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3つの魔法 (No.389 への返信) - ひみつです@11493 byte



 本日は晴天なり。空もわたしの心も晴れやかで――――と、思っていたのですが……





3つの魔法





「女の子にモテモテになりたいんだ」

 昼休みの昼食時、いつも通り木陰で休みつつお弁当を食べようとしていたわたしの横に座り込んだ来ヶ谷さんが、唐突に爆弾発言をした。

「はあ…」
「なんだその気のない返事は。あれか「そんなこと無理に決まってるじゃないですか。寝言は寝てから言ってください。ああ、白昼夢でも見ていらっしゃるんですか?それならオーケーですね。寝言でもなんでもお好きに話してください」とでも美魚君は言いたいのか!?」
「なんでそんなに自虐的なんですか…井ノ原さんもびっくりな言いがかりですよ」
「ほう、では早速女の子にモテモテになるためにはどうすればいいのか考えようじゃないか」

 何がいったいではなのか?今日の来ヶ谷さんはいつになく唯我独尊ですね。

「女の子にモテモテにならずとも、すでに直枝さんとラブラブなのですからいいではないですか」
「はっはっは。確かに私は理樹君とラブラブラブだ」

 ラブが1つ追加されてしまいました…

「だが!果たしてそれで満足しても良いものか?答えはNOだ。私はさらに上の次元を目指す!理樹君とラブラブラブし!女の子達とウハウハする!……おお、いかん。これはいかんぞ。想像しただけで鼻血がでそうじゃないか!」

 出来ればそのまま出血多量で病院送りにでもなってしまえ、と割と本気で思ってみた。

「……えーと、モテモテになりたいとのことですが、それはlike的な関係ですか?それともlove的な関係ですか?」
「愚問だぞ美魚君。無論loveloveな関係だ!」

 またloveが追加されてしまった……のはさておき。

「無理です」

 わたしは来ヶ谷さんの願いを一刀両断した。

「嫌だ駄目だ諦めん」

 しかし斬り返された。

「…我が儘です」
「人間そうでなくては生きることがつまらんさ」
「独裁者です」
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
「ヒトラーです」
「生憎と私は女だ」
「あっ、小毬さんのパンツが見えます」
「ふむ、それなら今日だけで23回確認している。その程度でおねーさんの気は逸れたりしないぞ」

 ……はぁ、そんな訳ないでしょう、とため息を1つ。

「つまり、真面目に考えなくては諦めてはくれない、と?」
「イエス、アイムヒトラー」

 どっちやねん、ずゅべしっ。

「そうですね……来ヶ谷さん顔はいいのですから、片っ端から声をかければ誰か引っかかるのではないですか?」
「大変失礼なことを言われた気もしたが…まあいいだろう。実は美魚君が提案したことはもうすでに試したことがある」
「駄目だったのですか?」
「ああ、なぜか皆「人気のない場所でゆっくりと話しをしないか?」と聞くと必ず逃げてしまうんだ」
「だって来ヶ谷さんエロいですから。目つきとかヤバいです。もう犯罪者一歩手前って感じですし、皆さんが揃って逃げるのも納得ですね。わたしでもそうしますから」
「……美魚君、おねーさんは今大変傷ついたよ」

 ズーン、という効果音が来ヶ谷さんの背後に浮かんだのが見えた。

「そ、そうですか…すみません、ただ思ったことを言っただけなのですが…」

 コホン、と咳払いを1つ。

「それでは、学園外で声をかけるのはどうでしょう?来ヶ谷さんの本質を知らない人ならばコロッといくかもしれませんよ?」

 物は試しと違う案を出してみましたが、なぜか来ヶ谷さんの冷たい視線がわたしに突き刺さりました。

「あ、あの…何か問題がありましたか?」
「……美魚君、問題がないか?だと」
「は、はい…」
「大有りに決まっているだろう!初対面の人間に対して「人気のない場所でゆっくりと話しをしないか?」などと言ったらお巡りさんのご厄介になってしまうじゃないか!」

 問題があるのはあなたの発言です。自業自得です。監獄で反省してください。
 と、内心で三段式ツッコミを披露してはみたものの、実際に口に出すと話がややこしいことになりそうなのでグッと我慢します。

「取りあえず、来ヶ谷さんが自身の変態性を自覚していらっしゃるようで一安心です。もしも無自覚だったらこのわたしの携帯の一番最初に登録されているヒトヒトマル番に連絡しなくてはならないところでした」
「ちょっと待て。なぜそんな番号が登録されている!しかも一番にだと!?美魚君、何か面倒事にでも巻き込まれたのか!?許せん…許せんぞ犯人め!美魚君は私のものだというのに!」

 巻き込まれたと言うか、現在進行形で巻き込まれています。しかも犯人は目の前にいます。
 この状況、どうするべきでしょうか?本当にヒトヒトマル番に連絡した方がいいかもしれません。

