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鈴虫が鳴く夜、私と葉留佳は実家で身支度をしていた。 明日草原へピクニックに行く予定で、それに向けての準備というわけである。 もちろん私も葉留佳も楽しみにしていて、準備にも当然熱が入る。 隣の葉留佳は楽しそうな笑みを浮かべ、リュックにお菓子などを詰め込んでいる。 「見てたら食べたくなってきちゃった。食べていい?」 「1つだけならいいわよ」 「わーい! どれにしよっかなー」 仲直りしてからの葉留佳は子供っぽくなった気がする。 そういう私も前より笑えるようになった。やはり妹の存在は私にとって大きいと日々実感している。 「お弁当はどうするの? 私が全部作ってもいいけど」 「ううん、私も手伝う! 2人で食べるのに1人で作るのはおかしいもん」 「そう……成長したのね。偉いわ、葉留佳」 そう言って頭を撫でであげると、気持ちよさそうにして俯く。 こうしていると、より幼く可愛く見えるのでついつい甘やかしてしまうことも多い。 準備も終わり、後は寝るだけとなった。ちなみに私たちは同じ布団で寝ている。 お互いの体温を感じられ、心も身体も温かい。 「じゃあ電気消すわよ。いい?」 「うん。おやすみ、お姉ちゃん」 「おやすみ、葉留佳」 朝が来た。葉留佳は私の隣で安らかに眠っている。 この幸せそうな表情をすぐに壊すのは気が引けるので、とりあえず頬を突いてみた。ぷにぷに。 ……とても柔らかくて気持ち良い。触っていて飽きない、丁度いい弾力性が指先にある。 1時間はこうやって過ごせるだろう。もしかしなくてもプチプチより断然楽しい。 「むにゃ……おはようお姉ちゃん、何やってるの?」 「おはよう、葉留佳」 答えながらも突き続ける。 強く摘んでみると痛かったのか逃げられた。 しょうがないので起きることにした。 朝ごはんはマーガリンを塗ったパンと、アイスココアで済ませた。 その後はお弁当作りに励む。 「おにぎりは葉留佳作って。私はおかずを作るわ」 「オッケー。まかせといて!」 そんなこんなで作業を行い、無事に予定通りに作れた。 弁当箱にそれらを入れ、さらにそれをリュックに詰め込む。これで準備はすべて完了した。 「お姉ちゃん、早く早く!」 「急がなくても大丈夫よ」 葉留佳は太陽のような笑みで私を急かす。 私もそれに答えるように微笑み返し、手を繋ぐ。 夢見ていた二人だけのの旅が今、始まる。 家を出て、歩いて駅までいく。もちろん手は繋いだままで。 空は雲一つ無い快晴だ。時折頬を撫でるように吹く風が心地よい。 他愛もない話をしながらだったので、すぐに着いた。 切符を買ってホームで待ってると、電車は数分後に来た。それに乗り込み、2人掛けの席に座る。 終点が目的地なので確認する必要は無い。気にせずに乗っていられるというわけだ。 しばらくゆっくりしてると、やはり葉留佳の方から話しかけてきた。 「そうだ、折角お菓子持ってきたんだから2人で食べよ」 そう言って葉留佳が取り出したのは、1本のポッキー。それをくわえて私に突き出してきた。えっと、これって…… 「ポッキーゲーム?」 「そ。負けた方が何でも言うこと聞くの。出来る限りでだけどネ」 そう言って落とさないように頷く葉留佳。まあ……たまにはいいかもね。 私に向かっているそれをくわえる。必然的に向かい合う形になり、気恥ずかしい。 お互いに食べていき、甘い棒は質量を無くしていく。それと同時に距離も縮まり、約3センチとなったところで動きが同時に 止まる。そのままどちらからも動こうとはせず、数秒間見つめ合う。 私の瞳は葉留佳の顔を映し、葉留佳の瞳には私の顔が映っている。 ……このまま食べる? よし、行こう。 葉留佳もそう思ったようで、ついに距離が0になり、唇が触れ合った。 「……ちょっと! なんで離さないのよ!」 