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朝起きたら僕の息子がなくなっていた。 話を元に戻そう。朝起きて、今日も清々しい曇り空だなぁなんて思いながら体を起こした。真人はまだ寝ているからたぶんブリッジした後に寝たんだろう、昨日唸り声が聞こえてたし。 体をぶるぶる震わせて、白い息を吐きながらトイレに向かう。何の変哲もないトイレのドアの前に立った。今日は何だか体が軽いなぁ(特に下半身が)とか思いながら。 便器の前にって用を足そうとしてチャックに手をかける。その時にすでに明らかに何をどう考えても前方向の膨らみが少なかったが、寝ぼけていた僕はそんなことを気にせずにチャックを下ろした。 そして僕の息子に手を伸ばす。悲劇の瞬間だった。自分の息子を持とうとして、あり得ないことに手が空振りした。あれ、おかしいなと思いながらもう一度掴んでみる。スカ。根性で地球に手がめり込む勢いで掴もうとしたけど、虚しくも手は空を切るだけだった。 なんだ、何なんだ一体。 個室なのでズボンを全開までおろしてみる。さらにパンツも下ろして、下半身素っ裸の状態になって自分の息子をまじまじと見る。長年付き合ってきた自分の相棒を。 目にして愕然とした。 ない。僕の相棒が。 生まれた時からずっと一緒で、水泳の時とかちょっと大変なことになったり、授業の時とかむらむらしたとき抑えが利かないけど、でも夜のお供になったり、なにより男としてのプライドを保ってくれるぐらいの大きさの、僕の相棒。 「相棒おおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」 トイレの中でつい叫んだ。ターザンなんか比にならないくらいの大声で。音量にすると200デシベルぐらいは悠にあったんじゃないだろうか。 いや、ちょっと待てよと冷静になって深呼吸してみる。うん、僕は大丈夫だ。もしかしたら幻覚じゃないだろうかともう一度確認してみる。 やっぱりない。僕の相棒が元々ついていた場所には、女の子のピー(放送禁止)になっていた。真上から見下ろすとなんだか変な感じだ。絶対的に何もない。ちょっと便器に座ってかがんで見ることにした。 〜激、放送禁止〜 エクスタシー。まさにその一言に尽きる。人生18年くらい生きてきたけどこんな幸せなことは初めてだ。男と女の二つを体験できるなんて。しみじみと便器に座ったままそう思った。 もしかして、と思って上半身も素っ裸になってみた。すると案の定、ほんの少しだけど、ふくらみがあった。幸せとかそんな言葉で伝えるのは生ぬるいくらいくらい僕は有頂天の真っただ中にいた。 トイレの中にいること数分。僕になぜこんな幸運が降りてきたのか考えた。いつも他人からお人好しと言われることは多々あるけど、神様がこんなことをしてくれるまですごいことをした覚えはない。神様がそんなことをしてくれると言ったら多分世界を救うヒーローぐらいのものだろう。 悩んでも答えが出なかったので、とりあえず用を足すことにした。女の子がピーする方法くらいは心得ている…つもりだ。 〜微、放送禁止〜 ふう、とりあえず第一関門クリア。トイレの水を流して服を着た。ズボンを履くときに僕のピーがピーに変わっていたのでいつもの苦しさはなかった。チャックがすんなりと閉まるって言うのはなかなか快感だなと思いながら感動に浸っていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。 「理樹ぃ、まだかよぅ。もう漏れそうなんだよぅ」 真人だ。そう言えば長いことトイレに居座っているような気がした。真人には悪いことをした。すぐに用意を済ませて真人にトイレを譲ってあげる。 トイレのドアを開けると、もういまにも漏れます、だから腹とか殴ったらぶっ殺すぞこらぁという顔で真人が立っていた。