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all 第29回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/03/19(Thu) 22:35:37 [No.22]
猫? 愛? - ひみつー@5,599byte - 2009/03/21(Sat) 00:28:45 [No.36]
シーメ=キッター (Seemue-Queitier) - 主催 - 2009/03/21(Sat) 00:27:05 [No.35]
ハッピーメーカー - ひみつ@16188 byte - 2009/03/21(Sat) 00:13:00 [No.34]
愛の円環 - ひみつ@12160byte - 2009/03/21(Sat) 00:00:49 [No.33]
愛・妹・ミー・マイン - ひみつ@2585 byte - 2009/03/20(Fri) 22:29:15 [No.32]
愛はある、金がねえ - ひみつ@2802 byte - 2009/03/20(Fri) 19:45:11 [No.31]
変態少女―サディスティックガール─ - ひみつ@15148 byte - 2009/03/20(Fri) 19:35:40 [No.30]
[削除] - - 2009/03/20(Fri) 17:15:10 [No.29]
木漏れ日のチャペルで君と誓う - ひみつ6987 byte - 2009/03/20(Fri) 12:52:28 [No.28]
馬鹿でもいいじゃない - ひみつ@4585byte - 2009/03/20(Fri) 11:52:28 [No.27]
終線上のアガポルニス - ひみつ@20340byte - 2009/03/20(Fri) 10:01:52 [No.26]
正しい想いの伝え方 - ひみつ@17213byte - 2009/03/20(Fri) 01:03:21 [No.25]
幻想への恋慕 - ひみつ@11514 byte - 2009/03/19(Thu) 23:01:01 [No.24]


ハッピーメーカー (No.22 への返信) - ひみつ@16188 byte

 『ひぎぃ』という言葉がある。主に予想外の出来事が起こった時に自然と口から飛び出す、サプライズ語である。
 しかし、日常生活では中々耳にすることの少ない言葉であり、一度でもその言葉を現実世界で聞くことが出来れば、胸を張って自慢してもいいレベルだったりする。
 そんな伝説のポケモン並の言葉を、つい、ポロっと叫んじゃった少女がいた。
 今日もたくさんの人の優しさを募金箱に詰め込んで、ホクホク顔でスキップなんかしちゃったりしている、家に帰る途中の幸せスパイラル党党首の神北小毬さんである。
 ふーんふふーん、と鼻歌交じりにルンルンと家路を進んでいる途中だった。本日の募金活動の結果があまりにも絶好調で、思わず遠回りしてお家に帰っちゃおうかなぁ、なんて思ったのが彼女の運の尽き。
 普段通らない住宅街。きっとここに住んでる人達は皆幸せだよ、とか勝手なことを考えていると、ポツンとある小さな公園を発見した。スーパー上機嫌な小毬さんは、子供たちに幸せをお裾分けしたらなあかんで、とかなり押しつけがましいことを思い、颯爽と公園の中に飛び込んでみた。
 無邪気に走り回る少年達。砂場で飯事をする少女達。自分と同じ高校の制服を着た兄ちゃんの顔の上に座る幼女。なんて微笑ましい光景なのだろう。冷汗が一ガロン程噴き出した。擬音で言うところのブワッッって感じである。小さいツが二個付いちゃってるところがミソ。
 落ち着け小毬。焦った時は素数を数えると落ち着けると、尊敬する先輩が教えてくれたことを思い出し、1,3,5,7,9、と奇数を数えてみた。先輩の教えとは全然違うが、流石恭介さんの言うことはすごいなぁ、本当に落ち着いてきたよー、と更なる尊敬の念を抱き、その上で魔法の合言葉、「ようし」を小さくつぶやきグッとガッツポーズ。
 目を逸らしてはだめだ。こういう現実と戦わなくてはならない時だってある。幸せだらけの世界があればいいなぁって思っている。でも、そんな世界は無くて、世の中には思っている以上に不幸の方が多い。だから小毬はいつも願っているのだ。私がほんのちょっとでも世界に幸せの種を蒔けたらいいなぁ、なんて。今目の前にある現実は、双方を不幸にしてしまうものである。顔面騎乗する幼女、顔面騎乗される青年。ドSな幼女にドMでロリコンな青年。二人は幸せなのかもしれない。でも、それは世間が許してはくれないもので。こんなものを警察官が見つけていたら、逮捕は鉄板である。翌日の新聞に小さく報道されてしまうだろう。それはとっても不幸なことだ。ああ、このまま放置してしまえたら自分自身はどんなに平和に健やかに過ごせるのだろう。でも、見てしまった。ならば、私が救いの手を差し伸べよう。出来る限りの幸せを、私自身の手で作り出す。小毬は、決意を新たに、顔面騎乗コンビへと一歩ゆっくり足を踏み出した。
 丁度その時に、まるで小毬が動き出すのを見計らったかのようなタイミングでロリコン野郎が幼女の両脇を持ち上げ、よいっしょ、ってなもんで顔を出した。もし、それが知り合いならば、私は心を鬼にして説教をしちゃうぞー、とか気合入れてみた。ただ、自分の知り合いは皆犯罪を犯すような人間では無いので、絶対だいじょうぶー、とか思っていた。
 しかし、現実とは、彼女の思っている以上に過酷なものであった。それはとても見覚えのある顔で。尊敬の念なんか抱いてちゃったりして、先ほど更にその尊敬を倍プッシュしたばかりの先輩であった。笑顔で鼻血を出していた。
「ひ、ひぎぃぃぃっ!」
 思わず叫んでいた。
 夕暮れ前の閑散とした住宅街に叫び声が響く。
 回れ右、と身体の向きを逆方向にし、パンダのプリントがされたパンツ丸出しのクラウチングスタートの構えを取った。そして、「体感的には音速超えて、光速いってましたわ、あんときわマジで」と後に語るダッシュを決めて公園を後にした。







