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「よう、みんな集まったな」 いつも通り颯爽と恭介が部屋へ入ってきた。 「もう、遅いよ、恭介」 「そうだぜ、言い出しっぺが遅れんなよ」 「いったい何の用だ」 口を開いたのは僕、真人、謙吾。 鈴は今日呼んでいない。なんでも男だけで集まりたかったらしい。 「はは、わりぃな。ちょいとお前たちに聞きたいことがあってな」 「僕たちに?まあいいけど」 恭介が僕らを頼ってくるなんて珍しいな。 まあ嬉しいけど。 「まーた、くだんねえことじゃねえだろうな」 真人の揶揄に思わず苦笑を漏らす。 まっ、結構ばかばかしいことやってるしね。 けど例えそうでも最近一緒に遊べてないから僕としてはなんでもいいんだけどね。 「別にくだらないことじゃないさ。とっても重要なことだぜ」 「へー、なんだろ」 そうは言っても恭介って結構大げさだからなぁ。 恭介はしばらく僕らの見つめ、ニヤリと口元を歪めると重々しく口を開いた。 「なあ、お前ら」 「う、うん」 「おう」 「うむ」 僕らは一斉に息を呑む。 「貧乳ってどっからだと思う?」 その瞬間、世界は凍り付いた。 境界線 「……………えっと、何をいきなり言い出してんの、恭介」 いち早く再起動を終えた僕が代表して真意を問い質す。 いやいや、いきなり何とち狂ってんだろうこのリーダーは。 「なんだ、何か変か?ちょっと疑問に思ったんでお前らの意見も聞きたかっただけなんだが」 「いや、だからなんでそんな疑問持つのさ」 「そうだぜ。なんでそんなくだんねーことを」 「いよいよ(21)に磨きがかかったか?」 復活した真人と謙吾も呆れ果てたように恭介を見つめる。 「別にくだらないことなんかじゃね―よ。それに誰が(21)だ」 「え、恭介」 「お前だろ」 「お前以外におらんだろうが」 なに当然のことを言ってるのだろうか我らがリーダー(笑)は。 恭介以外にそんなの該当する人いるわけないじゃないか。 「おーい、理樹。なんか地の文の突っ込みがきついぞ」 「そうかな?」 「そうだよ。……はぁ―、まあいい。最近昔のゲームで遊んでたんだよ」 強引に話を進める気らしい。 まあうだうだをしてても仕方ないし、話を聞こうか。 「ゲームって」 「ああ、数年前に流行ったギャルゲーな。それプレイしててふと疑問に思ったんだ、実際に貧乳ってどのサイズからなんだろうかって」 ……いや、ねえ。 真人も謙吾もまた固まってる。 ホント恭介は大丈夫なんだろうか。将来的な意味で。 「あー、寮の中で堂々とギャルゲーをプレイするってのもなかなか凄いけど、注目するところがそれなの?ギャルゲーってあれでしょ。女の子と付き合うゲーム」 「まあ端的に言えばそうだな」 「それって普通女の子の可愛さや話の内容に注目するんじゃない?なんでそんなマニアックな物に目を向けてんのさ」 まあそう言うのを熱く語られても困るんだけどさ。 でもまだ理解はできる。 「仕方ねえだろ。プレイ中に何度か主人公がヒロインの胸の小ささや身長をからかってるとこがあってさ。小学生だとか男の子みたいだとか言ってるんだがどうにも納得できなくてな」 それで仕方ないと言われてもこっちが納得できないんだけど。 まあでもちょっと気になるな。 「女の子のそう言うとこからかうのはよくないと思うけど、本当にそれ主人公の発言?」 「ああ、そうだが」 「ふーん。ゲームの主人公ってもっといい人かと思った」 「いや、扱い的にはお人好しとかの部類だぞ。鬼畜系のゲームとかじゃもっと酷いし」 「いやいや、そんな真逆のジャンル言われても困るから」 どっちも遊んだことないけどギャルゲーと鬼畜ゲーは全然別物だろう。 まあどっちもあんまり踏み込みたくない世界に変わりないし。 今後も大人しくRPGやアクションゲーム辺りで遊んでいこう。 「しっかし身体的特徴を貶すとは男として風上に置けんな」 「そんなんで話の中心になれんのか?」 どうやら謙吾と真人も僕と同意見らしい。 うんうん、そうだよね。 