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「おい、理樹が眠ったぞ」 真人の声を確認すると、部屋に謙吾が入ってきた。 「ん、お前だけか?恭介はどこだよ?」 「ここだ」 「って、うおっ!!」 入り口とは逆側の隅から声がしたので、真人は驚きの声を上げた。 「いつからそこにいたんだよ!?」 「今来たところだが」 まったく音はしなかったはずなのだが。 「いきなり湧いて出てくんな!キモいんだよ!」 「真人の言う通りだな。恭介、お前は悪趣味が過ぎる」 「ぐっ・・・・・・お前ら、もっとリーダーをいたわれよ・・・・・・」 「えっ!?恭介、お前リーダーだったのか?わりぃ、俺の筋肉レーダーでも気付かなかったぜ」 「・・・・・・真人から言われるのがこんなにキツイとは・・・新たな発見だぜ」 「ふっ、ありがとよ」 「さてと、お前たち、そろそろ漫談はおしまいにしろ。理樹が起きてしまう」 「理樹はもう起きねーよ。まあ、確かにここでくっちゃべってても仕方ねえ。さっさと始めるか」 恭介の声に二人が同意する。 「おおよ」「そうだな」 途端に周りの空気が変わる。雰囲気といったものではなく、実際に空気が冷たくなっている。そんな中で、恭介の指示のもと、謙吾や真人が何らかの操作を行っていた。 「それにしてもだ」 恭介が誰に言うわけでも無く、呟いた。 「おかしくないか?」 「ん?お前がか?」 「・・・・・・違う。ここのところずっとなんだが、同じ結果になりすぎてる」 「あー・・・確かにそうだ。いつも最終日は俺の傍で理樹が寝ちまってるな。それがどうした?」 「いや、どうしたって有り得ねえだろ!!もう何度目だ?というか何十回、何百回繰り返してると思うんだ!?もう何人かのシナリオを終えてもいいはずなんだぞ!それが何だ?まだ誰のシナリオにも到達しちゃいねえ!」 「いや、まあ。確かにおかしいちゃあおかしいが・・・」 珍しく熱くなっている恭介に、これまで黙々と作業を行っていた謙吾が口を挟む。 「いや、別におかしいことは無いだろう」 「じゃあ、この状況はどう説明するんだ?」 「コイントスを十回やって、その全てで裏が出た。それが今の現状で、お前はそれをおかしいといっているんだろう?」 「ああ、そうだ」 「しかし、九回やった時点で、そのいずれもが裏であろうと、次のコイントスで裏が出る確率は二分の一。つまり、毎回どの結果になるかは、それ以前の状態とは関係が無い。わかるか?」 「ああ」 「要するにだ、今回もたまたまそうなった、ということに過ぎないんだ」 謙吾の解説に、恭介はなおも食い下がる。 「いや、理屈じゃあ、わかるんだ。でも、これってやっぱりおかしくないか?」 「恭介。理樹のことに関しては、お前が一番一生懸命なのは認める。だが、お前は熱くなりすぎて、正しい判断が出来なくなっているんだ。ギャンブラーの錯誤というやつだ。一度頭を冷やせ」 二人の間に険悪な雰囲気が流れているのが肌で感じられる。 それを打ち破ったのは、真人だった。 「お前らよお。何だか難しいハナシばっかしてて、脳みそがこむらがえりそうなんだがな。この状況がおかしかろうが何だろうが、俺たちがやることに変わりはあんのか?」 「・・・うむ、確かに真人の言うとおりだな。恭介、俺たちがあれこれ心配しても始まらない。理樹が何をして、どんな結果になろうとも、俺たちには、また世界を再起動するしかないんだ」 不承不承といった形で、恭介が納得した。 「ああ、確かにそれしかねえよな」 そんなハナシを、僕は目を瞑ったまま聞いていた。 十回やって裏が十回出たら、そのコインを調べないと駄目だよ、恭介。 僕はうっすらと目を開け、周囲を確認した。これまで居た寮の部屋じゃない。というよりも何処でもない。周囲一体は闇で満たされていた。光も無いのに、作業を続ける三人の後ろ姿だけがぼんやりと浮かび上がっていた。 その時、振り返った謙吾と目が合ってしまった。 しかし、謙吾は口角をわずかに上げると、僕に目で合図を送ってきた。僕も口元を綻ばせて、謙吾に返す。 確かに、謙吾の言った通りになった。やっぱり、あのハナシは本当だったのだ。謙吾と、「僕」が残したハナシは本当のことだったんだ。 恭介が「旅」から帰ってきた三日後、謙吾に学食裏に呼び出されたのが、始まりだった。 謙吾は僕に一冊のノートを手渡した。ココで読めといわれたので、開いてみた。あまりの内容に言葉を失ってしまったのを憶えている。ノートにはこう書かれていた。 ”5月17日の僕へ。 突然、自分が書いた覚えが無い文章を読んで、君(僕?)は驚いていると思う。 でも、ここでノートを閉じずにとりあえず全部読んで欲しい。 そして、日曜になった時点で、このノートに何も気になる点が見つからなかったら、このノートを捨てても構いません。” ・・・・・・自分が書いていない文章が、自分の筆跡で書いてあった。皆のイタズラにしては悪趣味だし、意味がわからなかった。謙吾は、何故こんなものを見せるのだろう? 謙吾が目で促すので、次のページをめくってみた。 ”真人:「理樹、邪魔すんじゃねぇ・・・」 謙吾:「そうだぞ、理樹。