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No.30へ返信

all 第29回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/03/19(Thu) 22:35:37 [No.22]
猫? 愛? - ひみつー@5,599byte - 2009/03/21(Sat) 00:28:45 [No.36]
シーメ=キッター (Seemue-Queitier) - 主催 - 2009/03/21(Sat) 00:27:05 [No.35]
ハッピーメーカー - ひみつ@16188 byte - 2009/03/21(Sat) 00:13:00 [No.34]
愛の円環 - ひみつ@12160byte - 2009/03/21(Sat) 00:00:49 [No.33]
愛・妹・ミー・マイン - ひみつ@2585 byte - 2009/03/20(Fri) 22:29:15 [No.32]
愛はある、金がねえ - ひみつ@2802 byte - 2009/03/20(Fri) 19:45:11 [No.31]
変態少女―サディスティックガール─ - ひみつ@15148 byte - 2009/03/20(Fri) 19:35:40 [No.30]
[削除] - - 2009/03/20(Fri) 17:15:10 [No.29]
木漏れ日のチャペルで君と誓う - ひみつ6987 byte - 2009/03/20(Fri) 12:52:28 [No.28]
馬鹿でもいいじゃない - ひみつ@4585byte - 2009/03/20(Fri) 11:52:28 [No.27]
終線上のアガポルニス - ひみつ@20340byte - 2009/03/20(Fri) 10:01:52 [No.26]
正しい想いの伝え方 - ひみつ@17213byte - 2009/03/20(Fri) 01:03:21 [No.25]
幻想への恋慕 - ひみつ@11514 byte - 2009/03/19(Thu) 23:01:01 [No.24]


変態少女―サディスティックガール─ (No.22 への返信) - ひみつ@15148 byte

「この頃、人の羞恥に歪む顔や悔しそうな表情を見るのが、なにより楽しみになってきました」
 私が中庭にあるベンチを修理していると、ふらりとやってきたみおちんが、そんなことをのたまった。澄ました顔で人が修理しているベンチに腰掛けたみおちんのことを眺める。いや、意味がわからないですヨ。開口一番なにをカミングアウトしてやがりますか、この腐女子は。眉根を寄せて言葉の続きを待つけど、マイフレンズみおきちはなにもいってこない。唐突にゴチンっという鈍い音が聴こえてきた。見てみると黒光りするトンカチの先端が、もう君を離さないだって愛してるんだ! とかいいそうなぐらい私の親指にひっついていた。もちろん、はるちんズ親指はトンカチの想いに全身を赤らめて応えている。
「ふぎゃーーー!! 痛い痛い痛いですヨー!」
「何をやってるんですか? 見せてください」
 みおちんは私の手を優しく取ると、赤く腫上がった親指をじっと見てくれる。おお、はるちん、ちょっとウルっときちゃったぞ。みおっちがいくら新たな性癖に開眼しても、そこはそれ私達の友情に変わりないのだ。とか思っていたら親友と書いてマイベストフレンズと読むみおちんがおもむろに、親指をギュッと握ってきた。
「ちょ、いた、痛っ、みおちん痛い!」
「痛いですか? すみません」
 謝ってくるけれど、その顔はうっとりしていたりする。オマケに小さく「うふふ」とか笑う声も聞こえてきたりした。もはや突っ込みどころが満載過ぎて、はるちんドン引きですヨ。というかボケ担当の私にツッコませるな。本来は、みおちんがツッコミ担当なのに。これじゃぁ私の魅力が半減ですヨ。はっ、もしかしてそれこそがみおちんの狙い!?
「そんなややこしいことをするほど暇ではありません」
「ちょ! 今のモノローグ!?」
「細かいことを気にしてはいけません」
 みおちんは、そういうとベンチから立ち上がった。その様子がいつものみおきちっぽくて少なからずほっとする。
「それで結局、美魚っちは何をしにきたの?」
「いえ、別に何も。ああ、そうだ。恭介さん達がやっている遊びありますよね?」
「ああ、バトルなんちゃらっていうの?」
「はい……楽しみですね」
「何が?」
「さぁ、何でしょう?」
 そういって薄く微笑むみおきち。その笑みは恍惚としていて凄く魅惑的だった。背筋がゾクっとした。これは本当にあのみおちんなのだろうか。みおちんは「うふ、うふふ」とか笑いながら歩き出す。私はその背中を呆然と見送っていた。あの、嫌な予感しかしないんですけど。







