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コーヒーブレイク (No.187 への返信) - ひみつ@13641 byte

 カチカチカチカチ

 寮長室に設置された時計が軽快にリズムを刻む。
 その音をBGMにしながら紙にペンを走らす。
 すでにいくつも記載やチェックを終わった資料が机の上に山となっているが、それ以上に未処理のものはまだまだうず高く積もっているのが現状だ。
 ホント、私の代で仕事を終わらせられるのか疑問だ。
「はぁー、次の代の人に任せちゃうのも悪いけどこれはやる気が萎えちゃうわね……」
 愚痴ってもしょうがないと思いつつ、私はペンを走らせ判子を捺し続ける。

「よぉ、なんか大変そうだな」
 不意に明るい声が響いた。
 確かめなくても分かる。聞き慣れたこの声は彼に決まってる。
「ええ、忙しいのよ。だから邪魔しないでね、棗くん」
 作業を中断するのもなんなので、私は顔を上げないまま応えた。
「おいおい、邪険にすんなよ」
 私の素っ気無い態度に苦笑を浮かべつつ、隣の席の椅子を引いた。
 ……居座る気かしらこいつは。
「何か用、棗くん」
 あくまで顔を上げないまま尋ねる。
 意地悪しているわけじゃ決してない。本当に忙しいのだ。
「んー、用って言うかさ」
「なに?」
「お前の顔を見たくなっただけだ」
「ぶっ!」
 思わず噴出して顔を上げてしまった。
 い、いきなり何を言い出すかなこいつは。
「ククククッ……」
 非難の色を込めた視線で睨みつけると、彼は楽しそうに笑みを浮かべていた。
 ……まさか。
「棗く〜ん」
 ぐいっと彼に顔を近づけ、改めて睨みつける。
 すると彼は降参とばかりに両手を上げた。
「悪い悪い。あんまりにもつれなかったもんだから、つい」
「ついであんなこと言わないでよ」
 こうも軟派な性格だったとは。
 これは彼に対する認識を大きく変える必要がありそうね。
「まぁまぁ。全くの嘘ってわけじゃないんだぜ」
「どういうことよ」
 気になって身体ごと彼に向き直り尋ねる。
 これでまた巫山戯たこと言ったら叩こうかしら。
「ああ、簡単なことさ。ここが一番落ち着くからな。就活で疲れた身を癒すには適当な場所なんだ」
 言いながらどこかから漫画を取り出す。
 おいおい、またそれ。
「呆れた。ここは寮長室よ。憩いの場でもなんでもないんだから。……ってことで没収」
「あ、おい」
 漫画を取り上げ机の上に載せる。人が話してるのにその態度はないだろう。
 たく、どうせ人の出入りが少ない場所だから好都合ってことなんでしょうね。
「いいじゃねえか。誰の邪魔をしてるわけでもないし」
「私の仕事の邪魔をしてるのよ。それにまだ就活終わってないの?」
 もう6月も半ばを過ぎている。
 聞くところによると一日に何十社も回ったこともあるそうだ。
 となればそろそろ一社くらい採用通知が来てないと逆に拙いんじゃないだろうか。
「う、うっせーな。そういうお前はどうなんだよ」
「うっ。じゅ、順調よ」
 まあかくいう私も棗くんと同じく就活戦士なのよね。
 でもこの前面接に行った会社はなかなかいい感触だったし、最終面接に行けるんじゃないかなぁって思ってるんだけど。
「ふっ、俺のように気合入れて就職活動しないと浪人になっちまうぞ」
「棗くんがしてるのは就職活動じゃなくてなにかの修行のような気がするけど……」
 私は心底呆れたように呟く。
 歩きで東京まで行くとかありえないし。その労力を面接の場で発揮していたらきっともう受かってたりするんじゃないだろうか。
「ふん、会社に受かるだけが就活じゃないさ。そこでの出会いも貴重なものなんだよ」
「まあね。なんでそんな職種の人とって疑問に思う人と毎回知り合って技能や物を仕入れてるのよね、あなたって。……寮長として言っておくけどそれで騒ぎあんま起こさないでよ」
 才能の無駄遣いというのは彼の為にある言葉じゃないかしら。
 その余りある才能であらゆる技能を吸収して遊びに転化してるんじゃないかとは某風紀委員長の談。
 普通に勉強してればきっと成績上位者になって就活も楽になってただろうに本当に勿体無い。
「まあほどほどにするさ」
「はぁ〜、就活終わるまで真面目に出来ないの?」
「ふん、時間はまだまだあるんだ。のんびり腰を据えてやるさ」
 危機感ないわねぇ〜。
「そんなこと言って、光陰矢のごとしよ。2学期の終わり頃になっても就活とかやめてよね」
「お前もな」
 私たちはしばらく見つめ合うと、お互い小さく鼻を鳴らしそれぞれ机に向き直った。
「さて仕事仕事っと」
 これ以上話をしてると今日の分の仕事が終わりそうにない。
 まだまだやるべきことはたくさんあるのだ。
「……さて俺も再開すっか」
 棗くんも真面目な顔に戻り机の上に放っておいた漫画を拾い上げ読み始めた。
「って、何してんのよ」
「ん?別に邪魔はしてないぞ」
「そうじゃなくて、なに漫画読んでるのかしら。さっさと出て行きなさい」
「いいじゃないか。偶の就活休みなんだ、ゆっくりさせてくれ」
 就活休みって初めて聞く言葉ね。……ってそうじゃなくて。
「気が散るのよ。自分の部屋行って読みなさい」
 私は扉に向けて指を差した。
「まあまあ。茶くらい淹れてやるから少しくらい良いだろ」
「〜〜〜〜〜」
 ああもうっ、梃子でも動く気がなさそうだ。
 これが他の人間なら強制的に追い出すこともできるけど棗くん相手じゃそうできる自信はあまりない。
 なんだかんだ言って私より一枚も二枚も上手なのだ。
 ……なので無駄な労力を使うことを私は諦めた。
「分かったわよ。でもお茶くらい淹れてよ。それと誰か相談者が来たら出て行くこと、いい?」
「りょーかい。じゃあ早速」
 爽やかな笑みを向けると彼はポットのところへと歩き出した。
 ……ホント、無駄にカッコいいんだからムカつくわね。
 あの笑顔に何人の女の子がやられたことやら。