 どうやって帰ってきたのかは覚えていない。気づけば寮の部屋のベッドの上で布団に包まっていた。恐怖の記憶のみ脳みそに残る。走馬灯のように楽しかった思い出が右から左に流れていく。知らず涙が零れ落ちる。何故泣いているのか、自分でもよく分かっていない。それほどのショッキング映像だったということか。分からない。何にも分からない。
 先ほど見た犯行現場。現行犯逮捕できそうな状態を思い出す。確かにあれは恭介だった。気持ち悪い笑顔で鼻血を垂れ流している恭介だった。でも、もしかしたら、白昼夢ってやつを見たのかもしれない。それは中々貴重な体験をしたなぁ。そう考えるとなんだか元気が沸いてきた。そうだ、あれは幻。現実なわけないじゃないか。無かったことにしよう。
 被っていた布団を放り投げ、ベッドから飛び出す。時間を見ればもう夕飯の時間である。お腹はしっかりと空いている。食堂に向かおうではないか。いつも通り、ルームメイトは部活からそのまま食堂に行っている。そこで合流しようかなぁ。
 ごちゃごちゃ考えていると、なんともご都合主義に恭介が一人で歩いているのを発見した。
 まあ、絶対幻だけど、一応確認してみようかなぁ。
「恭介さーん」
「おう小毬。お困りか?」
 人懐っこい笑顔とつまらない駄洒落で呼びかけに応えてくれた。こういう自然な仕草にいつもドキっとさせられる。なんか本当、この人卑怯だよね。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
「おうよ!」
 ビシィッと親指を立てての返事。なんでそんなに元気があるのか不思議だが、幸せそうなのでなんでもいい。
「今日、公園とかで遊びました?」
「お? なんで知ってるんだ?」
 はい、嫌な予感。
「えーと、あのー、たまたま恭介さん似の人を見かけたので、なんとなく」
「おう、そうだ。聞いてくれよ。びっくりしちゃったぜ」
 はい、嫌な予感パート2。
「な、ななな、な、何にびっくりしたんですかかかかか? はわわわわ!」
「なんで小刻みに震えてるんだ?」
「はわわわわ!」
「まあ、いいや。あのな、幼女がいきなり空から降ってきた!」
 はい、嫌な予感的中。つか、降ってくる訳ねーだろ。
 あと、ひぎぃって悲鳴聞いたぜ! そうですか。自慢出来るぜ! そうですか。
 悲しいかな、小毬の精神はこの事態に付いていけるほど、成熟してはいなかった。メンタル部分が結構弱いのが神北小毬のチャームポイントである。血を見たり、雨見たりすると妹キャラへと華麗な変身を遂げる。小さく「これは幻。そう幻なんだよー」と呟いたが、恭介が「そういや幻って漢字で書くと幼いにめちゃくちゃ似てるな!」こりゃ参ったー、わっはっはー、とか爆笑してるのを聞いて、確信に変わっていく。
 こいつ真性のロリコンじゃん。
 でもでも、恭介さんはそんな人じゃないよー、と必死で心の中では否定しようとしているのだが、それでもダメ。無理。確定じゃん。このロリコンっぷり。真性っぷり。
 小毬の脳みそはショート寸前。頭の回転は速いのだ。だからこそ、理解に苦しむ。結論を出したくない。
「そぉい!」
「ゲボハッ!」
 もう何が何だか分からない小毬は、恭介の鳩尾にガゼルパンチを叩きこんで、そのまま猛ダッシュ。目的地はどこか分からない。とにかくこの場から離れたかった。
 恭介はというと、大分いい所に腰の入ったフックを人体の急所に頂いたようで、悶絶してゲロ吐いて失神した。今日の晩御飯はもんじゃ焼きだ! ひゃっほー! という夢を見た。







