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No.406へ返信

all 第41回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/09/10(Thu) 21:41:10 [No.389]
筋肉魔法 - ちちここくく@1844byte - 2009/09/12(Sat) 21:32:40 [No.410]
ぞうじるしと出かけよう - ちこく@5581 byte - 2009/09/12(Sat) 17:51:34 [No.408]
魔法少女参上! - ひみつ@21162 byte 遅刻で容量オーバー - 2009/09/12(Sat) 00:35:55 [No.406]
しめkり - しゃしゃい - 2009/09/12(Sat) 00:25:56 [No.404]
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エンドロールはいらない - ひみつぅ@9.746バイト - 2009/09/12(Sat) 00:13:34 [No.403]
恋と魔法と色欲モノ。 - ひみつ@6947 byte - 2009/09/12(Sat) 00:11:10 [No.402]
ペパーミントの夜明けに - ひみつ@2450 byte - 2009/09/12(Sat) 00:10:13 [No.401]
[削除] - - 2009/09/12(Sat) 00:02:58 [No.400]
初雪にざわめく街で - ひみつ@9968byte - 2009/09/11(Fri) 23:59:32 [No.399]
魔法入りの瓶 - ひみつ 4037byte - 2009/09/11(Fri) 23:55:22 [No.398]
瓶詰めの魔法 - ひみつ@8789byte - 2009/09/11(Fri) 23:45:29 [No.397]
ファイナル猫耳魔法少女ライドゥ・リリリリン! - 私が魔法少女だってことはみんなには秘密なの!@2110 byte - 2009/09/11(Fri) 22:35:11 [No.396]
True Beautiful - ひみつ@20442 byte - 2009/09/11(Fri) 22:01:50 [No.395]
願わくば - HI★MI★TUUU★@7655 byte - 2009/09/11(Fri) 21:13:21 [No.394]
魔法の言葉は届かないから - 秘密@ 10613 byte - 2009/09/11(Fri) 19:27:38 [No.393]
3つの魔法 - ひみつです@11493 byte - 2009/09/11(Fri) 17:54:04 [No.392]
Heavenly - ひみつ@9263 byte - 2009/09/11(Fri) 02:26:38 [No.391]


魔法少女参上! (No.389 への返信) - ひみつ@21162 byte 遅刻で容量オーバー

「ふふふ、ついに完成しましたか」
 美魚は先ほど届けられたばかりの品を手に取り悦に入っていた。
「お姉ちゃん、なんか悪の科学者っぽいよ」
 そんな美魚を見る美鳥の顔は呆れ顔だ。
「失礼ですね。これを見て興奮しないはずないじゃないですか」
 品をグイッと突き出し美鳥を睨む。
「いや、確かにどんだけ凄いのって感動を通り越して呆れちゃうけど……これ、何に使うの?」
 まさかバトルに使うわけじゃないだろう。
 いや、使わないはずだと美鳥は姉の常識を信じた。
「ふふ、安心してください。ちゃんと使い道は考えてあります」
 相変わらず不敵な笑みを浮かべる美魚を見てこれは理樹には見せられないなと美鳥は思うのだった。


