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そういえば白熊って見た事が無いな。 鈴はそんな事を考えていた。 湯船の淵に顎を乗せて理樹がだれている。 微温湯の中でしばらく動く気配もない。 「動物園」 「……うぃ」 顔をこちらに向けようともしない。 瞼は閉じたままで、それでも返事があったので鈴は満足した。 「行きたい」 白熊を見て虎を見てゴリラを見て出来ればカンガルーも。 「ゾウさんならいるよ」 「もういらんわ、そんなの」 「酷い」 ゆっくりと浮上したゾウさんは、ゆっくりと潜水していった。 迂闊にも可愛いと思えてしまった事が鈴には屈辱だった。 見慣れたものは要らない。 ここには見慣れたものしかない。 見慣れたものでも良いのだろうか。 見慣れないものは少し怖い。 とはいえ、退屈だ。 例えばここで手を取り合い浴室を飛び出すと、そこはあるいは綿菓子の花園かもしれない。 見渡す限り綿菓子の地平が広がっていて、歩き難いったらない。 だから転がって進む。痛くない。楽しい。 お腹が空いたので一口含むと喉が渇いた。 何処かにジュースの出る蛇口はないかと虹色の太陽に尋ねてみると、トイレはあちらですと返ってきた。仕方がないのでそちらへ向かうと理樹が笑っていて、全部ごっくんしてっと腐った発言をしたので、鈴は殴った。 「痛いっ! なに、なんなの、鈴?」 「うん、ちょっと妄想してただけだ」 「唐突だね」 「妄想は何時だって唐突だ」 「そんな行きたいの?」 またゆっくり浮上してくるゾウさんを無視して、鈴はかぶりを振った。 「別に」 「嘘。声が拗ねてる」 「理樹には分かるのか」 「一応、分かってるつもり」 そこでようやく理樹がこちらを向いたので、思い切り唇を尖らせた。 「こっち見んな」 「可愛い」 「そんなの知ってる」 何度も言われたから。 しかし、全然飽きない自分に鈴は気付いた。 むしろもっと言え。 そんな事、口には出来ないけれど。 「遊びに行きたい」 「動物園に?」 「綿菓子の花園」 「何処?」 「知らない」 「知らないところへ行きたいなんて、詩的だね」 そう表現されると、無性に面倒くさいもののように思えてしまった。 よくよく考えてみれば、知らないところへなんて行きたくない。 なんだか、何もかもが面倒くさくなった。 「手、繋ぎたい」 「唐突だね」 「欲求は何時だって唐突だ」 「何処か、遊びに行こうか」 「何処まで行ける?」 「二人分合わせればジュースくらいは買えると思うよ」 「理樹は嘘吐きだ」 「嘘じゃない。部屋中探せば百円玉くらい落ちてるよ、きっと」 財布を落とした大馬鹿者の戯言を鈴は溜息で向かえた。 「落としたんじゃない。飛んでいったんだ」 「青い鳥」 「それは鈴だよ」 微妙に不快な喩えだったが、どうせ深い意味はないのだろう。 「で、どうする?」 手を繋いで、二人で歩く。 ゆっくりとした足取りで。 遠くは無い、見慣れた場所へと向かって。 それも良いかもしれないが、そうでなくても良いやと鈴は納得した。 倒れるようにして湯船に飛び込む。 湯が溢れて排水溝へと流れていった。 「……ゾウさん、見たくなった」 「どうぞ御自由に。鈴限定で、入場料はタダだよ」 「虐待してやる」 「猫いじめたら怒るくせに」 「ゾウさんはにゃんこと違う」 「同じように可愛がってあげよーよ」 軽く、唇を合わせる。 愛はあるが金が無い、そんなとある休日の一コマ。 [No.31] 2009/03/20(Fri) 19:45:11 |
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