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all 第29回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/03/19(Thu) 22:35:37 [No.22]
猫? 愛? - ひみつー@5,599byte - 2009/03/21(Sat) 00:28:45 [No.36]
シーメ=キッター (Seemue-Queitier) - 主催 - 2009/03/21(Sat) 00:27:05 [No.35]
ハッピーメーカー - ひみつ@16188 byte - 2009/03/21(Sat) 00:13:00 [No.34]
愛の円環 - ひみつ@12160byte - 2009/03/21(Sat) 00:00:49 [No.33]
愛・妹・ミー・マイン - ひみつ@2585 byte - 2009/03/20(Fri) 22:29:15 [No.32]
愛はある、金がねえ - ひみつ@2802 byte - 2009/03/20(Fri) 19:45:11 [No.31]
変態少女―サディスティックガール─ - ひみつ@15148 byte - 2009/03/20(Fri) 19:35:40 [No.30]
[削除] - - 2009/03/20(Fri) 17:15:10 [No.29]
木漏れ日のチャペルで君と誓う - ひみつ6987 byte - 2009/03/20(Fri) 12:52:28 [No.28]
馬鹿でもいいじゃない - ひみつ@4585byte - 2009/03/20(Fri) 11:52:28 [No.27]
終線上のアガポルニス - ひみつ@20340byte - 2009/03/20(Fri) 10:01:52 [No.26]
正しい想いの伝え方 - ひみつ@17213byte - 2009/03/20(Fri) 01:03:21 [No.25]
幻想への恋慕 - ひみつ@11514 byte - 2009/03/19(Thu) 23:01:01 [No.24]


馬鹿でもいいじゃない (No.22 への返信) - ひみつ@4585byte

「がぁー! 覚えられねぇ!」

 真人は机に何度も何度も頭をぶつけて自虐している。
 それを苦笑いを浮かべなからも、やめるように言う理樹。
 真人の少し赤くなった額が、見ている方にも痛みが伝わるくらいに、腫れていた。

「大丈夫だよ、真人。もう一度復習すれば」
「駄目だ……何度復習しても覚えられる気がしないぜ」

 大きな溜め息を吐く真人。
 二人は今、明日の小テストに向けての勉強をしていた。
 とは言っても、テストは簡単な慣用句やことわざといった内容のため、理樹は既に覚えている。
 だが真人は違った。
 真人は覚えていない上に、理樹のように予習復習を毎日こなすタイプでは無い。そんな時間があったら、筋トレをするようなタイプなのだ。

「ほら、真人。僕が上の部分読み上げるから、真人は下の部分を答えて」
「……分かった」

 つまり理樹は、そんな真人のために、勉強に付き合っているのである。

「馬の耳に?」
「真珠」
「馬の耳に真珠!? それじゃあただの拷問だよ!?」

 だが、あまりその成果は発揮されない。
 真人自身、理樹が付いていなかったなら、既に勉強を投げ出しているだろう。

「石の上にも?」
「小判」
「どんな状況さ!?」

 ここまでくるとただの馬鹿にしか見えなくなってくる。

「七転び?」
「八転び」
「どれだけ転ぶの!?」

 そんな真人に根気よく付き合ってやれるのは、やはり理樹の性格上、放っておけないのだろう。

「じゃ、じゃあ真人。これなら簡単だよ! 猫に?」
「三年」
「何を!? 猫に三年間何を!?」

 律義にツッコミを入れるのを忘れない理樹。
 真人は、机に顎を乗せて唸っている。開かれたノートは真っ白で、何も書かれてはいない。

「真人、書かないと覚えられないよ?」
「書いても覚えられねぇよ」

 真人は、少し不貞腐れたように言う。
 そんな真人に、理樹はただただ苦笑いを浮かべるしかなかった。
 普通なら、真人の態度に対して、怒るという選択肢や、呆れるという選択肢もあるだろう。
 しかし、理樹はそれらを選ばず、ただ、苦笑いを浮かべる。

