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ぬくぬく。 こたつの中で暖まっていると時間が過ぎるのを忘れる。ここから出ると寒いし、居るだけでついうとうとしてしまうこの感覚が好きだから。 ぬくぬく。 そうしていると、こたつの中でもう一つの勢力が拡大を始めてきた。わたしはそれを蹴って押し返す。 「棗くん欲張らないの」 「そっちの方が面積取ってるだろ」 「棗くんのほうが図体大きいから棗くん」 「俺なんかさっきから足出てるぞ」 「それは棗くんの足が長いから悪いー」 そんな他愛ないやり取りをするのも何度目だっけ。棗くんと付き合ってから初めて訪れた冬、わたしたちはやることもなくごろごろしていた。寮長の席ははもうかなちゃんに譲っちゃったし、棗くんは内定が決まってやることがないみたい。 棗くんはスクレボを読みながらうとうとしていた。目を何回もぱちぱちさせて、すごく可愛い。かと思ったらこっちをちらっと横目で見てきた。 「どうしたの?」 「いや…なんでもない」 そう言われてわたしもまぶたが重くなってることに気づいた。今のを見られていたと思うとすごく恥ずかしい。そうしていると棗くんは私の方を見ずに言った。 「ただ…可愛いなと思っただけだ」 完全に不意打ちだった。おかげで眠気が全部どっか行っちゃったじゃない。負けじと私も反論する。 「ありがとー。棗くんもそうやって目細めてる方が男前よー?」 棗くんはこっちを振り返らない。顔赤くしてる棗くんを想像して、ないないないと頭の中の棗くんを振り払う。あっちもそう言うことを考えてるのかと思うとこっちの顔も暑くなってきた。 棗くんから借りたスクレボをよんで30分ぐらいして意識が飛びかけた。棗くんは横ですーすーと寝息を立てている。 うーん、ちょっと眠くなってきたかも。 やることもないのはすごく退屈で、すごく幸せなんだなと思いながら眠りに落ちた。 起きた後棗くんにこう言われた。 「寝顔も可愛いぞ」 そう言う棗くんの手の中の携帯には、わたしの寝顔がアップで写されていた。 「そう言えば」 「ん?」 「今日って棗くんの誕生日じゃなかったっけ?」 「そういえばそうだな」 「自分で忘れないでよ、もー」 こたつに入っている棗くんは我関せずみたいな態度でテレビを見ている。 「理樹くんとかはどうしたの?」 「今日は東京の方に行ってるって言っておいた」 「棗くんつめたーい」 棗くんは頭をぽりぽりとかいてテレビの方を向いたまま言った。 「そりゃお前と一緒にいたかったから嘘ついたに決まってんだろ」 ……え?聞き取れなかった。 「もう一回」 「お前と一緒にいたいから」 「も、もう一回」 「こんな恥ずかしいセリフ何回も言わせるな」 そう言って棗くんはそっぽを向いてしまった。棗くんってストイックなイメージがあったけど、一気にイメージ一新だわ。 棗くんはわたしが見ても誰が見てもわかるくらい顔を赤くしていた。このままどこかに連れ出したいわー。 「ってそれならなおさら出かけなきゃ。人生で何十回しかないうちの一つなんだからちゃんと祝わないといけないでしょ?」 棗くんに出かけるように促す。女子はこういうの好きだな、とでもいいそうな顔をしていたけど、お互い見つめあってるうちに自然に笑えてきて、そこからは言うまでもなかった。 とりあえず棗くんは別の部屋で着替えてもらうことにして、わたしは服を選んだ。 どんな服がいいかしら……。とりあえずクローゼットの中やたんすの中を探る。 寒いのが苦手だけどスカートしかないのよねーと思いながらがさごそと出してみる。そうしていると、白いマフラーが出てきた。 それにひっかかってミトンも出てきた。うーん、こんなものかしら。 そうしていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。棗くんはもう準備が終わったみたい。わたしもすぐに着替える。 結局、白黒チェックのロングスカートと春色のブラウス、それにチュニックを合わせた。首にはマフラー、手にはミトンと、すごくもこもこした格好でドアを開けた。 