろう。正直、向こうに行って何をしようか考えあぐねていたところだ」 「それなら筋肉さんゲームしようぜ」 そう言って真人は机の上に立ってダンス(と呼んでいいのだろうか)をし始めた。なんていうか痙攣してるようにしか見えない。 「筋肉さん筋肉さん、世界で一番筋肉さんなのはだーれ!?」 「ドルジ。というか筋肉さんに自分が筋肉さんか聞くなんてばかか」 鈴が答えた。真人はドルジに負けた(と思いこんだ)ショックで真っ白になった(ように見えた)。ここまで感情の起伏が激しいと苦労するだろう。 「それでその景品として」 目を開いて言った。 「優勝者は誰かに一回だけ命令することができる」 なんだか王様ゲームみたいだなと思った。正直な話、嫌いではない。 「そんなん嫌じゃ!」 鈴は顔を真っ赤にしながら抵抗している。何かあったのだろうか。 「異論はないな?」 「話を聞けー!」 鈴は近くにいる真人のみぞおちに正拳突きした。八つ当たりか。筋肉さんゲームとこれのダブルダメージで完全にやる気を失った。これで第1形態に戻っただろう。 「それは恭介だけ有利ではないか?先にルールを知っているのだから勝率は高い」 謙吾が怪訝な顔で恭介を見ている。当然だ、主催者は普通ゲーム自体には出ない。 「それもちゃんと考えるさ。俺だけ有利だったらゲームの意味がない」 かといってまさかポーカーのような運頼みのゲームにするのだろうか。だがそれこそゲームの意味がない。ゲームは実力で勝ってこそゲームだ。 恭介はそんな僕の心を読み取ったのか、言葉を付け加える。 「トランプとか運任せのゲームにはしない。向こうに行ってできることをやる」 「それなら安心だね」 「ああ。俺の筋肉を3.24%活かせる」 「円周率は3.14だ。というよりお前はミジンコ以下か」 真人の筋肉が例え3.24%しか働かなったとしても僕は勝てる自信がない。真人の筋肉に終わりは有るのか。 「ありがとよ」 「真人、バカ丸出しだから少し静かにしてて」 「ふしゃー!!」 ************ 天気は快晴、視界良好。リトルバスターズのメンバーは恭介が借りた車でおじいちゃんの家まで行った。 だがそれは周りから見たら異様な光景だった。とにかく中がすし詰め状態なのだ。 車はそれほど小さくない、むしろ7人乗っても余りあるくらいのワゴン車だった。原因は恭介の持ってきた道具にあった。 「これ今日使うから置いとくな」 その量が半端ではなかった。人1人分の袋が2つ、人半人位の袋が5つ、そしてそれより小さい小道具袋が5つ、といった感じだ。一体何が入っているのだろうか。クリスマスの季節にはまだ早い気がする。 「こんなに荷物持って何する気さ」 「まぁ向こうに着いたらわかるって。きっとみんなわくわくするぜ」 恭介が子供のような笑顔で言うから、仕方なく僕は引き下がった。 そういう他愛もない世間話をしながら車は進んでいった。だが、いくらなんでも真夏の炎天下の中を行くには狭すぎた。鈴が「おなかがすいたらくさとかきとか根こそぎたべちゃいそうだから置いてけない」と言って連れてきたドルジも含めて、すでに車内は飽和していた。 むさくるしさと息苦しさに耐えかねた鈴は謙吾と真人に 「・・・・・・お前ら走れ」 と何かがきてるような眼で言った。仕方なく謙吾はワゴンの上に、乗るスペースが完全になくなった真人は「俺の筋肉はポーカーフェイスだーー!」とかなんとか言って車の横を走った。 助手席に僕、第一後部座席にドルジと道具袋、第二後部座席に鈴と道具袋がぎっしり詰まっている。車がひしゃげるんじゃないかと思ったが、案外大丈夫だった。途中、謙吾と真人がいなくなったが気にしないことにした。 道路を走ること数時間、おじいちゃんの家が見えてきた。まさに日本の田園風景という最中にその家は建っていた。