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all 第45回リトバス草SS大会 - 大谷(主催代理) - 2009/11/20(Fri) 00:00:56 [No.515]
それぞれの行方 - ひみつ@26023byte - 2009/11/21(Sat) 17:28:50 [No.531]
物足りませんの - ひみつ@19980 byte 超遅刻&ちょっとエロい - 2009/11/21(Sat) 13:15:42 [No.530]
しめきり - 大谷(主催代理) - 2009/11/21(Sat) 00:42:32 [No.528]
能美クドリャフカのキッスで殺せ! - ひみつ@17181byte - 2009/11/21(Sat) 00:37:09 [No.527]
[削除] - - 2009/11/21(Sat) 00:09:59 [No.526]
分割手数料10%OFF!! - himitsu@7665byte.co.jp/ - 2009/11/21(Sat) 00:03:59 [No.525]
Exit - 9266 byteの秘密 - 2009/11/20(Fri) 23:55:59 [No.523]
双子姉妹、増し増しで 〜エロシチュー編〜 - ひみつ@7093 byte - 2009/11/20(Fri) 23:31:29 [No.522]
風に溶けるその日まで - ひみつ@5725 byte - 2009/11/20(Fri) 23:27:21 [No.521]
成層圏を突き抜けて。 - ひみっつ@2043 byte - 2009/11/20(Fri) 21:39:22 [No.520]
冬の幻 - ひみつっすよ!@9629byte - 2009/11/20(Fri) 21:38:24 [No.519]
彼女たちの絆 - ひみつ4326 byte - 2009/11/20(Fri) 21:20:39 [No.518]