 気づけば、学校の自販機の前に居た。結構な距離を走り回ったので、体が水分を欲していたのかもしれない。ポケットから財布を取り出し、硬貨を入れる。スポーツドリンクのボタンを押した。パックのスポーツドリンクとは一体どんなものなんだろうという好奇心とは裏腹に案外普通だった。例えるならば薄いレモン水と言ったところか。
 ベンチに腰を落ち着ける。背もたれに体重を掛けて空を仰ぎ見る。まんまる顔の月が笑ってた。このまま一人月見でもして、夢中になった挙句に突然飛来した未確認飛行物体からのっそり出てくる宇宙人に連れ去られて改造されて目からビームが出せるスーパー小毬になりたい気分だった。全てを破壊して、無こそ幸せ也、とかほざいて世紀末救世主になりたかった。この沈んだ気持ちはなんなんだろう。今まで感じたことない、この悲しみはなんなのだろう。
 ぽたりと落ちる雫。涙の雨が降っていた。
 簡単なことだよ。
 私は恭介さんのことが……。
 立ち上がり、腰に手を当ててきつくスポドリを吸い込む。ジュルジュル、ぷはぁ!
 自分の気持ちが分かった。それによって自分がすべきことも見えた。幸せが溢れる世界にするために。幸せの種を蒔くために。そして、幸せを育てるために。
 皆が幸せになって欲しいから、だから、私は恭介さんのことが、泣けるほど許せないんだ!
 自分のことになると途端に鈍くなるところも神北小毬のチャームポイントである。
 空っぽになったパックをごみ箱に捨てて、走る。逃げるためにではなく、立ち向かうために。立ち直らせるために。







 走ったはいいが、小毬に一切策は無かった。果たして、彼ほどの真性を話し合うだけで更生させることが出来るだろうか。そんなことは出来るわけがない。例え説得がうまくいこうとも、それは根本的な解決ではなく、一時凌ぎのものになるであろう。何故なら、小毬の見た恭介は骨の髄までロリコンが染みついていたからだ。一瞬、ロリはあかんよね、という風に考え方を変えたとしても、一度幼女を見つければ、たちまちストーキングを始めてしまうだろう。彼の趣味そのものを変えなければならない。
 今日はもう遅い。一度部屋に戻り、作戦を練ろう。誰かに相談したいところであったが、それでは恭介の変態が周知のものになってしまう。これは自分一人で解決しなければならない。使命感に燃える小毬。なんというエゴ。
 自分の部屋に戻ると、先に帰っていたルームメイトが出迎えてくれた。ちょっとだけ話したい気分になってしまった。一人では荷が重いとは感じていたのだ。先ほどの使命感もほんのり鎮火。簡単な質問程度なら大丈夫だろう。周囲のイメージを聞いてみるのも何かの糸口になるかもしれない。何かと言い訳を重ねてみた。
「恭介さんのことどう思う?」
 無難な質問をしてみた。
「どなた?」
「鈴ちゃんのお兄さん」
「ああ、あの変態の」
 既に恭介の変態は周知のものになっていた。
「き、恭介さんは、へ、変態じゃないよ? 仮に変態だとしても変態という名の紳士だよ?」
「意味が分からない……」
「もう、さーちゃんのアホー」
 ルームメイトの理解の無さに不貞腐れて寝た。