田んぼを耕運機で掘り返してる人があちこちに見える。 おじいちゃんの家に着いた。築何十年なのだろうか。前に来た時と変わることなく僕たちを受け入れてくれた。ついつい周りの風景をぼーっと見ていた。 季節は真夏。ぎらぎらと北半球を照り付ける太陽。夏の風物詩『セミ』がミーンミーンと鳴く音が聞こえる。後ろからはようやく追いついた謙吾と真人の唸り声が。 「てめえら・・・ぜぇ・・・気付けよ・・・。てか車の速度に・・・人間が追いつけるかってんだ・・・。試練か!?これは俺の筋肉を試すための試練なのか!?」 「これは・・・涼みに来た・・・というよりは・・・はぁ・・・修行に来たと言った方が・・・正しいかも・・・しれんな」 風景に見とれていて気付かなかった。獣のような顔をした真人と謙吾が立っていた。 二人とも汗が蒸発している。すぐに風呂に入った方が衛生的にもビジュアル的にもいいような気がした。 家に入ると誰もいなかった。鈴の話だと、おじいちゃんは現役を退いた今でも仕事に駆り出されてるらしい。だから気にすることはないということだった。 謙吾と真人は走りつかれたせいか一言だけ「寝る」と言って畳に突っ伏した。僕と恭介と鈴は夜ご飯を作ったりまくら投げをしたりで忙しかった。まくら投げの途中、謙吾と真人が起きてきて参戦した。何というか、あきれるぐらいの体力だった。 おじいちゃんがいなかったこともあってか、深夜までまくら投げをずっとやっていた。 ************ 次の日はまくら投げから来る疲れのせいか、恭介以外のメンバーは昼まで寝ていた。唯一、恭介だけが元気百倍だった。 「恭介おはよう。起きるの早いね」 恭介は余裕しゃくしゃくといった感じだ。そのパワーはどこから来ているのか知りたい。やはり宇宙からなのだろうか。 「もうこんにちはだ。」 恭介はそんなに几帳面だっただろうか。猫に名前を付けること以外で几帳面な恭介を見たことがない気がする。 「よく恭介はそんなに元気でいられるね」 「時間は有効に使いたいからな」 そう言う恭介の服は土で汚れていた。有効に使った時間の代償か、少し額に汗を浮かべている。タオルでぬぐった。 「飯の準備は済ませてある」 茶の間の机の上を見ると、食卓にはザ・和食と言えるべきものが並んでいた。ご飯と味噌汁とサラダと焼き魚。バランスも取れている。恭介にできないことって本当になんなんだろうと思った瞬間だった。しかし本当に完成度が高い。これが時間を有効に使った結果なら感謝したいぐらいだった。 「俺の筋肉が飯を前にして高ぶってるぜ!!」 「バカ兄貴がりょーり・・・なんか腹たつ」 「どれどれ・・・これは・・・悪くない」 とにかくみんなに褒めちぎられた。だが恭介はそんな賞賛はどうでもよかったらしい。それよりも意識はその後の事に向いていたのだろう。今思うと目がきらきらしてた気がする。 ご飯を食べて一服した後で恭介はみんなを茶の間に呼び出した。メインイベントの到来らしい。みんなが茶の間の机を中心に輪の形に並ぶ。中央には邪魔だったあの袋一式が。 「前言ってたゲームの事なんだが」 と言って人一人分の大きさの袋からある物をとりだした。それは・・・拳銃とライフル。 「銃撃戦をすることにした」 言った瞬間、みんなの目が点になった。特に謙吾の顔がモアイみたいになってて一番おもしろかったと後に恭介は語った。みんなが考えてることを察したようで付け加える。 「もちろん実弾を使うわけじゃないぞ。この着色弾を使う。犯人捕まえるときとかによく使うだろ」 小道具袋から大きいスーパーボール大の玉を取り出した。どうやらこれが着色弾らしい。もしこれで撃たれたら・・・想像しただけで鳥肌が立つ。痛いというレベルじゃないだろう、確実にあざになる。 「それはそうだけどさ・・・それでも痛いと思う」 「安心しろ、抜かりはない」 恭介はそんなところにも気を配らせているらしい。