 そして予感は的中したわけで。目の前には仰向けに横たわった姉御がいた。制服の上からでもわかるボリュームのある胸が重そうに横へと垂れている。今、そこには美魚ちんの足が置かれている。黒いハイソックスを履いた小さな足が、胸の上を艶かしく動いていた。姉御が小さくうめき声を上げる。めーでーめーでーみおきち。その……この構図は、ちょっとお子様に見せられませんヨ? 言った所で凄く嬉しそうに頬を赤らめている美魚っちには届きそうもなかった。
「み、美魚君。これぐらいにしないか? そろそろお姉さんも見過ごせないぞ」
「何を言ってるんですか? 来ヶ谷さんはわたしに負けたんですよ。負け犬が何を偉そうに」
 そういって胸をぐりぐり。その手には、不釣合いなほど大きいバズーカ砲が握られていた。「さすがっす! 西園さん!」美魚様命というタスキをかけた科学部部隊の面々が歓声を上げる。彼らは、ここから遥か遠くでみおきちのことを眺めていた。ずっと前、美魚ちんから「あなた達に近づかれると汚染された気分になります」と言われてから近づかないように心がけているらしかった。科学部部隊は、美魚ちんの勇姿にやいのやいのと騒ぎ立てる。遠くから。傍目から見て、空し過ぎる。美魚ちんは姉御の胸を弄びながらうんざりしたような顔をした。美魚ちんの隣にSPよろしく仁王立ちしていた謙吾くんが、きっとそちらを睨み付けた。科学部部隊はびくっと肩を震わせて黙りこんだ。
「ああ、どうも」
「これぐらいお安い御用だ!」
 謙吾くんはきらりと白い歯を輝かせて親指をぐっと上げる。いつも来ているジャンパがその動きに合わせて揺れる。そこでジャンパの胸のところについたロゴが変わっていること気づいた。前は英語でリトルバスターズと書かれていたのに、今は何故か英語でミオッチクイーンズと書かれていた。謙吾くん、それはいくらなんでも語呂が悪すぎですヨ。
「さぁ、西園。他に何か俺にしてほしいことはないか!?」
「そうですね。ではわたしの半径1m以内に近づかないで下さい。あなたの胴着、臭うんです」
 目を細めてガン見しながら謙吾くんに、そう告げるみおきち。謙吾くんは、奇声を上げながらもだえていた。たしかにあのみおちんの目は怖い。普段、見られることが多い私がいうんだから間違いない。でも、謙吾くんは何故か少しだけ嬉しそうだった。ダメだ、この人。
「くっ! あ、美魚君。そこは!?」
 その間も胸を弄くられていた姉御が、堪らず声を上げた。謙吾くんの様子に満足そうな顔をしていたみおちんは、そちらに顔を向けると嗜虐的な微笑みを見せた。
「そこは、なんですか? はっきり仰ってくれないとわかりませんよ。あ、もっと来ヶ谷さんに寄って下さいますか?」
 頬を恍惚と蕩けさせながらみおきちは、四つん這いになっている椅子の頭を叩く。ちなみに椅子の名前は井ノ原真人くんという。真人くんこと椅子は「この筋肉は西園のためだけに!」とか訳のわからないことをのたまいながら来ヶ谷さんに近づいていく。真人くん、今のあなたは凄く惨めですヨ?
「こんなに大きくていやらしい胸をして」
「美魚君。いい加減にしないとお姉さんも怒るぞ!」
「それは嘘です。わたしにはわかります。いつも一段高い位置で皆のことを見てますが、こうしてほしかったんですよね? はい、来ヶ谷さんの望みはわたしが叶えて差し上げます。激しく──苛めてあげますね」
「ああ……!?」
 一切大きい声が姉御の口から漏れた。いや、だから、そのエロすぎですヨ? だけどマイベストフレンズことみおきちは不満そうに口をへの字に曲げていた。そのまま胸の上に置いた足に力を入れていく。制服の上からでもわかるぐらい姉御の胸が変形していく。はだけた胸元からポロリと出てこないか少しだけ心配だった。苦しそうな姉御の艶かしい声が小さく漏れる。
「誰が満足していいといいました? まだご自分の立場というものがわかってないようですね。これはたっぷりと躾けてあげないといけませんね。うふふ」
 そういって嗜虐的に哂うみおきちこと、私の親友。いつから彼女は変わってしまったのだろう。ああ、あの冷たくも真面目天然で腐女子な美魚ちんは何処。思わず遠い目で空を見ている間も美魚ちんは姉御の胸にぐりぐりしていた。姉御の手が美魚ちんから逃げようと、何かを掴もうとする。でも近くには何もない。その時、「西園さん!}という叫び声が聴こえてきた。そちらには真剣な表情をした理樹くんがいた。ああ、やっとまともそうな人が出てきた。
「直枝さん……なんですか?」