「謎の生命体?……棗先輩、その年で漫画の見すぎはどうかと思いますよ」
 その報告を聞いた佳奈多の視線は絶対零度も超える冷たいものだった。
 そんな反応にちょっぴり心に傷を負いながら、恭介は言葉を続けた。
「嘘じゃねえ。現に昨日撃退に向かった真人と謙吾が返り討ちに遭った」
「え?あの二人が?」
 それは由々しき事態だった。
 いまだに信じられないが、それが事実なら最早教師でも対処が難しいだろう。
「ちなみにその生物の心当たりは?」
「ああ。生物部の実験動物が逃げ出したらしい」
「生物部……」
 科学部と並んで色々ときな臭い部活だ。
 確かにあそこなら未知の生物を飼っていそうだ。
「理由をつけて廃部にしておくべきだったかしら」
「まあそう言うな。今回はあそこも被害者だ。なんでも鍵が壊されちまったらしい」
「鍵、ですか。ちなみにその生物の特徴は?」
 なにか陰謀の臭いがするが、今は目の前の事態の対処だ。
「見りゃ分かるそうだ。一見して現存の生物とは違うらしい。……でもなんだ、信じてくれるのか?」
「まあ、そんな突拍子もない話、信じられないですが……同時に嘘を吐くならもうちょっとマシな話をあなたならすると思いますから」
 どうやら日頃の行いが物を言ったらしい。
 少しだけ切なくなり恭介は咳払いをする。
「それでどうするのですか?今から風紀委員を総動員して捜索に当たりましょうか」
 委員長を引退したとはいえ、未だに人望がある佳奈多。
 彼女が声をかければこんな事態だ。みんな手伝ってくれる。
「いや、それには及ばん。今来ヶ谷が捜索に当たっている。俺が頼みたいのは寮長としてこの件を黙認して欲しいてことだ」
「なるほど来ヶ谷さん。確かに彼女なら問題ありませんね。……だから、ですか」
 佳奈多は目の前に広がった光景を見ながら呟いた。
 そこにはリトルバスターズのメンバーが勢ぞろいしていた。
「よくも宮沢さんを……」
「ちょ、落ち着きなさいまし、古式さん。気持ちは分かりますがその手の物騒な物、何に使いますのっ」
「大丈夫です。確実に仕留めますから」
 一部黒かったりもするが。
 凶悪な刃物が見えた気がするが、きっと気のせいだろうと佳奈多は結論付ける。
「ふふ、腕が鳴るわね。武器は何がいいかしら。この際だからM134を使うべき?」
「ね、ねえあや。メチャクチャ物騒な単語が聞こえた気がするけど冗談だよね」
「え?……本気だけど」
「なに、そのなに言ってんだこいつって目。僕が間違ってるみたいじゃないかっ。駄目だからね、常識と言うか主に銃刀法違反って意味でっ」
 別のところもカオスだ。
 とりあえず交わされていた会話は聞かなかったことにしようと佳奈多は心に決めた。
「それで、ここで来ヶ谷さんの報告を待てばいいのですね」
「……ああ、とりあえずそういうことだ。もうそろそろ連絡が……」
 タイミングよく通信の繋がる音が聞こえた。
『こちら来ヶ谷。昨日馬鹿二人が倒されたと思われる場所に辿り着いた』
「了解、オーバー」
 来ヶ谷の言葉に近くにいた鈴が返す。
『鈴君、恭介氏に代わってくれ。少々不測の事態が起きたのでな』
「ん、どうかしたのか?」
 その疑問に対する答えはすぐ返ってきた。
『えー、姉御ー。不測の事態ってのは酷いですよー』
「は、葉留佳?」
 思わぬ声に佳奈多が動揺する。
 そういえば部屋の中にいなかったと今更ながらに彼女は気づく。
『あ、お姉ちゃん。やっほー』
「やっほーじゃないわよ、馬鹿。あんたなんで来ヶ谷さんに付いてってんのよっ!」
 佳奈多は青筋を立てて怒鳴るが、葉留佳はどこ吹く風。
 あっけらかんとした口調で答えた。
『えー、面白そうだったから』
「あ、あんたねえ」
 思わず佳奈多は額を押さえた。
『と言うことで恭介氏。さすがに今回は葉留佳君を守りきる自信は無いのでな。一旦連れて帰るぞ』
「ああ、わかった」
 さすがに仕方ないかと恭介は頷く。
 しかしその直後事態は急変する。
『ねえ、姉御。あれなんですかね』
『ばっ、葉留佳君。不用意に近づくなっ』
『え?……キャーッ!!』
『は、葉留佳君っ!……こいつは、クソッ……』
 それを最後に通話は途切れた。
『え?はる……か?……葉留佳っ。返事をしなさい、葉留佳っ!!」
 いち早く正気を取り戻した佳奈多が慌てて通信機代わりの携帯に叫ぶが、反応はなし。
 続けて正気を取り戻した他のメンバーも呼びかけるが応答は無かった。
「これは……拙いな」
 珍しく動揺を表に見せる恭介。
 それだけにこれが緊急事態であることを告げていた。
「葉留佳っ」
 慌てて佳奈多は部屋を飛び出そうとするが、寸前で恭介に腕を掴まれる。
「離して。離しなさいっ」
「待て、どうする気だ」
「決まってるじゃない、葉留佳たちを助けに行くのよっ」
「来ヶ谷も敵わなかった相手にか?馬鹿も休み休み言え。……お前たちもだぞ」
 他のメンバーにも注意を促す。
「ならどうすればいいのよっ」
 最早爆発寸前の佳奈多は、今にも腕を振り切って出て行こうとしていた。