そういうのは心の中だけに留めておくものだと思う。 「それだけ気やすい仲って事だろ」 「えー、でもクドとか来ヶ谷さんや葉留佳さんにからかわれて落ち込んでるとこ見てるからどうもねえ」 「ありゃ女だからできることだろうな」 「男の俺たちにはそんな真似できそうもないな。まあ言う気もないが」 普段のリトルバスターズ女子メンバーのやり取りを見てるとねぇ。 よくまあ来ヶ谷さんとかクドや鈴にあんなスキンシップできるなぁ。 「まあまあ。今はそう言う意見は置いといてだ、お前たちはどの辺りから貧乳だと思ってんだ」 「えー、なんでそんなこと聞くのさ。そんなの個人の主観でしょ」 「かもしれんが、平均はどんなもんかとな。それにお前たちの感覚も知りたいし」 「そんなもの知りたがらないでよ」 僕は思いっきり溜息を吐く。 真人と謙吾の目も心なしか冷たい。 けど恭介は全然動じる様子を見せない。 ある意味尊敬するよ、その態度。 「で、ちなみにそのゲームの女の子のサイズっていくら?ゲームだから発表されてたりするんでしょ」 とりあえず聞いておこう。 これで数値が小さかったら恭介の称号は『ロリ確定』にしよう。うん、文句は言わせない。 「確か80cmだったかな」 「80?そりゃまた……確か二木さんと同じくらいか」 それは確かに貧乳とは言いづらいサイズだ。 「……なんでお前が二木の胸のサイズを知ってんだ?」 「……理樹、お前」 なんか今度は僕が注目されてるっ!? 謙吾も驚愕の視線を向けないで。 「いやいや、以前葉留佳さんが自分より胸が1cm小さいって言ってたの覚えてただけで」 すると恭介が冷めた視線を向けてきた。 「なんで三枝の胸の大きさを知ってんだ?」 今度はそっち? いや、まあ確かに説明が足りなすぎるか。 でもそんな引いた姿勢で見ないでよ。 「いやね、前に来ヶ谷さんがメンバー全員のスリーサイズを教えてくれたんだよ。たぶん僕の反応を楽しもうって腹だったんじゃないかな」 まあ思惑通り僕は顔を真っ赤にしてしまったのだが。 触ってみるかいとか言わないで欲しい。 うう、思い出したらまた顔を熱くなってきた。 「なんか顔あけーぞ」 いやいや、改めて指摘しないで真人。 「まあ来ヶ谷なら知っててもおかしくないか」 どうやら恭介は納得してくれたようだ。 「だがよくそれをお前は覚えていたな」 「お、そう言えばそうだな」 謙吾の言葉にまた興味を持たれてしまった。 いやー、でもね。 「ま、まあ僕も男だし……」 身近な女の子たちのスリーサイズを予期せず知ることができたのだから、忘れるって言う選択肢もないよね。 「理樹も男なんだなぁ」 いやいや、真人もそんな感慨深く言わないでよ。 他のみんなも生暖かい目で見ないで。 「まあ理樹のムッツリ具合が判明したところで「ムッツリじゃないよっ」……話題を戻そう。お前たち的にはどのくらいが小さいって思うんだ」 うう、スルーされてしまった。 でも。 「やっぱり言わなきゃダメ?」 「ああ、知りたいな」 「つかそう言われてもサイズなんて俺ら気にしたことねえぞ」 「俺も知らんな」 真人も謙吾も確かに知らなそうだ。 「雑誌に載ってるアイドルのプロフィール参考にすりゃいいじゃねえか」 確かに恭介の言うとおり参考にはしやすいように思えるけど。 「でもああいうのって水増ししてそうだしなあ」 アイドルってサバ読んでそうだし。 「おいおい。夢を持とうぜ、理樹」 いや、そんな呆れた目をしないでよ恭介。 そんなんで夢って言われてもねえ。 「じゃあ身の回りの連中を参考にすりゃいいだろ。サイズは理樹が知ってるみたいだし」 「えー、それ発表するの?」 ああいうのはプライバシーに関わるだろう。 まあ僕が知ってる時点でプライバシーを侵害してる気がするけど。 「まあまあ所詮仲間内だ。俺たちが他の奴らに言い触らすわけないだろ」 「そりゃそうだけど……」 そう言う問題でもないと思うんだけどな。 「まっ、いいじゃねえか、言っちまえよ」 なんかその言葉に邪な感じを受けるんだけどなぁ。 「はぁ―、もう分かったよ。