「だって離した方が負けだし」 「だからってこんなの恥ずかしすぎるわよ……」 「それはお姉ちゃんだけじゃないよ……」 見ると葉留佳も同じだったみたいで、お互い顔が真っ赤になっている。 羞恥で目も合わせられない心境の中で、突然葉留佳は信じられないことを口走った。 「今のは引き分けだね。だからさ、勝つまでやろ!」 「え、ええ!? そんなのって……」 「ふーん、逃げるんだー。そこまで弱虫で恥ずかしがりだったんだね、お姉ちゃん」 挑発的な笑顔で詰め寄ってくる葉留佳。しかしここで乗ってしまったら最後、抜け出せない。 幸い角度的に他の客に見られる可能性が少ないとはいえ、あくまで可能性だ。だから乗せられちゃダメ。そう、ダメなのだ。 でもさっきの柔らかい感触が残って……まあ、少しならいいだろう。 ……先ほどの決意はどこへやら、見事に葉留佳のペースにはまっていた。 ポッキーに始まり、次にプリッツ、果てにはじゃがりこ。 結局勝負はつかなかった。葉留佳はどうか分からないけど、私はキスが気持ちいいから離す気にならなかったなんて絶対言えない…… 「棒状のお菓子がなくなったから次は飴とかかしら?」 「ノッてきたところ悪いけどもうすぐ着くみたいだよ」 「そう。それなら引き分けね」 「引き分けか……でも楽しかったよね?」 「そうね、とっても気持ちよかった」 「え? 今なんて?」 「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」 「無理しなくてもいいって。かわいいよ、お姉ちゃん」 「うぅ……葉留佳のバカッ!」 駅を出た私たちは手を繋いで歩く。さっきのこともあってかドキドキする。でも今はこの時間を楽しもう。 辺りはのどかな自然が広がっている。田舎と言えばそうだが、なにか懐かしいものを感じる。そして気持ちが落ち着く。 上がった体温を木陰と涼風が冷ましてくれる。 30分ほどゆったりと歩いてようやく目的の場所へついた。 そこは当たり1面に花が咲く草原。さらに高台へと続く道がある。 「うわあ……きれい……」 「そうね……」 「よし、向こうまで競争ねっ!」 「あっ、ずるいわよ、待ちなさい!」 そんな風に2人ではしゃいで遊んだ。葉留佳と過ごす時間はとても楽しくて、すぐに過ぎていった。 それは夢みたいな時間で、今までで最高の時間と言える。 「ふー、楽しかったね! 次はどうする?」 「そろそろお弁当にしましょう」 「わーい! もうおなかペコペコですヨ」 そんなわけで食べることにした。ちなみに時間は3時。夢中で遊んでいたのとお菓子の食べすぎでこんな時間になってしまった。 シートを広げ、二人分のお弁当をその上に広げる。 「いただきまーす! ん、このトンカツおいしいね!」 「そろは私の自信作よ。醤油が隠し味なの」 「へー、帰ったら作り方教えてねっ」 「ふふ、いいわよ」 「この卵焼きもなんか普通のより味があるね。ただ焼いただけじゃないよね?」 「それは作る前に醤油を数的垂らしておくの。お弁当の卵焼きにはかなり有効ね。」 「そうなのかー。やっぱりお姉ちゃんはすごいなー」 「そんなことないわよ。このおにぎり、味も形も良く出来てる」 「やはは……そうかな? そう言ってもらえるとうれしいな」 おなかも膨れ、草原に寝転がる。流れ行く雲を見つめて暫くリラックスする。 するとやはり眠くなり、うとうとしてしまう。 「お姉ちゃん、眠いの?」 「少し、ね」 「じゃあ、はい」 そう言って正座する葉留佳。 「えっと……膝枕? 葉留佳は寝ないの?」 「私はお姉ちゃんの寝顔見るから大丈夫!」 「絶対上向かない」 「じゃあうつ伏せ? エロいなー。お姉ちゃんエロいなー」 「なんでよ!」 「だってその体勢だと私の……」 「わかったわよ! 横向くからそれでいいでしょ!」 ふざけながらも顔を赤らめる葉留佳。その膝の上に頭を乗せる。