そう言って人半人ぐらいの袋から防弾ジャケットらしいものをとりだした。 「こいつを装着してもらう。これに弾を当てた方が勝ちだ」 ジャケットには『リトルバスターズ』というロゴが刺繍されていた。こんなものどこで仕入れたのか、市販しているようには思えない。むしろこんなものが流通していたら火星人もびっくりだろう。 「ま、俺はこんなものなくてもこの筋肉があれば大丈夫だけどな」 ムンと筋肉を見せびらかして真人が言う。確かにムキムキだ。・・・痛いかどうかは別として。 「ならお前だけ着なければよかろう。ちなみに俺は着させてもらう」 「ノォォォォォォ!!」 とりあえずうるさかった。鈴がおとなしくさせた。 「一人ずつこの着色弾が入った袋を持ってもらう」 そう言って小道具袋をみんなに渡す。着色弾の弾数はわずか20発。あの大きさから考えれば当然だ。 「ちなみに景品だが」 恭介がにやりと笑った。こういう時の恭介は本当に楽しそうだ。 「俺は鈴に『お兄ちゃん』と一日ずっと呼ばせる」 言われて鈴が恭介をにらんだ。猫目で。 確か前に呼ばれたいというようなことを宣言していたが、あれは本当だったのかと今さらながら思った。棗兄の執念恐るべし。 鈴は噴火3秒前と言ったところだ。いつもならとっくに「はずかしいんじゃ、ぼけーー!」とか言って真人を殴ったり蹴ったりしているはずだ。違和感を覚えた。そこに恭介は含みを持たせた言い方で付け加える。 「勝てばいいだけじゃないか。そうだろ、鈴?」 「ーーーーーッつ!」 何が感極まったのか知らないが、そのままどすどすと外の方へ出て行ってしまった。外には確かドルジが日向ぼっこしていたはずだ。さらばドルジ。お前の勇志は忘れないよ…。 「理樹はどうだ?」 話題をこっちに振ってきた。真面目に叶えてほしいことはいっぱいあるが、それを言ったら明後日ぐらいから変態呼ばわりされるかもしれない。口をつぐんだ。 「僕?うーん、特にしてほしいことはないかな」 正直、鈴に『お兄ちゃん』と呼ばれることに羨望感を抱いてしまった自分が恨めしい。 真人は「筋肉に嫌われませんように」。謙吾は特にないらしい。鈴は恐らくあの態度から何かを隠し持っているのだろう。つまりこれは実際のところ、棗兄弟の私利私欲の私利私欲による私利私欲のためのゲームだと言っても過言ではないだろう。 準備は着々と進められていった。 場所は近くの山。サバイバル形式にするらしい。それなら迷彩服とかにすればよかったのに。 じゃんけんの結果、僕と恭介と謙吾が拳銃、真人と鈴がライフルになった。それと着色弾の袋を一つずつ持つ。これだけでかなりの重装備だ。拳銃がずっしりとくる。 それに加えて防弾ジャケットを着なければならない。鈴は防弾ジャケットを着る前にすでにライフルの重さに振り回されていた。 「俺が弾を打ったらゲームスタートだ、それまでシンキングタイムな。この予備弾一発もらってくぜ」 そう言い残し恭介はその場を後にした。みんなも示し合わせたかのように散り散りになる。僕もみんなとは背を向けて歩き出した。 サバイバルの時間が始まる・・・。 〜シンキングタイム〜 みんなとかなり距離とりしゃがみ込んで僕は今後の方針について考えた。 一番狙われやすいのは図体がでかい真人か謙吾だろう。体が小さい僕や鈴は容易には見つけられない。まぁ、鈴はライフルが目立ってしまうかもしれないが。 弾数がたった20発しかないので乱用は避けたい。確実に相手の隙を突かなければ。それに長期戦は好ましくない。なにしろこの暑さだ、いつ参ってしまうかわからない。体力がない僕や鈴にはこの状況ですらキツい。 少しでも優位に立つにはいいポジションを掴んでおかなければならない、そう思って僕は木の上に移動した。木の葉と先入観によって上手い具合に僕の体を隠してくれるだろう。 