「待ってください」
「そんなこともあろうかと」

 その瞬間、扉が開け放たれ二人の少女が現れた。
「西園さん、美鳥?」
 いち早くそれが誰か気づいた理樹が声を上げる。
「えー、理樹君。そこは美魚、美鳥でしょ」
「いやいや、今はそれはどうでもいいから」
 不満を口にする美鳥を軽く窘める。
「それでどうした?遅れていたようだが」
 代表して恭介が二人に尋ねる。
「いえ、こんなこともあろうとか三枝さんたちを救える武器を持ってきました」
「なんですって」
 その言葉に当然のように反応したのは佳奈多だった。
「嘘ではないです。美鳥」
「はいはーい。じゃーん」
 そう言って美鳥が取り出したのは。
「杖?」
「魔法のステッキですね」
 恭介の言葉に小毬がフォローするように注釈を入れる。
 それはよく子供番組などで魔法少女が使う杖に酷似していた。
「なに、馬鹿にしてるの。そんなおもちゃ持ってきて」
 ただでさえ焦っているのでいつも以上に佳奈多の沸点は低くなっていた。
 しかしそれに重ねるように美魚は続ける。
「馬鹿になどしていませんよ。それにこれはおもちゃではありません。科学部特製の兵器です」
「科学部?」
 思わず理樹が声を上げる。
「もしかしてNYP兵器」
「ええ、それもカートリッジ式の特別製なので能力がない方でも使用可能です」
 そして再度佳奈多に向けて差し出す。
「ただしこれは女性しか使用できず、かつ一本しかありません。なので」
「……私?」
 驚いて佳奈多は自分を指差した。
「なんで二木なんだ?こういっちゃなんだがこいつより戦闘力がありそうなのは他にいると思うんだが」
 言いつつ恭介は中を見渡す。
「いえ、これは強い想いが力を引き出します。現時点で一番強い感情を持っているのは二木さんだと思ったので」
 そして美魚は佳奈多の目の前に杖を掲げる。
「どうしますか?」



