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少し厚手の青色のカーテン。 まだ寝ぼけた寝癖頭で開くと、シャーという心地よい音と共に一際眩しい太陽が室内を照らす。 思わず目を瞑りながら手探りで窓を開けると、朝の澄んだ空気が入ってくる。 んーっと深呼吸すると肺一杯に冷たさが広がり、あまり起きてなかった頭も覚醒してきた。 今日もよく晴れた爽やかな気持ちいい朝。 のはずだった。 男子寮の理樹と真人の部屋。 ベッドの奥にあるクローゼットの前に大きな筋肉が一人、青黒い哀愁を漂わせて座っていた。 普段なら朝のこの時間になると威勢の良い掛け声と共に、熱気と汗とおはようと笑顔を飛ばしてくる真人。 でも今は変わり果てていた。はっきり言えば来ヶ谷さんに断頭台をされた時よりも沈んでいる。 断罪の時以上に顔を青白くして、今回は丁寧に膝を強く抱えて、何かを耐える様に震えて。 昨晩、僕や鈴、謙吾が話しかけても、激しく筋肉筋肉と踊っても、一生懸命筋肉さんがこむらがえっても、真人はただ壊れた機械の様に 「これからは筋肉無しうんこっこ真人、略して筋うん真人として生きていきます…。もし街でオレを見かけたら、よっ筋うん真人と気軽に声をかけてくれよな…」 と繰り返すだけ。 昨日の晩御飯から何も食べてないから少し心配。 「真人、そろそろ学校行かないと遅刻するよ」 「やぁ理樹くん、オレは筋うん真人として生きていきます…」 「…真人、君の筋肉が必要なんだ!」 「オレは筋うん真人…、筋肉さんは宇宙人に連れてかれました…」 やっぱり結果は同じだった。 昨日の夕方からやって駄目だったものを、今やっても効果は無いのかなとちょっと思ってしまう。でも、もしかしたら治ってくれると思い、朝食を抜いてまで挑んでみたけれど。駄目だった。 真人がこうなった原因は一体何なのだろう。全く検討もつかない、くそっ。 幼馴染でルームメイトの筋肉さんの事を、全くわかってなかった自分に腹が立ちながら、また遠くへ就職活動しに行った幼馴染の帰還を祈ってみる。 とりあえず、マスクザ斉藤のマスクに祈ってみる。 こんな時恭介が居てくれたら…。帰ってこないかなうまうー。はりゃほりゃ中にどうか恭介がうまうー来ますように。 天の代理斉藤マスクからの返事は当然、はりゃほれうまうーだった。 ふと時計を見れば、そろそろ走っても間に合わない様な時間。真人には悪いけど仕方なく置いて行く事にした。 「ごめんね、真人。僕学校行くから。具合悪いならちゃんとベッドで寝るんだよ?」 筋うんは思いつめた様な顔をして動かない、全くもって。 今日の金運はきっと最悪なのかなと変な事を考えながら、誰もいない道をひたすら走る。 「お、やっと来たか。理樹、おはよう。…やっぱりあいつは来ないのか」 「はぁ、はぁ…おはよう謙吾。ふぅ、ごめん…駄目だった」 朝のHR1分前になんとか教室に駆け込むことができた。 席にもたれ掛かる様に座ると、目の前に謙吾。息を整えながら少し暗い表情の謙吾に挨拶をする。 「なに、謝る事ないさ。どうせあいつが悪いのだろう、それにほって置けば治るさ」 「うーん、そうかなー…」 言葉はぶっきらぼうだけど、表情はやっぱり暗いまま。やっぱり心配なんだね。 「ああ、心配いらないさ」 謙吾は無理に明るくそういって、自分の席に戻って正面を向いた。 僕は遠く教壇に立つ、さっき入ってきた教師の顔をただただ眺めながら、真人の変化について考える事にした。 確か、野球の練習の時は普通だったんだよね。 いつもの様に謙吾と二人、グランドを走り回ったり、 「俺の筋肉がうなる!