その瞬間、ぱんっと乾いた音がした。 〜ゲームスタート〜 木の上に立っていると戦況の把握がしやすい。鷹とかはさぞかし気持ちがいいだろう。数分とかからずに真人と鈴を見つけた。草むらに身を潜めてじっと気配を窺っている。 数分が経過した。真人と鈴は辺りをきょろきょろと窺っている。僕も謙吾と恭介を探したが見つからない。場所が離れているのだろうか。 さらに数分経過した。とにかく暑い。鈴はシャツをばたばたしている。防弾ジャケットのおかげで暑さ三倍だ。真人は耐えきれなかったのだろう、防弾ジャケットごと上着を脱いだ。 もう限界だ、と真人は思ったらしい。草むらからものすごい勢いで出てきた(上半身だけ見ればまさになんとか民族だ)。 その瞬間、 「どわあぁぁぁぁぁぁ!!」 真人が地面に沈んだ。いや何かにはまったのか、じたばたしている。下半身だけ上手い具合に埋まった。 「よし、かかった」 どこからか恭介の声が聞こえる。声の大きさからしてそこまで離れていないようだ。 しばらく真人はじたばたしていたが、何かを悟ったのかおとなしくなった。 「なんだこれ・・・抜けねぇ・・・」 すべてが終わったような顔でそう言った。真っ白になるとはまさにこのことだろう。 「俺特注の落とし穴だ。鈴や理樹なら抜けられたかもしれないが、お前じゃまず無理だ」 「のわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 絶望したのかがっくりとうなだれる真人。そこに容赦ない無慈悲の魔弾が。 「はい、アウト」 真人の防弾ジャケット(もとい筋肉)が紅色に染まる。はたからみたら血を流しているようにも見える。 最弱のレッテルをはられたせいか、それとも痛みからか、真人はがっくりうなだれたまま気絶してしまった。 しかしこう見ると非常にかわいそうだ。裸である上半身しか出ていない。 「あと3人」 そう恭介は言った。 だが恭介は自分で墓穴を掘った。真人をアウトにするとともに自分の位置を教えてしまった。声と着色弾の尾の引き方から見て位置は僕の右斜め前・・・木の上。 僕と同じことに気付いたのか、近くに鈴が走ってくる。狩られる側であることも知らないで。 今度は鈴の防弾ジャケットが紅色に染まる。鈴が下で「ちくしょーーー!」と言っているのが聞こえる。 「あと2人」 僕は恭介の声がする方向を見た。いまにも。が合った。なんだこの威圧感は。 「なんだ、理樹も木の上にいたのか」 もうこれは虎に睨まれた蟻も同然だった。足が妙にすくんだ。 負けは決定したと同意だ。あの恭介から逃げられるわけがない。いままで恭介に勝ったことがあっただろうか、僕に。 ・・・だが腐っても僕は男だ。男に生まれたからには立ち向かわないわけにはいかない。 「ここであったが百年目・・・覚悟!」 僕は捨て台詞を吐いて恭介に向って行った。勝算はない、ただの意地だ。なりふりかまっていられない。 「かかってこいよ、理樹」 恭介が挑発する。構えるそぶりすら見せない。僕にはこれで十分ということか。 舐めるな。 木を上を飛躍する。猪突猛進とはまさにこのことだ。もう恭介しか見えていない。あと数歩で恭介の射程距離に入る。3.2.1・・・ というところで 「へっ!?」 木を踏み外した。いや、踏み外したのではない、足元の木枝が折れていた。あからさまに鋸の切れ目が見える。はめられた。 恭介はしてやったという顔で僕の方を見ている。悔しい。やっぱり負けた。僕は、地面へまっさかさまに落ちる。 もうすぐで地面にゴールというところで 「理樹!」 あと少しで地面というところで謙吾が飛び出してきて抱えてくれた。このやりとりを見ていたのか。 だが、追撃。 恭介が空中を浮遊している。いや、ロープだ。左手にロープ、右手に拳銃を持っている。デスぺラードだ。