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俺の気持ちをどうつたえたらいいのだろう。 俺の貧弱な語彙で伝えるのは本当に難しい。『魂が、震えた』だの、『俺は今猛烈に感激している』だの、そんな言葉では俺の今の気持ちは1/100も表現できていない。 そもそも言葉なんかでこの気持ちを伝えるというのがおこがましい。 無意識のまま、手が目の方に動く。目頭を押さえると、そこには涙が浮かんでいた。人間は本当に感激すると涙が流れたことにも気づかない。 そんなことを俺は始めて知った。 ああ――本当にただただ、うれしい、だって、そうだろう? 「どうかしたのか、お兄ちゃん?」 鈴が俺のことをお兄ちゃんって呼んでくれているんだから。 俺のいもうとがこんなにかわいいわけがないなんてことはない 「お兄ちゃん、どうかしたのか?」 人差し指を口元にたずさえて、不思議そうに、上目遣いで俺を見つながら、言葉を紡げる鈴。 脳が――くらりと揺れた。反則にもほどがある。もう何年も鈴の兄をやってきたし、こんなことをいう鈴を毎日のように妄想してきたが、実際にやられると破壊力がまるで違う。鈴は今、まさに歩く生物兵器だった」 「なんでもないさ、鈴。しかしいったいどうしたんだ、俺のことを”お兄ちゃん”だなんて」 心を勤めて冷静にして、鈴にいう。 「?お兄ちゃんって呼ばれるの、イヤ、なのか、お兄ちゃんって呼んでほしいっていったから呼んでいるんだが」 「いや、そんなことはない(0.1秒)」 「だったらいいはないか……お兄ちゃん」 「ああ、そうか、早く食べに行かないとな」 時計をみるともういい時間になっていた。今から食堂にいくと授業にはぎりぎりとなるだろう。これじゃ、ゆっくり朝食を食べることもできない。 そんなことを考えていると、鈴がいきなりモジモジし始めた。 「鈴、どうかしたのか?」 トイレにでもいきたいのか、そんなことを考えたが、鈴の答えはまるで違うものだった。 「――お兄ちゃんのために朝食をつくったんだ、前いちどつくってくれっていっていたからなっ、な、なんだったらこれから毎日つくってもいいぞ」 俺の目からまた、涙があふれていた。すまない、鈴、あんなことを思って。 まっくろな卵焼き、半生なご飯、味が濃すぎる味噌汁といった、鈴のつくったおいしい朝食を食べ終え、俺らは学園を目指した。 その途中で理樹と出会う。 「おはよう、理樹」 「おはよう、恭介、鈴も……おは、よう?」 理樹が不思議そうな目で鈴をみるが、鈴は自然と「ああ、おはよう」と理樹に返した。理樹が不思議に思うのも無理はない。だって、俺と鈴は手をつなぎながら登校しているのだから。 「珍しいね、恭介と手をつないでくるなんて」 「お兄ちゃんと手をつなぎたかったからなっ」 鳩が豆鉄砲をくらった顔を理樹はした。 「ごめん、鈴、もう一回いってくれるかな?」 「お兄ちゃんと手をつないで、学園にきたかったからなっ」 もう一度大声で鈴はいう。その顔にはいっぺんの陰りもみられない。 そんな鈴の様子をみた、理樹はまず頬をつねった。常々思うんだが、夢だと痛くないのか、と思う。次に、鈴の額に触れた。自分の額といっしょに触れて、熱がないのを確認したみたいだった。その後何度も何度も深呼吸をして――、頭を抱えながら理樹は言った。――というか理樹、お前はそんなにこんなふうになった鈴が信じられないのか。 「鈴、なんか変なものでも食べた?」 「どういう意味だ?」 不思議そうな顔をする鈴。 「なんだ、理樹、俺に嫉妬しているのか?」 「いや、違うってば、ただ、鈴がすごく変だから、恭介をお兄ちゃんだなんて呼んでいるし」 「やっぱり、嫉妬していないか、理樹?俺がお兄ちゃんって呼ばれるのがうらやましいんだろう?」 「そういうんじゃないんだったら!