 そしてしばらくして。

「紅茶でよかったか?」
 トレイにカップを二つ載せ棗くんが尋ねてきた。
「ええ、構わないわよ」
「そっか、それじゃ」
 受け取ろうと思って手を出すとそれをさらりとかわして棗くんはソーサーに載ったカップをそっと私の目の前に置いた。
「紅茶でございます、お嬢様」
「ふぇ?え、ええ」
 お、お嬢様?
「本日はダージリンに致しました。どうぞお召し上がりくださいませ」
「ど、どうも」
 ヤバイ。怖いくらい嵌ってる。
 てか最後に微笑みかけないで。
 わざと?わざとなの?それとも天然?
 ああ、なんかムカつく。
「お嬢様」
「っ、な、なにかしら」
 声が動揺してるのが良く分かる。
 落ち着け、私。相手はただ一人よ。並み居る軟派男達を撃沈させてきた私に敵うはずないわ。
 私は何とか不敵な笑みを形作って対抗しようとした。
「手が、止まっておりますよ」
 けれど耳元で脳髄にズガンと響く甘い声で囁かれて、危うく倒れそうになってしまった。
 慌てて机に片手を付いて大きく深呼吸をする。
 し、心臓に悪い。というよりアレは一種の兵器よ。厳重に管理すべきだわ。
「あ、あんたが話しかけるからよ」
「それは失礼」
 クククっと小さな笑い声が聞こえる。
 あー、もう。頬の赤みが消えやしない。
 彼は彼で余裕綽々といった顔で席に着き、優雅に紅茶に口をつける。
 くそー、さっきまでの続きをやろうって腹積もりなのかしら。
 それなら受けてやろう、
 私は持っていたペンを机に置き、静かに闘志を燃やし始めた。
「そういえばさ」
「なに?」
 早速来たか?
 私は身構えるも続いて出てきた言葉は予想外のものだった。
「ここってコーヒー置いてないのか?」
「ふぇ?こーひー?」
「そっ、コーヒー。茶葉や湯飲みはあるしティーセットも言わずもがな。ティーパックってのがちょいいただけないがまあそれはいいだろう。けどコーヒーメーカーとか見当たらないんだが」
「ああ、それ」
 いきなり何かと思ったらそんなことか。
「おう、なんでないんだ?」
 うーん、そんな気になることかしら。
 よく分からないわね。
「一応インスタントはあるわよ。確かその辺にあったと思うけど」
「インスタント?豆とはいわねーが粉とかもないのか?」
「ないわよ。別に拘りないしね〜」
 インスタントで充分だしね。
 すると私の言葉に不満だったのかやれやれと棗くんは肩をすくめた。
「おいおい、それは勿体ないな」
「そうかしら?」
「ああ、すげえ勿体ない。お前はコーヒーの真の楽しみ方を知らなすぎる」
「真の楽しみ方、ねえ〜」
 大げさねえ。
「そうさ。コーヒーはやっぱインスタントなんかじゃ駄目だ。できれば豆だな。この場で挽いて粉にしてコーヒーメーカーで作ると風味とか味が全然違うんだぜ」
「ふーん」
 棗くんは力説を続けるがどうにもよく分からない。
 すると業を煮やしたのか彼はとんでもないことを提案してきた。
「ちっ、よーく分かった。俺が本当の美味しいコーヒーというものを味あわせてやる。……ってことで寮会の予算でコーヒーメーカー一式入れてくれ」
「はい?」
 今日何度も思ったけど、いきなりなに言い出すんだろうこの男は。
 けれど彼は止まらない。
「安心しろ。俺が格安で買える店を教えてやる。ああ、言っておくが値段は安くても物はいいぞ。その辺抜かりはない」
「は、はあ」
「さていつ行くか。今日……はさすがに遅いな。そうだ、週末行こう。じっくり吟味して買うべきだしな。予定空けとけよ」
「ちょ、待ちなさいって」
 知らぬ間にどんどん決まってるし。
 というか買うの確定?
「なんだよ」
 棗くんは言葉を遮られて不満そうだ。
「あのねえ。誰も了承なんかしてないでしょ」
「え?」
「ちょ、なに不思議そうな顔してんのよ」
 まるでありえないものを見たような顔をしないで欲しい。
 これじゃあ私がおかしいみたいじゃない。
「あのねえ。寮会の予算なんてそんな簡単に使えるものじゃないのよ。それなりに書類とか必要なの」
「えー、めんどくせえな」
「というかそもそも買うなんて言ってないでしょっ」
 必要としてないものを買う気はない。
 予算だって潤沢にあるわけじゃないし、ちゃんと計画立てないと駄目だ。
 けれど彼は全然納得してくれない。
「別にコーヒーミルまで買えとは言ってないだろ。コーヒーメーカーくらいたいした出費じゃないって」
「あのね、だからそういうことじゃ……」
 駄目だ。話が通じない。
「よし、分かった。買ったら俺が一番に美味いコーヒーを淹れてやる」
「へ?」
「ああ、安心しろ。この前就活行ったときに出会ったコーヒーショップのマスターにみっちり仕込まれたからな。今まで飲んだコーヒーが偽物だっての教えてやるぜ」
 得意げな表情で棗くんは自分の腕を誇示する。
 さて、どうしよう。
 なんかどう断っても押し切られそうだ。
 というかもう押し切られちゃうわね。
「はぁー、分かったわよ。確かにそれくらいなら買っても痛手じゃないしね。ただしちゃんと安いとこ教えてよ」
「おう、任せとけ。で、いつ行く?週末か?」
 彼はもう待ちきれないといった表情で聞いてくる。
「うーん、そうねえ」
 目の前にうず高く積もった資料を見ながら考える。
 はぁー、これ片付けるとなると骨だけど今月中にやんなきゃ駄目だしね。
「今週は無理よ。そうね、来週の日曜ならたぶん大丈夫」
 と言ってもそんなに時間は取れないけど。
「来週?おいおい、その次の週って修学旅行じゃないか」
「ん?そうだけど別に3年の私たちには関係ないでしょ」
 あれは2年の行事だ。うん、かなちゃんにはお土産をお願いしておこう。
 けれどどうやら棗くんは違うらしい。
 キザったらしく髪をかき上げると嘲るように私を見下ろしてきた。
「違うぞ、間違ってるぞ」
「なにがよ」
「この俺がそんなおいしいイベントを逃すはずがないだろう」
「はっ?……ってあなたまさかこっそり参加するつもり?」
 やっ、確かに普段の彼の行動を鑑みるにありえない選択じゃないけど、何を考えてるんだか。
「ふっ、皆まで言わせるな。ってことで準備もあるしな。一緒に買いには行けるだろうがコーヒー淹れるのは旅行から帰ってきてからだな」
「はぁー、知らないわよ、怒られても」
「そこはほれ。寮長様の権限で一つ」
「そんな権力ないわよ」
 ただの寮会の長に何を求めてるんだか。
 まあ予想してたのだろう。彼はさして落ち込むでもなく口元を楽しそうに歪めた。
「仕方ない。何とかするさ」
「あっきれた。ホント就職どうする気?時間は無限じゃないのよ」
「なに、だからこそ楽しむのさ。まっ、お前との時間を過ごせないのはそれはそれで寂しいが、そこはそれ。帰ってきたら充分に構ってやるぞ」
「遠慮するわ。お願いだから邪魔をしないで」
「照れるなよ」
「照れてないわよ」
 私が呆れた声で告げると、彼は苦笑を浮かべつつ席を立った。
 いつの間にか紅茶も飲み終わったようだ。
 流しにへとカップを置きに向かった。
「もういいのかしら」
 何故だか私はそう声をかけていた。
 まるで引き止めてるみたい。ううん、ありえないわ。
「ああ、楽しかった。いい息抜きになったぜ」
「そう言えば次はいつ就活に行くのかしら」
「ん?ああ、週明けたらすぐだ」
「そっ。私が言うのもなんだけど頑張ってね」
「ああ、お前もな」
 そう言って彼は寮長室から出て行った。