「現場に着いたわ」
 杖を右手に持ちながら、インカムに向けて佳奈多は呼びかける。
『ならば杖を起動させてください。やり方は覚えていますね』
「お、覚えているけど……なんでこんなことしなきゃいけないの?」
 葉留佳たちを救うことに躊躇は無いが、美魚に指示されたことは実行するのは少しだけ恥ずかしかった。
『仕方ないです。いわゆる様式美と言うやつですから』
『そうです。魔法少女はそれをしなくてはならないのです』
 美魚に追随するようにクドが発言をする。
 クドには甘い佳奈多はその発言を一蹴することはできなかった。
「うう」
『かなちゃん、ふぁいとー』
 小毬の能天気な声が更に彼女のやる気を損なわせていく。
 しかしそのやり取りは突然終わりを告げる。
《WARNING!WARNING!》
「え?」
《ターゲット補足。敵対生命体、急速に接近中》
 突如杖が発した言葉に一瞬呆けるが、慌てて佳奈多はその場を飛びのいた。
 直後そこに黒い影が振り下ろされる。
「なにあれ?あれが葉留佳たちを襲ったやつ?それにこれ喋るの?」
 軽いパニックになりながらも佳奈多は美魚たちに呼びかける。
『杖に関しては言ってませんでしたね。サポート用のAIが搭載されています』
「AIってうちの科学部はどんな技術があるのよ」
『その程度で驚いてもらっては困りますが。あとアレが敵です』
「くっ」
 回避行動を取りつつ敵の全容を見渡す。
 一見それは巨大な獣のように見えるが、蔦のような触手が背後で蠢き、ところどころ鱗のようなものも見て取れる。
「謎の生命体。言いえて妙ね」
 納得したくなかったけどと内心思いつつ、佳奈多は杖を構える。
『二木さん、そのままだと攻撃も防御も出来ませんのでお早く』
「あー、もう、分かったわよ」
 葉留佳の姿が見えないことに僅かな不安を覚えつつバッと杖を掲げた。
「りりかるまじかるりりかるるー!」
《Standby,ready.setup》
 同時に杖から光の帯が溢れ出し周囲にフィールドが張られ、佳奈多の体は光輝き、着ていた制服が分解、再構成されていく。
 肉眼では捉えられないが、光の粒子が両手両足に集まり新たな形を作っていく。
 次に光は上半身の周りの纏わり、晒された肌の上を伝い形の良い胸を包むように被い変化していく。
 その締め付けに僅かに佳奈多は荒い息を吐くと、そのまま光は垂れ落ちるように下半身へと溜まり弾け飛ぶ。
 その衝撃に僅かに顔を歪め、最後に頭頂部に光が集まり大きく形を作り弾け落ちる。
 その間僅か0.05秒。
 そしてその光の幕を切り裂くように杖を振り下ろし、そのまま敵に突きつけた。
「愛と平和を守るため!魔法少女!マジカルかなたん参上!!」
 ウインク付きの完璧なる口上だった。
「ってなによ今のっ。なんで私あんな変な口上述べてポーズまで決めてるのっ?」
 頭を抱えるとインカムに向けて叫ぶ。
『様式美ですから』
「やっぱあんたかっ。私に何をしたーっ!!」
 いつもの冷静な仮面がすっかりどこかに行ってしまっている佳奈多であった。
『大丈夫です。ちょっとした意識操作なんで問題ありません』
「さらっと凄いこと言わないでよ。それにこの格好はなによ?」
 彼女の姿は全身ピンク。
 上半身はノースリーブで肩口がはっきりと見え、二の腕まで覆う手袋の所々にフリルが付き、胸元には宝玉とリボンが装備。
 下半身も同様にフリフリの極端に短いスカートにフリルつきの靴下と羽が付いた靴。
 極めつけは頭部の乗ったうさ耳だった。
『二木さんは寂しいと死んでしまいそうだったので兎にしてみました』
「そんなこと聞いてないわよっ。それに変なイメージ持たないで。なによこの恥ずかしい格好は」
『魔法少女としてはデフォルトですよ』
「知らないわよっ、んなデフォルト」
 恥も外聞も無く佳奈多は叫んでいた。
『そんなことよりも二木さん』
「なによ」
『攻撃、来ます』
「え?」
 見上げると強大な爪が振り下ろされるところだった。
「キャーッ!!」
《Protection》
 しかし振り下ろされる直前に強力なフィールドに攻撃は阻まれた。
「え?い、今のは」
『それよりも回避を。やり方は覚えていますね』
「え、ええ。ソ、ソニックムーブ」
《SonicMove》
 キーワードを唱えた瞬間、佳奈多の姿は後方約二十メートル先に移動していた。
「……ねえ、今のって何?さっきのもだけど」
『え?魔法ですよ。先程のが防御魔法、今のが移動魔法』
「い、いや、魔法って非科学的な」
 当然のような口調で答えられると困ると内心思いながら佳奈多は呟く。
『何を言っているんですか。魔法のステッキから放たれるものが魔法じゃなくてなんだと言うのです?』
「あー、いやいいわ。科学部製ですものね。深く考えちゃいけないわね。あー、にしても」
 杖を構え、魔法名を検索。そして次なる魔法の詠唱を開始する。
『なんですか?』
「パッと見どれもぶっそうな感じなんだけど、魔法ってこういうもの?もっと可愛いものだと思ってたんだけど」
『最近の流行ですよ』
「そう。魔法少女の認識を改める必要がありそうね。フォトンランサー!!」
《Photon Lancer》
 光の発射体を6基を周囲に展開、近づいてきた目標に向けて光の槍を一気に解き放った。