ただ――」 理樹は言葉をつながなかった。 鈴がかわって、数日がすぎた。 「お兄ちゃん、おはよう」 そんな言葉をかわし、起こされ、鈴のつくった朝食をたべ、手をつないで学園にいく。 俺の望んでいた日々だった。 鈴と理樹を育てるミッションにも大いに力が入る。ちょっとブラコンなところはあるけど、これくらいは十分許容範囲だ。 きっと、うまくやれる。 ☆ 物語の主人公は言います。 たとえば恋愛を謳った小説では「愛は永遠ではない」と。永遠の、愛なんてない、だから愛する二人は成長するのだと。ほかにも恋愛を謳った小説ではときに、「運命の出会い」なんてない、そんなことを登場人物はいったりします。後者は特にダークな作品に多いでしょうか。 ほかにもたとえば夢に迷い込んだ小説では、「夢と現実は違う」「現実に帰ろう」と。夢に溺れていてはだめだから現実をいきなさい、と。 こういう風な小説は本当に、たくさんあります。市販されている小説、同人の小説で、そういう話を何度も何度も見てきました。 しかし、私は思うのです。 本当にそれでいいのですか、と。 愛に永遠があってほしい、運命の出会いもあってほしい、夢と現実を一緒にしたい、現実に、帰りたくない。 そんなことをまったく思わないのでしょうか。 「それをわかった上で、無理やりに立派なことをいうんじゃない?」 「はい、もちろん、そうだと思います、二木さん。彼らは――これらを望んでいてもかなわず、いろいろなトラブルを経て、望みをすてることになるわけですが――もし、トラブルがなければ、それがそのまま続いたんです」 物語の主人公が望んだことがいろいろなトラブルでかなわなくなっていく。そんな風にストーリーは進んで、主人公は望みは悟る。たいていはそんな流れに話はなる。 しかし、物語の中で起こるトラブルなんてほんの少しでしかない。たった、1、2度でしかない。その程度のことで望みを捨ててしまう。 現実に、帰りたくない、夢から覚めないといけないといったテーマの場合、もっと話がひどくなることが多い。なぜならはじめからそういう結論で話がきまっているのだから。 「この話が現実の出来事ではない、となったら8割くらいは 「夢と現実は違う」なんて結論に達して、世界に戻るのです。ですが、本当にもどっていいのでしょうか、それがずっと続くと確定している世界だとしたら、現実とどのくらいの差異があるのでしょうか。あなたもそれを望んでいるでしょう?」 「ええ…」 私は妹がずっとこの世界で幸せに暮らせばいい、そう、思っているのだから。 「恭介さんはたしかに鈴さんと直枝さんをそだてるために、この世界をつくりました、しかし、その願いはかなえられることはないです、だって、あの鈴さんを本物だと思っているのですから」 あの鈴さんは、本物ではない。この世界がずっと続けばいい、そんな願いがあの偽者の鈴さんをつくったのだ。 「恭介さんは、そんなことにも気づきません、鈴さんがあんなにかわいいわけがない、そのことに気づけばきっとあの鈴さんは消えるのですが」 彼はきっと最後にこの世界が偽者の世界だと鈴さんと直枝に告白するつもりだろう、そして現実に生きろ、なんていうつもりだろう。だけど――彼はあの鈴が偽者なことすら気づいていないのだ。気づきそうなものなのに。 「滑稽ね……ほんと」 こんなことならもともと無理だっただろう。この世界を作った本人すら、現実をちゃんと認識しないのだから、二人の人間を成長させようということがおこがましい。 「この世界は、終わらないわね」 「そうですね、きっと」 私たち二人は笑いあった。 [No.323] 2009/08/08(Sat) 00:33:29 |
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