風に溶けるその日まで (No.515 への返信) - ひみつ@5725 byte

 今日は朝から野球日和。
 そんなわけで、一日中野球としゃれこんでみた。
「も、もう一歩も動けねぇ……」
「ふっ。情けない男だ……一歩など造作もないこと……」
「なにぃ? ならオレは……二歩だ!」
「俺なら三歩は……余裕だ」
「実は五歩いけるぜっ」
「……なら俺はその二倍動ける」
『そぉい、ぐはぁっ!?』
 ふたりで張り合ったあげく、ふたりそろって仲良く倒れた。
「ほんとにばかだな」
「ふたりの友情をひとことで否定しないでよ……」
「ばかだから、ばかっていっただけだ……つかれてるなら、おとなしくしてればいい」
「まああのふたりはなんだかんだいって体力あるからね。鈴は疲れてないの?」
「……よゆー、だ」
「はいはい。とりあえず汗ふこうね?」
 僕はポケットからハンカチを取りだして、鈴の顔に押しあてた。
 「うにゅー」とかいいながらいやいやしていたが、やがてあきらめたのかされるがままになる。
 あるていどふき取って、「終わったよ」と声をかける。鈴は一度だけぷるりと顔を振って、「ありがと」と消え入りそうな声で言った。
 麻痺したように動かしづらい手足を総動員して、グラウンドの大木へと向かう。
 幹に背中をあてると、自然に腰が下りていった。そのままへたりこむように座った。
 木陰に吹く風が、体にこもった熱をやさしく運んでいく。
 ぼーっと木漏れ日を眺めていると、隣に鈴が来た。僕と同じように幹に背中を預けて、地べたに座る。
 なにを話すわけでもなく、ときおり吹く風に身を任せる。
 隣から「くぁ……」という声が聞こえる。首を横に向けると、目をこすっている鈴。
「ねむいの?」
「うみゅぅ……」
「じゃあ部屋まで送って……鈴?」
 とん、と肩にやわらかな感触。そのままずるずると僕の体を滑り落ちていって、ぽすん、と膝におさまった。
「鈴?」
「…………すー」
「いやいやいや起きてよ! こんなところで寝たら風邪引くから!」
「まくらがしゃべるな」
「いつから僕は鈴のまくらになったのさ……」
 力なくツッコミをいれるけど、安心しきった寝顔を見て、もうなにも言えなくなった。
「理ぃ樹ぃ……」
「真人ってうわぁ!? ここまで這ってきたの!? 泥だらけだよ!」
「大丈夫だ……オレには鋼の筋肉があるからな」
「その筋肉の影響がない制服がドロドロだよっ。そもそもその筋肉にも泥がついてるじゃないかっ」
「まあ気にすんなって。どうせ制服洗うのは理樹なんだからよぅ」
「いやいやいや、さも当然のように自分の仕事を押しつけないでよ……」
 真人は泥だらけになるのもかまわず、這って木陰までたどり着くと、あお向けに寝そべった。
 汗まみれだった顔は泥まみれになっていた。
「……悪ぃな。つき合わせちまって」
「ううん。疲れたけど、野球は楽しいから。……野球だけじゃなくて、みんなと遊ぶのは好きだよ」
「そっか」
「そうだよ」
「……ありがとよ」
 真人はごろりと横を向いて、「疲れた。寝る」と言って、腕をまくらにしておとなしくなった。
「……くっ」
 いつのまにか木陰の中に謙吾がいた。両膝と右手をつき、うつむいていた。
「謙吾? どうしたの、大丈夫?」
「この俺が……二着とは……」
「あ、どっちが先に着くか勝負してたんだ」
「ああ。やつは姑息にも『あれ、おまえの筋肉どこに行ったんだ?』と言ってきてな……」
「真人じゃないんだから、そんなのに引っかからないでよ……」
 謙吾は小刻みに震えている。あごから滴り落ちたしずくが、地面を水玉に染めた。
「そこまで必死にならなくていいのに……」
「必死になるさ、お前たちと遊ぶのは楽しいからな。……ずっと、剣に生きてきた。もしも今日まで剣道を続けていたら、こんなにも楽しくなかったはずだ」
「剣道は嫌い?」
「好きだ……だが、リトルバスターズはもっともっと好きだ。愛しているといっても過言ではない」
「愛って……」
「リトルバスターズは、俺にとって愛だ。愛そのものだ……! だから、もっと、ずっと」
 遊んでいたい、と。こぼれた言葉はグラウンドに吸いこまれていった。
 真人に続いて、謙吾も寝てしまった。
 風が吹く。遠い雲は微動だにしない。音はない。
 まるで、世界に僕ひとりだけ取り残されてしまったみたいだ。もちろん錯覚だけど。だって僕には、リトルバスターズのみんながいるから。
「理樹……」
 グラウンドの中央、遠く離れたそこには僕らのリーダーが立ちつくしていた。
 目をつぶって、目を開く。手を伸ばせば届く距離に、恭介はいた。僕は木陰に、恭介はグラウンドの真ん中に、変わらずいる。だけど、距離は近かった。
「……すまない……」
「いやいやいや。たしかに一日中っていうのは無茶だなーとは言ったけど、楽しかったよ」
「違う! そのことじゃない、そのことじゃないんだ……! 俺は、すまない……すまない……俺は、おまえを、おまえたちを……」
「恭介?」
「おまえたちを、強くすることができなかった!!」
 ――風が止む。雲は動かない。太陽は動かない。校舎には誰もいない。猫もいない。みんないない。
 空は張りぼてのような青。
 恭介は両手で顔を覆って、まるで舌を噛み切るかのような口調で続ける。
「俺は、おまえたちを、強くすることが、できなかった。……おまえたちを、まもることが、できなかった。……おまえたちを、幸せに、できなかった……」
「…………」
「どんな手段も使ってきた……真人の、謙吾の、鈴のトラウマすら利用して……なのに、その結果がこれだ!! こんな結末、誰も望んでいなかった! 誰ひとりもだ!」
「恭介、僕は……」
 恭介の膝から力が抜ける。重力にひかれるように、倒れこむ。「すまない……すまない……」とうわ言のように繰り返していたが、やがてなにも聞こえなくなった。
 起きているのは僕ひとりになった。
 空が剥がれた。校舎が、校庭が、木が、さらさらと砂のように崩れていく。そうして白に染まっていく。
 空が消えた。校舎が消えた。校庭が消えた。木が消えた。最後まで残っていた校門が、消えた。
 瞬きひとつのあと、白い世界は黒く染まった。体に圧迫感。
 上を見る。真人が、僕を守るように覆い被さっていた。
 横を見る。鈴が、僕と同じように謙吾に守られていた。
 周りを見る。車内には人形のように放り出された、クラスメイトたち。
 遠くを見る。恭介が倒れていた。ひとりだけぽつんと、投げ出されていた。
 僕は真人の体から這い出して、恭介のところに向かう。立ち上がる。がくんと膝が曲がる。めまいがする。頭の奥が重くなる。持病の兆候。ナルコレプシー。
 ダメだ。僕は這う。行かなきゃ。足をたわめて、伸ばす。恭介のところに。落ちそうな意識。ひとりにしない。唇を噛み切る。抗う。
 届く。届かせる。届いた。
 つかんだ。手。恭介の。大丈夫。離さない。
 僕たちは。リトルバスターズ。
 ずっと一緒。
 この体が。
 朽ち果てて。



   風に溶けるその日まで



 轟音。熱。暗転。


[No.521] 2009/11/20(Fri) 23:27:21

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