なんて無茶苦茶な。 「ゲームセットだ」 終焉を告げる銃声が二つ、木霊した。 〜ゲームセット〜 結局、ゲームは恭介の勝ちだった。最後に僕をカモにして謙吾を釣ったところが恭介らしい。 ゲームが終わった後、まず真っ先に真人を救出した。こうやって見ると、死闘の末に負けたボクサーみたいだ。 「さぁ、景品」 恭介はこのために全力を出していたらしい。確かにあの気迫は尋常じゃなかった。 鈴は顔を真っ赤にさせている。今まで『お兄ちゃん』なんて呼んだことなかったのだ、当然だ。 「お、お、お、」 まぁ無理なものは無理なのだが。 「オリバーソース」 鈴はそう言ってどこかに走り去った。あれは別れの時に使う言葉だったのか、知らなかった。 恭介は「くっ、やはりお兄ちゃんと呼ばせるのは神北にさせるべきか!」と危ない言葉を発している。そんなことをさせたら犯罪だ。まず真っ先に僕が警察に電話をかける。 真人はさっきからずっと筋肉に謝っている。どうやら筋肉はご立腹らしい。ストを起こされたのか、さっきから真人が小さく見える。願いは叶わなかったみたいだ。 謙吾は黙々と帰り支度をしている。なんだかんだ言って一番大人なのは謙吾なんだね。涙が出てきた。 ************ 「そう言えばあの罠っていつの間に作ったのさ」 帰りの道中で何気なく恭介に聞いてみた。どう考えても時間的にあんなに広範囲に罠を仕掛けるのは無理だ。 恭介は少し考えたあと、こう言った。 「俺は時間を操れる魔術師なんだ」 あきれた。 「あーそうですかすごいですねー」 生返事で返した。恭介が少しむっとしている。 「信じてないのか?」 「そりゃ、まぁ」 「最近の漫画じゃありがちな話だぞ?」 漫画と現実を一緒にされちゃ困ります。というかもしかしたら今回の銃撃戦も漫画から影響されたのかもしれない。 僕は恭介を困らせてやろうと意地悪なことを言った。 「じゃあ今時間を操って見せてよ」 それなら、と恭介は考える素振りも見せずに言った。まさか本当に・・・? 「俺はこの二日間の時間を操った。操ってみんなが楽しく過ごせる時間にした。違うか?」 「・・・・・・」 僕は何も言い返せなかった。口車に乗せられただけかもしれない。けど、恭介がそういう風に思っていてくれたことが嬉しかった。 僕たちのこの時間は無限ではない。いつか終わりが来てしまうのはごく当たり前の話だ。この関係にもじきに終わりが来るだろう。そう、例えば来年から恭介が就職して遠くへ行ってしまうように。 だからこの時間を大切にしよう、そう決めたあの日から楽しくない時間なんてなかった。二日どころの話じゃない。恭介はあの凍りついた時間から僕の、いや、みんなの時間を操っていたのだ。 他のメンバーは車の中で寝ている。銃撃戦で使った道具などはおじいちゃんの家に置いてきた(もとい捨ててきた)。鈴はドルジのお腹をまくら代わりにして寝ている。真人と謙吾は複雑に絡み合いながら寝ている。起きた時に大変なことになるだろう。 微笑ましい光景だ。こんな平凡でささやかな光景がいつか見れなくなるなんて思いもよらない。むしろ一生続きそうな気がする。神様はいたずら好きだな。こんな幸せそうな関係を壊そうとするだなんて。 時は止まらない。僕たちが生きている限り。逆らうことは許されない。 恭介は無邪気に笑いながら言った。 「また面白いことしような」 当然だ。恭介のおかげで今日の僕があるのだから。 「次に何をやるのかすごい楽しみだよ」 時は止まらない。僕たちが生きている限り。だが、流れに沿って道を選択する権利をみんな持っている。今日のこの日のように。 [No.192] 2009/06/26(Fri) 20:57:32 |
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