率直に言うと、ものすごく怖い。しかめっ面なのに冷や汗をかいて両腕を腹に当ててもじもじしていた。 しゅばばばと真人は一目散にトイレに駆け込んでいった。昨日何か悪いものでも食ったのだろうか。いや、たぶんブリッジしながら寝たからだと僕は推測する。 不憫な真人と思いながら歩きだした瞬間だった。 「なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁああ!!相棒おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」 負けた。300デシベルくらいの大音量が室内に響き渡る。壁が少し歪んで、歪曲空間を作り出していた。ちなみにもし300デシベルだったら僕の声の256倍のパワーがあるらしい。災害レベルだ。そんな声を聞きながら。僕は耳をふさぎながらそこに立ちつくしていた。血便でも出たのだろうか。 ガチャっとドアが開く。ナメクジが進むようなスロースピードで。そこから出てきた真人は、全身全霊で哀愁を漂わせていた。どこかのボクサーか。頭にどよーんとした空気が渦巻いている。 「どうしたのさ真人」 「理樹……オレ旅に出てくる」 「どこへ?」 「青春」 そう言って真人はベランダの壁に足をかけた。背中が何も聞くなと語っている。その背中のかっこよさにひるんでいる間に真人は旅立ってしまった。「I can fry!」と言ったのは言うまでもない。でも真人、それじゃあフライド真人の出来上がりだよ。 そんなこんなで僕は少し貧乳の女の子になってしまったのだった。てへっ☆ 「ってそんな終わり方があるかぁぁぁぁぁぁ!」 恭介がドアをぶち破って部屋に突進してきた。きれいに一回転した後立ち上がろうとして勢いを殺しきれずそのままベランダの方へ飛んで行った。スポーン。今日はやけに人が飛ぶなぁ。などと感心していると恭介はものの数秒でベランダにに折り返ししていた。 「ナイスツッコミ、恭介。はいタオル」 「ああ、ありがとう。ってそんなてへっ☆なんて言ってる場合じゃねぇよっ!」 ずべし、と僕の胸に恭介の右手が突っ込みをくらわす。リアル10cm、リアクション3mぐらいで後ろに吹っ飛んでみた。そのまま飛んで行って壁にぶつかった。痛い。 「緊急事態だ」 恭介が体のほこりを払いながら言う。僕の部屋なのに(真人が旅に出た時点でこの部屋は僕の部屋なのだ)。 「どうしたの?」 「お前も気づいているだろう」 「まさか昨日恭介のプリン食べちゃったことがばれた!?」 「食ったの理樹かよ!楽しみにしてたのに!……まぁこんな茶番はどうでもいい。そろそろ本題に入ろう」 恭介がごくりと唾をのむ。これは……壮大な何かで僕を笑わせてくれるに違いない!笑う態勢に入る。 「俺の……俺の相棒が……俺のピーがピーになっちまったんだよぉっ!」 「まさか恭介も……?」 「ああ、そうだ。俺のピーがピーになった上にしかもピーだぞ!?」 「すごいじゃない恭介!これでじっくり観察できるね!」 僕の言葉に恭介が唖然としていた。けど僕は自信を持って言える。今の言動におかしいところは一つもないと思わないことを! 「理樹、お前はこのままでいいのか?」 恭介がものすごく冷めた目で僕を見てくる。いままですごく熱くなっていた恭介がいきなり冷めたので、僕も何か白けた。 「え……もちろん」 「そうか……ならここでお別れだ」 「え?」 そう言って恭介は部屋から出ていく。恭介の背中も物語っている。お前は来ちゃいけないと。けど恭介の背中を追わずにはいられなかった。 「いったい恭介のピーに何の不満があるのさ!」 そこまで言って意識が不自然に途切れそうになる。またあの感覚だ。きょう……す…け。 目が覚める。ふかふかのベッドで寝るのは最高だなと思いながら体を起こす。鈴の部屋で相部屋になっているボクは寝像の悪い鈴を起こさなきゃならない羽目に毎日あっている。