うなりを上げるっ!うなぎ登りだーっ!」 「目の前の筋肉〜!停まりなさ〜いっ、暑苦しいので停まりなさ〜いっ」 いつもの様に一人、隅でひたすら素振りをしてたり、 「筋肉が暴走した!暴徒とかしたっ!ただちに相当な筋肉が現場に向かいますっ」 うん、やっぱりいつも通り。 それで、いつもより早く練習を切り上げて寮に戻った時もまだ普通だった。 「理樹、ノート写させてくれ。後でオレの筋肉を少し分けてやるからよ」 「いや、いいよ…筋肉は。別に良いけど汚さないでよ。後今度は自分でやるんだよ?」 「わかってるぜ」 それで僕は鈴ともんぺちを買いに出かけて、帰ってきたら真人が部屋の隅でひざを抱えてて震えてて。 「ただいま、あれ?真人?」 「……」 「真人、どうかしたの?」 「……オレは、筋肉無しうんこっこ真人です…」 僕が出かけていた間に、何かあったんだろうけど…。 宿題はノートを写すだけだから、知恵熱とかは関係ないと思うし。 うーん。やっぱり、わからない。 あれこれ考えて、気がついたら一時限目終了のチャイム。 それと同時に小さくだけどお腹がなった。そういえば、朝ごはん食べてなかったんだっけ。 飲み物を買いに行こうと席を立ったら、目の前にパンを持った鈴。 「理樹、お前朝食食べてないだろ。ほら、パンとカップゼリーやる。食べろ」 「え、いいの?ありがとう、鈴」 「ん」 鈴はちょっと照れた。 「それであいつはまだ、あのくちゃくちゃな状態か?」 「うん、一晩中あんな感じだったし今朝も変わってなかったよ。夜中に何度かトイレに行ったっぽいけど、真人が動いたのってその位かな…」 「ふみゅう」 鈴にお金を渡して、少し大きめの丸いじゃむパンにかじりつく。 口の中いっぱいに、苺とブルーベリーのじゃむが広がり一気に甘くなった。 やっぱり、後で飲み物を買いに行こうかな。 「真人、何でああなっちゃったんだろう」 「わからない」 「そう…。ねえ、鈴。カップゼリー食べる?」 「うん、食べる」 鈴は笑顔でパインアップルのゼリーをほお張った。 次は、物理。物理より飲み物、買いに行こう。 四時限目終了のチャイム。 クラスメイト達はそれぞれ思い思いに談笑したり、背筋を伸ばしたり、次の授業の準備をしたり、机に突っ伏したり。 真人はまだ来ない。 そういえば、授業が終わる度に真人が話しかけてきたっけ。僕は毎回ジュースを買いに行ってあまり構ってあげられなかったけれど。 普段あるほんの些細な事でも、なくなってしまうと少し寂しく思えてくる。 ごめんね、今度は筋肉を選ぶよ。 それに気のせいか、クラス内の雰囲気もいつもより静かな気がする。 真人結構叫んでるから。 いつもとちょっと違う教室。 ようし、お昼だし戻ってみよう。 今は朝より気温もあがって初夏の様、正直とっても暑い。 頬をつたう汗を袖で拭いながら部屋のドアを開けると、バンダナで片目が隠れた筋肉さんが、這い蹲ってこっちに太い腕を伸ばしていた。 「うわっ、貞筋さんっ」 「理樹…、飯を…頼む」 「ま、真人!大丈夫!?ちょっと呪いのビデオっぽくてびっくりしたよっ」 「カツ丼大盛りを…2つ…」 「カツ丼!カツ丼だね!?わかった、待ってて真人!」 僕はまた走って、カツ丼を買いに行った。今日は走ってばっかりだ。 「それで、どうして昨日からずっとあんな状態だったの?」 真人はカツ丼を一つ20秒程で平らげた。 飲むようにして食べちゃ駄目だよ、ちゃんと噛まないと。 「ああ、オレ製マッスル・エクササイザーの進化版、オレ製マッスル・エクササイザーサードを飲んで腹壊した」 「ええー」 「今回はマヨネーズとケチャップと、とんかつソースをたっぷり入れてみた力作だったんだが、一ヶ月位冷蔵庫の奥に置いたのを忘れててな。