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all 第42回リトバス草SS大会 - 代理人 - 2009/10/09(Fri) 22:56:28 [No.430]
締め切りです - 主催代理の代理の代理ぐらい - 2009/10/10(Sat) 01:04:56 [No.440]
Re: 締め切りです - もう代理じゃなくていいや - 2009/10/10(Sat) 01:20:06 [No.441]
恋と魔法と色欲モノ。2 - 期待に応えて@5187 byte - 2009/10/10(Sat) 00:50:15 [No.439]
[削除] - - 2009/10/10(Sat) 00:24:23 [No.438]
生きてく強さ - ひみつ@12330byte - 2009/10/10(Sat) 00:02:24 [No.437]
やべぇ、「アレ」置いてきた。 - ひみつ@18975byte - 2009/10/10(Sat) 00:00:05 [No.436]
待ち合わせ - ひみつ@3551byte  - 2009/10/09(Fri) 23:59:04 [No.435]
To want it would catch paid. - ひみつ@10999 byte - 2009/10/09(Fri) 23:31:42 [No.434]
胡蝶の夢々 - ダーク風味@18086 byte - 2009/10/09(Fri) 23:29:08 [No.433]
終わった順番。 - ひみつ@べ、別に初投稿でドキドキしたりとかしてないんだからねっ! 1696 byte - 2009/10/09(Fri) 23:22:26 [No.432]


待ち合わせ (No.430 への返信) - ひみつ@3551byte 

 謙吾の気合が体育館に響き渡る。彼の表情は面に隠れて見えないが、彼が発する殺気は観覧席にいる僕の動きも止める。竹刀で相手をけん制しながら、すり足で徐々に自分の間合いへと近づいてゆく。
 謙吾の叫びに呼応するように相手も叫び返す。しんと静まり返った体育館に反響しながら、謙吾を威嚇する。腹の底からの大声を聞いただけで、彼がどれほどの鍛錬を積んできたのか分かるようだ。
「なんてゆうか」
 さっきまで椅子に座っていた真人が僕の隣で二階から身を乗り出していた。来た当初はマーンマーンうるさいと文句を垂れていたが、今は真剣なまなざしで試合を見つめている。
「すげえな」
 小声で囁いた。決勝が始まった当初は割れんばかりの声援が選手を後押ししていたが、今はもう誰の応援も聞こえない。バチッ、バチッと二人の竹刀が弾きあう音がやけに耳に残る。
「すごいね」
 僕も小声で返す。実際、すごいとしかいいようがなかった。この誰もが祈るように、しかし絶対目を離さずに見届けているこの試合を、この空間を表現する言葉をしらない。だから、
「まったくすげえよな」
「うん、ものすごい」
 視線を階下から逸らさずに、すごいすごいと言い合う。やがて、すごいとすら言えなくなり、無言で謙吾を見守る。
「っ!いああああっ!」
 ふいに、相手方が動いた。地響きのような踏みこみとともに一本の鋭い刀となって謙吾の面を狙う。瞬間、謙吾の竹刀が受ける。バチィィンと竹刀が鳴き、鍔競り合いとなる。面がぶつかり殺気に深みが増す。謙吾が突き放される。バランスを崩しながらも踏みとどまった謙吾に相手の竹刀が振り下ろされる。半分当たりながらもかろうじて謙吾は防ぐ。審判の一人が白の旗を揚げるが、ほかの二人は厳しい顔で旗を振った。
「勝てるかな」
 急に不安になる。謙吾が負けるはずがないと信じたいが、相手の気力も相当なものだ。さっきの一撃は危なかった。いやなイメージが頭を離れない。
「勝つ」
「え?」
「勝つ。謙吾は勝つ。必ず勝つ、と書いて、謙吾だ」
「…うん、謙吾は絶対に勝つ」
 真人が伝えんとしていることは分かった。僕たちが信じなければ、誰が信じるというのだ。
 相手の攻撃は続く。面、小手、胴、逆胴、突き。奇声を上げ、謙吾に攻撃の暇を与えない。もう時間がない。このままでは判定で劣勢だった謙吾が負ける。たまらず僕は叫んだ。
「謙吾!!!」

 相手の刀が止まった。その機を見て、謙吾が突っ込む。しかし、それを待っていたのか、相手の竹刀は再び動き出す。自分へと突っ込んでくる謙吾の面めがけて突きを放つ。
「いやあああっ!!」
 僕は見た。謙吾は自分の竹刀を相手の一撃ごと右上へと逸らすのを。間一髪、突きは喉元を外れ、空を突く。相手が竹刀を戻すよりも先に謙吾が手首を返す。がら空きになった右腹へと、踏みこみ、気合と共に、

「マーーーーーーーーン!!!」

 抜胴一閃。相手の横をすり抜けて、振り返り、残心。終了のブザーが鳴る。審判団は皆赤い旗を上げた。
「一本!!」
 割れんばかりの拍手。その中で真人が俯きながら、
「マーンってなんなんだよ…」
 と呟くのが聞こえた

 その後、二階から飛び降りて激励に行こうとした真人をなだめているうちに、閉会式は済んだようだ。あちこちで後片付けが始まる中、賞状を手にした謙吾が近付いてくる。緊張と疲労が残っているのか顔色は悪いが、その表情は笑顔だ。
「見てくれたか」
「うん。おめでとう」
「真人も」
「ああ。やっぱお前は必殺謙吾だな」
「いやいやいや」
 意味不明な真人に突っ込みを入れながら、僕は謙吾の首筋を見た。いまだ消えない焼けた皮膚が見える。
「おっしゃ、じゃあ行くか」
「どこへ行くんだ?俺はこれから祝勝会があるんだが」
「あいつらのところに決まってんだろ。んなもん、サボっちまえ」
「…そうだな。行こう」
「おっし、競争だな。」
 言うが早いか真人は飛び出した。自分の靴に足を突っ込み、玄関へと走りだした。真人の足首にも火傷の跡がある。
「追いかける?」
「いや、止めておこう。今日は疲れた。場所が分かっているんだ。急ぐことは無い」
「そうだね。荷物とってくるよ」
 謙吾は汗を拭いながら応えた。
「ああ。焦ることは無いぞ。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいんだ。あいつらはずっと待ってくれている」


[No.435] 2009/10/09(Fri) 23:59:04

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