目覚まし時計を見るとまだ時間があったので、先に鈴とボクの朝食を作ってしまう。そうしていると寝ぼけ眼の鈴がおいしい匂いにつられたのか起きてきた。 「あ、鈴起きた?」 「おきてにゃい……もう一回ねる」 真冬なのに暖房がガンガンに効いているこの部屋では、起きるのが億劫という感覚を被ることはない。部屋の中心にはこたつがあって、暖房が効くまではそこで寝て過ごす。 そんなこんなで四六時中ぽかぽか陽気なので、眠くなるのもわかる。けどそんなことをしていると学校に遅れてしまう。ボクはベッドに戻る鈴を無理やりこたつに座らせて、朝食を食べることにした。 「いただきます」 「いただきまふ…」 おぼつかない手の動きで鈴がもぐもぐとサンドウィッチを食べ始める。さっき作ったサラダとツナの入ったサンドウィッチ。目が明らかに寝ている鈴がそれをもぐもぐと食べている。うっかり落とさないかと心配になりながら自分のサンドウィッチを食べ始める。 もぐもぐと二人して食べていると、携帯のアラームがピローリローと鳴った。これが鳴るということは、もう出発の時間だということだ。音にびっくりしたのか、鈴がサンドウィッチを落とす。案の定ツナがこぼれた。 「もうこんな時間か。急がないと授業遅れるね」 「いや、むしろこのまま学校に行かないという手も……」 「ないから。それに床がツナでぐちゃぐちゃになってるからそれも片づけていかないといけないから」 二人して床に散らばったツナを片付ける。鈴は無愛想な顔でツナをいじっていた。いつも猫にあげるのはモンペチだが、たまにはこういうのもあげるみたいだ。つまんで名残惜しそうに生ごみの袋にプッシュしていた。 ぞうきんがけも終わると、いよいよ時間がなくなってきた。携帯のアラームが「ピローリロー」から「デデンデンデデン!」というなんとも切羽詰まった音を奏で始めた。 「わわ、早く着替えよう」 二人してクローゼットのなかに入れてある制服に手をかける。いつも見慣れた冬に着るには多少寒い女子用の制服。ボクと鈴は今着ているパジャマを脱いで下着姿になる。そうして上着を着始める。 しかしこうして鈴とボクの胸を眺めているとなんかいたたまれない気持ちになる。でもかといって来ヶ谷さんくらい欲しいとも思わない。胸が大きいと肩こりがひどいとか聞いたことあるし。実際来ヶ谷さんもたまにボクに「理樹くんはこの気持ちが分からないだろう、はっはっは」と言ってくる。その横で西園さんが「それは私に対しての挑戦状とみてよろしいんでしょうか」というような顔で来ヶ谷さんを睨んでいた。 「なんだ理樹、よっきゅうふまんか?」 「いや別にそんなことないけどさ。人間って不思議だなと」 鈴はふーんと言ってスカートを履く。この冬の時期にスカートはつらい。授業中は上に何かかけてもいいことになっているが、登校する時はどうしようもない。せいぜいニーソックス履いて我慢するくらいだ。でもボクと鈴はひざに若干届かないぐらいの普通のソックスを履いた。ボク的にニーソックスは背が高くないと似合わないイメージがあると位置付けているから履かない。来ヶ谷さんとか葉留佳さんを見てればなんとなくわかる。 最後に靴を履いて、こう言う。 「じゃ行ってきます」 「うん行ってきます」 今日もいつもの日常が始まる。 「おはよう恭介」 「ああ、おはよう」 「今日も寒いのによく平気だな馬鹿姉貴」 「ひどいなその呼び方。これでも人並みには寒がっているつもりだけど?」 そう言って俗にいう「寒ーい」のリアクションをとってみせる。恭介も来ヶ谷さんとどっこいどっこいの巨乳なので、腕のあたりに胸がむにゅーと乗る。 「見せつけてるのか!」 うきーとむきになって鈴がおっぱいを揉む。形のいい胸が鈴の手の形に変形する。恭介も恭介で「好きなだけ揉むといい。ただし一回ごとに百円没収」と言っている。「そんなもの払うか、ばーか!」と鈴は返しているのだが。 