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部屋に帰ると、そこには黒猫が居た。 「黒猫か…」 日本では魔除けとか幸福の象徴にされている説がある黒猫か。というか何で猫がここに居るんだ。拾ってきた覚えもないし、鈴君がこの部屋に来た事も無いのだが。私は基本的に部屋に鍵は掛けない。だから何者かがこの部屋に忍び込んで私の下着やらなんやらを物色したついでに黒猫を置いていったという可能性も無くは無い。まあ限りなく低い可能性だろうが。黒猫は人懐っこい性格らしく私の足に擦り寄ってきたりしている。冬だったら重宝しそうな温かさだが今夏だし。暑いとまでは言わないが少し離れて欲しい温度で、でも今素っ気無く離れてしまうともしかしたら嫌われて壁とか扉とか引っかかれ始めるかもだし。どうするか迷っていると猫が猫パンチしてきてなんだか和んだ。それを見て脳内で鈴君と笹瀬川女史がベッドでにゃんにゃんしている映像が再生された。とりあえず保存しおいた。というか何故あの二人は猫耳常備なのだろうか可愛いから別に良いのだがそれを佳奈多君とかが注意しないって事はあの二人はもしかして人間じゃないのかとか考えて、まあ可愛いから何でも良いやという結論に至り一瞬猫の存在を忘れていた。存在が一瞬ステルスになった黒猫はなにやら毛を逆立てて私の太ももを登ろうとしている所だった。なんだこの猫。やらしい目的が微塵もしないのが逆に腹が立つ。何故太ももに登るのかって?そこに太ももがあるからさ、みたいなオーラでも出してたらよしよしじゃあ登りやすいようにベッドに腰掛けてやろうとでも思ってやらん事も吝かではなかったのに。 だがまあその努力を買って黒猫を私の膝に乗せてやろうとその猫の首根っこを掴み上げ一瞬視線を交わし、気がついた。…この猫、メスだったのか。 「すまん、てっきりオスだと思っていたよ」 素直に謝った。それなのに猫パンチされた。猫にしてはいい角度と場所に的確にパンチしてきたのには驚いたが対して痛くもないし。というかくすぐったいだけだし。しかしこの猫毛並みが良いし何処となく気品に溢れてる気もしない訳ではない。もしかしたら飼い猫なのかも知れないな。首輪とかしてないけど。 猫と一緒に転がったり和んだりしていたらいつの間にかお風呂の時間になっていた。私も一応花も恥らう乙女だし、お風呂に入るのは嫌いでも無いのでいそいそと入浴の準備をすることにした。準備といってもシャワールームに行くだけなのだが。私のこのスタイルの所為で浴場に行くと好奇と羨望の視線が突き刺さったりするから浴場にはあまり行かない。葉留佳君とかと一緒に行くとその視線は分散されたりするんだが。とりあえず服を脱いで裸になろうと思い服に手をかけ、ふと連れて来てしまった猫を見た。猫はなにやら驚いたような、そんな感じの雰囲気を纏いつつ私を見ていた。いや、正確には顔よりも少し下を凝視していた。猫にまで驚かれるものなのかこれは。ただの脂肪の塊なのに。この前そう呟いたらクドリャフカ君に勢いよく説教された。 「持たざる者の苦労を理解しやがれなのですー!」 とか言われたがもう遅いし。それはもっと昔の私に言ってくれないか。まあそれは放っておいて。さっさとシャワーを浴びて部屋でゆっくりしよう。そう思い猫を抱えシャワールームへ入った。猫って水が嫌いだったような気がするけどまあ気にしない。 案の定暴れた猫がシャワームールを駆け回ったが、二分後には大人しく私の腕の中で洗われたのは言うまでも無い。 シャワーを浴び着替えていたらいつの間にか黒猫は姿を消していてちょっと探しても見つからなかったのでもしかして先に帰ったのか、と楽観的に考え部屋へと向かった。その途中に鈴君と出会ったので丁度良いと思い猫について色々質問してみた。 「なに? 猫がなにを食べるか?」 「そうだ。鈴君なら知っているだろう?」 「うーみゅ…あたしはいつもモンペチをあげてる」 成る程モンペチか。確かに猫にあげる食事としては良いかも知れない。私も何個か持っているから手軽にあげられるし。 「だけど、猫たちにも好みがあるから気をつけなきゃ駄目だ」 「ふむ…なかなか難しいな。