「があああああぁああっっ」
「す、凄い威力ね」
 悶え苦しむ敵を前に引き攣った顔で佳奈多は感想を漏らす。
『いえ、派手ですが実際のダメージはそれほどありません』
「そ、そうなの?」
 あんなに苦しんでいるのにと思わず言葉を零す。
『相性の所為でしょうね。痛みはあるのでしょうが決定的な打撃となってはいません。回避しながら射撃、動かなくなったところで大技を決めてください』
「了解」
 言いながらもこれなら楽勝かもと、佳奈多は同じ魔法を数度続けて撃ちながら高速で敵の攻撃を回避していく。
 相手も爪や尻尾を大きく振り回すも全く掠らず、一方的な展開のように見えた。
「こんなものかしら。じゃあ一気に決めるわよ」
《Yes,master.Shooting Mode》
 佳奈多の言葉と共に杖の形が大きく変わる。
「……」
 色々と突っ込みたくなったが、もういいやとさすがに諦めた。
《エネルギーチャージ中。10カウント開始》
 2発の空薬莢が杖から排出される。
(つっこまない。つっこまないわよ)
 佳奈多はその間心の中で強く念じていた。
《3…2…1…いつでも撃てます》
「了解」
 そのまま銃を構えるように狙いを定める。
「ディバイン、バスターっ!!」
《Divine Buster》
 その瞬間強大な光の奔流が相手に叩きつけられる。
 それは頭部を確実に直撃し、大きな音を立てて崩れ落ちた。
「やったわ。なんだ、楽勝じゃない」
 自分自身が優秀だとは思わないが、この杖の威力は破格だと佳奈多は軽く戦慄する。
(これは危険物扱いで封印すべきかしら)
《WARNING!》
 しかし突然の警報にその思考は中断される。
「な、なに?キャッ!!」
 そして反応する間もなく地面から蔦のような触手が飛び出し、佳奈多の体を拘束する。
「な、なんで」
『おそらく出力不足なのでしょう。二木さんとの特性上遠距離攻撃は合わないようですね』
「れ、冷静に解説してないでどうにかして」
『とりあえず近接用のブレイドモードに』
「え、ええ。モードセレクト、ブレイド」
《Blade Mode》
 また複雑に形が組み変わり今度は刀のような形状に変化した。
 もはや元の杖の形状をほとんど残していなかった。
「……つ、つっこまないわよ。それで?……ぐっ」
 両手両足に蔦が巻き付き、強く締め付ける。
 そのままスカートや上着の中にまで侵入を始める。
「ちょ、やめ……に、西園さんっ!どうやって抜け出せばいいの!?」
『刀で切り裂けませんか?』
「無理よ、両腕とも拘束されてて……や、どこ触って……胸ももまな……」
 その瞬間大きく服が切り裂かれるが、瞬時に修復される。
『服はかなり頑丈ですし、破れても自動修復されます』
「あ、そう」
 それならあられもない姿を晒すことはないと少しだけ佳奈多はホッとする。
『ただしNYP値が切れれば服は霧散し、気絶しますが』
「ちょ」
『安心してください。全裸で放置された場合直枝さんを回収に向かわせますので』
「安心できるかーっ!!」
 美魚が喋る向こうで理樹の声が聞こえた気がして恥ずかしさは倍増だった。
『あ、今NYP値が上昇しました。やはり強い感情は素晴らしい増幅を見せますね』
「んなの知らないわよっ。どうすればいいの?」
『自分で考えてください』
「なっ」
 あまりに冷たい言葉に一瞬言葉が詰まる。
『戦うのは二木さんですから。上手く魔法を使ってください』
「わ、分かったわよ。それじゃあ」
 使える魔法を検索して作戦を練る。
 しかしその間も触手は佳奈多の体を蹂躙する。
「やめ……そこは入ってこな……ぐ、あ……」
 体のいたるところを触られ、締め付けられ佳奈多は荒い息を吐く。
 しかしその間も必死に考え、ある作戦を練る。
「よしこれで……ぐむっ」
 しかし口を開いた瞬間、触手が口内に侵入。蹂躙を始める。
「むぐっ……うご……」
(これじゃあ詠唱できない)
 せっかく考えた作戦も魔法が使えなくてはできない。
 喉の奥まで犯す触手に対する吐き気と嫌悪感で涙目になりながら謎の生命体を睨みつける。
『ああ、ちなみに言葉にせずとも考えるだけで勝手に杖が魔法を使ってくれますよ』
「むっ?」
 場違いなまでに冷静な美魚の言葉に佳奈多は一瞬本気で殺意が湧きかけた。
 けれど今は脱出が先だと心の中で毒づき、強く念じる。
《Photon Lancer.Phalanx Shift》
 魔力弾の発射体が佳奈多の周囲に展開。そしてその数を徐々に増やす。その数およそ20。
《Fire》
 次の瞬間そこから光の槍が一斉に発射。
 瞬時に爆炎で包まれる。
 煙が晴れると蔦は全て焼き切れ、佳奈多の姿もどこにもなかった。
「ぐはっ……はぁはぁはぁ……」
 いや、地面に倒れこみ佳奈多は荒い息を吐いていた。
『無茶をしますね。自分ごと攻撃するなんて』
「大丈夫よ、同時に防御魔法ってやつも発動させたし」
『それでも防ぎきれるものではありません。ご自愛ください』
「はいはい。とりあえず向こうもかなりのダメージを負ったみたいだし、一気に決めるわ」
『砲撃魔法が余り効果ないみたいですので接近戦でしとめてください』
「ええ、了解よ」
 答えながら刀を地面に突き刺し、立ち上がろうと手を付く。