分かってるだろうけどここだけの話にしてよ」 「分かってるって」 「別にあんな脂肪の塊に興味ねえって」 「無論。女子のそのような情報は元より聞く気はないのだがな」 恭介は別として真人も謙吾もホント興味なさそうだ。 それはそれでどうかと思うんだけどね。 「じゃあ理樹の許可も取れたと言うことで早速質問だが、二木よりサイズが下のやつって誰だ?」 「二木さんより?それは……クドと西園さん、鈴と笹瀬川さんかな」 数字を思い出しながら答える。 うん、あとはみんな二木さんより大きかったはず。 「あいつらか……」 「うん。……なに?なんか気落ちしてるけど」 話のオチを聞かされてしまったかのような雰囲気だなあ。 「いやだってなあ。例えば能美の場合考えるまでもないだろ」 「まあうん。クドには悪いけどさすがにあれは大きいとは言えないよね」 「つかはっきりと小さいと言えばいいんじゃねえか」 いや、人がせっかくオブラートに包もうとしてんのに。 「そうはっきりと言うものではないぞ。……しかし、まあな」 謙吾すら言葉を濁してしまう。 「あれは貧乳というか無乳の域だよな」 「うん、まあね……」 恭介の言葉を僕は否定できなかった。 ごめん、クド。だって仕方ないよ。 「サイズはいくつなんだ?」 「えっと、確か69」 「「「6……」」」 全員絶句してしまった。 70より下だとはさすがに予想していなかったよね。 「な、なかなかに酷い数字だが……まあ能美はロシア人の血が入ってるからきっとそのうち大きく育つだろう」 「そ、そうだよね。外国人って成長が激しいからね」 一応僕らより年下でもあるし、まだ可能性は消えてないはず。 「けど母親がそうだったら望み薄なんじゃねえの」 「いやいや、そんな身もふたもないこと……」 せっかく頑張ってフォローしようとしてんのに真人ったら余計なことを。 「まあなんだ。本人もかなり気にしているようだからこれ以上言ってやらんほうがあいつのためだろう」 謙吾のその言葉でクドの話題は打ち切ることに決めたのだった。 「それで残りの三人だが、こいつらも俺個人としては全員小さい部類で括っちまっていいと思うんだが」 本人に聞かれたら殺されそうだけど確かにねえ。 「だな。あいつらどっこいどっこいで小せえしな」 「まあそうだよね」 見た目に多小差はあるけど、制服の上からも胸が薄いのが分かっちゃうし。 「西園とか全体的に細いイメージだよな」 「鈴に関してもな。もう少し女性を感じる体つきならあそこまで男っぽくならなかったかもしれんのに」 そうだよねえ。 だから同性のように付き合えていたってのもあるけど。 まあ最近はさすがに女の子にしか見えないけど。 「……だが鈴はあれはあれでいい気がするがな」 「……恭介」 ぽつりと零した恭介の言葉に思わず顔が引き攣る。 見れば真人たちも距離をとってる。 「なんだよその目は。いいじゃねえか、お前らだって鈴が巨乳になるイメージとかねえだろうが」 「そりゃそうだけど。別に来ヶ谷さんレベルは求めなくてもせめて葉留佳さんくらいなら可能性も……」 「三枝か?あんな中途半端な大きさになるなら今のままでいいだろ」 「いやいや、別にそれでもいいじゃない」 それが悪いって訳じゃないし。 「だが言われてみれば、あの筋肉の付き方からしたらあれくらいでいいかもしれねえぞ」 「えー。別に有っても問題ないでしょ」 「でもよー、動きづらくなるんじゃないか」 はぁー、もうなんでもかんでも筋肉に結び付けちゃって。 「まっ、とりあえず現状小さいって認識でお前らもいいんだよな」 「まあ、ね」 ささやかって感じだしなぁ。 「笹瀬川もそんなものか」 「だね、なんかがっかりって単語が浮かんじゃうな」 見た目は少し違うけど確か鈴とサイズはほとんど変わらないから下着の補正なんだろうな。 と言うか逆に鈴はそういうのに気を遣った方がいいと思う。 「ちなみにサイズはどうなってんだ?」 「えっと、確か西園さんが75で鈴が77、笹瀬川さんが78だよ」 恭介の質問に記憶を掘り起こしながら答える。 「鈴は第三位なのか」 恭介は遠くを見ながら呟いた。 なに考えてんだろ。