「長かったな」 そう言う棗くんはジーパンにTシャツ、それにダウンジャケットを羽織っていて、中にはネックレスが光っている。 正直な話、ものすごくかっこいい。下級生から人気があるのも分かるわーと思いながら見惚れていると、 「似合ってるな」 と目を見据えて言われた。 「な、棗くんこそ」 これ以上は言えなかった。あんまり真顔で言われたからひるんだのも確かだけど、もう目が見れない。 赤面しながらうつむいていると、 「ほら行くぞ。俺の誕生日祝いなのにお前が緊張してどうするんだ」 と言って私の手をとった。棗くんの顔がまともに見れたのは寒さが頭を冷やしてからだった。 「案外人通り多いな」 「そりゃあ休日だしねー」 大通りを二人して歩く。日曜日っていうのは誰もやることがないのか、道を意味もなくぶらぶらしている人が多い気がした。 いつもの景色なのに違って見えると気づいたのはいつからだったか忘れたけど、今日はとっても新鮮に思える。なんか体がふわふわするというか、気持ちが少し高ぶっているというか。 ますます人が多くなって、わたしたちは体を寄り添いながら歩いた。手を繋ぎたいと何回も思ったけど、棗くんがそう言うそぶりを見せなかったからちょっと躊躇った。こういうのって女の子からするものなのかしら? そう思いながら歩いていると、棗くんが手に息を吐いてポケットに手を入れた。 「手寒いの?」 「ん?ああ、まぁ真冬だから仕方ないと思うことにするさ」 「じゃあ手を繋ぎましょう。わたしのミトンはもこもこであったかいわよ〜?」 「……」 おずおずと左手をポケットから出してきた。わたしは右手をミトンから出して棗くんの右手をしっかと握った。すごい冷たい。 「おいおい、これじゃあお前が冷たいだろ」 「いいのよ。ミトン越しじゃ棗くんのこと感じれないし、それにこっちの方が恋人らしいじゃない」 恋人という響きが心地よく感じた。棗くんの冷たい手が徐々に暖かくなっていく。強く握ってあげると、棗くんも強く握り返してくれた。 そういえばこんなことするのもなかったわね……。福の神福の神。 そうやって歩いていると、大型ショッピングモールが見えてきた。今日の目的地。 中に入ると、ちらほらと人が見えた。家族連れの人とかカップルが大半だった。まぁ、わたしたちもそうなんだけど。 「そういえば棗くんって何がほしいの?」 「地下迷宮に眠る秘宝」 「ドラえもんにでも頼めば?」 「ドラえもんがいたらな」 「その言葉そっくりお返しするわ」 でも確かにドラえもんがいたら正直楽だわーと思いつつ、モール内をぐるぐると回った。店がかなりあったけど特に面白いのもなかったから歩きっぱなし。 いまさらだけど、棗くんの歩幅はかなり広い。大通りのとこだと人通り激しくてそこまでスピード出してなかったみたいだけど、普通はこれくらいなのか。わたしはさっきから少し早歩きで隣を歩いてた。 とことこと歩いていると、棗くんが急にスピードを落とした。あらら、ばれてたのかな?とりあえず優しい棗くんに、感謝。 しばらくそうやって歩いてた。棗くんに何買ったらいいかわからないし。そうしてると、お腹が、きゅー、と鳴った。まるで漫画みたいね。 「…もうそろそろ昼だし俺は腹が減ってきたんだが、どうする」 「棗くんのお腹がすいてたなんて知らなかったー。まぁ偶然わたしもお腹がすいたからお昼にしましょう」 上手い具合に助け船を出してくれた棗くんに感謝しながら、適当に見つくろったお店に落ち着いた。 二人ともオムライスとドリンクを頼んで雑談を始めた。 「じゃあ問題です。じゃじゃん!このスカートは一体いくらでしょう?」 「そうだな……じゃあ逆に質問する。このジャケットは特売で三万円だったが」 「えぇ!?」 「っていうのは冗談だが、その反応を見ると三万よりは安いのは確かだな。俺の予想を言わせてもらうと9800円」 「うう…なんでぴったりわかるのよぅ…」 「さっきそこで売ってたからな」 通りの遠くの方の店を指差して棗くんは言った。 