 寝てどうする。
 朝を迎えた小毬には後悔の念がどっしり乗っかていた。作戦練ろうとか思ってたのに。幸い、ハッとして起きたので、まだ朝食までに時間はある。それまでに何かしら考えねばならない。恭介のことを考える。彼がどんな人物か。
 漫画が好きで、何にでも影響されやすくて、馬鹿で、アホで、たまにポカするけど、でも優しくて、仲間想いで、頼りがいがあって。しかし、ロリコンで、更にシスコンで、ホモの気もある。
 ため息が出る。後半があまりにもダメすぎる。女性の趣味を根本的に変えてあげなければ、彼の未来は確実の檻の中だ。せめて同年代に目を向けることが出来るようにしなければ。
 そうだ。それならば、大人の女を自負する私の魅力で恭介さんを惚れさせてしまえばいいのだ。
 お気に入りの熊さんの柄入りパジャマを脱ぎすてる。寝る時はノーパンノーブラ主義の小毬は現在全裸。自覚は無いようだが、小毬自身も結構アレだったりする。すっぽんぽんで、寝てるのをいいことにルームメイトの箪笥を漁る。目的の品は可愛らしく折りたたまれた黒色のヒラヒラフリル付きショーツ。ハイレグ具合が大分ヤバイ。うっひゃー! とか思いながら、いそいそと履いてみる。流石のシルクの履き心地。鏡の前でパンツ一丁でくるりと一回転。大人の色気ムンムンですなぁ、とうんうん頷き、次はブラジャーを拝借、と思ったが、見事にサイズが合わず断念。ちょっと笑ってしまった。勝った。圧勝した。まあ、ブラは別になんでもいいか、と自分のお気に入りの真白なものを装着。その上に制服を着ると、全く普段と変わらない姿の自分が居た。それでも、溢れ出る色気は隠しようがないほどに迸っている気がした。
 という訳で、大人の女版小毬始動である。







 アホなルームメイトを起こさずにそっと部屋を出る。目指すは食堂。幼馴染五人組は、一緒に食堂まで行く訳ではなく、現地集合をしていることはリサーチ済みである。
 柱の陰に体操座りで隠れて恭介が現れるのを待つ。少し、緊張する。今から仕掛けるのは色仕掛けである。それはもう恥ずかしいことである。でも、このままでは恭介さんが不幸になってしまう。そんなのはいけない。自分を犠牲にしてでも多くの幸せを作り出す。それがハッピーメーカー小毬の仕事である。
 ああ、でもなぁ。
「あれ? 小毬じゃん」
 やっぱ恥ずかしいよう。
「おはよ」
 こう、予定としてはスカートを、こう、自分で、ももも、持ち、持ち上げ、むむ、ムリだよう。やっぱムリ。
「おい、無視か。てか、すげー派手なパンツが丸見えだぞー」
 ああ、でも、恭介さんになら、その、私……。むむむ、ムリ。やっぱダメ。うひゃー。
「小毬!」
「はい! パンツをどうぞ!」
 怒鳴り声でやっと反応、したはいいが、思考とか妄想とか色々とゴチャゴチャになり、思いきり自分のスカートを捲り上げてしまった。正面から見た恭介は、見事に石化。そして、現実に戻った小毬も石化。二人で石化。
「は」
「は?」
 二人の石化を解いたのは、小毬の声だった。は。歯? は。葉?
「はわわわわ!」
「ハワイ?」
「いやん!」
「うぎっ!」
 恥ずかしさマックスの小毬が、凶暴に振りぬいた拳は見事に恭介の腎臓を的確に射抜き、恭介は人として出してはいけ無さそうな音域の呻き声を上げて倒れ伏した。そして、小毬は恒例となった猛ダッシュを決めていた。
 作戦失敗。







