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寮の廊下でひとりで佇む少女がいた。だが、その顔の表情は酷く険しいものを見せている。 「棗さん…遅いですわね」 少女はどうやら人を待っているようだった。少しいらついているようにも見えた。しかし、なぜ人を待っているのかは分からない。 その時、少しずつ足音が聞こえるようになった。また、その足音に遅れて微かに鈴の音も鳴っていた。それに呼応して、人を待っていた少女は構えを始めた。 やがて足音が大きくなり、少女が二人…対面したとき。 「棗鈴っ、勝負ですわ!」 鈴と呼ばれた少女は身を竦ませたが、それは一瞬だけの出来事だった。次にはもう臨戦態勢だった。 「ささみか…。おまえは毎日こんなことやって、友達がいないのか?」 「くっ……またわたくしを馬鹿にして…あなたたち!やっておしまいなさい!」 ささみと呼ばれた少女の叫びにあわせ、待ってましたと言わんばかりにどこからともなく三人の少女が姿を現した。 「佐々美様が出る幕もございません!」 「ふん、いいだろう……」 五人の少女による熱いバトルが勃発した。 ドガァッ! デュクシッ! バキィッ! バコッ! ドゴッ! ドドドドドッ! 猫? 愛? 数分後、佐々美と三人の少女は鈴に惨敗した。圧倒的な力の差が彼女たちの間にあった。 「やっぱりお前らもっと他のことに力を入れた方がいいと思うぞ」 佐々美はこれで三十三連敗目だった。佐々美はどうあがいても鈴には勝てなかったのだ。 「くぅ……」 「あたしはもう行く」 「ちょっとお待ちなさい!」 鈴がどこかへ行こうと歩き出した時、佐々美は呼び止める。鈴はそのまま立ち止まった。 「貴方は……なぜそんなに強いんですの?」 「愛だ」 鈴は振り向きもせずに、その一言だけを残して立ち去った。後に残された佐々美たちは呆然とした―― 佐々美たちは先程の鈴の言葉の意味が、どういうことなのかをはかりかねていた。 「貴方たちはどう思います?」 いつも自分についてくる、三人組の少女に佐々美は訊ねた。 「なんだかとても抽象的ですよね」 「どういう意味の愛でしょうか?」 「恋のことかもしれないかな……?」 三人の少女の内、一人が言った台詞に佐々美以外の二名は反応し、詰め寄った。 「由香里、どういうこと?」 「ゆかりん、多分恋とは違う気がする……」 「あ、え…えっと、あの棗さんと、直枝さんが最近一緒にいるからそれで棗さんが強いのかな、と思って。もしかしたら佐々美様も宮沢さんと恋をすれば……」 「ちょっと、中村さんいいかしら?」 目を瞑って三人のやりとりを聞いていた佐々美は、由香里の言葉に思ったことがあったのか途中で遮った。 「は、はい」 「宮沢様は、わたくしなんかが犯してはならない神聖な御方ですのよ?それを貴方は……」 「すみません!つ、つい……」 「分かれば宜しいですわ」 佐々美の怒る姿を見るのは珍しくはないが、彼女は謙吾が絡む事になると突然人も性格も変わる。由香里は、彼女に怒られてやはり謝る事しか出来なかった。 「しかし、結局はゼロに戻ってしまいましたわ……」 佐々美は小さく呟いていた。 「渡辺さん、川越さん、中村さん。今日もこんな時間までつき合わせてしまいましたわね……」 「いえ、佐々美様のためならたとえ火の中水の中!」 「そうです、どこまでも行けますよ!」 「いつでもお助け出来ます!」 さらに数分が経っていたが、ひとつも“愛”についての収得はなかった。 「ありがとう、そう言って貰えるだけでも心強いですわ。さあ、もうお戻りになられてよろしいですわよ」 佐々美はこんなに負け続ける自分を不甲斐無く思っていた。少しずつ、少しずつ自信が失われていた。 「おやすみなさい、佐々美様!」 三つもの声が、ひとつだけの声に聞こえた。 「はぁ…」 佐々美が部屋へと戻って来ると、早速溜息を吐いてしまっていた。その部屋にはもうルームメイトが居るというのに。 「さーちゃん、どうしたの?溜息を吐くと幸せが、逃げちゃいますよ」 溜息を吐くたびに耳に聞こえる、ルームメイトである彼女の決まり文句がやはり飛んできた。 「そうですわね」 佐々美はゆっくりと部屋に入って小毬のそれを毎度のように笑顔で答える。そして、ベッドへと転がる。 「それで、さーちゃん悩み事あるの?」 「バトルで全然勝てなくて、それで……」 「そっかぁ、えーと…じゃあ敵を知ればいいんじゃないかな?」 その言葉に佐々美はきょとんと、目を丸くした。佐々美は、こんな相談に彼女が答えてくれるとも思わなかったから。また、予想外な答えが返ってくることにも驚いたからだ。 「敵を知る事が勝利への近道だよ。さーちゃん」 小毬は笑顔でそれをいいきった。どこでその言葉を覚えたのか、佐々美は疑問に思った。だが―― 「なるほど、一理ありますわね……。それと神北さんに聞きたいことがありますの」 「なぁに?」 「愛、を知るにはどうすればいいのかを……」 今度は小毬がきょとんとした。 「う、うーん私もよくわからないなぁ」 「ですよね…」 小毬は申し訳なさそうな顔をし、佐々美は少しがっくりとした。鈴に近い彼女がこんなことを言うのならば、鈴に近づく手立てが少なくなるからだ。だが、その時小毬の顔にほのかな光が灯った。 「愛とは違うと思うんだけど…嫌いな人を好きになればなにか分かるんじゃないかな?」 佐々美はその言葉で難しい顔をし、何も言わずに考え込んだ。小毬はそんな彼女を見て、どう声をかけていいか少しだけ困っていた。 「えーと、さーちゃん?そんな難しく考えなくてもいいんじゃないかな?」 「そうですわね……神北さん、ありがとうございます」 「ううん、私はなんもやってないよ」 「まあ…とにかく寝ましょうか。もう遅いですし」 「うん」 笑顔で頷いた小毬。それに対するかのように佐々美も笑顔で小毬と笑いあった。 翌日、佐々美は渡り廊下を歩いていた。彼女はそこで、猫と戯れている鈴を見つけた。佐々美としては、丁度いいタイミングだった。 「棗さん」 「おわっ!」 猫に集中していた鈴は、突然話しかけられた事により驚いて立ち上がった。遊んでいた猫たちは何が起こったのかを知るために辺りを確認している。 「なんだ、さざんか……。びっくりさせるな」 鈴は佐々美を一瞥しただけで、すぐにまた猫と遊び始めた。しかし、また佐々美の体に目を向けた。そして、また驚いた。 「ってなんでおまえがここにいるんだ!?それに笑顔がきもいぞ?やめたらどうだ?怒ってる顔の方がとても似合うぞ」 佐々美は鈴の言葉に、その表情を崩しかけた。けれども、彼女はめげなかった。なぜならば―― 「棗さん、少しお話をしないかしら?」 鈴と話すためにここへとやって来たのだから。 [No.36] 2009/03/21(Sat) 00:28:45 |
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