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all 第41回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/09/10(Thu) 21:41:10 [No.389]
筋肉魔法 - ちちここくく@1844byte - 2009/09/12(Sat) 21:32:40 [No.410]
ぞうじるしと出かけよう - ちこく@5581 byte - 2009/09/12(Sat) 17:51:34 [No.408]
魔法少女参上! - ひみつ@21162 byte 遅刻で容量オーバー - 2009/09/12(Sat) 00:35:55 [No.406]
しめkり - しゃしゃい - 2009/09/12(Sat) 00:25:56 [No.404]
[削除] - - 2009/09/12(Sat) 00:33:32 [No.405]
エンドロールはいらない - ひみつぅ@9.746バイト - 2009/09/12(Sat) 00:13:34 [No.403]
恋と魔法と色欲モノ。 - ひみつ@6947 byte - 2009/09/12(Sat) 00:11:10 [No.402]
ペパーミントの夜明けに - ひみつ@2450 byte - 2009/09/12(Sat) 00:10:13 [No.401]
[削除] - - 2009/09/12(Sat) 00:02:58 [No.400]
初雪にざわめく街で - ひみつ@9968byte - 2009/09/11(Fri) 23:59:32 [No.399]
魔法入りの瓶 - ひみつ 4037byte - 2009/09/11(Fri) 23:55:22 [No.398]
瓶詰めの魔法 - ひみつ@8789byte - 2009/09/11(Fri) 23:45:29 [No.397]
ファイナル猫耳魔法少女ライドゥ・リリリリン! - 私が魔法少女だってことはみんなには秘密なの!@2110 byte - 2009/09/11(Fri) 22:35:11 [No.396]
True Beautiful - ひみつ@20442 byte - 2009/09/11(Fri) 22:01:50 [No.395]
願わくば - HI★MI★TUUU★@7655 byte - 2009/09/11(Fri) 21:13:21 [No.394]
魔法の言葉は届かないから - 秘密@ 10613 byte - 2009/09/11(Fri) 19:27:38 [No.393]
3つの魔法 - ひみつです@11493 byte - 2009/09/11(Fri) 17:54:04 [No.392]
Heavenly - ひみつ@9263 byte - 2009/09/11(Fri) 02:26:38 [No.391]


True Beautiful (No.389 への返信) - ひみつ@20442 byte

私は恋をしてしまいました
とても突然に。しかし恐らく必然に
こうなる運命だったのか。あるいは魔法にかかってしまったのか
朝も昼も夕方も夜も、ご飯の時もお風呂の時も、果ては読書の時にまで
あの人の事が頭から離れません
西園美魚は
井ノ原真人さんに
恋してしまいました

あの時の事ははっきりと覚えています

とある良く晴れた日の練習
いつものバッティング練習が始まります
鈴さんがボールを投げ、直枝さんが打ち、他の皆さんが守るいつもの練習光景でした
私はいつものように木陰で読書をしていましたが

さぁっ、突然悪寒が走りました
ぱっと顔を上げると
直枝さんが打ったボールが一直線に私に飛んできました

とても永い一瞬
迫り来るボール
恐怖のあまり目を瞑る事も出来ませんでした

刹那

パァン!!

目を瞑れなかったお陰でその瞬間を目に焼き付ける事ができました

迫り来るボールを、井ノ原さんが、懸命に左手を伸ばし、私を守ってくれたのを

「ケガねぇか?」
井ノ原さんが私に聞きました
「は、はぃ…」
「そっか。よかったぜ」
井ノ原さんは無邪気にニカッと笑いました

ドクン

私の心臓が跳ね上がります

「ないすきゃっちだ真人」
「おう」
「ありがとう真人。ごめんね西園さん」
「は、はい」

井ノ原さんは練習に戻って行きました
私の心臓はそれからもずっと治まることを知りません


夕暮れ
練習も終わり、片付けが始まります
意を決して私は井ノ原さんに話しかけます
「ぁ、あの、井ノ原さん…」
「ん、なんだ?」
「あの…先程はありがとうございました」
「おぉ、良いってことよ。きにすんなって」
ちょっと照れくさそうに笑う井ノ原さん
「本当にありがとうございました。当たっていたら…」
「そんなときこそ筋肉だぜ。西園」
「…?」
「筋肉がありゃ、飛んできたボールもキャッチ出来るし、当たっても痛くねぇぞ」
…痛いと思います
「ほら、筋肉、筋肉ぅ!」
謎のポーズで私を誘います
…一緒にするべきなのでしょうか…しかしやはり恥ずかし―