「来ヶ谷さん、軽いジョークなのでそこまで熱くならないでください。正直引きます」

 本能が危険信号を送ってきたので思わず携帯を取り出しかけましたが、なんとか自制することが出来ました。良かったです。

「……美魚君。さっきから妙にチクチクと言葉が暴力となって突き刺さっているとおねーさんは思うのだが、どうだろうか?」
「気のせいでしょう。さて、それでは次の案ですが…」
「スルーか!?スルーなのか!?」

 正直この不毛な会話を始めた時点でスルーしなかっただけ有難いと思ってほしいところです。

「ともかく、最後の案になりますので心して聞いてください」
「ふむ。案は全部で3つか…多いのか少ないのか…」
「わたしはベストだと思いますよ。人間というのは3つの独立した変数まで理解し易い、とされているそうですから」
「脳は3次元空間で構成されているものだから、だったかな」
「はい。それに3という数字は中立という意味で使われる事も多いそうです。第三者・三人称などがそうですね。ですから、わたしの立場的には案を出すのは3つまでが適切かと…」

 ……話がどんどん脱線してしまいました。いい加減この不毛な会話を終わりにしてお昼ご飯を食べたいです。

「さて、話を戻します。モテモテになりたい的な話題の最終形になってしまいますが、惚れ薬とかはどうでしょうか?」
「私のモテモテ計画はファンタジーの世界でしか成し遂げられんと言いたいのか…」
「い、いえ…そこまでは…………あ、でも作り方が分からないのでファンタジーの世界でも不可能かもしれませんね」
「ファンタジーにリアリティを求めた会話をしないでもらえるか?夢がなくて私は好きじゃない」

 はたして来ヶ谷さんがモテモテになりたいというファンタジックな夢物語を真剣に議論していることはオーケーなのでしょうか? 

「しかしですね、来ヶ谷さん」
「なにかな?」
「今現在わたし達が存在しているこの世界は、ファンタジーの世界そのものではないでしょうか?」


 一瞬の静寂。


「ふむ、言われてみればそうかもしれないな。たくさんの人の思いにより生まれた世界。奇跡の世界、か」
「この世界がファンタジーなら、奇跡というよりは魔法の、と言った方が適切かもしれませんね」
「はっはっは。確かに」

 お2人だけでも助けてあげたかった。だけど、わたしにはなんの力もなくて、何も出来なくて、それでもお2人には助かってほしかった。その筈だったのに……

「来ヶ谷さん、わたしは最近になって思うんことがあるんです……いえ、正確には神北さんが消えてから、ですが」

 一番最初に消えていったあの人は最後まで笑顔だった。辛い筈なのに、苦しい筈なのに、悲しい筈なのに、寂しい筈なのに……笑顔だった。

「直枝さんと鈴さん。お2人はまるで物語に出てくるアリスみたいではないですか?不思議な国に迷い込んで、最後には目を覚まして、不思議な国は無くなってしまいます。その世界で暮らしていた事実も、仲間達と過ごした日々も、乗り越えた困難も。全てが無かった事になってしまう。お2人は、あの物語に出てくるアリスそのものなんです…きっと」

「この世界を創った魔法はAlicemagicという訳か」
「はい……そんな気がして…仕方ありません…」

 だから、わたしには神北さんが笑っていられた理由がなんだったのか分かりません。わたし達のしている事は所詮夢を見ていられる時間を長くしているにすぎなくて、行き着く先はもう決まっていることなのですから…

「小毬君は最後まで笑っていたな」

 わたしの心の声を読んだかのように、来ヶ谷さんが口を開きました。

「小毬君だけではない。葉留佳君も、クドリャフカ君も、皆笑っていた」

 今はもういない人達。彼女達は皆、満足そうな笑顔を浮かべながら舞台から降りていきました。
 もう、この不思議な国に帰ってくることはありません。もう、会うことも…ありません。

「美魚君は言ったな。理樹君と鈴君はアリスのようだと。では私達はいったいなんなのだろうな?」
「アリスの夢の中だけの仲間達……でしょうか。魔法がとけ、夢が終わればただの記憶です」

 わたしの言葉に来ヶ谷さんは静かに首を横に振りました。

「私はそうは思わない。アリスと仲間達は全員で物語を作ったわけだが、はたして私達はどうだろうか?確かに辿り着くゴールは1つしかなくて、私達は全員でその場所を目指している。だが、だ。それでも私達はアリスの仲間とは思わん。小毬君も葉留佳君もクドリャフカ君も、それぞれの物語を持っていた。皆がこの世界で主役でありヒロインだった。私達はアリスの仲間ではない。限られた時間の中で輝く――――シンデレラだ」

