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私たちの問題が解決してしばらくしたある秋の朝、登校して教室に入れば、私と葉留佳の机の上に紙が置いてあった。 見てみると、手書きの文章が書かれていた。 『文字を集め17時にその場所へ来い 1つ目は寮長室に』 「ねえ、これ宝探し? 宝探しだよね!? よし、レッツゴー!」 こういうことが大好きな葉留佳は、急に目を輝かせる。さっきまで寝惚けてたくせに。 まあ先生が来るまで20分くらいはあることだし、やってみてもいいだろう。 「ふう、仕方ないわね」 寮長室についた私たちは、とりあえず目に付くところを見渡してみる。が、見当たらない。当然といえば当然だが。 ちなみに人の姿は見当たらない。もう朝の仕事は終わったようだ。 「荒らさないように注意するのよ」 「わかってるよ。なんかそんな気分になれないし」 「まあほとんどここで怒られてたもんね」 「うう……さっさと見つけてこんなとこ出よー」 急にうな垂れる葉留佳。あの子にとってここには居たくないだろうから、とりあえず探し始めることにする。 と思ったら、葉留佳はすでに部屋の奥を探し始めていた。切り替えの早い子だ。 ……ん? 確かあの場所はティーセットが近くにあったはず。ってまさか…… 「あ、このコップかわいいな。……いよかん星人? ユニークですネ」 「……ねえ、別の場所を探さない?」 「どうして? お、名前書いてある。かなちゃん……あ」 「…………」 私のだと気付いた葉留佳は、すでに攻撃モードへと移行している。対する私はただ黙ることしか出来ない。 「……あ、文字発見。それと次の文字の場所も」 「スルーはやめて! なんか後が怖い!」 「それじゃ教室戻ろっか、かなちゃん」 「コップ見ながら笑顔でその名前言うのもやめて!」 いい機会と思ったのだろうか、葉留佳はそれをネタにひたすら私にかまってきた。 突然のことだったにしても、気が回らなかった私も悪い。 それでも恥ずかしいことは恥ずかしいので、赤くなった顔を見られないよう教室に早足で帰ることにした。 「さてかなちゃん、次の文字と場所ですが」 「いい加減にしなさい、殴るわよ」 「暴力反対ー!」 教室に戻ると、いくらかは落ち着いてきた。そこで当初の目的を思い出し、紙を見る。 1つは『9』、もう1つは『次の文字は保健室に』 「……9ってなに?」 「さあ……とりあえず残りの文字、というか暗号を見つけることが先ね」 「お姉ちゃん、意外とノリノリだね」 「やるからには本気よ」 それにちょっと楽しくなってきたかも。 食後の昼休み、私たちは指令どおり保健室へとやってきた。 ちなみにこの時間先生はいない。生徒はたまに休みに来るが。 私は毎回ここに休みに来ていたことを思い出さずにはいられなかった。 辛かった時のことだけど、唯一の安らげる場所だったからどうも複雑だ。 それに直枝とも……ううん、もう忘れましょう。 「うーん、おなかいっぱいで眠いしここで寝ちゃおうかな」 「ダメよ。寝たらほっぺ摘んで遊んでやるから」 適当に言ってみたけど、柔らかそうだし少しやってみたいかも…… 「おやすみー」 「早っ! まさかホントに摘んでほしいの?」 「お昼の睡魔には勝てないよ……ん、なんか布団の中にある」 「もしかして暗号?」 見てみると、やはりそうだった。 1つに『0』、もう1つに『最後の文字は中庭のどこか』と書かれている。 なんか最後だけ投げやりだった。探す手間が増えるので迷惑限りない。 「9と0? もしかしてこの学校の0階から9階ってことかな?」 「そんなに高くないわよ、この学校。まあ後1つで分かるんだからいいじゃない」 放課後になって、私たちは最後と思われる暗号を探しに中庭へとやってきた。 この場所へ来ると目に付くベンチ。 1度は壊してしまったことも会ったが、今こうして残っているのを見ると安心する。 「お姉ちゃん、その……」 葉留佳が今みたいに下を向いて口ごもる時は、何か私に伝えたいことがあるとき。 最近それが分かった私は、無言で手を引いてベンチへと誘導する。 2人並んでベンチへと座る。実は座る直前に下に紙があるのが見えたけど、今は葉留佳の話が優先だ。 「えっとさ、このベンチ……残してくれてありがと」 「当たり前よ。突然どうしたの?」 「お姉ちゃんは、理樹くんのこと……もういいの?」 ああ……なるほどね。 よくはないけど、直枝は棗さんを選んだのだからしょうがない。 というか葉留佳とこの話はあまりしたくないから、さっさと切り上げたい。 「そんなこと今更言ってもしょうがないでしょ。それよりほら、さっさと暗号解くわよ」 「え、でもどこにあるの?」 「このベンチの下。さっき見えたわ」 「……最近お姉ちゃんって優しいよね。私のこと気遣ってくれてるって言うか……」 「え? 私が?」 自覚はなかった。でも葉留佳と話してると穏やかな気分になるのは分かる。 でも改めて意識すると気恥ずかしくもあるかも。 「葉留佳こそ、素直になったんじゃない? いつもならそんなこと言わないのにどうしたの?」 「だから、お姉ちゃんが優しいから。安心できるっていうのかな、そんな感じ」 ……ずるい、この子は。普段騒がしいくせに、しおらしくなると、とたんに可愛くなる。 全身から熱を感じ、肩が触れ合うこの距離にいると、心身が溶けてしまいそうなほどに。 だから私は誤魔化すように下の紙を取り、ベンチから立ち上がった。 少し落ち着き、3つ目の紙を手に取る。そこにはこう書かれている。 1つに『上』、もう1つに『文字を組み合わせた場所へ17時に行け』 「これだけ漢字? どうしてかな?」 「うーん……」 漢数字にして組み合わせる? ……いや、それだと0がおかしい。 じゃあ当て字か? 9は、きゅう、く。 0は、数字以外にローマ字にも見える。 上は、うえ、じょう、かみ。 これらを当てはめると…… 「あ、わかった! 屋上だね!」 思った以上に低い難易度だった。葉留佳もわかったくらいだし。 「む、なんか今失礼なこと考えなかった?」 「さ、もう3時50分よ。急ぎましょう」 「当たってた!?」 屋上へと続く窓に来て見れば、私たちを誘うように窓は開いていた。 先に私が上り、その後に私が続く。 「お姉ちゃん、ほら見て、夕焼け!」 誰かが待っているのかと思えばそうではなく、紅色の景色が私の眼に飛び込んできた。 「綺麗ね……」 「そうだね……」 2人並んで景色を見つめる。 なるほど、これを私たちに見せたかったのね…… 『誕生日おめでとう!』 「うわっ!」 「あ、あなたちどうして?」 いつの間にか私たちの周りに、バスターズメンバー全員がそろっていた。 それに……誕生日? ああ、そうか。すっかり忘れてたけれど今日は10月13日。私と葉留佳が生まれた日。 今までその日に良い思い出がないからすっかり忘れていた。 「……棗先輩、あなたが?」 「いや、違う。みんなで考えた。さあ、主役もそろったことだし、会場へ行くか!」 「会場ってどこですか?」 「ん、食堂。もしお前たちが準備中に来たらどうしようかと思ったぜ」 「まったく、本当にあなたたちは……」 でも、とっても嬉しい。葉留佳にいたっては感激で目を潤ませている。 だってこれは、初めてのハッピーバースデイ。生まれて初めての、幸せな誕生日なのだから。 [No.463] 2009/10/23(Fri) 23:48:14 |
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