バキッ

「みおを変な道にひきずりこむな」
鈴さんのキックが井ノ原さんをとらえます
「すいません…」
子供のように謝る井ノ原さん
「いえ、そんな…」
おーい、片付けやれよー
遠くで恭介さんの声が聞こえます
「おっと忘れてた」
私もトンボ掛けに加わろうとすると
「あっ、俺やる」
すでにトンボを持っている井ノ原さんに取り上げられました
「あ、いいですよ、そんな…」
「いいのいいの、任せとけって」
「でも二本…」
「ふっふっふ、二本あるという事はな、二倍の速さになるという事だ!」
確かにそうなんですが…
「むっ、二本も持っているのか。ならば」
宮沢さんが近くにいた神北さんと能美さんからトンボを取り
「俺は三刀流だぁ!」
右手、左手、そしてお腹に一本ずつ持つ宮沢さん
そのままトンボを押して掛ける宮沢さん
ですが
出っ張っている石にでもぶつかったのでしょう。お腹のトンボが
「ごばあぁっ!」
宮沢さんのお腹にトンボが深々と突き刺さりました
「大丈夫か!謙吾!」
ガラガラとトンボを引きながら宮沢さんの元に駆け寄る井ノ原さん
いつもならマネージャーとして宮沢さんに駆け寄っていたか、怪我をした宮沢さんに駆け寄る井ノ原さんに萌えていたところでしょう
しかし私は井ノ原さんの優しさで頭が一杯でした
そして同時に
私は井ノ原さんに恋してしまいました


今は昼休みの中庭
いつもの木陰に向かいます
これからどうすれば良いのかを考えるために
おそらく好きなのなら告白をするべきなのでしょう
…私が?
井ノ原さんとおよそ対極に位置するような私が?
恐らく周りの人々には「似合わない」と言われるでしょう
そういえば井ノ原さんには好きな人はいるのでしょうか?
…そもそも井ノ原さんは恋という物を知っているのでしょうか?
「俺は筋肉に恋してるんだ!!」
…不吉な電波を受信してしまいました

では私は諦めるべきなのでしょうか?
いやです。絶対に
今こうして井ノ原さんの事を考えるだけで胸が熱くなります
妄想が出来ないほど頭の中が井ノ原さんの事でいっぱいです
井ノ原さんの笑顔を思い出すとこの上なく幸せな気持ちになります
すごくすごく

甘いあーまいものっでっすっ イェイ!

イェイ!で思わずピースサインを敬礼のようにしてしまうのは何故でしょうか


「何やってんだ?西園」
振り替えると不思議そうな顔をした井ノ原さんがいました


〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!
脱兎のごとく逃げ出す私
「あ、おーい」
井ノ原さんが私に声を掛けますが私はそれどころではありません
慌てて走っていると転ぶのは必然というかお約束のようで

ずべしゃ、と神北さんばりのすってんこまりん
「大丈夫か!?西園!?」
井ノ原さんが駆け寄って来て私の顔を覗き込みます
「は、はぃぃ…」
声がどこかへ逝ってしまいました
「えーっと…ほい」
井ノ原さんが右手を差し出します

て、手を握れと!?
そ、そんな告白どころか想いも確かめあっていないというに…意外と強引な方な
のですね…
…いや、確かめあうどころか下手したら一方的な―

「どうした?手も動かせないくらい痛いか?」
「ぁ、ぃぇ、大丈夫です…」
「ん、なら立とうぜ」
…あ、そういう事ですか
恐る恐る手を伸ばすと

バクン!
井ノ原さんの手に触れた瞬間胸が破裂しそうになりました
そして暖かくて大きな掌が優しく私を起こしてくださいます
「大丈夫か?」
「…はぃ」
すっ、と手が離れます

「ぁ…」
思わず声が出てしまいます
できればもっと…
「おーい」
「は、はい」
「えーっと、さっき何やってたんだ?」

!!
えーっとえーっと…

「な、なんでもないです」
「…そうなのか?」
「はい、なんでもないことです」
「んー、ならいっか」
…なんとか誤魔化せたようです
「いやーびっくりしたぜ。声かけたらいきなり走り出して。しかも転けるしよぉ」
「…すいません」
「謝る事じゃねぇよ。それより」
大きな身体を屈め、井ノ原さんは私の顔を覗き込みます