 気づけば、中庭に居た。ベンチで廃人のようにぼーっとしていた。既に朝食の時間なんてとっくに終えて、授業も始まっているであろう時間。初めてのサボタージュ。天国のお兄ちゃん、小毬は不良になってしまいました。恭介さん、怒ってるだろうなあ。
 実に二度目の暴力だった。恭介は大丈夫だろうか。今も拳に残る肉の感触。物凄いめり込んだ。死んでなければいいけど。
「はあ……」
 ため息を吐くと幸せが逃げるという。だから、小毬はため息が嫌いだ。それでも、止まらないため息。ため息を吐いてしまう時点で不幸なのだ。更に幸せを逃がしてどうする。笑う門には福来たる。だから、笑え。笑おう。笑わないと。
「はあ……」
 笑えるわけない。恭介を肉体的に傷つけた。しかも、理由も無く。絶対に嫌われた。
 嫌だよ。嫌われたくないよ。こんな風に終わるの嫌だよ。恭介さん。謝ったら許してくれるかな? そんなことないよ。もうダメだよ。口もきいてくれないかも知れないよ。そしたら謝ることも出来ない。恭介さん。恭介さん。
「うわーん! 恭介さーん!」
「泣きながら人の名前を叫ぶな」
「ふえ?」
 涙が、呼吸が止まる。
「よう」
 ずっと考えていた人が目の前に居た。幻覚かと思い、目を擦る。まだいる。それでも蜃気楼かもしれない。触ってみる。感触がある。実は恭介によく似た木かもしれない。抱きついてみる。温かかった。一度止まった涙がまた噴き出す。嬉しくて、申し訳なくて、謝っているのか、泣いているのか、笑っているのか。自分でもよく分からない。ギュッと恭介の体から離れないように、しがみつく。
 ポンポンと頭を優しく叩いてくれる。背中をゆっくり擦ってくれる。うん、うん、って頷いてくれる。ゆっくりと落ち着いていく。少しだけ兄のことを思い出していた。
「落ち着いたか」
「……ごめんなさい」
「別にいいよ」
「ごめんなさい」
「だから、いいって」
 笑顔で言う恭介。しかし、小毬は、より一層の罪悪感を感じてしまう。殴った相手を慰めるなんて普通じゃ出来ない。そして、抱きしめてもらって私は幸せを感じている。
「何があった?」
 優しい声。それに釣られて、幼女顔面騎乗事件からのことを全部話した。
「あはははははははっはっははははははっはっはうひぃひひひひひいひぶひぶひょげほげほげほ」
 恭介はむせるほど爆笑していた。
「あ、あのな、ぶふぅ、ぐふふひははははははは!」
「もう、あんまり笑わないでー」
「だって、幼女、ふは! フライング、ふひひ! オンザフェイス、あはははは!」
「もう」
 ぷう、と頬を膨らましてみた。それ以上笑うと怒りますよのポーズ。
「はあはあ。悪い悪い。小毬があんまりにアホだからな。つい笑っちまった」
「アホとか、恭介さんには言われたくないもん」
「なんだと」
「えへへ」
「お前は……まあ、いいや」
 なんだか、こうやって普通に会話するのは久しぶりな気がする。たぶん、一日ぶりぐらい。毎日喋ってたから、それでも長い間に感じるのかもね。やっぱり、普通に話をして、普通に笑って。こういうのがイイよね。
「公園での顔面騎乗はな」
 恭介が、ポツリと話しだした。
「あれは、幼女がブランコからぶっ飛んだのを受けとめようと思って失敗した結果だ」
「はあ」
「あの公園はな、昔皆でよく遊んでたところなんだ」
 幼馴染五人で、馬鹿みたいに馬鹿なことして遊んでいた懐かしい場所。もうすぐ高校を卒業するから、なんとなく街を巡ってみたくなった。
「実は鈴もあのブランコからぶっ飛んだことがあるんだ」
「ほえー」
「そん時は、鈴の驚異的な運動能力のおかげで足を挫いた程度で済んだんだけど、やっぱ妹を怪我させたのがトラウマみたいになってたみたいで、体が勝手に動いてた」
「そうなんだー」
「まあ、そういうことだ」
 ポンと頭に手を置かれる。
 なんだ。そんなことなんだ。安心した。やっぱり、ロリコンキャラはネタだったんだ。シスコンはガチだけど。なら、私にもチャンスはあるのかな?
「って、何考えてるんだろ!」
「ん? どした?」
「へ? うーんうん! なんでもない!」
「なんでもないのか?」
「そうだよ!」
「そうか」
 本当、何考えてるんだ。馬鹿なのか。私は馬鹿なのか。
 小毬が自分の考えを否定していると、恭介の携帯が鳴った。着うたは『僕はロリコン』。ロリコンネタに体張りすぎである。
「お、この間の幼女からだ」
「ふえ?」
 まさかの展開に突入。
「また遊ぼうだってさ。いやぁ、照れるなぁ。完全に俺に惚れてるよな? 小毬もそう思わないか?」
「は?」
 どうすりゃいい? 知らんがな。小毬さん? なに? 怒ってらっしゃる? 別に。え、絶対怒ってる。別に。なんで怒ってんの? 怒ってない。
 そんな問答を繰り返す。なんということか。やはり、恭介は真性ロリコンだったのだ。
「よし、今度また遊ぼうって送るわ」
「勝手に送れば」
「小毬、口調変わってない?」
「変わってないし」
「送っちゃうぞ? いいのか?」
「知らない」
「幼女最高ひょっほーい! とか叫んでみてもいい?」
「知らない!」
 人の気も知らないで、この人は好き放題だな。ベンチから立ち上がり、教室に向けて走り出す。
 やはり、私の大人の魅力で更生させないとダメだ。教室で作戦を練ろう。次は、確か世界史だったはずだ。過去の革命から学べることがあるかもしれない。絶対、あのロリコン野郎を振り向かせてみせる。何故かにやける顔が抑えられない。
 教室では、当然の如く先生に怒られた。







 一人残された恭介は、携帯を眺めて、くっくっくと笑っていた。画面に映し出されているのは迷惑メール。
「俺ってもしかして愛されてる?」
 馬鹿野郎。


[No.34] 2009/03/21(Sat) 00:13:00

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