[ リストに戻る ]
No.434へ返信

all 第42回リトバス草SS大会 - 代理人 - 2009/10/09(Fri) 22:56:28 [No.430]
締め切りです - 主催代理の代理の代理ぐらい - 2009/10/10(Sat) 01:04:56 [No.440]
Re: 締め切りです - もう代理じゃなくていいや - 2009/10/10(Sat) 01:20:06 [No.441]
恋と魔法と色欲モノ。2 - 期待に応えて@5187 byte - 2009/10/10(Sat) 00:50:15 [No.439]
[削除] - - 2009/10/10(Sat) 00:24:23 [No.438]
生きてく強さ - ひみつ@12330byte - 2009/10/10(Sat) 00:02:24 [No.437]
やべぇ、「アレ」置いてきた。 - ひみつ@18975byte - 2009/10/10(Sat) 00:00:05 [No.436]
待ち合わせ - ひみつ@3551byte  - 2009/10/09(Fri) 23:59:04 [No.435]
To want it would catch paid. - ひみつ@10999 byte - 2009/10/09(Fri) 23:31:42 [No.434]
胡蝶の夢々 - ダーク風味@18086 byte - 2009/10/09(Fri) 23:29:08 [No.433]
終わった順番。 - ひみつ@べ、別に初投稿でドキドキしたりとかしてないんだからねっ! 1696 byte - 2009/10/09(Fri) 23:22:26 [No.432]