碌でもないこと考えてないといいな。 「そういや二木と笹瀬川って2cmしか変わんねえのな」 「数値的には差がないように見えるがな」 真人たちの言葉に思わず頷きそうになる。 そう言えばそうだね。見た目結構違うのに。 「なんか不思議な力でも働いてんじゃねえか」 「不思議なって適当だなぁ」 NYPとかじゃあるまいし。 「まっ、胸周りの筋肉や脂肪の付き方が違うからその辺で見た目も変わるんじゃないか」 筋肉の専門家がそう言うって事はそれが近いかも。 トップとアンダーの差ってやつかな。 「可能性はあるわな。となるとやっぱ二木の80cmがボーダーになるのか」 言いながら恭介は溜息を吐く。 ボーダーだからゲームの主人公は80cmを貧乳扱いしてたって事? ああ、そう言えば気になったことがあったんだった。 「ねえ、恭介。さっきのゲームの女の子って身長はいくつなの?」 「身長?」 「うん。真人の言葉で思ったんだけど、身長の差からくる印象もあるじゃない」 いくら同じサイズの胸でも背が高い人と低い人じゃ印象がかなり変わるからね。 その子がかなり背が高いって可能性もあるし。 「ああ、なるほど。確か154cmだから鈴と同じくらいだな」 「鈴と?」 「ああ。その辺は調べんでもお前らのは分かるからな」 そう言って僕らを見渡す。 伊達に長い付き合いしてないってことか。 「でも鈴と同じ身長で80か。逆に大きい部類じゃない?」 決してスタイルは悪くないと思う。。 「確かにな。ああ、もしかしたら周りに胸が大きい女ばかりいるからか」 「そうなの?」 「ああ。女は一人を除いて全員80台で80台後半もいるしな」 「ふーん。て、やっぱり主観じゃん」 環境で基準とかは変わるはずだし。 「まあそう言うな。お前らはどういう基準か知りたかったってのもあるし」 「いや、だから知りたがらないでよ」 それを知って恭介は何を知りたいのだろうか。 僕が呆れて溜息を吐くと、不意に真人が疑問を口にした。 「そういやうちのメンバーって胸大きいやつそんなにいないんだな」 「え?なに急に」 「いやな、二木と三枝は普通だろ。あと残ってるメンバーも来ヶ谷の姉御は別格にしてもさ」 「小毬さんとあや?確かに二人とも83cmでちょっと大きいってくらいだね」 「だろ」 「なるほどな。うちのメンバーは傾向的に胸が小さいのか」 いやいや真面目な顔してそんなこと言わない。 近くにいないからって恭介ってばチャレンジャーだなぁ。 「気にしてなかったが確かにそうだな」 「だろ。つーことはだ」 いきなり真人は僕の顔を見てきた。 「なに?」 突然の行動に思わず身構える。 「理樹っちは胸が小さい女が好みなのか?」 「ぶほっ!いきなり何言ってんのさっ!!」 あまりの言動に思わず吹き出してしまった。 「理樹、そうなのか」 「理樹……」 「ちょ、恭介はなに目を輝かせてるのさ!謙吾も引かない!」 あんまりな態度に思わず怒鳴ってしまう。 「でもよー。あいつらスカウトして来たのお前だろ」 「うっ」 「確か来ヶ谷は自分から参加表明したな」 「そ、それは……」 たまたま見つけたメンバーが彼女たちってだけで、そこには注目して選んでないし。 「神北も顔立ち幼いからな。……理樹、俺はどんな性癖がお前にあろうと味方だぞ」 「いやいやいや、謙吾も真面目な顔でなに言ってんのさ」 なんかどんどん包囲網が狭まってるし。 「そうか。お前も(21)だったか」 「いや、違うから。つか恭介、今自分の性癖告白したよね」 「んなのどうもいいじゃねえか。恭介より今はお前のことだろ」 話題を逸らそうと恭介の方に話を振ってみたけど、追求は止みそうにない。 ああ、もう。なんでそうなるのさ。 そもそもね。 「あのね、僕の彼女はあやだよ。全然彼女はそっちの要素ないじゃない」 そう、僕にはあやという彼女がいる。 あやはスタイルいいからロリや貧乳の要素はない。 「なるほど。つまりお前のその性癖を覆す何かがあいつにはあったって事か」 「いやいやいや」 あくまでもそっちの方へと結び付ける気? 真人と謙吾も納得した風だし。 