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「見つからないねぇ…」 「おっかしいなぁ…」 尻餅をついて理樹くんがくたびれる。春の暖かい空気に少し汗ばみながら私も地面に座る。ぐーっと背伸びをすると、体から怠惰感が抜けていく。適度にリラックスしたところで、そばにあった袋からポテチを取り出しパーティー開けに開く。中から香ばしいの匂いが漂ってくる。茂みの中に柔らかく置く。 「はい理樹くん、ポテチでもどうぞっ」 「あ、ありがと」 ひとつを理樹くんは取り出し、口の中へと運ぶ。乾いた音がくぐもって聞こえる。聞いていると和みが生まれる気がして、私は耳を澄ませていた。 「お菓子を食べてる時って幸せだよね〜」 私もポテチを口へと運ぶ。ぽりぽり。幸せな気分でお菓子を食べる。少し経って手が止まらないことに気づいた自分自身に苦笑する。 「そういえばさ、四つ葉のクローバーって10万分の1の確立でしかないんだって」 「ほわ〜。じゃあ見つからないのも仕方ないことなのかもね〜」 そう、私たちは今クローバーを探している。前理樹くんに四つ葉のクローバーを見つけられないという話して、一緒に探そうと誘ってくれたのだ。こうして学校の隅で細々と草を掻き分けているのもそのためだ。 辺り一面を見渡す。見えるのはクローバー、クローバー、クローバー。別名シロツメクサ。私たちが座っている下にも膨大な量のクローバーが埋まっている。それに気づいて少し腰を上げる。案の定押しつぶれたクローバーが顔を出した。 「……」 無言でそれを直す。元通りになったことに上機嫌になりながら、別の場所にすとんと腰を落とす。もう一か所クローバーが潰れた。 「はわぁ」 自分に呆れつつ、またクローバーを元に戻す。しかしというか、クローバーは何ともないような顔をしてまたその場所に在る。可憐なその白い花は凛と佇み、私に元気をくれるのだった。 「疲れたー…」 もう一回ぐいっと背伸びをする。今度は怠惰感は抜けず、ただ虚しく私の体に重りを縛り付けていった。体が重い。 「でもこんなに探して見つからないって言うのもおかしいよね。小毬さん何かに憑かれてるとか」 「いや、それはないんじゃないかな…」 手を口に当てて真剣に悩み出す理樹くん。そんなこと真面目に考えてる理樹くんの方が危ないよと言おうと思ったが、ひっこめた。 緑の色彩が眼前を覆っているが、一向に四つ葉のクローバーは見つからない。こういう小さいものをちまちまやるのは向いてないのかもという念に駆られる。流れ星はすぐに見つかったのに。 とりあえず我武者羅に探す。恭介さんは一日に何個も見つけてきたらしいから、私も見つけられると気合を入れなおす。 「ふぁいと・おーですよ」 「うん、ふぁいと・おー」 手を空に突き上げる。これは、元気の証。私も一緒に手を突き上げた。太陽が眩しい。 少し経って、変なクローバーを見つけた。 「あ、これなんか変だよ」 クローバーをかきわけてそれを晒す。そこに現れたのは、二つ葉のクローバー。 「二つ葉だよ理樹くんっ。えへへ〜」 「……」 無言でそれを見つめる理樹くん。辺りに不穏な空気が漂っていた。理樹くんが静寂を破る。 「あのね小毬さん」 「はいっ」 「二つ葉のクローバーって言うのはさ、その、不幸の象徴なんだよ…」 幸運なのかはたまた不幸なのか、私は意味を知らなかった。言われて初めてその意味を知った。愕然として肩を落とす。 「だ、大丈夫だよ小毬さん!きっと見つかるよ!」 苦笑しながら答える理樹くんに、今一説得力はなかった。けど励ましてくれるその行為が嬉しかった。笑顔で返事する。 「うん、ふぁいと・おーですよ…」 心なしか、私の声は小さかった。 結局、四つ葉のクローバーは見つからなかった。二人して肩を落として河川敷を歩く。眼前に広がる景色は夕日。世界一面をそれが紅く塗りつぶしていた。川に映る煌きは心持ちくすんでいた。 「やっぱり見つからなかったねぇ…」 落ちている肩がさらに落ちる。 「また明日も探してみない?今日はたまたま運が悪かっただけだよ……多分」 という理樹くんも憔悴を隠しきれない様子だった。疲れもあって、下を向きながら歩く。私も小石を蹴りあげて悔しさを表現する。靴が引っ掛かる。すっ転んだ。 「はわぁ」 頭から地面に突っ込む。鼻を地面に擦りつける。地面の匂いが鼻を刺す。理樹くんが大丈夫?