お前まで怪我することになるぞ」 真人:「までって・・・オレは怪我すること前提かよっ!」 真人:「そこまで馬鹿にされて、黙ってられるかっ!うらああぁぁぁぁああぁぁーっ!」 迫ってくる真人。周りの生徒がよけて道を作る。 その列に足をとられ、僕は転けてしまう。 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・” ・・・・・・あの日から今日までの間、誰が何をしたか、誰が何を喋ったのかが、そこには事細やかに綴られていた。 全身の毛穴から、ブワッと汗がにじみ出たのを感じた。・・・・・・これではまるで、僕が見て聞いたこと全てをズッと誰かに監視されていたみたいじゃないか。それを、しかも僕の筆跡でそれを見せびらかす・・・・・・。堪らなく気持ちが悪かった。 僕は謙吾にそれを突き返そうとしたが、謙吾が頑なに次も読めというので、仕方なくめくった。・・・・・・息が止まりそうになったのを覚えている。 その「日記」には、・・・・・・先があったのだ。 それもサッキと同様に、一言一句逃さないような描写で、今日から日曜日にかけて何が起こるのかを書き記してあった。足元が、グラグラと崩れ、ドロドロに溶けていく様な感覚に襲われた。 ・・・・・・僕はノートを謙吾に投げつけると、寮に逃げ帰った。 誰が、あんなことを。・・・・・・まさか、あのノートにあったことが、これまでのように、本当に起こるなんて無いよね・・・・・・?僕は布団に潜り込んで、ひたすら、あのノートが単なるイタズラであることを祈った。 ・・・・・・その日から日曜日までのことは、良く覚えていない。 ただただ、あのノートに書いてあったことが次々に現実になっていくのを眺め、吐き気と、心臓を手で掴まれるような感覚とを味わったことしか記憶に無かった。・・・・・・完璧な預言書。なんと、恐ろしい響きなのか・・・・・・。それはまるで、悪夢のような冗談だった。 翌月曜日。また、謙吾に呼び出された。 今度は・・・・・・別のノートを渡された。 ”5月22日の僕へ。 君がこれを読んでいるということは、前に読んだ「日記」が現実になったことだと思う。 何故僕がこんなことを知っているのかというと、それらは全て、僕自身が5月14日から22日までの間に経験したことだからだ。 ではどうして、僕が22日までのことを事前に書けたのか?と不思議に思うかもしれないけど、これから書くことをよく読んで理解して欲しい。読んでもわからない事があったら、傍に居るはずの謙吾に聞いておいてください。” そこから先は、本当に悪い冗談ばかりだった。繰り返し続けるセカイだとか、本当は皆死んでいるだとか・・・・・・。何だソレ?・・・・・まるで狂人の戯言だった。 ・・・・・・でも、僕は全然笑えなかった。 それが冗談でないことに、僕は既に気付いている。・・・・・その事こそが、本当にタチの悪い冗談だったのだ・・・・・・。 そのときから、僕にはあるミッションを、・・・・・・「僕」から課せられていた。 それは謙吾と協力して、「本当の」リトルバスターズを作ること。 でも、一から作っていく必要は無かった。どうやら、今の僕には既に他の仲間がいたようだったのだ。あの後、謙吾は来ヶ谷さんを紹介してくれた。彼女もまた、僕たちの意見に賛成してくれていたようだった。 ・・・・・・僕は周りを見渡す。もうベッドも何も無い。これが謙吾の言っていた「このセカイの終り」なのだろうか。 もう今の僕には何も出来ない。ミッションが課せられていたといっても、僕はほとんど何もやっていなかった。 以前そんなことを謙吾に伝えると笑われた。謙吾曰く、僕には感じられないけど、時間は無限にあり、だからこそ焦ってはいけない、とのことだった。急いで仲間を増やそうとするリスクを負うよりも、ただ皆でわいわいやっている方が効果的だとも言っていた。 ・・・・・・恭介の背中が視界に入った。 恭介・・・・・・。永遠に子供のまま遊び続けるのだって、悪いことじゃないと思うよ・・・・・・。 だって・・・だって僕は、あの幸せな一瞬に、こう願ったんだ。「時よ止まれ、お前はあまりにも美しい」・・・・・・と。だからこの世界は、僕の願いそのものなんだ・・・・・・・・・。 それにね、恭介。僕は皆のためにこうしているんだ・・・・・・。ココで僕たちが遊び続けている限り、・・・・・・誰一人死なないんだ。わざわざ、皆を死なせる必要なんて無いんだ。・・・・・・・・・ずっとズット、ここで一緒に居よう?そうしたら、皆きっと幸せになれるんだ・・・・・・。 ・・・・・・待っててね、恭介。皆を仲間にしたら、・・・・・・キット迎えに行くよ。今度は僕が、恭介を・・・助けてあげるンだ。 リトルバスターズは・・・弱いモノを助ける・・・・・・正義の味方なンだ。 アハ・・・アハハ・・・・・・アハハハハ・・・ハハハハハハハハハハハハハハハ [No.227] 2009/07/10(Fri) 23:41:26 |
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