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「そういえばこんな話知ってますか?」 葉留佳さんがずいと顔を近づけてくる。 「なんの話なのですか?」 クドが興味津津と言わんばかりに聞く体勢をとる。僕もとりあえず興味があるので耳を傾けてみる。 「ここが廃墟になった話」 「わふー…私はそういう話は苦手なのです…」 まぁまぁいいから、とクドの話も聞かずに自分の話をし始める。 「今は見る影もないけど、昔はかなり外見もよくて中もしっかりしてた病院だったんですヨ」 それなりの雰囲気を纏って葉留佳さんが話し始める。クドは僕の服の袖を握って震えている。 「けど事故が起こりましてね、妊婦の中絶の手術に失敗してしまったらしいんですよ」 葉留佳さんは「その患者が住んでいた病室がここだったらしいです」と言って個室のドアを指差した。 「その人たちはどうなったの?」 「母子ともども死んでしまったらしいんですネ、今じゃ考えられない話ですけど」 それで、と葉留佳さんは次の句を継ぎ始める。 「それから変な噂が起こったのですよ、死んだお母さんが霊安室から出てくるのを見た人がいるって、そのせいで転院する人は続出」 聞いているこっちはもう真剣に怖い。僕だってもう、足ががくがくしても仕方ないぐらいのレベルまで来ている。クドも同じなのだろう、手が小刻みに震えている。 「そして不審に思った看護師さんがその噂を確かめに行ったらしいんですよ」 「そ、それでどうなったのですか?」 「見たんだって、こう、下をうつむきながら」 と言って葉留佳さんはうらめしやーのポーズをとる。 「私の子供はどこ…?私の子供はどこ…?って霊安室から自分の部屋まで歩いていく人を」 「…ふわぁ」 クドがきゅーという擬音語を立てて倒れる。背中に床に腕をまわして倒れないように抱えてあげる。 「ありゃ、やりすぎちゃいましたかね」 そう言って葉留佳さんはクドのほっぺたをぐにぐにする。クドはほっぺがむにむにされても嫌そうな顔一つしないで気を失っている。 「起きないと理樹くんにパンツ見せちゃうぞそれでもいいのかー?」 「僕は見ないからね」 とりあえず反論しておく。見たくないわけじゃない、見たくないわけじゃないけど、今後の僕のアイデンティテーに関わる。 「ちぇ、真面目だなぁ理樹くんは」 葉留佳さんはクドのスカートをめくり始めていた。それを手で制止する。 「そんなんじゃ将来ハゲリータ星人に髪の毛焼かれてハゲにされちゃいますヨ」 「いないからそんな星人」 ちっ、っと舌打ちをして仕方なさそうに手を離した。…白かという声が聞こえた気がするが、あえてスルーした。 クドは倒れたっきり目を覚まさない。かすかな吐息が口からこぼれている。 …はぁ。 今僕たちは病院の廃墟へキモ試しをしに来ている。それというのも、前回のキモ試しで来ヶ谷さんと恭介がすっかり意気投合してしまったせいだ。 「キモ試し最高!」 恭介はこの日のために三日三晩徹夜で頑張ったらしい。さっきからランナーズハイになってて怖い。来ヶ谷さんはさすがにそこまでしなかったみたいだけど。 じゃんけんの結果、僕・クド・葉留佳さん、謙吾・小毬さん・西園さん、そして真人という三ペアになった。 真人が単独なのは単にグーパーでチョキを出したからなのは割愛しといたほうがいい気もする。しきりに「仲間なんて…ブツブツ」と言って柱の後ろですねていた。 左回りと右回りのコースに分かれていて、僕たちは左回りになった。謙吾が右回り、真人は先に左回りで行くらしい。 「まぁ俗なものしか置いてないから安心してハーレムしてこい少年」 「いやいやいや…」 クドが葉留佳さんに脅かされて逃げ回る様子が目に浮かぶ。葉留佳さんってそういう話になるとやけにSになるからなぁ…。 「前回と同じで札をとって持って帰ってくることがルールだ」 そう言って恭介は内ポケットから一枚の札を取り出した。 『(21)最高!』 と書かれていた。間違えた、と言って幾何学的な模様が描かれた札を取り出した。さっきの札は何だったんだろう。 「これがこの地図の赤い印が付いてる部屋に置いておく。部屋のどっかにあるから勝手に探してくれ」 みんなに地図が配られた。おどろおどろしいデザインの地図の中に丸印が書き込まれている。 「じゃ、ミッションスタート!」 そういった経緯でここにいるわけなんだけど、最初から問題ありまくりなのだった。 トラップは怖いし葉留佳さんがちょいちょい脅かしてくるしそのせいでクドは倒れて目を覚まさないし僕はクドを背負っていく羽目になっていたり。 この二階に着くまでにいろいろあったのだ。 おいしくない。来ヶ谷さんから見たらおいしいかもしれないがマッスルエクササイザーセカンド並みにおいしくない。 クドが軽いのが唯一の助けだった。