![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
モニター越しの星空を、ぼんやりと眺めていた。 照明を落とした部屋の中、目の前をしゃぼん玉が通り過ぎていく。 視線を目の前の同僚へと戻すと、大の男が涙まで浮かべて唇を震わせていた。 あぁ、錯乱しちゃって。情けないなあ。落ち着いて少し考えればまだできることはあるのに。 計器をチェックして、破損箇所が分かれば何とか修理くらい……いや、それはもう試したんだったか。そうか、私も錯乱してるんだな。いや、単純に思考能力が低下してるだけ、かな。 ああ、うまくいかないなぁ。いつも、いいところでつまづいてばかりだ。 31時間前。ノーヴィ・バイコヌールとの通信が途絶。火星の周回軌道まであと95時間というところで私たちは宇宙の迷子になった。 原因、というか犯人はすぐに判明した。3人いた乗員の1人が血走った目で銃を向けてきたから。少し手間取りはしたけれど、速やかに犯人は逮捕され、即決裁判で追放刑となった。 もう少し取調べをしておくべきだったと気付かされたのはその1時間後。その時にはすでに船内の環境は地球並みから月並みの大気濃度へと駆け足で進行中だった。 2人がかりで応急処置をし、危ういところでルナフォーミングは中断させたものの、こぼれたミルク同様、既に放出してしまった空気は戻らない。 火星に行く。 そう告げたときの彼の表情は、実はよく憶えていない。その時にはもう会えば喧嘩するようになっていて、その言葉も部屋を出て行く彼の背中に投げたものだったから。 好きあって結婚したはずなのに、その間の思い出は、ほとんどが言い争いで塗りつぶされている。結婚と離婚を経験して、ようやくお父さんとお母さんのことが少しだけ分かった気がした。 彼が技師として最後まで私をサポートしてくれていたのも両親と同じ。違うのは私たちの間に子供がいないことだ。 通信機は物理的に破壊されていて手の施しようがなかった。そろそろ基地が異変に気付く頃だろうか。時計は見えているのに時間の判断が曖昧になっている。 ああ、スプートニクなんて名前、絶対に反対すればよかった。グラフコスモスなんて大昔の亡霊なのに。 本当に、どうしてうまくいかないんだろう。 ヴェルカとストレルカには本当にいろいろと助けてもらった。私の姉妹としてずっと支えてくれていた。 でも随分と無理をさせてしまった。ヴェルカが死んだあと、私の甘えはストレルカに集中した。満足に走れなくなって、私がほとんどの世話をするようになっても、甘えるのは私のほうだった。だから、アカデミーに入ってからもストレルカを生きさせてしまった。 ストレルカが死んでから私は犬を飼わなくなった。 しゃぼん玉が船内を漂っている。薄暗い照明の下、その朱さは一際鮮やかに映る。 ぎし、ぎし、と同僚の手袋がこすれて軋む。恐ろしい形相になった同僚の鼻先が、息がかかるほど近くにある。 一人になって、少しだけ長く生きのびて。彼はどうするつもりなのだろう。 思い出すのは、もうひとつの故郷。 それは、少女時代のほんの数年の思い出。 もしも。意味はないけれど、もしも。 あの時、もっと欲張っていたら。私の選ぶ道は違っていただろうか。 本当に、意味はないけれど。 (わ、ふ…) あの頃の口癖を唇だけで呟いてみた。もうため息も出せないから。 両手の指先が空しく宙を泳ぐ。同僚の腹に突き立てた柄にはもう届かない。 ぽろり、ぽろぽろと溢れるように。朱いしゃぼん玉たくさん。こぼれ、ぷかぷかと漂う。 目の前にいる同僚の目からまた涙の粒がひとつ。 こういうのも鬼の目に泪、と言うのだろうか。 みしり、と喉が軋む。 ああ、お母さん、やっぱり私はライカでした。 噛みあわない、いびつな歯車でした。 いつか、このスプートニクも拾われて、この真実が明らかになってしまうんだろうか。かっこ悪いなあ。 できそこないの 巻き毛ちゃん。 いびつにまわったはぐるまは さいごのときを いま きざんだ [No.293] 2009/07/25(Sat) 22:28:38 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。