「西園さん、もうやめるんだ!」
「あなたに意見される覚えはありませんが?」
「そういうことじゃない。こんなこと……こんなこと、苛めるなら僕をいじめてよ!」
 ええー。口から瘴気だかエクトプラズムだが、なんかそんな感じのものがでた気がする。そんな私の耳に「ちょっと待ったぁ!」という大きな声が聞こえてきた。そこにいるのはニヒルに笑っている恭介さん。もう諦めたいけど、一縷の望みを期待してしまうのは人間として仕方ない。はるちんは、よわい子。
「理樹。そいつはダメだぜ。何故なら西園にいじめて貰うのはオレだからだ!」
「おかしいよ恭介! 僕が一番、西園さんにいじめられたいのに!」
「へっ、受けることしか考えてないとは理樹は甘ちゃんだな。オレは違うぜ。西園、おまえの足の指を舐めさせてくれ!」
「それは卑怯だよ! そんなの僕だってしたいよ! 西園さん、僕に舐めさせてくれるよね! 物凄く丁寧に綺麗にするよ僕」
「おいおい、おまえのほうが卑怯だろう。人の意見に乗っかるなよ。理樹おまえには、自分自身から湧き上がる熱いものはないのかい!?」
 恭介さんが、理樹くんの胸元に拳を軽くつけた。理樹くんは、恭介さんとその拳を何度か見比べた後、こくりと深く頷く。それはとても真剣な表情でちょっとだけかっこいかなって思った。でも会話の内容が内容なので、もう誰か助けて。
「わかったよ恭介。ありがとう。僕の内にある熱いものに気づかせてくれて」
「オレは信じてたぜ。理樹、おまえなら出来るってな」
「うん……西園さん」
 清清しいほどの笑顔でみおちんのことを見詰める。一方、見詰められたみおきちはとても嫌そうだった。私も嫌だ。
「西園さん、たしかウニ好きだったよね?」
「……ええ、まぁ」
「実は僕、ウニあんまり好きじゃないんだ」
「そうですか。直枝さんまでわたしの大切な部分を踏み荒らすつもりなんですね?」
「そうじゃない。僕はたしかにウニ好きじゃない。けど……西園さんが一度、咀嚼したウニなら食べられるんだ! いや、むしろ食べさせて!」
 うわー。自分の頬が引きつるのを感じた。理樹くん、さすがにそれは、そのありませんヨ? ドン引きしている私の横で恭介さんだけがテンション高く「さすがは理樹だぜ!」とか言って嬉しそうだった。もうやだ。この人たち。
「どちらとも嫌です。あなた達はご自分の言っていることがわかってますか? 恥というものを知ってください」
 二人の変態の飽くなき妄想をみおちんはそう斬って捨てる。けど、何か閃いたのか「あ」と短く声を上げた。姉御の胸に乗せていた足を離すと、黒いハイソックスの裾を持ってクスリと笑う。
「そういえば足を動かして少し蒸れてしまいました」
 そういうと黒いハイソックスを脱いでいく。美魚ちんの肉付きが決していいとはいえないけれど、白くきめ細かい綺麗な足が露になっていく。ゆっくりと時間をかけてじらすように靴下を脱ぎ終わると、みおちんはもう片方へと手をかける。その瞬間、普段見えることのないみおきちの太股がちらりと見えた。白い足が艶かしく蠢く。その様子にドキリと胸が高鳴った。まってまって。はるちんはノーマル。おーけーおーけー、はるちんは正常です。さっきのはきっと気のせいだ。そういうことにしておこう。そうこうしている間に美魚ちんは、ニコリと理樹くんと恭介さんに向けて微笑むと、そちらに脱いだばかりの靴下を投げた。訓練された軍用犬よろしく二人は駆け出した。「西園の蒸れた靴下!」とか「西園さんの西園さんの!」とか興奮した声が聞こえてきた。見れば恭介さんは鼻にソックスを押し付けていた。理樹くんに至っては口に含んでいる。しかも二人とも廊下に這いつくばっているものだから、もう危ない人にしか見えなかった。そんな二人をみおちんは蔑むように見る。口元は三日月形に開き、大変楽しそうだった。
「いい匂いですか? そうですか。人間として正常な嗅覚すら持ち合わせていないんですね。……この変態」
 二人は身悶えする。その顔はまるで生涯、付き従う人を見つけたかのように満ち足りていて幸せそうだった。私は校舎の窓によって四角く切り取られた空を見る。どこまでも青くて麗らかで、穏やかだった。私は歩き出す。そうだ。鈴ちゃんを探そう。猫と戯れている鈴ちゃんの姿が脳裏に過ぎる。
「鈴ちゃん、へーーーるーーーーぷ!」
 私は走り出す。目の端にはちょっとだけ涙が浮かんでいたりもする。泣いたっていいじゃない。だってはるちん、女の子なんだもの。