ドキッ

「なんか悩み事でもあんのか?」

ナヤミゴト…
例えば井ノ原さんの事が好きな事などでしょうか…
いや、まさにその事なのですが…しかし、この事は言えません。なんと言えば…
「いや、なんとなーくだから悩んでないならいいけど、悩んでるならな」
井ノ原さんが私に語り掛けます
「体動かすのが一番だぞ?」
「…体を動かすですか?」
「そうだな、例えば」
例の謎のポーズで
「筋肉筋肉ぅ!!筋肉筋肉ぅ!!ほら一緒に!」

〜〜〜っ!
ど、ど、ど、どうすればっ…
「筋肉筋肉ぅ!!筋肉筋肉ぅ」
…ご一緒するしかないようです…
「…き、きんにく…、きんにく…」
は、恥ずかしい…
「おらあ!声小せぇぞお!筋肉筋肉ぅ!!」
こ、これ以上なにを求めるのですか…
井ノ原さんは鬼畜です…
「…きんにく…きんにく…」
「おっ、さっきよりものってきたじゃねぇか。筋肉筋肉ぅ!!」
「…すいません…もう限界です…」
「なにっ!…まぁいっか。良く頑張ったぜ、西園」
誉められました

ドキッ

「あ、ありがとうございます…」
「まぁ、そんな感じで体動かしてみろ。悩みなんて吹っ飛ぶぜ」
ニッと笑う井ノ原さん
本当に悩みなんてなさそうな井ノ原さん
悩みがないことが悩みといった感じでしょうか
どうなんでしょう
「あ、あの、井ノ原さんは…」
思い切って聞いてみます
「悩みがないことが悩みですか?」

あれ?

! 間違えてしまいました…
悩みがあるかどうか聞こうとしたのに…

「いや、違う悩みならある」
…通じたようです
「えっと、どんな…」
「うー、ちょっと言い難くてよぉ」
「言いにくいのですか?」
「んー、こればっかりは吹っ飛ばせねぇんだよ」
頭をかく井ノ原さん
あまり突っ込まないほうがいいのでしょうか…

「んじゃな、後で」
「あ、はい」
後ろを向き、片手を挙げ、今来た道を戻って行きました

井ノ原さんの悩みは何なのでしょうか
そういえば先程来た方へ井ノ原さんは行きました
いったい何をしようとしたのでしょう

「悩んでるならな、体を動かすのが一番だぞ?」
身体を動かす…

ひらめきました
やはり体を動かすのが一番のようです。井ノ原さんの言っていた意味とは違いますが


まだ誰もいない早朝
私はこの時間に井ノ原さんが外に出て、運動をするのをつきとめました
いつもの木陰で座って待ち構えます
遠くから足音が聞こえます
おそらく井ノ原さんでしょう

ミッションスタート!

「あれっ、西園じゃねえか。はよー」
「おはようございます」
「珍しいなこんな時間に。西園もトレーニングか?」
「いえ、そういう訳では」

よし、今こそ―

「なぁなぁ、そういやさぁ」
先制攻撃されました…
「…あ、はい。なんでしょう」
「この間転んだじゃん」
「…はい」
「良くケガしなかったな」
「え?」
「だってよぉ、見た感じ擦り傷もなかったし、打ち身とかもなさそうだったじゃ
んか」
確かに派手な割りには怪我は一つもありませんでした
「確かに怪我はありませんでした」
「良いよなー、それって体が柔らかいからなんだぜ?」
そうなんでしょうか…確かに固くはありませんが
「たぶん筋肉が少ないからだと思います」
「そうなのか?」
「筋肉が少ないと、固い部分が元々無いというか…」
「なにぃ!そうなのか!」
「はい。確かではありませんが…」
「うおおぉぉ!!俺の筋肉は無駄だってことかあ!!」
頭を抱え天に向かって叫ぶ井ノ原さん
「い、いえ、無駄と言うことは…」
ど、どうしましょう…
当初の予定とは全く違う方向に暴走して行きます
取りあえず井ノ原さんをなだめないと…