 ―ピチャ

「え?」
 地面についた左手に液体の感触を感じ思わず見やる。
 そこには紅く染まる手があった。
「なに、これ」
『血、ですか?怪我でもされましたか』
「いいえ、私じゃないわ。それよりもこれ……血、なの?」
『いえ、暗がりなので完全な判別は不可能です』
 震える左手を佳奈多はじっと見やる。
 そしてゆっくりと地面を見下ろす。
 するとそこにはよく見慣れた物が落ちてた。
「……え?」
 力が抜けたように膝から地面につき、のろのろとそれを手に取る。
 それは佳奈多が今も髪に着けているのと同じ髪飾り。
 それが紅く濡れていた。
『二木さん?』
 反応が急になくなったことをいぶかしみ声をかける。
 けれど荒い息を吐くだけで応答はない。
 再度声をかけようとした瞬間美魚は気づく。
『二木さん、防御してくださいっ』
 体勢を立て直した謎の生命体の鋭い爪が今にも佳奈多に振り下ろされようとしていた。
 けれど。
『え?』
 それは佳奈多が振り上げた刀状に変形した杖によって受け止められていた。
『飛ばされない?』
 その事実に美魚は驚愕する。
 先程までなら防御魔法を展開しなければ吹き飛ばされていたはずだ。
 けれど美魚が呆然としているのはそこまでだった。
『二木さん、落ち着いてください』
「お前……」
 NYP値とバイタルが急上昇していく。
《WARNING!NYP値が許容値を越えようとしています》
『聞こえましたか二木さん。少しでいいです、冷静になってください』
「葉留佳に、はる、かに……」
『仕方ありませんね。リミッター解除。後に急速冷却』
 佳奈多の耳全く声が届いていないをことに気づいた美魚はすぐさま杖に向かって指示を飛ばす。
《Yes,my load.オーバードライブ。180セコンド後緊急停止します》
 それに応じて空薬莢が吐き出されていく。
 そして一時的に強度を強化、暴走しそうなNYP値の力に耐えられるよう刀は大型化する。
 けれどその変化にも気づかず、佳奈多は敵を睨みつける。
「私の葉留佳に何をしたーっ!!!!」
「がぁああああっっっ!!」
 強力な斬撃。
 一気に敵は数メートル吹き飛ばされる。
 そしてそれに追撃し、佳奈多は更に刀を振るう。
「お前が、お前がー!」
 一撃二撃三撃と打ち込むごとに速度を上げ、威力が上がっていく。
 そして刀を振るう度に謎の生命体は弱弱しく悲鳴を上げ、体を振るわせていく。
『拙いですね。非殺傷設定で作ったはずがこのままでは……』
「はああぁぁぁ!!」
 そして胴体に向かって突き出し、その腹を食い破る。
「これでー!!」
《Shooting Mode》
 そしてそのまま突き刺すように杖が砲撃モードに移行する。
「はあああああっっっ」
《チャージ完了。更に上昇》
 一瞬でチャージが完了し、更にエネルギー量が増幅する。
『くっ、シールドを』
《Round Shield》
「ディバイーン、バスター!!」
《0-Range,Divine Buster》
 美魚の言葉に杖が反応するのと同時に佳奈多は特大のゼロ距離射撃魔法を放ったのだった。