「見せつけてくれるな恭介氏」 いつの間にかおっぱい揉み大会に来ヶ谷さんが参加していた。鈴が右おっぱい、来ヶ谷さんが左おっぱいを揉んでいた。相変わらず情報収集の早い人だ。 「来ヶ谷は自分の胸があるからいいだろ。私は胸も何もない哀れな妹に巨乳の素晴らしさをだな……」 「いやいや恭介氏、巨乳であることは必ずしもメリットとは限らないぞ。ほら、たとえば鈴くんのような貧乳でもこのように私を楽しませることができる」 そう言って今度は鈴の胸を揉もうと手をわきわきさせてくる。 「こっちくんな変態!」 鈴はファイティングポーズをとって来ヶ谷と対峙する。来ヶ谷さんは人差し指を唇の下に添えて、「あぁ、可愛い。これだから鈴くんはたまらん」と表情を崩している。 「女子高ゆえの禁断の花園を見ちまった気がするぜ……」 そうこぼしているのは、僕の後ろからにゅっとあらわれた真人。肩でそろえたその髪の毛はボクの目を掠めている。傍から見てもこの娘はスポーツをやってるなとわかるような体型だ。前腹筋が割れているのを見せてもらったが、あれはすごかった。男子なら割れててもおかしくないが、女子はこうはいかない。 「真人、おはよう」 「ん?ああ、おはよう。にしても朝からこいつらは何なんだよ。公然と乳揉んでていいのかよ。ちんれつぶつわいせつ罪で訴えられるぞ」 「そこは言わないであげようよ……。あと真人が言ってることやろうとする人なんて多分世界中に一人ぐらいしかいないよ」 「ありがとよ」 陳列物を猥褻……。なんだろう。並んでる本とか見てはぁはぁ言ってたら捕まるのだろうか。それとももしかして擬人化か!真人に寒気が走る。 「まったくお前たちは……。公衆の面前だぞ、いい加減にしろ」 そう言ってさらにその後ろからやってきた謙吾に諭され、仕方なく鈴と来ヶ谷さんは恭介のおっぱいから手を離す。謙吾は腰まで伸びたストレートの髪をたなびかせている。いつも邪魔じゃないかと思うのだが、本人曰く「趣味」らしい。剣道やってた頃は肩までしかなかったからそういう思考に目覚めたのだろう。 「では謙吾くんがおねーさんの性欲を満たしてくれるのかな?」 そう言って今度は謙吾の胸を見る。手をわきわきさせながら。謙吾はどこからか持ち出してきた竹刀を八双の構えで静止したまま来ヶ谷さんと対峙する。 「お前にくれてやる胸なぞ一つもない」 「いけずだな謙吾くん。折角顔立ちがきれいなのに勿体無いぞ」 プイっとそっぽ向いてすねた表情を見せる来ヶ谷さん。それにどこか艶めかしいオーラを纏っているように見えるのは気のせいだろうか。そういえば来ヶ谷さんの靴箱にはラブレターが絶えないという話を噂に聞いたことがある。 「百合だな」 「え!?」 「いやどうということはない、ただの読心術だ」 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべながら来ヶ谷さんは去って行った。ていうか何なんだあの人、恭介のおっぱいを揉みに来ただけなのか。遠くで「姉御おはよー、今日もフェロモン全開ですネ」と言って葉留佳さんがたたたと走ってくるのが見えた 「おはようございます」 「あ、クドおはよう」 「えと、あの、この騒ぎは何なのですか?」 「え!?」 気がつくと周りには人だかりでいっぱいだった。そりゃこの学校の二大巨塔がおっぱいなんか揉んでたらこうなるに決まってる。しかも張本人の恭介はいつのまにか消えていた。ボク達は仕方なく教室に逃げることにした。 「西園さんおはよう」 「おはようございます西園さん」 「おはようございます」 軽く会釈をして西園さんが挨拶をした。 「……」 「どうしたの?」 「女子高というのは美しいなと、今朝ふとそう思いました」 「あーあれね……。でもあれはなんていうか挨拶みたいなものだからそれとは違うと思うけど」 「挨拶であんなことまでするんですか!?