「なんだ、違うのか?」 「当然でしょ。あやは確かにマニアックなだけどそれに惹かれた訳じゃないし」 「本当かぁ〜」 全然信じてない風だ。 そりゃMっ気が強いあやに付き合ってアブノーマルな世界に片足突っ込んだこともあるけど、僕自身は至って普通で変な性癖もないのに。 「まっ、理樹の秘められた性癖が明らかになったところで、次の話題な」 「秘められてないよっ。っていうか次の話題?」 聞いてないよ。これで終わりじゃないの? 「なに言ってんだ。夜は長いんだぜ」 「えー、夜通し?」 明日も学校あるのにこんなくだらないことさっさと終わらせたいんだけど。 「さてとじゃあ次は……」 「スルー?」 なんか僕の扱いが酷くなってる? 「そうだな、彼女持ちの理樹に質問だ。キスって実際どんな感じなんだ」 「知らないよっ。自分で確かめればいいじゃない。恭介モテるんだからさ」 慕ってくれる女の子は結構いるんだから、その内の誰かと付き合えばすぐ分かるってのに。 「いいよ、別にメンドくせえ。目の前にお前がいるんだから、聞けばすぐだろ」 「いや、そうかもしれないけど」 でもそう言うの堂々と発表するものでもないし。 それに期待されてもなぁ。 「ほれほれ。早く言っちまえよ。キスくらい何度かしたんだろ?」 「そりゃまあ、結構長いし」 もう一ヶ月以上かな。 「じゃあさ」 「でもキスするたびに頭真っ白になっちゃうからよく分かんないよ」 未だにその瞬間は冷静になれない。 フレンチキスすら緊張するのにそれ以上のことをする時は正常に思考できないからなあ。 「……お前ウブなんだな」 呆れたように言わないでよ、恭介。 真人も謙吾もジトッとした目をしてるし。 「理樹がまだお子様な事実は放っておいて、じゃあ次」 「えー」 またも流されてしまった。 ちょっぴり悲しい。 「次はそうだな。……朝女子に起こしてもらう方がいいか、起こす方がいいか、どっちだ?」 「へ?なにそれ。それって恋人相手?」 「いや、幼馴染くらいで」 「えー、付き合ってもいないのにそんなことするの?」 僕らに当て嵌めるなら鈴相手って事かな。 いやいや、考えられないし。 「ゲームだしな。で、どっちだ?」 「どっちって、寝ている女子の部屋に入るなんてどうかと思うし、起こしてもらうのも悪いよ」 どっちも僕は考えられない。 「それでも敢えて言うならどっちだ?」 どうやら答えないと許してくれないらしい。 ホント、なんでこんな事に。 「そうだね。どちらかと言えば起こしてもらった方がいいかな」 「ほう。そりゃなんでだ」 興味深そうな恭介に視線に僕は苦笑いを浮かべながら答える。 「やっぱり起きた時に誰かいてくれると嬉しいしね」 ちょっとした甘えだよね、これは。 「……そうか。真人は」 僕の返答に少しだけ真面目な表情を見せ、真人に話を振る。 「ん?そもそも朝起きれない俺に選択肢なんかねえだろ」 「ああ、それもそうか」 「いやいや、恭介もそれで納得しない。真人も起きる努力しようよ」 いつもそれで僕が苦労してるってのに。 「おう、悪いな」 「いやいやいや」 「それじゃあ謙吾は」 僕らのやり取りを無視しつつ恭介は謙吾に話を振る。 「ふぅー、敢えて答えるなら女性の部屋にみだりに入る気はないのでな」 あとは分かるだろうと謙吾は口を閉ざす。 「なるほど。お前たち全員起こしてもらう方か。まっ、かく言う俺もそれだな。じゃあ次だ」 そんなこんなで、女の子の話題を交えつつ僕らはくだらないやり取りを結局朝まで繰り返したのだった。 ――次の日の放課後。 前日の疲れが抜けないまま授業を受け、いつも通り野球の練習を終えた僕はあやに声を掛けられていた。 「どうかしたの、いったい」 「ちょっとね。あたしの部屋まで来てくれない?」 「ん、いいけど。デートのお誘い、とかじゃないよね」 それなら部屋まで行くのもなんか変だし。 「うう、それはそれで魅力的な提案だけど、今日は別件なの」 あやの表情は心底残念そうだ。 一昨日もしたけど、それはそれだしね。 「じゃあ今度の日曜日デートしようか」 「ホント!?