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「葉留佳、もう起きないと遅刻するわよ」 「う、うーん……なんか頭痛いし身体も重い……」 「仮病はいいから、早く起きなさい。布団取るわよ」 それはいつものやり取りになるはずだった。しかし今回はどうやら様子がおかしい。 よく見れば本当に辛そうで、触れてみるとその手は熱を帯びている。 「はい、体温計。37.5℃以上なら休んでもいいから」 「うん……」 私が身支度をしているうちに測り終えたようだ。数値は……38度!? 冗談抜きで風邪ね…… 心配だけど私にも学校がある。さすがにサボるわけにもいかないので、気をつけてとだけ言って部屋を出た。 授業を受けること20分。私の心もあの子が座らない席同様、ぽっかりと空白ができてしまった。心配で気が気ではなくなってくる。 しかし授業を受けないわけにもいかないので、教師の話に耳を傾ける。 「以上の事が原因で、抵抗力が弱まり身体に異常をもたらすわけだ。特に風邪は万病の元と言われているから気をつけるように」 ガタン! 無意識のうちに身体が勝手に動いていた。勢いよく立ち上がってしまった私は、この瞬間クラスの注目の的になってしまった。 「ん、どうした二木?」 「えっと……ちょっと急用を思い出しました、それでは!」 「あ、おい! ……どうしたんだあいつ?」 教室を飛び出した私に、不思議と後悔はなかった。抜けた理由は病人の看病という立派な理由の元に成り立っているからであり、急用というのも事実だからだ。 ただ、もう少しまともな抜け方はできなかったものだろうか。葉留佳のことで精一杯で他の事に頭が回らなかったとかいうのは言い訳に過ぎない。 自分で意識している以上に葉留佳のことが……いや、考えないでおこう。妹を心配するのは姉として当然のことだ。 だから私の足は走ることを止めない。まるで親友の命を守ろうとするメロスのように。 「はあ、はあ……」 息も絶え絶えに私たちの部屋の前まで着く。よく考えれば授業中妹の風邪が心配で必死に走ってきたというのはおかしい。 なので息を整え、走ったことがばれないよう平静を装いつつドアに手を掛けた。 目の前に映る光景は、朝と変わらずベットで寝込む葉留佳。とても苦しそうで一刻も早く助けてあげたい。 「葉留佳、大丈夫?」 「あ、お姉ちゃん……どうしたの?」 「葉留佳が心配で来たのよ。今日は付きっ切りで看病してあげるから、心配しないでね?」 「ありがとー、お姉ちゃん」 葉留佳は弱々しい笑みを私に向ける。そこには安堵と感謝の気持ちが含まれているように感じた。 先生への言い訳は後々考えるとして、今は少しでも葉留佳を楽にさせてあげることが最優先事項だ。 さっき額に乗せた濡れタオルも、温度が上昇している。なのでまずはそれを取り替えることにした。 濡れタオルではすぐに温度が上昇すると分かり、氷水を入れた袋を作り葉留佳に渡す。 「どう、気持ちいい?」 「うん、さっきより冷たい。でも授業サボって大丈夫?」 「……いや、今は昼休みよ。そうだ、朝から何も食べてないでしょ。おかゆ作ってあげるから、少し待っててね」 自分でも苦しい言い訳。きっとバレバレなのだろうけど、認めるのが悔しいから口には出さない。 とりあえず食事はきちんと取らないといけないので、私特性、栄養&愛情たっぷりのおかゆを作って葉留佳へと運ぶ。 「はい、熱いから気をつけてね」 「本当にありがとう、お姉ちゃん……ぐすっ……」 「ちょっと、何泣いてるの!?」 「看病してくれる人がいてくれるって思うと、本当に嬉しくて……」 その一言が心に重くのしかかる。小さいとき、葉留佳は熱を出してもこうして一生懸命に面倒を見てくれる人はいなかったのだ。 ならば尚更今の葉留佳を一人にしておくわけにはいかない。熱が引くまでずっと看病する、絶対に。 決意を固めて葉留佳の方を見れば、おかゆを食べにくそうにしていた。ならばやるべきことは一つ。 「はい、葉留佳、口を開けて」 「え、いや、自分で出来るから……あっ」 葉留佳の手からスプーンが滑り落ちた。下は布団なので汚れる心配はないと思うけど、念のために洗っておく。 「言った傍からこれじゃあ説得力ないわよ? 無理しないの。はい、あーん」 「あ、あーん」 私の手が握っている銀色のスプーン。その先に乗っているおかゆを葉留佳の口元へと運ぶ。 「どう、おいしい?」 「うん。やっぱり料理上手いね」 「そりゃあね。さ、もっと食べて」 「……なんか今日のお姉ちゃん優しいね」 「そ、そんなことないわよ! 葉留佳大丈夫かなーって思ってちょっと来てみただけなんだから! そしたら辛そうだったから……」 「授業時間に抜け出してきたのに? 普通のお姉ちゃんじゃ考えられないよね?」 やっぱりばれてた。この状態の葉留佳ならもしかしたらと思ったんだけど…… この際なのでプライドとかは一時捨てて、自分の気持ちを正直に告白することにした。 「……心配なの」 「へ?」 「心配なのよ、葉留佳のことが。もし何かあったらと思うともういてもたっても居られなくて……。 それにね、いつもは怒ることが多いけど、明るくはしゃいでる葉留佳が大好きなの。元気な葉留佳の顔がもっと見たいから、早く元気になって?」 ものすごく恥ずかしいことを言ってしまったが、2人きりなので問題なしとしよう。 問題なのは葉留佳のリアクションがないこと。何か反応してくれないとどうしていいか分からない。 様子を見てみると、突然抱きつかれた。いきなりの事で戸惑うも、少しでも冷静でいようと努める。 「ど、どうしたの?」 「だってお姉ちゃんの口からそんな言葉が出てくるなんて思わなかったから、嬉しくてつい」 「なによ、どうせ私には似合わない台詞だったわよ。馬鹿にすればいいじゃない」 「そんなことしないよ。私は優しいお姉ちゃんの方が好きだから。だからせめて今だけ甘えさせて……」 その台詞の前には平静でいることは敵わず、私は葉留佳をぎゅっと抱きしめ返していた。温かくて気持ちいい、私の妹。 さっきはああ言ったが、このしおらしい状態の葉留佳はとてつもなくかわいい。 そして私は今、その存在を体で感じている。 そういえばキスすると風邪がうつると聞いたことがある。本当かどうかは分からないが、行動に移すには十分な理由だ。 それを覚った瞬間、本能的に行動に出た。 惜しいながらもゆっくりと体を離し、唇を重ね合わせ――ようとしたその時、葉留佳の体が崩れ落ちた。 一瞬胃がひっくり返ったような感覚に襲われたが、安らかに寝息を立てている葉留佳をみると、杞憂だと分かりほっと胸を撫で下ろす。 「ゆっくり休みなさい、私の大好きなかわいい葉留佳」 そこで口付けをしてもかまわなかったのだが、それは止めておくことにした。 この可憐な寝顔を見ていると、ずっと見守りたくなる。なにもせずに、ただじっと。 ただ頭の中では、葉留佳と何をして遊ぼうかという想像が尽きないのだった。 [No.279] 2009/07/24(Fri) 22:23:27 |
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