To want it would catch paid. (No.430 への返信) - ひみつ@10999 byte

「聞いてくれ理樹! 俺は重大な発見をしてしまった!!」
「どうしたの? 二次元に入る方法でも見つけたの?」
 ノックもなしに自室に飛びこんできた恭介に、理樹は宿題から目を話さずに適当に応えた。
 恭介はそんな対応にもかまわず、入ってきた勢いそのままに熱弁をふるいはじめる。
 ――ちなみに真人は、「頭を鍛えるまえに体を鍛えてくるぜ!」と言い残して姿をくらませていた。
「それは虚構世界をつくれば簡単に……ってその話じゃないんだ」
「ええ!?」
「なんだその『恭介が二次元と妹と(21)以外の言葉をしゃべった!?』みたいな反応は」
「違うの?」
 むしろ違ったら世界が終わる、とでも言いたげな顔に、恭介は若干顔が引きつる。
「でもまあ当たらずも遠からじだ。
理樹、鈴たちはいま何才だ?」
「攻略対象キャラは全員18才以上」
「そうだな。ここで、鈴たちをボーダーラインの18才とし、この学園を高校のような3年制のものと仮定しよう。
鈴たちと理樹は同年代、俺はおまえらより年上……さらに笹瀬川に後輩がいることを考えれば、俺は19才ということになる」
「まあ普通に考えてもそうなるよね」
「だが年齢とはなにか? Yaho○!で調べてみると、『生まれてから経過した年数。とし。よわい。年歯。』とでてきた。
つまり、『生まれてから今日にいたるまで、どれぐらいの時間をすごしたのか』とも言い換えられる」
「……小難しい言い方してるけど、結局普通のことを言ってるよね?」
「ああ普通だ。――しかし、しかしだ。俺たちリトルバスターズは普通の時間をすごしていない」
「もしかして……虚構世界?」
「そのとおり。俺たちは終わらない一学期のなかにいた。なん回も、なん回も繰り返した。
つまり、他の奴らよりも多くの時間をすごしている――すなわち、俺たちはその分年上になるってわけだ!
ここで仮に、ひとりの女子を攻略するのに3ヶ月かかったとしよう。ループ回数は女性陣6人足すことの旧リトルバスターズで計7。3ヶ月×7回=21ヶ月。
俺たちは虚構世界で1年と9ヶ月をすごしている計算になる。
よって俺の年齢は、20才なんだ! もう酒が飲めるし、もう3ヶ月もすりゃあ念願の棗 恭介(21)になれるんだぜ!!」
 語り終わると同時に、懐から缶ビールを取り出し、ひとりで乾杯を始める。
 理樹は開いた口がふさがらなかった。
 この男はなにを言っているのだろうと。
「いやその理屈はおかしい」
「ほう……俺のなにがおかしいのか説明してもらおうじゃないか」
「後悔しない?」
 もちろん、と大きくうなずかれたので、話しだした。
 理樹が座るちゃぶ台の反対側に、恭介が腰を下ろす。
「まず、ひとりの女子で3ヶ月というのがおかしい」
「おいおい、まさか『人によっては1ヶ月です』とか細かく計算していくのか? そんなの誤差のレベルだろ?」
「うん。だけど、ループはいつも5月13日から始まっていた。だからどんなに頑張ってもせいぜい2ヶ月ぐらいだと思うんだ」
「……それでも、2×7=14で1年2ヶ月。ギリギリ酒が飲める年齢だ!」
「いやいや、お酒を止めたいわけじゃなくて……そしてもうひとつ。ループ回数7回というのがおかしい」
 指折り数えていく。
「僕はまず、鈴を攻略しようとした……でも結局攻略できなかった。
次に僕はクドを攻略した。
その次は葉留佳さんに行った。
次は来ヶ谷さん。
続いて小毬さん、西園さん。
ようやく鈴に行ったけど……それでもダメだった。
そして僕たちは、辛いだけになってしまった世界を乗り越えた」
 右手の指はいったん握られ、そこから折り返して三本の指が立っていた。
「それでも8回……やっぱり誤差レベルじゃないか」
「――なに言ってるの?」
「は?」
「まだ僕の話は終わってないよ?」
「なんだと……?」
 話の続きがある……そのことに恭介は戦慄した。
「次に僕はハーレムを狙ってみた。でもあえなく失敗した。
次に辛いだけの世界をもう一度乗り越え、鈴が僕のつばを舐めるのを見た。
そしてさらに来ヶ谷さんがかわいく告白するのを見た」
 指折りしていた手が開かれ、再度親指が曲げられる。
 それでもまだ、止まらない。話すのを止めない……!
「まさか……やめろ、理樹! やめてくれ!」
「クドが精神的に強くなるのを見届けて。
世界を筋肉に包んで。
そして笹瀬川さん。
二木さん。
沙耶さん!
沙耶さん(馬鹿)!!
沙耶さん(スクレボ)!!!」
「…………っ!」
「18回。2×18=36。
――3年、すごしているんだ。虚構世界で。僕たちは」
「そんな……それじゃあ、それじゃあ……」
「…………」
「俺は……棗 恭介……(22)……なのか……?」
 知らなければいい真実もある。政治家の裏の顔、街が発展している裏のヤクザ、両親が結婚した理由、マク○ナル○の原価、……。
 でも理樹は話した。恭介が許可した……そんなのはもう言い訳に成り下がっていた。ただ、どうしても話したくなったから話してしまった。無知蒙昧に喜んでいる恭介の姿なんて見たくなかったから。
 恭介の体が崩れ落ちる。床に拳をたたきつける。
「……ょう」
「恭介?」

「ちくしょおぉぉ!! なんでだよ! なんでこんなことになるんだよ!
ずっとずっと願ってたんだよ! なんで、こんな理不尽なんだよ!! ちくしょう!!
ずっとずっと、願い続けてた!! それがかなえられるって思ったのに!! なのに……それがかなわないなんて……。
そんなの……ねぇよ……なんでだよ……わけわかんねぇよ……くそぉ……」