昨日、発見して一気飲みしたわけだ」 「よく固まってなかったね。じゃなくてっ、なんでそんなの飲むんだよ!お腹壊して当たり前だよっ」 「いや理樹のノート、最後の問題が書いてなくてわからなくてな。これ飲んだらいけるかなって思ってさ」 「いやいやいや、っていうか大丈夫なの?お腹」 「ああ、さっきまで腹痛で何も出来なかったが、今はもうカツ丼だって食える程回復したぜ。ふぅ、オレの筋肉じゃなかったら危なかった」 結局ただお腹壊して、その腹痛に耐える為に縮こまっていただけだったらしい。っていうかよくお腹壊した程度ですんだね。 それよりも、腹痛ならそう言おうよ。僕、真面目に筋肉さんがこむらがえったをやったのに、無駄だったんだ。 「なら、今から学校行くよ」 「やだようっ、行きたくないようっ」 「だって治ったんでしょう?それに、そんな女子みたいなポーズしなくても…。…もう、さっきのカツ丼おごりで良いから、ほら行くよ」 「さすが理樹だぜ」 はぁ。 真人と一緒に学校へ行く、いつもとは違ってお昼からだけど。 「ほう、神北達はそんなに球を飛ばせたのか」 「すげーな、見た感じあいつらぽよんぽよんしてて筋肉ねーのに」 「…真人、お前何か視点がエロいな」 「…見てる所が筋肉だもんね」 「なんだ、こいつエロいのか」 「だああぁぁーーーっ!俺はエロくねえーーーっ!」 「うっさい!ボケ!!」 鈴達には僕が簡単に説明をした。 二人ともやっぱり呆れてたけど、やっぱりどこか嬉しそうだった。 「それにしても来ヶ谷達は兎も角、神北やクドリャフカがか。あいつ等も頑張ってるじゃないか」 「うん、そうだね」 「最近の小毬ちゃん達はよく頑張ってる。最近速く 「あいつ等今ぽよんぽよんなのは、筋肉を落とした状態なんだろ? …待てよ、筋肉を落とすって事は、筋肉を取り外せるって事じゃねえ?ってことは、あいつらは取り外せる位筋肉を育てていたのか!?くそ、俺も負けられねー!」 「こいつ馬鹿だ!っていうか人の話を遮るなぁっ!」 鈴に蹴られながら、真人はそのままスクワットを始めた。今朝まで瀕死だったのに。 凄い、全くびくともしてない。さすが真人。 逆に鈴が蹴った足を押さえて、少し痛がっていた。 「真人、筋肉は取り外せないからね。後、その真人にしかできない高速スクワットはもうちょっと隅でやってね」 「ふっ、ふっ、ふっ、ありが、ふっ、とよふっ」 「こいつ馬鹿だ、くちゃくちゃ馬鹿だ!」 「それにこいつ、今とよふって言ったぞ」 「謙吾、きっと真人は豆腐を食べたかったんだよ、でも噛んじゃってとよふになったんだと思う。だから、そっとして置いてあげようよ」 「バカバカうるせえよ、スクワット中に喋ったからそうなったんだよ、意味なんてねーよごめんなさいでしたーーっ」 「理樹、こいつスクワット止まってるぞ」 「うああぁぁーーーっ!理樹達のつっこみに力入れすぎてスクワット止めちまったぁぁーーーーっ!!」 「真人止めて!髪の毛千切れる!いや千切れてるって!」 「うっさいボケ!」 「ふぅ、付き合いきれん」 よく晴れた爽やかな日。 今日も教室はとっても賑やかで、 「ま、真人!ほら筋肉筋肉〜!」 「おおぉぉーーーっ!筋肉旋風だあーーーーっ!!」 「謙吾も筋肉筋肉〜!」 「いぃよっしゃあぁーーーーっ!!」 「鈴も筋肉筋肉〜!」 「ふかーーっ!」 時々騒がしくて大体いつも通り。 [No.468] 2009/10/24(Sat) 11:23:25 |
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