背中に圧迫感がないのが悲しいけど。 「まぁ気楽にいきましょうヨ」 「葉留佳さんには一番言ってほしくなかったよ」 そう言って歩き出す。葉留佳さんが言ういわくつきの病室の中へ。 「そう言えばさっき言ってた話って本当なの?」 恐る恐る聞いてみる。 「ああ、あの話? 残念ながら本当だよ」 足が止まる。そう、なんだと言って病室の中を見る。てっきり葉留佳さんがついた嘘だと思ってたからその、なんだ。 「もしかして怖いんですか?」 「い、いや、そういうわけじゃ」 「もうかわいいなー理樹くんは、大丈夫ですヨ、もし幽霊が襲ってきたら私が退治してあげるからさ」 はるちん砲!と言ってかめはめ波のポーズをとる。正直な感想だが頼りない。ここはやっぱり男の子である僕がリードしなければ。 「じゃあ行くよ」 僕は意を決して病室の中へ足を踏み入れた。 病室の中は傍から見ても状態がひどかった。ベッドは足が破壊されているし、壁にはカビがびっしりと生えている。カーテンはぼろぼろに破かれていて意味を失っていた。 「この中に札があるはずなんだよね」 葉留佳さんに言われて我に帰った。そういえば恭介がそんなことを言っていた。 「うん、そうだね、早く探してここから出よう」 「やっぱり理樹くんはかわいいなー」 葉留佳さんにはやされながらも札を探しにかかる。こんな不気味なところから一刻も早く立ち去りたい。 「…」 一番怪しそうなのはベッドなのでベッドから探してみる。ない。カーテンの上も探してみる。…ない。花瓶の中かなと思って花瓶の中を探る。…やっぱりない。 「…ないですね」 葉留佳さんも懸命に探しているが見つからないようだった。僕もクドを入口に座らせて本気で探しにかかる。 五分ぐらい探していると札はあっさりと見つかった。テレビの後ろに隠されていた。札はっけーんと言って葉留佳さんがテレビに近寄る。すると、 「ザ…ザザ…ザ……ザザ」 「ひゃあ!?」 テレビが突然砂嵐になって雑音を出し始めた。葉留佳さんはその間僕にしがみつきながら目を閉じていた。数秒するとテレビはブツンと音をたてて静かになった。 「もう大丈夫だよ」 「ほ、ほんと?」 と言って葉留佳さんの頭をなでる。少し涙目になっていたが僕から離れた。こういうのがおいしいのかもしれない。クドならその場で卒倒するだろう。 「もう目的も果たしたし早くこの部屋を出よう」 葉留佳さんも首を大きく縦にふる。僕自身この部屋から一刻も出たかった。噂のこともあるし。 と考えていると、また、ザザ…ザ、というノイズ音が聞こえてきた。テレビかと思って振り向いてみたけど、テレビは点いていなかった。 ザザ…ザという音は テレビよりも少し手前の方から聞こえていた。 「理樹くん…」 葉留佳さんは恐怖からか僕の手を握っている。でも考えてみればさっきのトラップもおそらく恭介が考えたものだ。だから今聞こえているノイズ音も恭介が仕掛けた罠に違いない。 「ちょっと調べてみるよ」 僕は葉留佳さんの手をほどいてベッドの周辺を調べ始めた。 足が壊れてるからベッドの下まで探す必要はない。ぐるっと見回してみると、その音がナースコールから出ていることに気づいた。 ほら、これもトラップだよと葉留佳さんに言いかけた時だった。 「ワ……タシ…ノ」 …ナースコールから声が流れてきた。 「ワタシノコドモヲカエセ」 今度ははっきり聞こえた。「私の子供を返せ」。これじゃあまるで…。 と考えたところで葉留佳さんに腕を引っ張られた。いきなり引っ張られたので肩が抜けそうになる。 「早くここから出よう!今すぐ!」 「い、いきなりどうしたのさ」 「つべもこべも言わずにとりあえずランナウェイ!」 そう急かされたのでクドを背負って病室を後にする。ノイズ音もとい叫び声はまだ鳴り響いていた。 とりあえず走る。葉留佳さんの顔は必至だ。 「なんで僕たち逃げてるのさ」 走りながら状況を説明してもらう。息が上がってきたけどまだ走るみたいだ。 「あの噂には裏話があるんですヨ、中絶手術で死んだ母親のあとに入ってきた患者がいるんですけど、その人が四日後に死んでるんですヨ」 僕は愕然とした。結構近場の病院だけど死亡事故があったなんて全然知らなかった。 「その死に方が腹を大きく切り裂かれて血まみれだったみたい、それ以来この病院は転院する人が増えて廃病院になったらしいの、その時にナースコールから今みたいなのが流れてたんだって」 葉留佳さんは恐怖を顔一面に広げて話している。でも僕はその話を聞いて恐怖するよりもむしろ納得した。だって、 「その話、もし恭介が知ってたら今みたいなトラップ仕掛けるんじゃない?」 「……あ」 葉留佳さんの足が止まる。 「……」 「いや、別に怖かったわけじゃないですヨ、やはは」 「絶対完璧間違いなく本気でビビってたでしょ」 そう言って笑い飛ばす。そうだよ、恭介ならこれくらいのことはやってのける。 