 それはまさに、魂の叫びだった。棗 恭介という人間のすべてをかけた絶叫。
 ――どうしてここまで悲しむのだろう? なにが彼をそうさせるのだろう?
 わからなかった。わからなかったが、彼が――幼いころから憧れていたリーダーが、とても悲しんでいることだけはわかった。
「恭介……どうして、そこまで……?」
 だから聞いた。恭介の悲しみを理解して、分かち合って、癒せるように。
「……夢、だったから」
 やがて恭介は、ぽつりとつぶやいた。
「ずっと願って……事故にあって……その夢がかなわないと知って……それでもあがいて……最後の最後で捨て去った……夢だったんだ。
それなのに、一度あきらめた夢が目の前にあるんだ……! それをつかもうとしちまうのはしょうがないだろ!?
理樹ともっと遊びたかったとか!! 鈴の成長を見守りたかったとか!! (21)になってイヤッホォォォウしたかったとかッ!!
そんなちっぽけな願いをかなえようとすることが、いけないことなのか!!??」
 つぶやきはやがて、再び魂をふるわせる叫びに変わる。
 その、悲壮感あふれる目を、理樹はしっかりと見すえて、
「恭介」
 手を差し伸べた。
「そんなに悲しまないで」
「悲しむな、なんて……簡単に言ってくれるな……」
「簡単に言うよ。だって、僕は恭介を助けられるんだ」
「なんだって……?」

「僕が……僕たちが、(21)だ」

 理樹は笑う。心の底から。
 かつて悲しみに暮れていた自分に、笑いかけてくれた彼のように。
 恭介は理樹の笑顔を、呆然と見上げていた。やがてその顔が、くしゃっと崩れる。泣き笑いのような表情。
「そっか……おまえは……俺を、助けてくれるんだな……」
「もちろんだよ……それに、僕だけじゃない。真人や謙吾や鈴や小毬さん、みんなみんな、(21)なんだ!
遊ぼう、恭介。ずっとずっと一緒に。みんな一緒にっ」
「理樹……理樹っ!!」
「恭介!!」
 彼らは決して離れないとでもいうように、固く抱き合った。。
 恭介は理樹の胸に顔をうずめた。いつの間にかこぼれていた涙を隠すために。
 理樹はそれに気づかないフリをして、抱く腕に少しだけ力をこめた。
 友情を確認しあっているところに、突然ノックの音が飛び込んだ。
「リキー? お邪魔するのでわふーーーっ! なんだか大変な場面に遭遇してしまいました!?」
 続いて飛びこんできたのは、リトルバスターズのマスコット犬・能美クドリャフカであった。愛くるしいほどの大きな瞳をさらに広げ、目前の光景にびっくりしている。
 それはそうだろう。彼女がひそかに想いを寄せている相手の部屋に入ったら、男と抱き合っているのだから。それだけならばまだしも、男のほうは見るからにガン泣きしているのである。
「もっ、もしかしなくても私はお邪魔でしたかっ」
「いや別に邪魔にはなってないけど……そうだ、クドも手伝ってくれる?」
「なななななにを手伝うですか!?」
「なぐさめるのを」
「なぐしゃめ――!?」
 赤くなってわっふわっふしているクドリャフカに、理樹はこうなった経緯を説明する。
「実はかくかくしかじかというわけなんだ」
「はあ、まるまるうまうまだったのですか」
 壮大な勘違いをしていたことに気がついたクドリャフカの顔が、さっき以上に真っ赤になった。
 しかし次の瞬間には小首を傾げ、なにやら考えだしていた。
「そういうわけだから、クドも一緒に遊ぼう。今日は(21)祭りだ!」
「やべぇ……その名前だけでご飯3杯はいけるぜ……」
「ほら、恭介もノリノリだよ!」
「……そ、そのぉ……ひじょーに言いづらいのですが……」
 クドリャフカは、その小さな体を縮こまらせて、両手の人差し指をつんつんとつつき合わせている。
「そっか……ほかに用事があるなら仕方ないよ」
「いえ、リキたちと遊ぶのはやぶさかではないです! むしろ嬉しいです!
じゃなくて、年齢のことです」
「年齢の……?」
「はい。実は……というほどのことでもないのですが」
 言おうか言うまいか、顔を上げては下ろし、口を開いては閉じた。手は無意識なのか、マントのはじっこをいじっていた。
 そして。クドリャフカは意を決して話す。

