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「萌えって良いものだよね!萌え一つで人類ハッピー!」 葉留佳君が壊れた。 夏休みでの事だった。私達はバス事故に巻き込まれて入院し暇な夏休みを送っていた。この暑さの中に身を投げ出し、海だ山だ補習だ覗きだ引き篭もりだなんだと休暇を謳歌する気満々だった高二には辛すぎる状況だった。そんな時、地獄の休みをせめて少しでも楽しく過ごして欲しいと理樹君や鈴君が漫画やゲームを持ってきてくれたのだ。楽しい事が大好きな葉留佳君はそれらを物凄い勢いで消化していった。理樹君や鈴君がもって来てくれた漫画やゲームのほとんどが恭介氏の部屋から持ち出された物だったと言う事に気がつかないまま。 私はそれを見て少しは静かになるかと安心した。けれどそれが間違いだったち気がつくのが少し遅かったのを、今では微妙な心境で楽しんでいる。 「このキャラはさー…ツンデレって感じなんだけど、実は純情な良い子って言うのが良いと思うんですヨ」 「いえ、この子は過去に妹を主人公に殺害されており、それから主人公を憎んでいるのです。だからヤンデレという分類になるでしょう」 「ふむふむ。ヤンデレって純情とも取れる所が奥が深いですネ」 「葉留佳さんは筋が良いのですぐに嫁が出来ますよ」 壊れた葉留佳君から自分に似た匂いを感じ取ったのかどうかは知らないし知りたくも無いが、美魚君が彼女に薄い本や漫画を大量に渡していた。葉留佳君は薄い本をまだ理解できる境地に居なかったのか、漫画だけ受け取っていたのを見て心から安心した。 私もそういう物に興味が無いとは言わない。だがやはり漫画ではなくリアルで体験してみたいと思っている。それを私にしつこく漫画やゲームを勧めてくる葉留佳君に伝えると、鬼の様な顔をして噛み付いてきた。比喩的な意味ではなく、文字通りの意味で。 「三次元なんて無意味だよ!姉御がそんな事言うなんて思わなかった!」 退院後、彼女は私達の事を避け美魚君とずっと過ごす様になってしまった。 「葉留佳がクラスでも漫画を読んでいて…みんな葉留佳の事を避けるようになっちゃって…」 佳奈多君から相談を受けたのは退院後の登校日だった。夏休みに登校日があるなんて色々とおかしくないか気が緩まないためにあるらしいが結局登校日でもぐだぐだな奴はぐだぐだなんだぞ、とか心の中で鬱憤をぶちまけている所に佳奈多君から話しかけられたのだ。相談の内容はまあ察する通り葉留佳君のことだった。私は正直葉留佳君がどうなろうとどうでも良かったし、対応の仕方も変えるつもりはなかったので相談相手になるのは面倒なだけだった。けれど彼女の必死な顔を見ると抗う気力がどこかに行ってしまった。全く、いざと言う時に使えない奴だと思う。 まず、葉留佳君をどうにかしなければいけないのだが。それについては打つ手等無い。断言しよう、無い。少なくとも私も佳奈多君も思いつかないし、恭介氏はまだ入院しているし。リアルの世界から逃げてしまった葉留佳君をこちらに戻す事ばかりを考えている佳奈多君には悪いが、私はこのままでも良いと思う。どんなに趣味が変わっても葉留佳君は葉留佳君だろう。けれど佳奈多君は私の意見を生意気にも一蹴してこう言い放った。 「オタクなんて…葉留佳がオタクなんて駄目ですっ!棗先輩はどうでも良いけど、葉留佳は駄目っ!」 まあ嫌がるのもわからなくも無いのだが。 その後、佳奈多君は葉留佳君に泣きついた。頼むから元に戻ってくれと。その為なら私は何でもすると。何でもするって事は少しけしからん事をしても良いのだろうかそうだそうに違いないと桃色の想像をしてたら、葉留佳君も涙ながらにこう言い返した。 「三次元なんて…三次元なんて良い事無いじゃん!殴られたりするだけじゃん!もう放っておいてよ!」 何の話なのだろうか。漫画の話かも知れないな。漫画に感情移入する人も少なくないと聞くし、葉留佳君もその類なのだろう。佳奈多君も馬鹿を見る目をしているのだろうとちらりと顔を覗き込むと、なんとさっきよりも泣いていた。何故だ。しかも小声で 「ごめんね…葉留佳ごめんね…私の所為で…」 と言っているのがとても怖かった。とりあえず逃げ出した。 葉留佳君が漫画にはまってからもう一週間が経とうとしている。相変わらず漫画やゲーム、パソコンに熱を上げているが私たちへの反応は変わらない。つまり平和なのだ。平和が一番だと最近やっと気がついた私は、今日もゆったりとお茶を楽しみつつ姉妹の泣きながらのケンカを眺める。なにやら家族の話まで飛び出ており、親戚を丸ごと飲み込んでの戦争になっているらしく彼女たちの語尾も荒い。意味不明な単語が飛び出てくるのも面白い。最近では理樹君も加わったりして大きな戦争になってきた。 今日も、意外と平和だった。 [No.312] 2009/08/07(Fri) 22:42:11 |
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