と声をかけて私に手を差し伸べてくれている。 「おっちょこちょいだなぁ」 「ううぅ…」 鼻を摩る。擦りつけた場所はほんのりと熱を持っていた。 そこで初めて土手を見渡した。そこには実に春らしい景色が広がっていた。今は赤く染まっているが、普段ならば目を見開くような景色だった。下ばかり向いてたら分からないことはたくさんあると感慨深くなった。 「いい景色だね〜」 「そうだね」 二人して河川敷を歩く。今日はクローバーこそ見つけられなかったが、これも自分へのご褒美だと思った。 「あ、ちょうちょ」 花の匂いにつられたのか、蝶が私の近くを回り出した。ひらひらと飛んでいる蝶を見ると、楽そうでいいなと思った。毎日花と戯れるのはどんな楽しいことが待っているだろう。 「ちょうちょってバターの色に似てるからバタフライって名前になったんだよ」 「え、そうなの?知らなかった」 「だからこうやってぱくっと」 「食べれないよ!」 「半分にちぎって」 「死んじゃうよ!」 「理樹くん、半分こしましょう」 「話聞いてるよね!?」 真面目に答える理樹くんがおかしくて、しばらくそういう問答を繰り返していた。蝶は私たちか、はたまた花に興味を無くしたのか、ふらふらと漂いながらどこかへ去ってしまった。 「小毬さんが物騒な話するから逃げちゃったじゃないか」 理樹くんは蝶が過ぎ去った方向を見つめている。膨れている理樹くんを見つめるのもまた楽しい。 土手沿いに進む。日がさらに沈み始めてきた。空の雲が火を灯し、私たちを照らす。 「ちょっと疲れちゃったかもです。理樹くん、休憩しましょう」 「あ、うん、そうだね」 近くの橋まで行き、橋の下にあるスペースに二人して座る。二人とも体育座りをして座り、膝をぎゅっと抱える。そうしていると、地面にクローバーが見えた。こんなじめじめした所でも健気に咲いている。誰に踏まれようが、無視されようが、ひっそりと。私はなぜか触れてみたくなった。今日いくら触ったかもわからないのに。 無作為に一つを手に取る。やはりそれは何のことはないただのクローバーだった。 「私思ったんだけどね」 「何?」 「クローバーが四つ葉である必要なんかないと思うんだ。大事なのは心、だよ」 「もしかして見つけられなかったから拗ねてる?」 「そ、そんなことないよ〜。ただ、もしこうやって四つ葉のクローバーを見つけたとしても、それはただの思い出にしかならないと思うんだ」 理樹くんが困った顔を浮かべる。それじゃさっきまでの苦労はなんだったのだろうか、と。それに私は言葉を紡ぐ。 「だから、理樹くんにプレゼントしてほしいんだ。クローバー」 はいと言って手に持っているクローバーを渡す。 「こうやって理樹くんに渡されたっていう一生の思い出になるから、だから」 突然の行動に面食らったようだ。けど理樹くんは困惑しながらも、意を決したようだった。深呼吸してから告げた。 「はい、小毬さん。今日は見つけられなかったけど、いつかこのクローバーよりも幸せなクローバーを見つけてあげるからね」 「ありがと〜理樹くんっ!」 人差し指と親指に撮まれたクローバーを両手で受け取る。ただの三つ葉のクローバー。でも今は幸せの三つ葉の、クローバー。胸に近づけて幸せを噛みしめる。そして言う。 「あっ理樹くん、向こうにゆーふぉーが!」 「えっどこ!?」 理樹くんが後ろを振り向く。もちろんそんなとこには何もないのだが。 「今度は私の方に〜!」 「えっ……!?」 振り向きざまに理樹くんの唇を奪う。理樹くんは相変わらず驚いた顔のまま凍っていた。顔を離して、照れながら言う。 「私のお願い一つかなっちゃいました」 絵本を閉じる。中に織り込まれていたのは、クローバー。いつか理樹くんが作ってくれた絵本の最後のページにそれはしまってある。二人が一番近いところで通じていられるように。 絵本を本棚の中に戻す。本棚の中には今まで積み重ねてきた思い出が大切にしまってある。かけがえのない私たちの絆。それをぼーっと眺めていると、玄関の開く音がした。たたたと玄関へと駆けていくと、そこには私の愛しい人の姿があった。 「ただいま、小毬さん」 「おかえりなさい、あなたっ」 幸せは確実に、今も、私たちへと降り注いでいる。 [No.494] 2009/11/06(Fri) 21:21:35 |
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