《Reformation》
 白い蒸気を発し杖は待機状態に移行する。
 近くには電磁シールドに囲まれた謎の生命体が倒れ伏していた。

 ―ドシャ

 佳奈多はそれを見ることなく杖を取り落とすと、そのまま膝を付いた。
「はる、か。葉留佳……」
 そのまま両手で顔を覆う。
「あ、ああ……ああああああああーーーっ!!!」
 それは魂の慟哭のようだった。
 守れなかった。自分の命よりも何を犠牲にしても守るべき存在を守れなかった。
 その事実に佳奈多は叫び続けた。
 ――――けれどそこの場違いな明るい声が響き渡った。
「あれー、お姉ちゃん。どうかしたの?」
 その声に佳奈多はビクリを肩を震わせゆっくりを振り返る。
「やはは、どうかしたの、お姉ちゃん」
 そこには能天気な笑顔を見せる葉留佳の姿があった。
「なん、で。どうしてあなたが」
「ん?変なこと言いますね。終わったみたいだから避難場所から出て来ただけデスヨ。あ、それよりも髪飾り拾ってくれたんだ」
「え?」
 佳奈多が握り締めていた髪飾りを目ざとく見つけ、ひったくるように手に取る。
「あちゃー、汚れちゃってる。落ちるかな」
「は、葉留佳?その紅いのは?」
 まだ茫然自失としていたが、なんとかそれだけ佳奈多は質問した。
「ん、これ?水風船ですよ。威嚇用に持ってきたんだけど落として割れちゃったみたいデスね」
 その言葉を佳奈多はゆっくりと心の中で反芻する。
 そして。
「葉留佳っ!」
「わっ、なにお姉ちゃん」
 いきなり抱きつかれ、葉留佳は目を白黒させる。
 けれどその胸で泣き続ける姉の姿を見て、ゆっくりとその髪を撫でるのだった。
「お姉ちゃんは泣き虫ですね」
「うっさい」
 そうして二人はしばらく抱き合い続けた。



「そういえばさ」
「なに?」
「なんか凄い格好してるね」
「え?」
 指摘されて佳奈多は自分の格好を見下ろす。
 まだ魔法少女の格好のままだった。
「見ないでーっ!!」
 それを自覚した瞬間、佳奈多は凄い勢いで逃げ出したのだった。


『こうして一人の魔法少女の手で学園の平和を守ることができたのでした』

 そうメッセージが流れたところで美魚は停止ボタンを押した。
「素晴らしいです、来ヶ谷さん。やはりお任せしてよかった」
 くるりと振り向くとそこには不敵な笑みを浮かべる来ヶ谷の姿。
「なに、設置してあるカメラの操作と編集をしただけだ、大した労力じゃない。それに変身シーンの加工は楽しかったしな。今思い出しても興奮する。ふむ、修正前の映像を理樹君に見せてみるか?……いや、葉留佳君でも面白いな」
「それはさすがに二木さんが可哀想なので、本人の同意が取れたらということで」
 まあありえないだろうがと言いながら美魚は思う。
「分かってる、冗談だ」
「そういえば三枝さんと言えば、彼女も最後にいい仕事をしてくれました。少々やりすぎな気もしますが」
 あの暴走で杖を完全にメンテナンスしなくてはいけなくなったのは少々面倒だが。
「なに、佳奈多君の必死な表情が見れたんだ。安いものだろう」
「まあ実際この前のイベントでかなり売れたしね」
 隣で後片付けをしていた美鳥もにまっと笑顔で告げる。
「普段出してるものよりも売れてるんだよね」
「五月蝿いですね。いいんです、気にしてません」
 言いつつ少しだけ美魚は不満だった。
「なんにしても君がこういうジャンルに手を伸ばすとは思わなかったな」
「どんなものでも経験ですから」
 その言葉には嘘偽りがないように来ヶ谷は感じた。
「でもいいのですか?恭介さんの報酬はちゃんと払うのに、三枝さんとあなたは二木さんの写真だけでいいなんて」
「なに、私も葉留佳君もそれだけで充分さ」
 小さく来ヶ谷は笑う。
「それならいいのですが」
「しかしこれで魔法少女かなたんがいなくなるのは少し寂しいな。あの珍しい格好はもう一度見たいものだが」
 携帯に収めた佳奈多のあられもない姿を見ながら来ヶ谷は呟く。
「それならばご安心を。なんでも生物部で紛失物があったそうです」
「なに?」
「ええ?」
 美魚の言葉に来ヶ谷と美鳥が驚く。
「謎の生物を生み出す元がどこかにいってしまったそうなのでそのうちまた活躍があるかと」
「そ、そうかね」
 少しだけ来ヶ谷は引き攣った笑みを浮かべる。
「でもそれって敵が多くなるんじゃない?かなちゃん一人で対応できるの?」
 この前も苦労したのにと言外に非難する。
「大丈夫です。そのために科学部に第二第三の魔法のステッキの開発を依頼しておきました」
「「え゛?」」
 来ヶ谷と美鳥は同時に後ずさる。
「ふふふ次はどういったものにしましょうか。ハンマー、剣?いっそのこと第二期はすっ飛ばして銃やナックル……それとも古式さんにダガーを持たせるのもいいかもしれませんね」
 そして一人美魚は悦に入るのだった。


[No.406] 2009/09/12(Sat) 00:35:55

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