まだ後ろの方から「ワタシノコドモヲカエシテ」という音が聞こえるが、それはもう恐怖を煽るものにしか聞こえなかった。 「とりあえずこの地図どおりに回ろうか」 「そうだね、とっとと終わらせちゃおう!」 後ろにクドを背負いながらそう言う。葉留佳さんもこうやって騙されたことで抗体がついたみたいだ。 「次は…霊安室だね」 「おっしゃーばっちこーい!」 葉留佳さんがスキップしながら先頭を切って歩きだす。霊安室はこの階にあるのでさほど時間がかからなかった。 霊安室の前にきた。 「ヘイもう幽霊でも妖怪でもかかってきやがれ!」 そう言って勇ましく霊安室のドアを開ける。ギギ…という音をた重苦しい音を立てて扉が開いた。 「うわ、真っ暗で何も見えない…理樹くん懐中電灯貸して~」 「あ、うん、はい」 葉留佳さんに懐中電灯を渡す。葉留佳さんは札はどこかなーと言いながら懐中電灯で部屋の中を照らす。 「ん?」 気になるものがあったのか、葉留佳さんが右手の方へ光を照らした。そこに、 髪を腰よりも伸ばした女が台の上に横たわっていた。 「…」 僕たちは顔を見合わせた。絶対あれだよね、うんうんアレアレと囁きながら。 「じゃ、じゃあ行ってくるよ」 「ファイト~」 クドを葉留佳さんに任せて、意を決してその女に近づいてみることにした。 あと三歩、二歩、一歩…。 目の前まで来た。よく見るとその女は患者が手術で着るような服装だった。顔は布をかぶせてあるため分からない。札はその布の上に置かれていた。 絶対にコイツ動くだろ…でも札取らなきゃゴールできないし…あーーーーー! 僕は恐怖心を振り払うのも兼ねてさっと布から札をとった。そして更なる試練に身構えた。 ………。 あれ?何も起こらない? と思ったのも束の間、 「きゃあああああああ!」 葉留佳さんの方で悲鳴が上がっていた。もう一人入口付近に居たらしく、そいつが葉留佳さんを襲っていた。 すぐに葉留佳さんのもとへと駆けつける。 「早く出るよ!」 葉留佳さんの手を取りすぐさま出口へと向かう。これで札は全部のはずだったからもう帰れる。 硬直している葉留佳さんと気絶しているクドを背負って一階への階段を駆け足で下る。 もう少しだ、と思った瞬間、今度は階段の下から女が出てきた。 「ーーーっ!」 ふらぁっと葉留佳さんが倒れる。クドを背負っていたので支えきれず、そのまま床に倒れた。 徐々に女がふらふらした足取りで近づいてくる。 仕方ない。こうなったらやけだ。 僕は右手にクド、左手に葉留佳さんを抱いて今来た階段を逆走した。 お、重い…。クド一人までなら大丈夫だったけど葉留佳さんまで持つとなると限界だ。腕がぷるぷるしてきた。 腕が死なないうちに反対側の階段を駆け下り、出口まで走る。 ドアをバンッと荒々しく開けて出る。 「なんだ、遅かったな、他のグループはもう帰ってきてるぜ」 そう言って恭介は迎えてくれた。他のメンバーはもう痴話話とかしながら僕らを待っていた。 「洒落にならないよ恭介…」 「まぁそう言うな、キモを冷やすには最高のお化け病院だっただろ?」 クドと葉留佳さんを背負っている僕に言えるセリフなのだろうか。 「特に病室のトラップがね…」 「あれはつけるの苦労したんだぞ?配線からいっちまってたからそっからのスタートだしな」 「ナースコールのやつなんてどうやったのさ?」 ぴく、と恭介の動きが止まる。 「ちょっとまて理樹、俺が仕掛けたのはテレビのやつだけなんだが」 …背筋がぞっとした。葉留佳さんも同じ思いらしい。 「そういえば…俺札二つしか用意してなかった…」 そう言って三つ、僕、謙吾、真人がとってきた札を順番に見る。 幾何学模様の札、幾何学模様の札、悪霊退散と書かれてる札。裏には死ねシネ死ネしネ、とびっしり書かれている。 「ってどう考えても最後のおかしいでしょ!どっからこんな札取ってきたのさ!?」 「これか?ベッド持ち上げたら後ろにくっついてた」 「そんな自慢げに言われても…」 「ちなみに階段の下にいたのは私だ」 「霊安室のゾンビも?」 来ヶ谷さんははて?というような顔でこっちを見ている。 霊安室のことを思い出す。僕は霊安室から取ってきた札を見た。 キエロ消えロ気消エロキエろ消えろ消え……。 うん、見なかったことにしよう。 「真人…お前は呪われている!すぐにイタコのところへ行ってお祓いをしてもらえ!ミッションスタート!」 「わ、わふー!いったい何があったのですか!? …クドにはこのことは言わないでおこう。 あれからずいぶん経つけどあの霊がどうしているか、僕は知らない。願わくば、誰もあそこをキモ試しとかで使わないことを。 [No.318] 2009/08/08(Sat) 00:00:34 |
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