「私、みなさんよりひとつ下なのです」

 ――理樹の脳裏に、電流走る!
 自ら犯していた……過ち…………それに気づく。
 ……冷や汗……圧倒的な冷や汗……!!
「か、隠していたわけではなくてですね、言う機会がなかったといいましょーか、いえむしろ前にリキには言っていますし、ですがほんのわんくりっく分のことですし覚えていないのもしょーがないです! のーじんじゃーです!」
 クドリャフカの言葉も耳に入らない。それほどまでの衝撃……やがて弾き出される、正しい答え。
「なんだ……? つまり、能美だけ(20)なのか?」
「違うよ、全然違うよ恭介! 前提条件から狂ってしまうんだ!」
 理樹は最初から話しだす。それは恭介に説明するというよりは、自分に言い聞かせるかのような声音だった。
「まず最初に、鈴たちを18と仮定した。だけど、クドは鈴たちの1コ下。このままだと、クドが17になっちゃう!」
「な……!? バカな! それじゃあソフ倫が許さない!」
「つまり、クドを基準に考えなきゃいけなかったんだ。鈴たちは19で、恭介は20!」
「わふー! 恭介さんは実は大人だったのですか! いっつ・あ・あだるとなのです〜!」
「ってことは俺はいま棗恭介(23)なのか」
「作者と同じ年齢だね」
「そして鈴たちは(22)……! くそっ、このうえ鈴たちにさえ、俺の夢はかなえられないのか」
 どさり、と自暴自棄に体を投げ出す恭介。
 しかし、理樹は首を横に振る。
「まだ希望はあるよ」
「他のクラスの奴らならまだ大丈夫、ってか?
ダメなんだ。リトルバスターズじゃないと意味ないんだ……!」
「聞いて恭介。いるんだ、僕たちのなかに」
「なに……?」
 理樹は、すっ、と体をどける。恭介にその姿を見せるために。
「能美クドリャフカ――クドリャフカ・アナトリエヴナ・ストルガツカヤ・(21)――僕たちの、最後の希望だよ」
 視線の先。そこには突然名を呼ばれ、びくぅっ、と飛び上がったクドリャフカ。
 驚愕の表情のままその姿に見入っていた恭介。やがて、その瞳からこぼれる、一筋の涙。
「そうか……おまえが……」
 まるですがるかのように伸ばされる手を、クドリャフカは反射的に取ってしまう。
「俺の(21)……だったんだな……」
 クドリャフカの手は、しっとりとしていて、なのにすべすべのぷにぷにだった。恭介がいつまでも触っていたいと願うほど。
「うっ、くはぁ!」
「わふ!? どーしましたか?」
「ふぅ……問題ない、ほぼイキかけただけだ」
「イキ……?」
「それより能美、ちょっとついてきてくれないか」
「どこにでしょう?」
「いいからいいから」
「えっと、ですが……」
「いいからいいから」
「はぁ、よくわかりませんが、わかりました」
 恭介はクドリャフカと手をつないだまま、扉のほうへと歩いていく。
 ドアノブに手をかけたところで、振り返らずに、
「理樹。ありがとう」
「僕はなにもしてないよ」
「俺がお礼を言いたいんだ。言わせてくれ。
俺は大切なものを失おうとしていたんだ。それを取り戻してくれたのは理樹……おまえなんだ」

 ――ありがとう――

 ――強く、なったな――

 恭介はドアノブを回し、ゆっくりと扉を開けた。
 前へ向かう。暗い箱のなかで、動かなくなるのを待つだけだったはずの、恭介とクドリャフカ(21)は。
 ――前に。光さすほうへ。





 ひとりきりになってしまった部屋で、大きく伸びをする。ひどくさわやかな気分だった。
 そしておもむろに、部屋のカーテンを開ける。
 空を見上げる。
 まるで泳げそうな、
 目にしみるような、
 どこまでも続くような、
 一面の灰色だった。


[No.434] 2009/10/09(Fri) 23:31:42

この記事への返信は締め切られています。
返信は投稿後 60 日間のみ可能に設定されています。


- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS