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結局嫁に行くことになってしまった。案の定、実家から荷物片付けろって電話がきて、ああ、もう、やだやだ。だから嫌だったんだ、嫁に行くなんて。面倒事が多すぎる。結婚式やらないっていうのが唯一の救いで、そこに関してあたしは理樹の甲斐性のなさに感謝している。でも貧乏なのはいやだった。もしかしたらあたしには、男を見る目がないのかもしれない。 その、絵日記らしきものをぱらぱらとめくっていく。なんでこんなもの取っておいてあるのか不思議なレベルの、遠き日の思い出。無視して荷物の整理作業に戻ったほうがいいんだろうけど、せっかくの休日にこんなことやってるのも馬鹿らしくて、結局覚えてすらいない思い出に浸ることを選んだ。どっちにせよ休日にやるには馬鹿らしいわけだが。何もせずごろごろしているのが一番有意義に違いない。実行できた試しがないから実際どうなのかは知らんけど。 汚い絵と汚い字が、黄ばんだページに延々と描かれ、書かれている。汚すぎて何の絵かわからないし読めもしないが、どこかの並行宇宙では考古学を専攻しているかもしれないあたしの解読によると、この絵はあたしと、あたしと手を繋いでいる恭介で、下には「おにいちゃんのおよめさんになる」みたいなことが書かれているらしい。 なんとも言えないものを感じる。過去のあたしよ、あたしは今、おにいちゃん以外の男の嫁に行こうとしているぞ。なーんて。これまでの人生の中でもっとも冷静なのではないかと思えるほど、あたしは冷静な気がする。気がするだけなので、実際はどうだか知らん。なんにせよ、あたしは冷静に驚いていた。このあたしにも、あの恭介をおにいちゃんと呼び慕っていた頃があったのだ。びっくりだ。いやあたしは冷静なつもりだけど。まあびっくりだが。 「おにいちゃん」 意味もなく言ってみる。恭介が生きていれば死んでも言わんだろうし、そもそもこんな絵日記など見つけた時点でシュレッダーにかけた上で焼却する。と、恭介が馬鹿やってた頃の自分を思い出して、まあそんぐらいやるんじゃないだろうか、と予想する。大人になった今のあたしなら、ついでにその火で煙草を一服して黄昏れたりするかもしれない。まー煙草なんて毒は吸わんけど、ハードボイルドな感じがしていいだろ、うん。 そういえば恭介は死んでいるのだった。馬鹿が災いして死んだのだ。うちの両親も、あたしが助かったという連絡をもらってほっとしたと思ったらなぜか恭介が死んでるんだから、さぞかし驚いたのだろうなぁ。恭介が馬鹿なのが悪い。しかし恭介は馬鹿だというのに、あたしの記憶にある恭介の姿は、馬鹿は馬鹿なりにかっこいい感じなのだから、気が滅入る。どう考えたって美化されているじゃないか。そんな恭介は死んでしまえ。 地味にショックだ。理樹みたいに年がら年中恭介はじめ死んだ連中のこと思い出してるはずもないあたしだが、でも、あたしは恭介を恭介のまま恭介として覚えていられると思っていたのだ。美化されてしまったら、それはもう恭介を恭介のまま恭介として覚えていることを失敗している。 あたしの恭介はどこに行ってしまったのだろう。 [No.32] 2009/03/20(Fri) 22:29:15 |
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