とても気持ちよくて普通ならすぐに寝れそうなのにさっきのやり取りのせいで寝れない…… その張本人を下から見ると、私の顔を覗き込んでいた。 「あれ? 寝ないの?」 「寝れるわけないでしょう、この状況で」 「……私の膝枕は寝心地悪い?」 「いや、そうじゃなくて恥ずかしかっただけ。とても気持ちいいわ」 「そう、よかったー」 いつも通り明るいかと思えば急にしおらしくなったりと、扱いが難しい。 それに振り回されるのが嫌じゃないから良いのだけど。 気づけば私の頭を葉留佳が撫でてくれていた。優しく、滑らかに。 「……たまにはお姉ちゃん気分になってみたいのですヨ」 「私も、暫くはこのままがいいわ」 「お姉ちゃんもそういう気分になるんだ?」 「お姉ちゃんだから、よ」 きっと葉留佳は私のようになりたい時もあるということだろう。昔とは違って普通の姉妹のような理由で。 でも私にだって葉留佳みたいになりたいと思うときがある。葉留佳みたいに自分を前面に出したい。誰かに甘えたい時だってある。だから今この状況が心地よく感じる。 今だけは妹でいたい。これを葉留佳にいうと『もう、しょうがないなあお姉ちゃんは』とか言われそうなので言わないけど。 「ねえ、いつまでこうしてるの?さすがに足が痛いよ……」 「あと少しだけこのままでもいいでしょ?」 「もう、しょうがないなあお姉ちゃんは」 ……こういうこと気にするのも馬鹿らしくなってきた。いっそ全力で甘えてみようか。 そろそろ夕日が空に昇る時間になってきた。景色を見ようと高台へと移動する。 少し歩けば紅く広がる空を見ることができた。そしてこの辺りの風景全体を見渡すことも。 葉留佳と並んで眺める景色はいつもより輝いて見える。 「この景色を見てると、今がずっと続けばいいのにって思うわ」 「そうかな? 私は今よりも楽しいのがいいな」 「そうね。でも今この時が1番幸せだから、それでいいんじゃない?」 「よくないよ。今までの分を取り返す勢いで行かなくちゃ」 「葉留佳……」 遠くを眺める葉留佳はどこか大人っぽくて普段からは想像できない憂愁を帯びていた。 「私は、一生の幸せは同じだと思う。ただそれが廻ってくる時が違うだけ。本当なら死んじゃうはずだったけど、 今こうして生きてるってことはこれからたくさんの幸せが待ってるってことだと思う。違うかな?」 「……違わないわ」 つまり過去の幸せはこれからにまわされたということか。 本当に強く前向きになってる。それは嬉しくもあり寂しくもあって複雑。 「だからさ、この時間を大切にしていきたい。今日はとっても楽しかったな。また一緒に遊びに行こうね」 「うん、ずっと一緒よ、葉留佳」 私たちの間に流れる二人だけの時間。そう思うと行動せずにはいられなかった。唯一の存在を両手で後ろからそっと抱きしめる。 「ん……どうしたの?」 「……私もたまには妹の気分になって見たいものなのよ」 「お姉ちゃんでもそういう気分になるんだ」 「お姉ちゃんだから、よ。大好きな葉留佳」 「ええ!? ずるいよお姉ちゃん……」 「妹気分でいたかったのに……まあいいわ。こっち向いて」 「今はダメ……わかってるくせに……」 きっと体中がこの景色より赤くなっていることだろう。照れる葉留佳はもうかわいいの一言につきる。 無理やりこっちに向かせると、顔を見られないように私の胸へとうずめてきた。さっきの憂愁はどこへやら。 「照れてるのね、かわいいわ、葉留佳」 「うぅ……お姉ちゃんのバカッ!」 電車の中での仕返しが出来た。大人気ないとか言わないでほしい。妹気分だって言ったでしょ? まあ、私も葉留佳もとても楽しかった。これからもっともっと幸せな時間を作っていこうと思う。違う毎日を運んでくれる今の風を感じて。 [No.194] 2009/06/26(Fri) 23:32:09 |
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