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皆既日食を見よう。そう言って、彼は私たちを連れ出した。 授業をサボってまで遊ぼうという変なところまで最近は恭介氏に似てきてお姉さんは心配だ。でも、おもしろいから放っておく。これで受験も徒歩で行ってくれたら言う事無しだ。 天気もいいし、山登ろう! 山! そう言う彼は妙に生き生きとしていて、歯なんかをキラッと光らせて、以前の頼り無いショタの面影は皆無。ノリも段々とあの阿呆に似てきて本気でちょっぴり心配になる。 ワクワクなんてしない。ドキドキなんてしない。どうしようもない自分から逃げるため。そんなしょうもないことを求めて、私は今日も彼についていく。彼女もきっと同じなのだろう。 『ワンダーフォーゲルと風見鶏』 ぞろぞろと真昼間から山を歩く。これだけの人数がいたら逆にサボリとは思えない。理樹君も中々頭が回るようになってきてお姉さんは少し寂しい。 日食が始まるとは言え、今日の日自体は梅雨も明けて、晴れ渡る青空が頭上に広がっている。それは日食観測としては最高の天候なのだろうが、如何せん暑い。真夏日と言っても過言ではない。当然そんな中を風通しの悪い木々の間を縫いながら山道を歩くわけで。 即行でリタイアした美魚君とクドリャフカ君。二人は今謙吾少年と真人少年の背中に負ぶられている。歩かなくてもいいが、あれでは二人の筋肉が放つ熱で余計に暑いのでは無いかと。そういう罰ゲームみたいになっていた。私が負ぶってやろうかと進言したが、何故か即答の拒否。納得がいかない。 まあ、でも、いいものを見れたから良しとしようか。 頭にタオルを被り、ひいひいと歩く小毬君。しっとりと汗で濡れた髪。そして薄らと透けるブラウス。今日の下着はペパーミントグリーン。くそ暑い真夏に吹く爽やかな風を演出している。 そして、意外にもしっかりとした足取りの鈴君。こういったことは慣れているのかもしれない。それでも暑さには勝てないようで。しっとりと汗で濡れた以下略。今日の下着はアクアブルー。縁側にひっそりと飾られた風鈴、その涼しげな音色が今にも聞こえてきそうである。 ああ、眼福眼福。 流石に言いだしっぺだけあって皆の荷物を持って前を行く理樹君。辛いならばお姉さんが負ぶってあげても構わないのだよ? そう聞くと、こちらも即答の拒否。しかし、だって僕はリーダーだから、とハニカミながら言う理樹君にキュンときた。ジュンともした。 さて、この大馬鹿者集団の中で一際馬鹿で有名な彼女はと言うと……。 「おーい、みんなー、置いてっちゃうぞっ☆」 何故か自転車、しかも電動アシスト付き、で私たちのずっと前を行っていた。曰く、実家にあったから持ってきた、だそうだ。 佳奈多君に聞いたところ、ものすごい勢いでへなへなと崩れ落ち、その後どんより頭を抱えていた。なんだか可哀そうになったので、おっぱいからヤクルトを取り出して、そっと彼女の手に握らせた。強く生きて欲しい。そして、葉留佳君は木にぶつかって、その勢いでぶっ飛んで、細めの枝に引っ掛かって折れるか折れないかの恐怖を味わい続ければいい。ということで。 「おーい葉留佳君!」 「んー?」 「あんな所にUFOが!」 「わっはっはっはー。姉御もばかだねぇ。そんなものにこのはるちん様が引っ掛かるわけ」 「あっ! 本当だ!」 「すごいです! 世紀の発見なのです!」 「う、うおおおおおお! うおおおおおお!」 「えーと、あれだ! そう! 筋肉だ! 筋肉が空飛んでるんだ!」 「これはすごい。うん。ほんとうにすごい。すごすぎてびっくりだ」 「えへへー。UFO見ちゃったよー」 「これを見逃す手は無いですね」 ニヤリと笑う。今、この中で誰一人として葉留佳君のことをよく思っているものはいない。というか、うざいと思っている人間しか存在しない。しかも、無駄にノリの良い阿呆共だ。流石だよ、うん。いや、本当びっくりした。ちょっと歯車噛み合い過ぎだな。 「皆で言っても引っ掛かりませんよーだ! やーい、ばーかばーか!」 うざっ! 「余裕ぶっこき過ぎてお尻ぺんぺんしてしまうレベルですヨ! それ!」 そう言って立ち漕ぎの体勢を取る。律儀に一度あっかんべーをした後、片手漕ぎのままお尻をぺんぺん。 「もう一回! って、ぬおっ!」 だが、そんな無理な体勢が長く続くはずもない。バランスを崩した葉留佳君は見事に木にぶつかってくれた。そして、ぶっ飛んでくれた。そして、枝に引っ掛かってくれた。ありがとう。そして、さよなら。 「あ……ああ……」 「葉留佳君に対して黙祷」 ここまで計画通りにいくとは。安らかに眠れ。 「いや、あの……」 「さあ、先を急ごうか皆の衆。