「あ、あの、井ノ原さん」
「うがあぁぁ!!…ん?」
「その…井ノ原さんは身体が固いのですか?」
「いや、そんな事ないぜ」
ニッと笑って

私 の と な り に

長座で座り前屈をしました

〜〜〜〜〜っ!!!!!!
「ぁ、ぁ、ぁぅ、ぁの…!」
「ほら柔けぇだろ?」
本当です。軽々踵をつかんでいます

じゃっなくて!
「ぁぅ、の、ぁ、のっ」
私の声はどこへ逝ってしまったのでしょう
「ん?なんだ?」
「あ、ぁの…な、なぜ、わた、私の、ととと、となっ…」
「なんでわざわざお前のとなりに座ったかって?」
「は、い」

「お前の事が好きだからにきまってんだろ」

………?

今なんと?

「だから好きだっつってんだろ」


〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!!!!!!!!!

き、聞き間違いではありません
今、今…

「前から言おうとしてたんだけどよぉ。…その、なかなか言い難くてよぉ」

前にも聞いた台詞…確か中庭で…悩み事

「悩み事…」
「そうそう。でな、西園」

「お前は俺の事好きか?」

私も
井ノ原さんの事が好きです

口が動きません
怖くて怖くて
まるで魔法にかかったように

「でもな」
井ノ原さんが言います
「嫌だったらそう言ってくれ」
…え…?

「無理矢理に好きだって言わせても、それはなんか…違うだろ?」
確かにその通りです
「それにな」
俯く井ノ原さん
「なんつーか…不安なんだよ」
不安…?
井ノ原さんには似つかわしくない言葉

「俺らってさぁ、なんつーか…真逆っつーか…。あー!解んねぇ!」
頭を掻きむしる井ノ原さん
「俺は筋肉。お前は本。俺は活発。お前は大人しい。こんな感じで解るか?」

解ります
私も同じことを悩んでいたから

「ようするにだな、正直に言ってくれや」

ようするにの使い方が違います
ちょっと失礼ではありますが、こういう時に可愛いなと思ってしまいます

そんな可愛いさも 時おり見せる子供っぽさ 無邪気な笑顔 さりげない優しさ そしてたくましさ

「井ノ原さん」

魔法が解けました

「私は井ノ原さんの事が大好きです」


ニッカー!と微笑む井ノ原さん。拳を挙げ
「よっしゃあぁぁあ!」

叫び声が響き渡ります
今はまだ早朝なのですが…まぁ突っ込まないでいましょう

ひょいっ
体が暖かな手で持ち上げられます

! こ、これはっ…
「女はこうされるのが夢だって聞いてな」
お姫様抱っこ
軽々と私を持ち上げる井ノ原さん。凄いです

〜〜〜っ!!!
「ち、ちょっ…!」
「ん、なんだ?夢じゃないのか?」
「う、嬉しいですけど…」
「おし、んじゃ行くか!」
「え、えっ、ちょ…ひゃあ!」
走り出す井ノ原さん
ちょっ、待ってください!いくらなんでも―

ずさーっ
滑りながら止まる井ノ原さん
慣性の法則で吹っ飛ばされそうになりますが井ノ原さんが力強く抱き止めてく
ださいます
「おらおらおらぁ!!」
だから早朝ですってば!

トップスピードで角を曲がります。こ、恐い…!
振動が直に伝わり風を切る音が耳元でびゅうびゅうと吹いています
恐くて声も出ません

走ること数分。いえ、もっとかかったかもしれません
ようやく歩き出す井ノ原さん

「ん?どうした、顔赤いぞ?」
「…当たり前です。誰かに見られたら…」
「こんな朝っぱらには誰もいねぇだろ」
確かにそうなのですけど…あの叫び声に誰かが起きたらどうする気だったのでしょう…

元の木陰に戻って来ました。でも井ノ原さんは私を降ろそうとしません
「…降ろさないのですか?」
恐る恐るたずねます
「もうちょっと」
「あの…重くないですか?」
「軽い軽い」


強く私を抱き寄せる井ノ原さん
私も井ノ原さんの首に手を回し強く抱きつきます



「おぉ!うまそう!いただきます!」
「ど、どうぞ」
ドキドキ
「ん!うめぇ!」
「ほっ、本当ですか?」
食べながら井ノ原さん頷きました
桜が見頃だということで二人でピクニックに来ました
ベンチに座り舞い散る桜を見ながら私の作ったお弁当をガツガツと食べる井ノ原さん
こうなることを予想して食べ易い物にしておいて正解でした
みるみるお弁当が無くなっていきます。もう少しゆっくり食べて欲しかったのですが…