「ほら、ちゃんと書いて」
「う〜」
「あ、意味も覚えなきゃ駄目だよ?」
「だー! 分かってる!」

 理樹に言われ、渋々といった感じでだが、真人は手を動かし始める。
 白いノートが、黒く染まってゆく。

「ぐぁっ……こんなに細かい文字を書きまくっていたら、筋肉さんがこむらがえるぜ……」
「はいはい、真人の筋肉はそんなにやわじゃないでしょ」
「当たり前だぜ!」
「そう、じゃあもっとたくさん書こうね」
「ぐぁっ! 虎穴を掘っちまった!」
「うん、墓穴を掘ろうね。虎穴掘ったら大怪我しちゃうよ?」

 頭を抱えて、立ち上がりながらそう叫ぶ真人に対して、あくまでも理樹は冷静に対処する。
 こんなやりとりも、理樹にとっては、もう慣れたことだ。
 再びノートに書き込みをいれていく真人を、理樹はなんとなく眺める。
 真人は、確かに馬鹿だけれども、みんなに好かれる。
 そう、真人の馬鹿は、ただの馬鹿じゃないのだ。
 いわゆる、あいきょう者。愛すべき馬鹿、といったところだろう。
 それは、とても凄いことだ、と理樹は思った。

「おい理樹? どうした?」
「へ? あ、ゴメン。ボーッとしてた」

 不意に、真人に話しかけられて、理樹は意識を現実へと戻す。
 あはは、と軽い苦笑いを浮かべて誤魔化す理樹を、不思議そうに見つめる真人。
 よく見ると、真っ白だったノートの1ページが、文字で埋まっていた。

「真人、もうそんなに書いたの?」
「あぁ、せっかく理樹が付き合ってくれてんだからな」

 鼻の下を人指し指で擦り、笑う真人。
 理樹がノートを覗いてみると、隅から隅まできちんと埋まっていた。字は汚くて、ほとんど解読は出来なかったが。

「じゃあもう一度さっきと同じこと、やるよ?」
「おう! 今なら全て答えられる気がするぜ!」

 先程の意気消沈はどこへといったのか、今は自信満々の表情を浮かべている真人。

「猿も木から?」
「念仏!」
「怖っ!? 猿が木から念仏唱えてたら異常だよ!?」

 やっぱり駄目だった。

「うぉぉぉぉ! 何故だぁぁぁ!?」

 再び机に頭をぶつけ続ける真人を見て、思わず理樹は笑う。

「何だよ……やっぱり俺が馬鹿だと思って笑ったのか?」
「う、ううん違うよ!」

 真人が恨めしそうに理樹を睨む。
 理樹は慌てて誤解を解く。

「じゃあ何で笑ったんだよ?」

 しかし、それなら何故笑ったのか、理由が分からないといった様子で真人は理樹に尋ねる。
 すると、理樹は少し悩んで、

「う〜ん、上手く言えないけれど、真人らしいなって」
「は? どういうことだよ?」
「だから上手く言えないんだよ」
「なんだよそれ」

 理樹自身、苦笑いを浮かべている。真人も、よくわからないといった表情だ。

「なんていうか、真人はこれからも変わらないでいて欲しいなって思ったんだよ」
「それは俺に一生馬鹿でいろ宣言か!?」
「いやいやいや、違うよ」

 一生馬鹿は嫌だ、と喚いている真人を見て、理樹は柔らかい笑みを浮かべる。
 勉強が出来なくても、例え周りから馬鹿と認識されようとも、真人を本気でけなす者はいない。
 その純粋さや滑稽な行動は、みんなから愛される。
 だから、

「うん、やっぱり真人は変わらないでね」
「うぉぉぉぉ一生馬鹿は嫌だぁぁぁ!」

 理樹は、未だに誤解している真人を見て、また笑う。
 理樹は思う。
 馬鹿でもいいじゃないか、愛すべき馬鹿は、みんなに笑顔を与えてくれるのだから、と。


[No.27] 2009/03/20(Fri) 11:52:28

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