「プッ」

「待て待て待て!今のは笑うところではないぞ!」

 だってシンデレラって……面白すぎます。

「来ヶ谷さん、ナイスジョークです」
「いやだからジョークを言ったつもりはないのだが…」
「ふふ、ではあれですね。わたし達にかけられた魔法はCinderellamagicですね」
「美魚君、私は真面目な話しをしているの…」
「いいじゃないですか」

 来ヶ谷さんの言葉を遮るように言葉を被せます。

「真面目な話はなしにしましょう。どの道わたし達は不思議の国の住人であれ、シンデレラであれ、人形であることには変わらないのですから。魔法が切れるその瞬間まで、なんの意味も持たない不毛な会話を楽しみませんか?」
「ふむ……そうだな。それでいいのかもしれないな。物語の結末は旧メンバーに任せて、おねーさん達は魔法が切れるまでせいぜい楽しませてもらおうか」
「はい。12時の鐘が鳴る時までは…このままでいたいです」
「ああ、こうして美魚君と話す時間は楽しくて仕方がない。願わくばまたこうして……」

 その先を来ヶ谷さんは言いませんでした。それが答えなのでしょう。来ヶ谷さんにかけられた魔法はもう…

「さて、少し長居し過ぎた。すまんな昼食時に」
「いえ、構いません。それより良かったのですか?来ヶ谷さんモテモテ計画が中途半端なままなようですが?」
「なーに、よくよく考えてみれば私は理樹君とラブラブラブラブなのだからわざわざモテモテになどなる必要はなかったのだよ」

 えーーー。なんかもう色々ちゃぶ台返しです!しかもラブが更に1つ増えました!この短時間に来ヶ谷さんの脳内では何が起こったというのですか!?

「はあ…実に不毛な会話でしたね」
「うむ。そして実に楽しい会話だった」

 そう言って来ヶ谷さんは立ち上がり、木陰から出ました。どうやら、楽しかった時間の終わりが近づいているようです。

「邪魔をした」
「はい、すごく邪魔でした」
「…むう、まったく……美魚君は最後まで容赦がないな」
「わたしはわたしですから。変わることなんてありえませんよ……変わりたいとは、思っていますけど」

 わたしの言葉に来ヶ谷さんはふむ、と思案顔で何かを考え込んだようでしたが、やがて笑顔を浮かべながら口を開きました。

「さっきの3という数字についての話ではないが、もしかしたら私達全員すでに3つ目の魔法にかかっていたのかもしれないな」
「3つ目…ですか?それはいったい…」
「はっはっは。わざわざ口にする必要はあるまいよ。幸せなシンデレラのたんなる独り言に過ぎん」

 それでは、と言って来ヶ谷さんはスタスタと軽やかな足取りで去って行きました。
 去っていく来ヶ谷さんの姿が見えなくなるまで見送った後、自分が昼食をとっていなかったのを思いだし慌ててお弁当箱を見ると――――鳥達に中身を全て食べられてしまっていました…

「……ガッデム、無念です」

 残りの休み時間やることがなくなってしまいました…。
 ふぅ、と一息吐いて来ヶ谷さんとの不毛な会話を思い出します。
『私達は――――シンデレラだ』
 ……面白すぎます。爆笑ものです。どんだけー、みたいな。でも、来ヶ谷さんの口からそんなメルヘンチックな言葉が出てくるとは思いませんでした。

「シンデレラですか…」

 わたしは綺麗なドレスもガラスの靴も持ってはいないけれど、いつか…いつか手に入れる時がくるのでしょうか?来ヶ谷さんのように、消えていった皆さんのように。
 だけど、わたしはまだシンデレラになりたくありません。まだ、この不思議な国にいたいから、どうかもう少しだけわたしに時間をください。残された時間で自分に出来ることを見つけたいんです。
 非力で脆弱で独りじゃ何も出来ないわたしですが、変わりたい、強くなりたい、そして自分に出来ることをしたいんです。先に行ってしまった皆さんは、もう何も出来ませんから……いつかこの不思議な国から旅立つ時に、皆さんと笑顔で再会出来るように、わたしは1日1日を精一杯過ごしながら、12時の鐘が鳴るのを待つことにします。
 そんな事を、去って行った来ヶ谷さん、そして消えていった皆さんを思いながら、胸に秘めました。


 でも、変わりたいと、強くなりたいと、そう口で言うのは簡単です。けど実際はそう簡単に人は変われなくて、強くなんてなれない。それが現実です。
 いつだって現実は辛いことばかりで泣きたくなる時もありますが、そんな時はあの人からもらったあの言葉を呟きます。


「…よおーし今日も頑張るよー、と…」


 呟きながら見上げた空は、いつの間にか雨雲が見え始めていた。


[No.392] 2009/09/11(Fri) 17:54:04

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