「ふぅ、ごちそうさまでした」ちゃんと手を合わせる井ノ原さん
「お粗末さまでした。あの、どうでした?私のお弁当…」
「めちゃくちゃうまかった」
ニッ ドキッ
…相変わらず井ノ原さんの笑顔は凶器です

「綺麗ですね」
「あぁ」
二人で同じベンチに座りながら桜を眺めます
微妙に距離を保ちながら
恋人同士ならば寄り添うのが普通なのでしょうが…まだちょっと恥ずかしいです
「ふあ…、眠くなってきちまった…」
「そうですね、こんな陽気ですし」
「うまいもん食べちまったしな」
「…お腹がいっぱいになったということですか?」
「それもあるけどうまかったからな」
なんでこう恥ずかしい事をさらりと言えるのでしょう…
ふあぁ。大きなあくび
「眠たかったら寝てもいいんですよ?」
「んや、デート中に寝るのはダメだろ」
「いえ、良いですよ」
「んー、わりぃ…寝る」
目を閉じる井ノ原さん

すーっ すーっ
ってもう寝ています。まるで小さな子供のように
…可愛いです

井ノ原さんの寝顔を見ているうちに私も眠くなって来ました

ほんの少しだけ
井ノ原さんに近づいて
私も目を閉じます


ふわっ
春の風に目が覚めます
一面の桜吹雪
「すごい…」「すげぇ…」
井ノ原さんも起きていたようです
あれ?顔が暖かい…

〜〜〜〜っ!!!!
井ノ原さんの肩の上に私の頭が
私の頭の上に井ノ原さんの頭が
まるで恋人のように折り重なっています。いや、恋人なのですが…
「ぁ、あ、あのっ…」
「もうちょっと」
「…はい?」
「気持ちいいからもうちょっと」
「…ぇ?…え!?」
こ、この羞恥地獄に耐えろと!?
誰も来ないように
でも
出来るだけ長くこのままいられますように
ちょっとだけそんな事を願いながら
私も目を閉じます



後ろに蝉の声を聞き、前にさざ波を聞き、私達は防波堤に座っています
何故泳がないのか
それは井ノ原さんが水着を忘れたからです

「うー、本当にわりぃ」
「良いですよ。こうしているのも悪くありません」
水着は少し恥ずかしいですし

「何消極的になってんのよお姉ちゃん。」
後ろから声がします
「み、美鳥っ!」
「良いじゃないの水着になって井ノ原くんをメロメロにしちゃえば。と、はじめ
まして井ノ原くん」
きょとんとする井ノ原さん
「あの…言い忘れていましたがかくかくしかじか…」
「あ、そうなのか」
「あれ、理解できた?」
「全然」
「あはは!やっぱりお馬鹿だ!」
「こ、こら美鳥…」
「馬鹿は馬鹿でも筋肉馬鹿だ!」
「ようするにお馬鹿?」
「いや、筋肉だ」
「なるほど」
「…解ったのですか?」
「お前良い奴だな。流石西園妹」
「うん。井ノ原くんも良い人だね。お姉ちゃんがゾッコンなのもわかるなぁ」
うんうんと一人納得する美鳥
「…何をしに来たのですか?」
「あ、怒ってる?ごめ〜ん二人の甘い時間割り込んで。でもちゃんと井ノ原くん
を見たかったのよ。お姉ちゃんのラブラブフィルターを通さないで」
何ですかラブラブフィルターって
「うん。面白そうな人だし。本当に凄いガッチリしてるから。お姉ちゃんの事
守ってくれそう」
「おぅ、筋肉ならここにあるぜ」
ムキッと井ノ原さんの腕が盛り上がります
「すご〜い。うん。妹としても安心かな。お姉ちゃんをよろしくね」
「おうよ」
「美鳥…」
「お姉ちゃんも頑張ってね。しっかりしなかったら」
ピトッと井ノ原さんに引っ付く美鳥
「こんな風に取られちゃうよ?」
「み、美鳥っ!」
「今取っちゃおっかな〜。ねぇねぇ真人くん」
下の名前っ…!
「抱っこして?お姉ちゃんにしたみたいに」