……来ヶ谷さんと恭介さんはこの学校でも異質の存在であることを理解した方がいいと思います」 「多分知っててやってるんだと思うけど」 「……!?」 〜〜妄想中〜〜 来ヶ谷「恭介氏、私と快楽に溺れてみないか?」 恭介「望むところだ」 来ヶ谷「ふふふ、恭介氏は貪欲だな」 恭介「そんなことはないさ。来ヶ谷に比べたら私なんか万分の一にも満たない」 来ヶ谷「果たしてそうかな。人間というものは存外恐ろしい動物だぞ。あと来ヶ谷と呼ぶな、唯湖と呼べ」 恭介「唯湖……」 来ヶ谷「恭介……」 理樹「ズバァァァァンンドンガラガッシャァァァン!」 〜〜妄想終了〜〜 「はっ!私は一体何を」 「気にしないで。何かあってもボクが連れ戻すから」 西園さんの目が明らかにフィーバーしてたので、ボクはチョップを喰らわすと共に耳元で声にならない声で叫んであげた。なに、こんなことは日常茶飯事だ。 「一瞬花園が見えたのは気のせいだったのでしょうか。……いえなんでもありません」 では、と言って西園さんは自分の席に戻って行った。少し顔が赤いのは気のせいだろうか。 ボク達もいつもの席に着く。席について暇があったので窓の外を凝視してみた。抜けるような晴天。そういえば今日は体育があるから汗かくのはいやだな、なんて思っていると教師が入ってきた。朝のホームルームの始まりだ。 四時間目。体育の時間。ボク達はクラスの中でおもむろに服を脱ぎ始める。前の時間が移動教室だったため、割とみんなぱぱっと着替える。ボクも遅れないようにと急いで着替える。 「鈴くんはまだスポーツブラなのか。いい加減一歩前へ足を踏み出してみたらどうだ」 鈴が来ヶ谷さんに絡まれていた。あの人はあの人で惜しげもなく自分の胸をさらしている。ブラはつけているが。 「お前みたいに脂肪の塊があるわけじゃないんじゃ、ぼけー」 慣れたように鈴が来ヶ谷さんを追い払う。つまらなそうに来ヶ谷さんがボクと西園さんを交互にガン見してくる。だが残念ながらどちらも着替え終わっていた。次の時間までのタイムリミットが迫っているので、急いでグラウンドへ向かった。 朝と違って今は曇り空が広がっていた。東の空にうっすらと晴れ間が見えるだけで後は厚い雲に覆われている。これはもう少ししたら雨が降ってくるかもしれない。 やや涼しくなった校庭で体育は行われた。みんなで校庭に整列する。 「今日は前から言ってあったとおり体力テストをします」 そうだった。前回水泳が終わった後に教師がそう言っていた。同じように忘れていただろう生徒がブーイングする。まぁ規定事項は何をやっても替えることはできないのだが。 種目は持久走だった。校庭に引かれた白線の円の上を四周、距離にして約一キロの長さのタイムを計ることになる。ボクは走る前からすでに憂鬱だった。走ってしまえばその後はポンポンと事が進むのだが、それまでに感じるこの緊張感がたまらない。心臓が高鳴って口から出してしまいそうな気分だ。 「じゃあ行くぞ。位置について、よーい……どん!」 体育教師がストップウォッチを押す。それと同時にみんな一斉にスタートした。 走り始めというのは早いもので、みんなスピードがダンチで速い。気がつけばボクは先頭と半周も離されていた。ちなみにトップは来ヶ谷さんだ。 ボクがぜぇぜぇ言いながら一周ぐらい走った時だった。ぽつん、と鼻の頭に一粒の雨が落ちてきた。 一粒の雨はやがて大量の雨粒を呼び、いつしか頭を打ち付けるほどの豪雨と化していた。 持久走にストップがかかり、体育は中止になり、ボクたちは着替えるために教室に戻ってきていた。 「散々だったな理樹くん」 来ヶ谷さんが頭を拭きながら話しかけてきた。誰にでも言えることなのだが、雨に打ちつけられた体操服はすけすけになっていて、外部から中身の様子を守るという意味を果たさなくなっていた。その上雨を吸った体操服が体にぴったりくっつき、その妖艶な体系を露わにしていた。来ヶ谷さんはフェロモンが並ではない。スーパーエロいとでも言うのだろうか、胸の形がくっきりと出ている。