 それからも美魚ちん勢力は衰えることを知らなかった。クド公。小毬ちゃん。どんどんとみおきちの軍門へと下っていった。要するに皆、みおちんにいじめてほしがった。最後の砦だと思っていた鈴ちゃんすらも今では「美魚、もっといたい事して」とか言う始末。まさにみおちんはやりたい放題だった。嬉しそうに見下しながら、皆をいじめているみおちんは本当に楽しそうだった。でも……でもそんなのダメだ。こんなのは私のベストフレンズみおきちじゃないやい! みおきちはもっと真面目で冷たい子なんだい! 私は決意した。みおちんの目を覚まさせてやる。
「ああ、三枝さん、こんなところにいたんですか。探しましたよ」
 ちょうどよくみおちんが目の前に通りかかった。私は口をニヤリと吊り上げる。その言葉、そっくりお返ししますヨ。みおちんは首を傾げてみせる。周りには誰もいない。私は脈絡なくズビシっと指を突きつけた。
「美魚っち、バトルを申し込みますヨ!」
「ああ、三枝さんから言い出してくれるなんて、なんてわたしは運がいいんでしょう」
 などと余裕たっぷりなみおきち。ふん、そういってられるのも今の内ですヨ。たしかに科学部謹製の武器は凶悪だけど、美魚っち自身の能力はそれほど高くないことを私は知ってるふっふっふー。はるちんの分析能力を甘くみたのが、みおきち、君の敗因ですヨ。美魚ちんはすぐに奴隷3号(恭介さん)を電話で呼び出す。すぐに私達の周りにわらわらと人だかりが出来始めた。
「では、三枝さん」
「いつでもおーけーだよ!」
 そうしてバトルの火蓋が切って落とされた。予想通りというように美魚っちの周りには科学部部隊謹製の武器が投げ込まれる。キョロキョロしながらみおきちは使う武器を品定めしていた。そうそれこそが勝てる要素だ。このバトルのルール上、女子は落ちているものから好きなやつを取っていいことになっている。ということは私も慣れ親しんだ武器を使えば勝機はある。私は自分の周りに落ちているくだらないものの選別に入る。
「って、ちょっとまってーーーーーーーーーーーーー!!」
 間髪いれずに叫び声が口から吐き出された。足下に広がる緑、緑、緑。何故か私の周りに投げ込まれるものは緑黄色野菜の代表、きゅうりだった。きゅうりの飛んできたらしい方向を見る。そこにはリトルバスターズ改め、ミオッチクイーンズの面々がいた。ていうかなんで佳奈多までいますか。ちょ、申し訳なさそうにしながら頬を赤く染めないで。そんなお姉ちゃんはやだよ。その横には「ええ、そうよ。バトルに参加しているわけでもないのに西園さんに従っているわよ。滑稽ね。滑稽でしょ。笑いなさいよ。あーっはっはっは」とか捲くし立てている人がいた。誰だ、あんた。
「武器、取らないんですか?」
 美魚ちんが、そう尋ねてくる。その口元は緩みきっている。明らかに美魚ちんの差し金だった。ちくしょう、この腹黒サディストめ。仕方なく落ちているきゅうりの中から丈夫そうなやつを取る。それを見てみおちんが頬に手を添えながら、ぽっと顔を赤らめた。 
「太くて長いのが、お好みなんですね?」
「誤解を招く様なこと言うなー!」
 叫んでみたけれどみおきちはしれっと無視しやがった。変わりというように落ちていた武器の中の一つを手に取る。そしてそれを一度、軽くふる。ブオオンというどこぞのSF映画じみた音が聞こえてきた。ライトセイバー。あんなものにきゅうりでどうしろと?
「……えいっ」
「いたっ」
 絶望している間に、近づいてきていたみおちんにきゅうりを持った手を叩かれていた。きゅうりがポロリと手から零れ落ちる。私は一歩後ずさる。あんなものでも一応、武器だったわけだからなくなると不安だった。一縷の望みが絶たれたようなものだ。きゅうりに望みを託すのも、我ながらとても情けないけど。その隙を対面の腹黒っ娘が逃すはずもなく、美魚ちんはとことこと歩きながら切りかかってきた。
「かたじけのうござる。かたじけのうござる」
「ちょ、それ新聞紙ブレードでのルール!」
 