ドクン

「いや、出来ない」
「え〜、何で〜」
「この筋肉特等席は西園専用だからな」
「ぶ〜、このラブラブカップルめ」
「美鳥!井ノ原さんから離れて下さい」
「…ごめんなさ〜い」
素直に離れる美鳥
「ごめんね。冷やかしたりして。お姉ちゃん、今くらいしっかりしているば大丈
夫だよ」
「心配すんなって、西園妹」

私を抱き寄せる井ノ原さん

「オレがずっと西園の側に居れば良いんだろ?」
「うわ〜凄い殺し文句。天然でこれかぁ。うん。側に居てあげて。おっと、時間
切れかな」
すっ、と薄くなる美鳥
「それじゃまたね。お幸せに」
そして夏の風に消えて行きました

「お騒がせしてすいません」
「良い奴だな。あいつ」
「ところであの…何時まで…」
「もうちょっと」
「…前にもその台詞は聞きました」
「気にすんなって」
確かな存在感。何故かあまり暑さを感じません。こんなに近くに居るのに
魚が水の中で居心地が良いように
私もここの居心地が良いようです



「…そんなに買うのかよ」
「…あと2冊ほど…」
既に10冊ほど持っている私はよろよろしながら答えます
「ほら、持ってやっから取ってこい」
「…はい」
軽々持つ井ノ原さん
頼れる事この上ありません

「大丈夫ですか?」
「朝飯前だぜ」
「今は夕方前です」
「んじゃ夕方前だ」
段々傾いてゆく陽射し。赤くなる空
「ちょっと休みますか?」
「おう、喉乾いたしな」

私の本で両手が塞がっている井ノ原さんの分も持ちながら小高い丘の公園のベン
チに座ります
「本どこ置く?」
「地面で良いですよ」
「紙袋破けっぞ」
後ろの芝生に置いてくださいます。その代わりといっては何ですが井ノ原さんのジュースを空け―
ぶしゃ〜〜…
「う、あ…」
た、炭酸ジュースだったのですか…
「おいおい、ちゅーしろよ」


〜〜〜〜〜っ!!
「い、いま、今なんと…!」
「ん?だからちゅーぃしろよ」
き、聞き間違いでしたか…
「あ、もしかして、ちゅーいがちゅーになってたか?」
ガクガクと頷きます
「ほら書いてあんだろ『注意してお開け下さい』」
「…すいません」
運動をしている方は炭酸を控えると聞いたことがあったので…


「んで、するか?ちゅー」
〜〜〜っ!!
「嫌なら良いけど」
「い、嫌ではありませんが…」
「ならするか?」
「…井ノ原さんは恥ずかしくはないのですか…?」
「恥ずかしーに決まってんだろ」
よく見ると頬が少し赤くなっています
「井ノ原さんが顔を赤くしたの初めて見た気がします」
「おめーこそ顔真っ赤じゃねえか」
井ノ原さんも私を見つめます

少しずつ少しずつ近づきます


残り10pで止まってしまいます

「「ぶはぁっ!」」
二人同時に息切れしました
「はぁ、はぁ、すいません」
「はぁ、はぁ、わりぃ」
「はぁ、…やはり少し恥ずかしいです…」
「んー…、そうだ!目ぇ瞑れば良いんじゃねえか?」
「あ、はい」

ある程度近づいてから目を閉じ勘を頼りに近づいてみます


あれ?ここら辺だった気が…

思わず目を開けてしまいます
二人同時に
「ぉわっ!」「ひっ!」
思わず離れてしまいます
「うー本当にわりい」
「ごめんなさい…」
キスってどうするんでしたっけ…
「おっ」
井ノ原さんの声につられ前を見ます

空の向こうに沈んで行く夕陽 近くで聴こえる虫の音色 優しく吹き上げる風

「…秋ですね」
「あぁ。っと、秋といえば」
「筋肉の秋」「読書の…え?」「ミスった。運動の秋」
二人で笑います
「考えてる事違いすぎだろ。オレら」
「本当ですね」
「なのに何で付き合ってんだろうな」
笑いながら言う井ノ原さん
でも私は真面目な顔で
「それは私は井ノ原さんの事が大好きだからです」
井ノ原さんも真面目な顔に
「もちろん、オレも大好きだぜ。西園」
見つめ合い
ふっ、と笑顔になる私達