なおかつその引き締まったウエストはボクとは別次元の女神を思わせた。 「そうだね。来ヶ谷さんも早く着替えた方がいいよ、風邪ひくし」 「何を言っているんだ理樹くんは。こんな肢体を露わにしている情景を私が何もせずにいるとでも?」 「だとしても来ヶ谷さんが自分の体をさらけ出して何かメリットがあるわけでもないでしょ」 「世の中ギブアンドテイクなのだよ理樹くん。私がこの情景を堪能する代わりに、私は自分の肢体をクラスのみんなに公開しているわけなのだよ」 はぁはぁといいながら力説する来ヶ谷さん。なんとも迫力というか説得力に欠ける。 「君たちのような貧乳女子諸君に見せつけるためでもあるがな、はっはっは」 ぽよんぽよんと来ヶ谷さんのおっぱいが揺れる。ぽよんぽよん。クラスのみんなから羨望と怨恨の視線が集まる。このクラスはなぜか貧乳率が高く、真人や鈴や西園さんは自分のおっぱいの大きさを再確認してため息をついていた。 謙吾はこのクラスの中でも大きい方で、来ヶ谷さんには見向きもせずもくもくと胴着に着替えていた。そういえば胴着の下には何も履かないという説があるが、謙吾はどうなのだろうか。すごい気になる。 そうこうしているうちに髪の毛も大体乾いて(鈴や来ヶ谷さんなどは髪が長くて乾ききらなかったようだが)クラスのみんなは残った時間を雑談に費やしていた。ざわざわと騒音がひしめきあう中、ボクだけはうつらうつらと睡魔に襲われていた。 放課後。土砂降りになった雨は止まず、より激しさを増していた。もちろんみんなでやっている野球は中止、各自トレーニングという名目で実質は解散ということになった。 当然ボクと鈴は傘を持っていない。朝があわただしかったうえに晴天だったので雨が降るとは思っていなかったのだ。 「止まないな……」 「そうだね……」 天を仰ぎながらはぁとため息をつく。どうやら夕立のようなものではなく、本降りのようだ。沖縄で台風の中継をしている人はこんな中がんばっているんだなぁと感慨にふける。 「理樹、いこう」 「玉砕覚悟だね」 昇降口で立ち尽くしていたボクたちは、覚悟をきめて寮まで走りぬくことにした。 「よしっ、せーのっ!」 「「うりゃーーーーーーーーーーーー!」」 豪雨の中駆け出していく二人。雨粒に打ち抜かれながら寮までの道を走っていく。その後ろからはそれぞれ傘を一本づつ持っている恭介、真人、謙吾が迫ってきていたのだが、それはまた別の話。 「濡れたな、派手に」 「びちゃびちゃだね……」 寮まで帰ってこれたはいいものの、制服が水分を吸って重くなっていた。あまつさえ夏服だ。いろいろと中身が透けている。スカートもびしょびしょで、時折肌に張り付く感触が最悪だ。端っこをつまんで絞ってみると、案の定水が滴った。鈴も同じらしい。 部屋に入るなり服を着替える。だが水分を吸った服というのはなかなか脱ぎにくい。 「理樹、んっ」 鈴がイライラの限界に達したのか、ボクに上着を脱がすように両手を突き出して促してきた。ボクはボタンをはずし、裾をつまんで一気に服を引き抜く。 「じゃあボクも、んっ」 「んっ」 鈴がボクの服を脱がせにかかる。ボタンをはずし、服を引き抜こうとする。しかし鈴の脱がし方が悪かったのかはたまた僕の体系が悪かったのか、途中でつっかてしまい、僕が押し倒すような形でベッドに倒れこんだ。 鈴が申し訳なさそうに顔を横に向けていると、寒さに体を震わせた。 「寒いの?」 「ああ、寒いな」 「じゃあ暖めてあげるよ」 そう言ってボクは鈴のおっぱいに顔を近づける。何をしようとしているのか分かった鈴は少しだけ身じろぎしてこう言った。 「い、一回だけだからな」 今日もいつもの日常が終わる。 [No.436] 2009/10/10(Sat) 00:00:05 |
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