あと猫のケアはどうすれば良い? やはりブラッシングか?」 「ブラッシングは優しく丁寧に、だ。難しかったらあたしも手伝う」 色々と教えてもらった礼を述べ、早速実践してみようと部屋に帰ろうとした私を鈴君が呼び止めた。表情には出てないと思うがかなり驚いた。鈴君はなにやら下を向いて話すかどうか悩んでいるようでその姿はとても可愛らしかった。お持ち帰りしても良いだろうか。いやいや、やはり本人の了承をとってからだ。理性と欲望の狭間で葛藤していたら鈴君が顔を上げてこう言った。 「ささみを見なかったか?」 「ささみ…? ああ、笹瀬川女史の事か」 「そうだ、ささせがわささみだ」 最近鈴君と笹瀬川女史は和解したようで猫の話題をしている所をよく見かけるようになった。あのケンカというかじゃれあいが見れなくなったのは残念だが、仲良くしているのなら私はそれでいいと思う。 「すまんが見てないな。部屋にでも居るんじゃないか」 「さっき行ったけどこまりちゃんしか居なかった」 「じゃあ後輩のところとか」 「最近姿を見てないからって逆に居場所を聞かれた」 最近姿を見ていない、か。なんだかおかしいな。そういえば私も最近彼女の姿を見ていない気がする。寮生活をしているとすれ違ったり食堂で見たりするものだが、記憶を掘り起こしてみても彼女を最後に見たのがいつか思い出せ無かった。それを鈴君に伝えると、残念そうに俯いて 「明日一緒に買い物に行くのに…ささみの奴め」 と心配そうに呟いた。なんだか居た堪れなくなったので足早にその場を立ち去った。どこかに笹瀬川女史を姿が無いか探しつつ。 結局姿を認められずに部屋に戻ってきた私を出迎えたのはベッドで寝息を立てている黒猫だった。それ見ていたらなんだか無性に寂しくなってしまい、その日は黒猫を抱いて寝た。腕の中で相変わらず暴れたが気にせず寝た。 次の日、猫が居なくなっていた。鍵を掛けて密室と化した私の部屋から逃げるなんてどっかの三世もびっくりの猫だなとか考えながら食堂へ向かっていると、前から鈴君が走ってきて私の横を通り過ぎていった。なにやら必死だったのでとりあえず後を追ってみる事にした。鈴君はいつもの馬鹿騒ぎの時とは比べ物にならないぐらい速く走っていた。追いつくのにはあまり苦労はしなかったが些か驚いた。こんなに速く走れたのか。やがて鈴君はスピードを緩めある部屋の前で止まった。そこは私にも見覚えのある部屋の前でそこに辿り着いた瞬間、何故走っていたのか納得した。 鈴君はノックもろくにしないで扉に手を掛け、部屋に飛び込んだ。 「ささみっ!」 「ちょ、ちょっとあなた! ノックぐらいしたらどうですの?!」 「そんなの知るかボケ! 今まで何処行ってた!」 「…知り合いの家にご厄介になってましたわ」 「あたしは聞いてないぞ!」 「わ、私も聞いてなかったけど…戻ってきてくれたんだから、ね?」 ひどく憤っている鈴君をなだめる小毬君。それはそれで凄く微笑ましくお持ち帰りしたくなる程可愛かった。けれど私の視線は鈴君でも小毬君でもなく、笹瀬川女史に釘付けだった。久しぶりに見たはずなのに、つい先程まで一緒に居たようなそんな気がしたのだ。 ドアの外から彼女を見ていていると、ふと視線が合ってしまった。普段通りに振舞おうとしてもそれが出来なかった。何故だ。 「あ…」 「ん? どうしたささみ…ってくるがやか」 「あれ? 何でゆいちゃんがここに居るの?」 「…ゆいちゃんはやめてくれ…。いや鈴君がなにやら急いでいたのでな、後をつけたら此処に」 「つけるなアホー!」 「りんちゃん、そんなこと言っちゃ駄目だよー。ゆいちゃんは心配してくれたんだから」 なんだか空気が和んでいくのを感じ、さっさと食堂に行って朝食を食べようと思った私の背中に小さい、けれどはっきりとした言葉が届いた。 たった一言の感謝の言葉。 それに無視で反応し、私はいつも通りに歩き出す。 短い期間の居候はもしかしたら意外と近くに居るのかもしれない。 そんな、夢のような事を考えながら。 [No.269] 2009/07/23(Thu) 23:58:42 |
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