 カチカチカチカチ

 寮長室に設置された時計が変わり映えなくリズムを刻む。
 その音を少し煩わしく思いながらも紙にペンを走らす。
 すでにいくつも記載が終わった資料やチェックが終わった資料が机の上に山となっているが、未処理のものはまだまだうず高く積もっているのが現状だ。
「まだ、こんなにあるのね」
 憂鬱にもなろうというもの。
 もう次の代の引き継いじゃおうかしら。

「お疲れ」
 不意に思考を遮る声が聞こえ顔を上げると、そこには同僚の男子寮長が立っていた。
「なに?そっちの仕事はもう終わり?」
「ああ、そろそろ帰ろうかと思ってな。そっちはまだか?」
「ええ、まだ終わりそうにないわ」
「そっか」
 私の言葉に頷くと彼はポットのところまで行きお茶を淹れ始めた。
「ほら」
 戻ってきた彼は私の分の湯飲みを置き、自分もお茶を飲み始めた。
「ん、ありがと」
「いや。けどたいしたお茶っ葉は置いてないんだな」
「うん、前はいいのあったんだけどね」
 もうあの茶葉は使い切ってしまった。
 補充はもう利かない。
「なんだったらもう少しいい茶葉探してくるけど」
「別にいいよ、飲めなくはないし」
「そっ」
 そこで会話は途切れてしまう。
 しばらくしてお茶を飲み終わったのか、彼は湯飲みを返し鞄を手に取った。
「帰るの?」
「ああ。お前も根を詰めるなよ」
「気をつけるわ」
 少し自信ないけど。
 私の言葉に何か彼は言いたそうだったが、結局何も言わず別のことを聞いてきた。
「そういや前から気になってたんだが」
「なに?」
「あのコーヒーメーカーって使ってんのか?」
 そう言って指し示す先にあるのは真新しいコーヒーメーカー。
 一見して使われてないのが分かるくらい綺麗なままだった。
「ああ、それ、ね。美味しい淹れ方分かんなくてね。そのままにしてるの」
「そんなの適当でいいだろう」
「うん、そうだけど怒る人いるから」
「え?誰?」
 彼は私の言葉に驚いたように尋ねてくる。
 ああ、確かに驚くでしょうね。
 でも私は少し悪戯っぽく笑みを浮かべてこう応えた。
「んー、内緒」
「なんだそりゃ。……まあいいや。じゃあ帰るな」
「ええ、お疲れ様」
 どうでも良かったのか彼はそれ以上追求することなく帰って行ってしまった。
「ふー」
 私はそれを見送り小さく溜息をついた。
「そうよね。使わないと勿体ないわよね」
 コーヒーメーカーを見やりながら呟く。
 でもしょうがない。淹れ方を習ってないんだからしょうがないじゃない。
「たく、美味しいコーヒーの淹れ方くらい教えていきなさいよ、馬鹿。これじゃあ淹れらんないじゃない」
 誰にともなく愚痴を呟く。
 せっかく楽しみにしてたのに永遠にその機会は失われてしまった。
 ああ、もしこの場に彼が読む漫画のようなタイムマシンがあったら淹れ方を聞きに行ったのに。
「……って何言ってんだか。それならまず彼が行くのを止める方が先じゃない」
 もしそんなことができるのなら優先順位が全然違うだろうに。
 そもそもなに、タイムマシンって。バカなんだろうか私は。
 いや、きっと彼のバカっぽさが乗り移ってしまったのかもしれない。
「……なんてね」
 あーあ、ホントなにやってんだろう。
 空しく言葉が響く。
「ねえ、棗くん」
 虚空に向かって彼の名を呼ぶ。
「美味しいコーヒー、飲ませてくれるって約束したじゃない」
 届かないと知りながら、それでもそれだけは文句を言いたくて私は呟いた。


[No.193] 2009/06/26(Fri) 23:18:13

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