って、いやいやそうじゃなくて」 フルフルとあやは首を振る。 ちょっぴり変だけど、あやらしいっちゃらしいかも。 「場所はどこがいい?いつも通りゲームセンター?それとも遊園地や動物園とか?」 「いや、だからね……」 「あやが望むならどこへでも付き合うよ」 僕はあやの彼氏なんだし、できるだけその希望は叶えたい。 まあ昨日のやり取りで疲れたので癒しを求めてるだけなのかもしれないけど。 「……あや?」 急にあやが立ち止まって震えだしたので心配になって声を掛ける。 いったいどうしたんだろう。すると。 「うんがーーーーーーーーーーっ!んなに待てるかあああぁぁあああぁぁぁぁああぁぁぁっっ!!」 「ええっ!?」 いきなりなに? 「日曜日と言わずに今日遊ぶわ。そりゃもう遊びまくりよ!そうよ、まずはゲームセンターね。遊んで遊んで遊び倒してやるわ!そんでもってぬいぐるみをゲットしまくってクレーンゲームの箱を空にしてやるわ!」 「いやいや、今日は用があるんじゃないの?」 だから日曜日の予定を立てようとしてたんだけど、いいのかなぁ。 「いいのよ別にんなもん。ぽぽいのぽいよっ!さあいざ出陣よ!んでもって遊び狂ってやるわ!あーっはっはっは!……って、ごふっ!!」 「ああ、どこからから飛来した石があやの頭に!」 なんか拙い倒れ方をしたし。 僕は慌ててあやの側に駆け寄ってその意識を確かめる。 「ああん、えくすたし〜」 どうやら無事らしい。 身悶えるあやを抱え上げ、近くのベンチに寝かせることにした。 そして数分後。 「さあ部屋に行くわよ」 復活したあやは有無を言わせず僕を女子寮へと連れて行く。 「デートはいいの?」 「それは明日決めましょ」 「うん、いいよ。あやがいいなら僕はいつでもいいし」 笑顔を向けるとあやは耳まで真っ赤に顔を染めてしまった。 ホント、可愛いな。 そんなこんなでUBラインもあっさり越え、見張りの女子たちに見送られ僕らは女子寮へと入った。 それでいいのかという突っ込みはそろそろ疲れたので止めておく。 そしてとうとうあやの部屋の前に到着。 「さ、入って」 「うん」 あやの部屋って一人部屋だからな。 ちょっと緊張しちゃうな。 僕は内心のドキドキを抑えながらドアノブを捻った。 「ふむ、よく来た少年」 「へ?来ヶ谷さん?」 目の前にいた来ヶ谷さんに思わず思考が停止する。 なんでここに。 そう疑問を口にする前にいきなり背中を押された。 「ちょ、なにするの、あや」 後ろにいたはずのあやに向かって怒鳴ると、彼女は後ろ手にドアを閉め、僕に前を向くよう促す。 渋々それに従うと、部屋の中には来ヶ谷さん以外にも鈴たちリトルバスターズ女子メンバー全員と二木さんが座っていた。 「これはいったい……」 訳が分からずもう一度あやの方を振り向くと、彼女はおもむろにテープレコーダーらしきものを取り出しスイッチを入れた。 『……貧乳ってどっからだと思う?』 僕の身体は一瞬で凍り付いた。 今の台詞は紛れもなく昨日の恭介の会話。 カチリとその台詞だけでテープは止められたが、僕の背中は嫌な汗でグショグショだ。 「ふむ、あやくんは私より盗聴器を仕掛けるのが上手いな」 「まあね。こう言うのは得意よ」 二人の怪しい会話に突っ込む気力すら浮かばない。 「ちなみに恭介さんは先ほど鈴さんにこれでもかと蹴手繰り倒されました」 「やはは、動かなくなったんで草むらのとこに捨てときましたヨ」 西園さんと葉留佳さんの言葉に更に冷や汗が溢れ出る。 よく見ればクドや鈴の目がやばいくらい怖い。 「宮沢と井ノ原も始末しといたわ」 「い、いつの間に?」 ヤバイ、ヤバ過ぎる。 絶対零度の二木さんの視線に震えが止まらない。 「さて理樹くん。昨日の会話についてじっくり聞かせてもらおうかしら」 あやにポンと肩に手を置かれた僕は最高潮の震えを見せた。 そしてその日も朝まで寝かせてはもらえないのでした。 [No.459] 2009/10/23(Fri) 23:07:58 |
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