 そうしてバトルは私の惨敗という結果に終わった。どう考えても勝てるわけがなかったけど。美魚ちんは、うっとりと嬉しそうに微笑むと私がバトル中に落としたきゅうりを手に取った。
「さて、それではいきましょうか?」
「え? どこへ?」
「うふふ、野暮なこと聞かないで下さい」
 頬がピキリという音が立てて固まった。私はみおきちに背を向けると、猛然とダッシュした。けれどすぐにミオッチクイーンズの面々が、立ちはだかった。逃げちゃダメだよ、葉留佳さん。葉留佳、観念しろ。はるちゃん、一緒に幸せになろう〜。口々に親しかった面々が笑顔でそういってくる。なにこれ、ホラー?
「美魚ちん、趣向が変わってる! 男×男がよかったんじゃないの。それは姉御の範疇ですヨ!」
「別に変わってはいませんよ。ただ三枝さんこそ、わたしの望んだものを持っている人なんです。うふふ、最初に話しかけて複線を張った甲斐がありました」
「なにそれ、どういう意味!?」
「わたしはおいしいものは最後に食べる主義なんです。あなたはわたしと対極に位置する性癖を持った人なんです。うふふ、そんな人がどんな表情を浮かべるか今から楽しみです」
 そういうと美魚ちんは、手に持ったきゅうりをうっとりと眺める。嫌な予感しかしなかった。さぁっと血の気が引いていく。ギギギと音がしそうなぐらいカクカクとした動きできゅうりを指差す。
「そ、そのきゅうり、どうするの?」
「え? ああ、決まってるじゃないですか。三枝さんは、突っ込むより突っ込まれるほうが好きなんですよね?」
「そんなこと言ってないですヨ!」
「え、言いましたよ。冒頭で」
「ちょ、それツッコミ違いー! 後、冒頭とかいうなー! ていうかそもそもあれモノローグー!」
 絶叫が辺りに空しく木霊する。その声に嗜虐性を掻き立てられたのか、みおきちはうっとりと恍惚とした表情で私の手を握った。
「うふふ、怖がらなくても大丈夫ですよ」
「いーやー!」
「そんなこと言わないで下さい。いくらわたしといえども、そこまで嫌がられると躊躇してしまいます」
「じゃぁやめよう。すぐやめよう!?」
「躊躇してしまいますから、そうですね。ソフトに行くことにしましょう」
「なんでそうなるのー!?」
「うふふ、さぁそれでは行きましょう」
 みおちんはそういうとニコリと穏やかに微笑んだ。その笑顔がいつも通りで、一瞬さっきまでの悪い夢だったんだと思うけど、みおきちに手にしっかりと握られたきゅうりが雄弁に現実だと語っていた。美魚ちんが嗜虐性に蕩けきった表情で、わたしの頬を撫でる。そのままゆっくりと桜色に色づいた唇を振るわせた。

「優しくいじめてあげますね……葉留佳」

 誰かタスケテ。
 


[No.30] 2009/03/20(Fri) 19:35:40

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