「もしブランド品だったらと思ってカマかけたんだが、正解だったみたいだな」 「これでも結構大枚はたいたのよ…」 でも、 「ふふ」 「どうした」 「それはわたしのことをちゃんと見てくれてる、って言う返事でいいのかしら?」 すごく嬉しい。 「…好きにしろ」 「もう棗くんかーわーいーいー」 そう話していると、注文通りオムライスが来た。何の変哲もないプレーンのオムライス。ぱくぱくといくらもしないうちに食べてしまった。普通は店を出る時にどっちがお金を払うかで問題になりそうなものだけど、いつの間にか棗くんが払っていた。 その後も散々モール内を回ったけど、結局収穫ゼロ。とぼとぼとショッピングモールを後にする。 「棗くん何がほしいか何も言わないんだもーん」 「俺だって考えてたさ。けど今日はこたつの中で過ごすつもりだったから考えてなかったんだよ」 な、なんてずぶとい……。でも気持ちはわかる、うん、すごい。 もう日が陰り、少し肌寒くなってきた。薄着過ぎたかしらなんて思って少し体を震わせた。 「寒いのか?」 「しゅこし、っくしゅ」 少しと言おうとしたら、くしゃみが出て変な日本語になった。 「まったく、仕方ないな」 そう言うと、自分のダウンジャケットを脱いで私の体に羽織らせてくれた。インナーが半袖の棗くんはジャケットを脱いだ瞬間に鳥肌が全身にたって、はた目から見てもものすごく寒そうだった。 「そっちこそすごく寒そうよ?」 「ああ、すごく寒い」 体を震わせて棗くんが真面目な顔で言う。そのおかしさにわたしはつい笑ってしまった。 「何がおかしい」 「いやーこんな詩があったなって思ってね」 「そんなのあったか?」 わたしは棗くんの腕に手をまわしながら言った。 「二人でいるのが幸せだって詩よ!」 棗くんの腕に自分の腕を強くからませる。こうやって二人でいるのがすごく幸せとでも言わんばかりに、ぎゅっと。 「ああ、そうだな…」 棗くんは寒そうにしながらも、それを吹き飛ばすぐらいに幸せそうな顔をしていた。 少し棗くんに寄りかかって歩く。二人して歩幅を合わせながら。 そうしていると、 「ん」 「あ」 雪が降ってきた。この街では初めての、初雪。それが棗くんの頭にちょこんと乗った。 「そういえば、初雪を掴んだやつは願いが叶うって言うな」 「ほんと?」 「俺が聞いた話だとな」 「なんかうさんくさいわね……」 「ひでーな」 棗くんは頭をぽりぽりとかきながら、雪をとろうとした。 「ちょっと待った」 そう言ってわたしは棗くんの頭から雪を奪い取る。棗くんはものすごく残念そうにわたしとすでに溶けてしまった雪を見てくる。 「こういうのはレディーファーストでしょう」 「で、何を願ったんだ?」 「秘密。というか多分恭介と同じだと思うから」 「え?今何て」 「ひーみーつ」 「いやそっちじゃなくて、今『恭介』って言ったよな?」 「……え?」 言った、ような言わなかったような。その辺りはあんまり意識してなかったから記憶にないわ……。 「これで俺の108つある願いのうちの一つは見事に叶ったわけだ」 笑顔で恭介は言った。煩悩かい!、と突っ込みそうになった。ああもう、こうやって言われたらなんて返したらいいのか分からなくなるじゃない……。もうアレよ。ノリだと思うわ。 「じゃあ、わたしも叶えさせて貰うわよ」 「どうやって?」 「こうやって」 わたしは恭介の肩をがっとつかみ、恭介の唇めがけて自分の唇を近づけていった。 浅く触れるだけのキス。またの名を、初キッス。 ものすごく初々しい恋人同士だと思った。キスした後、恭介が言った。 「また俺の願いがかなっちまったな」 恭介の顔は赤かった。もちろん、わたしも。 「わたしの願いでもあるから、いいのよ。ううん、むしろそっちの方がいいわ」 「…そうだな。来年も、こうやっていられるといいな」 「右に同じ、よ」 恭介にマフラーを回す。お互いの絆を確かめるように。 初雪にざわめく街で、わたしたちは雪に祝福されるように、静かに歩いていった。 [No.399] 2009/09/11(Fri) 23:59:32 |
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