葉留佳君の犠牲を無駄にしないために」 オー。と、ここで皆の心が一つになる。空の上の葉留佳君。見ててくれているかい? これが君の愛したリトルバスターズの新しい姿だ。 「お、おろしてー!」 南無。 初めて出会ったのは放課後のトイレだった。 鏡が割れる音がした。 気になって覗いて見ると、死んだ魚の目をした美少女が鏡を素手で殴っていた。 拳から血が滴る。 理由を聞くと、「むかつく顔が笑ってたから」と笑顔で言った。 面白い娘だな。 そう思った。 「うー。調子に乗ってごめんなさい……。おろしてくれてありがとう……」 結局、引っ掛かった葉留佳君をおろしてあげることになった。リーダーが可哀そうだし、と言うので仕方がなくだが。まあ、謙吾少年と真人少年のツイン筋肉を駆使した救出劇は見物だったので許してやる。ツイン筋肉の熱を一身に浴びた葉留佳君は一時期脱水症状のようになってしまったので、これで罰ゲームも十分だろう。ぶっ飛んでもくれたしな。 ちなみに自転車は美魚君とクドリャフカ君が二人で使っている。電動アシスト付きということもあり、なんとか集団のペースについてきてはいる。んしょんしょ、と後ろに美魚君を乗せて漕ぐクドリャフカ君萌えー。 と言うわけで、色々なトラブルがありつつも、なんとか観測スポットへと到着した。理樹君はどこでこんな場所を知ったのだろうか。 山頂に佇む街を見下ろす白い展望台。少し苔がついている。長い年月この場所に居た証拠だ。その横に幾つかベンチがあったので、そこに腰を落ち着ける。皆は展望台に登っている。 標高が高い所為か少し涼しい。火照った体がゆっくりと冷やされていくのが分かる。うん、気持ちのいい場所だ。 目的自体は日食観測なのだが、目的の場所に着いたということだけで少し満足してしまう。隣に座る葉留佳君はちょっとばかしゲッソリしていて、それどころでは無いようだがな。理樹君に渡されたタオルを被せてやる。あざーっす、と元気の無い感謝の言葉が返ってきた。 「つーか、なんで姉御は汗かいてないの?」 「アイドルがうんちをするか?」 「しない」 「それと一緒だ」 「意味が分からない」 「もう少し大人になったら分るさ」 「そんなもん?」 「そんなもん」 空を見上げる。日食が始まるまで、もうそろそろ。山を登ったからか、雲が近く見えた。手を伸ばしたら届くかもしれない。そんな事無理なのに。それでも、私は手を伸ばしてみた。やっぱり届かない。グッと拳を握る。掴めるはずのない雲を掴んで握りつぶす。感触は無い。馬鹿らしくなって、手を下した。 「何やってんの?」 「いや、何でもない」 「ふーん」 私の動きを真似するように葉留佳君が空に手を伸ばす。 「こうやったらさ、なんか、太陽に手が届きそうじゃない?」 「太陽?」 「うん」 「無理だろう」 「姉御もさっき太陽握りつぶそうとしたんでしょ?」 「違う」 私は所詮雲止まりだよ。口には出さずに、もう一度手を伸ばす。途方も無く遠い距離から光を放つ太陽。その光を月が遮り日食を起こす。邪魔もの。夜の闇の中、太陽に光を与えて貰っているというのに。恩を仇で返すとはこのことだ。 「あ」 「おお」 手を伸ばした先で、ゆっくりと太陽が欠けていく。本当にゆっくり。その形を変えていく。 「唯ねえ」 「そう呼ぶなって言っただろう」 「変われた?」 唐突な質問。いや、結局私たちをつなぐものは互いの相似性なんだろう。 死んだ目をした美少女は、まだここにいる。 「……あんまり」 「私も。環境とか、関係とか、そういうのは変わったよ。でも、結局自分は変わらないよ」 「そんなもんだろう」 「そう?」 「笑えてるだろう?」 「顔はね」 「それで充分じゃないか。他者との関係性で自己を確立するというのならば、他者から見た自分こそが自己そのものなんだよ」 「言ってる意味が分かんない」 「どだい無理な話だったんだよ。笑顔を見せれば皆が喜ぶ。それでいいじゃないか」 「そう?」 「そう。それにそっちの方が簡単だろ」 「うん。そうだね」 にっこりと微笑む。死んだ目をした美少女はもういない。 「二人とも! 折角なんだしこっちに来なよ!」 理樹君の声。その後騒がしい馬鹿共の声。展望台の上から聞こえる。太陽みたいな連中だ。 「リーダーがお呼びだ」 「うぃっす」 一緒にいさせてもらってるんだから、せめてその光を遮らないようにしないとな。 そんなことを思いながら、展望台を登り、日食に夢中な小毬君のおっぱいを後ろから揉んだ。 [No.290] 2009/07/25(Sat) 02:42:42 |
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