近づいて

キス


「なんであんなに覚悟した時は出来なくて今は出来んだろうな」
「キスをするには告白が必要だからです」
「そうなのか。…って先言えよ」

色付いた銀杏の並木を手を繋いで歩いて帰ります



「どうぞ。クリスマスプレゼントです」
「おぅ。サンキュ」
リボンを取り、袋からプレゼントを取り出します
「おぉ〜」
お手製の赤いヘアバンドに歓声をあげてくださる井ノ原さん
「嬉しいぜ。今のは少し小さくなっちまったからな」
「すいません。頭を出して下さい」
今までのヘアバンドを取り、私のヘアバンドを着けてあげます
「どうですか?」
「おっ!ぴったりだぜ!流石西園!」
良かった。目測が合っていたようです
「古いのどうすっかな」
「あ、リストバンドにでもしますか?私作ります」
「おっ、マジで?ありがとうな」
「いえ、どういたしまして」

「さて、次はオレだな」
袋をテーブルに置きます
「オレ製マッスルエクササイズドリンクだぁ!」
「…………………………………………「ごめんなさい嘘です許して下さいもうしませんお願いだ
から何か言ってください」
「………」
「あーもー、悪かったよ。違うからどうぞお開けください」
「ありがとうございます」
「切り替え速えぇなおい」
開けてみると
「…え…?」
「まさかプレゼント被るとは思わなかったぜ」
「いや、ヘアバンドとリボンは違います」
「使い方は一緒だろ?」
新しいリボン
今までのとは少し色が違います
「その色な、西園が顔赤くしたときの色なんだぜ。色の“ついひ”が綺麗だからな」
「そ、そうなんですか?」
「今、正にその色」
「…嬉しいからです」
このリボンは思い出の詰まったリボンなのですが…
「それはオレも一緒だ。これからリニューアルオープンって事で」
「…オープンですか?」
「んー、何て言えば良いか解らない」
何となく解ります
では、思い切って―
「解りました。私もリニューアルオープンします」
新しい事が始まった記念に新しい自分に
「所で“ついひ”ではなく“たいひ”では…」
「何ぃ!?くそっ!また謙吾に騙された!」
“また”なのですか…
「まぁいっか、プレゼント一緒に考えてくれたからな」
「…え?」
「オレ、女にプレゼントしたこと無いんだよ。だから謙吾と理樹と恭介に手伝っ
てもらった。謙吾の奴案外センスあんだぞ?理樹はベタだけど良く気がつくし、
恭介もやっぱセンス良い。あ、最終的に選んだのはオレな」
「…そうなんですか…。あ、あの」
「ん?」
「その…皆さんに教えてしまったのですか?」
「男にはな」
〜〜〜っ!!!!
「あいつらなら大丈夫だろ」
「そ、それはそうですが」
井ノ原さんは恥ずかしく無いのでしょうか…
「西園はサイコーの彼女だからサイコーのプレゼントしようと思ってな」
最高…
「何故そんなに殺し文句がポンポンと出てくるのですか…」
「さあな?」
悪戯っこの顔
「でも、ありがとうございます」
「良いって事よ」
早速着けてみます

今までの思い出を大切に
そして新しい思い出を作りに

「ふっ、オレの筋肉眼に狂いは無かったな」
「ど、どうですか?」
「可愛いぜ、西園」
だからサラリと恥ずかしく事を言わないで下さい…
「ハハ、リボンと顔が同じ色だ」
「…井ノ原さんのせいです」
「まあな」
「…今回はほめてません」

ふわふわと降り積もって行く雪の中
「やっぱ寒いな」
「はい」
「ちょっとこっち来い西園」
「え…、あっ」
突然抱きしめられます
「おっ、温かい」
「…井ノ原さんには恥ずかしいと言う言葉はないのですか…?」
「無いな。あるのは西園と筋肉と仲間だけだ」
「…あの、…私が一番最初に出ましたが…」
今までなら一も二も無く筋肉でしたのに
「西園は筋肉を超えた存在だからな」

この言葉の重み
重いけれどもこの上無く幸せな言葉
何故なら井ノ原さんの中で一番になれたから

「そうそう忘れてたぜ。メリークリスマス」
「メリークリスマスです」

井ノ原さんの身体
井ノ原さんのリボン
そして幸せと言う暖かさに包まれ
寒さは何処かに消えてしまいました


[No.395] 2009/09/11(Fri) 22:01:50

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