![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
僕の名前は、直枝理樹。 僕の役割は、沙耶が望む通りに「直枝理樹」を演じること。 ここでは彼女が全て。皆、彼女の願った世界の部品として、それぞれの役割を果たしている。彼女が望めば、僕たちは何でもする。 ただし、「ここから出て行くこと」はその限りではない。 辺りはもうすっかり暗くなっていた。僕は一人、中庭を歩いていた。 僕は、禁忌を犯してしまった。 自分の手のひらをじっと見つめる。沙耶の体温が微かに残っている、そんな錯覚に陥った。 なぜ、僕は出口を与えてしまったのだろうか?彼女の涙を見たせいだろうか、と考えたが、それはすぐに却下された。「直枝理樹」であればそんな彼女に心動かされ、何かしてあげたいと思うのかもしれない。だが、僕にはもとより、動かされるような心が無い。 ただ、ここに居てはいけないと判断した。この世界は沙耶の望みを叶えるためにある。だけど、ここにはそれ以外、何も存在しない。 沙耶の言葉を思い出す。僕は彼女に、何故この世界から出るのかと問うた。彼女は、生きるためにここを出る、と答えた。どうせここを出ても、ほんの少ししか生きられない、それを知っているにもかかわらず。 彼女にとって「生」はどんな意味を持っていたのか?僕には、最後までわからなかった。それほどにまで価値があるものとは思えなかったが、そこに答えがあるような気がする。 「あ―――」 突然バランスを崩し、僕は倒れ込む。顔面が地面に叩きつけられる。足元に目を遣ると、僕の足首が崩れていた。痛みも何も無いから、異変に全く気付かなかった。崩れた足は白い羽になって、空に、舞い散っていた。 僕は目を瞑り、沙耶の意識を探す。しかし、いや当然というべきだろうか。いくら経っても彼女を見つけることは出来なかった。 ああ、沙耶は今まさに、この世界を去ってしまったのか――― そして、その結果がこれか。僕はうつ伏せになり、上体を起こして、崩壊が自分の太ももへと進んでいくのをぼんやりと眺めていた。 周囲を見回してみる。木も草も校舎も、末端部や表面からボロボロと崩れ、崩れた部分が白い羽になって空中を踊っていた。おそらく、寮の中の生徒もみんな、同様に崩れ始めているのだろう。そして全てが白い、羽となって、この世界は白で塗りつぶされる。その白は、色の「白」であると同時に、空白の「白」なんだろう。 もうすぐ、僕はこの世界ごと、居なくなってしまう。これは、「死」と同じことなのだろうか。 何だ、僕たちも死ぬのか。だとしたら僕たちは、今まで生きていたということになる。人と同じように。 でも、人のように死ぬのが怖いとは思わない。これからずっと動くことがなくなる、というのが僕の認識だ。同様に、生きていて楽しいと思ったことは無い。決められた動作を繰り返す、沙耶が願えばその対応を行う、それだけが僕の中の「生」だから。 沙耶は、この世界から出て、どうなってしまったのだろうか。―――やはりすぐに死んでしまっただろう。しかし、そんな彼女を、僕は羨ましいと思ってしまった。自分の意思で生きる、僕にはよく分からないことだったが、それを何故か羨ましいと思ってしまったのだ。これは、果たして「直枝理樹」の感情なのだろうか? 空を見上げる。月が出ている。赤い、赤い月だ。それが白い羽に包まれる。空はもう羽に包み込まれてしまった。音も何も聞こえない。そこにあるのは静寂だった。そこにあるのは深々と舞い散る羽だった。 あぁ―――そこで僕は気付く。そうか、あのとき僕もまた、自分で選んだんだ。自分の意思で生きること。それにこそ意味があったのだ。 そして全ては散り果てた。校舎も木々も空も、僕の体も無くなった。 この世界には、羽の白と、そして果てしない虚空だけが存在していた。 [No.327] 2009/08/08(Sat) 21:09:47 |
この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。