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給水塔に腰掛けて、良く晴れた空を見上げる。丸くなりきれない月に白くくり抜かれた空の青。 西園美魚は、屋上にいた。 がたついた金具を軋ませてドアが開く。美魚は空を見上げている。 少しして、ひと筋の煙が空に白をにじませた。美魚は煙を辿って見下ろした。 屋上を取り囲むフェンス。錆びてペンキの剥げた柵。ごんごんと音を立てて回る旧い室外機にもたれて煙草をふかしている女と目が合った。 「……あら」 美魚からはそれだけ。会釈をして、また空を見上げる。 「いや、いやいやいや」 美魚が空を見ていると、下の方で女の声がした。 「え、何、リアクションそんだけ?」 国道から離れているせいか、車の音は気にならない。隣の屋上に植えられた木が風に揺れた。 「や、あのぅ……同じ制服だし、うちの社員だよね?」 「ええ、フロアは違いますが」 「……聞こえてたんなら返事くらいしろって」 声のほうを見下ろすと、煙草をふかしていた女はもう煙草をふかしていない女になっていた。 美魚は肩にかけていたフリースの前をかき寄せる。いくら晴れていても、いや晴れているからこそ空気が冷たい。 「……ああ、なるほど。リアクションをしろと」 「いや、うん、なんかごめん」 煙草をふかしていない女は新しい煙草をくわえた。美魚は空を見上げる。 風が少し強く吹いた。目の前で踊る髪はそのままに、暴れそうになる柄を握りなおす。 「ねえ、何で差してんの、傘。晴れてんのにさ」 女の声がした。建物にぶつかって本来の向きを見失った風が、屋上で迷う。 「アンテナです」 西園美魚は日傘を差している。 空を見上げ、美魚は呼びかける。 「べんとらー、べんとらー」 「あー、何だっけ。どっかで聞いたことあるわ」 空き缶が跳ねる音がした。下を見ると、煙草をくわえた女が美魚を見上げていた。 「UFOを呼ぶ呪文だそうですよ」 「うそ、マジ?」 「嘘です」 「あ、そう……」 空を見上げる。小さな雲が千切れていた。 「いい天気ですから、電波が遠くまでよく届くんじゃないかと」 「そりゃ嫌な話だね……」 「戻るわ。寒いし」 重い音を立ててドアが閉まった。美魚は空を見ている。 「びびびびびび……」 アンテナをくるくると回しながら、青の向こうへ電波を送っている。 美魚は新聞を取っていない。だから朝のニュースは欠かさず観ていた。 見上げた空へ呟く。 「きこえますか? 能美さん――」 今朝のニュースも見ていた。 [No.520] 2009/11/20(Fri) 21:39:22 |
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