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「うわーん! そんなこと言うなんて……理樹くんのバカー! 家出してやるー!!」 夏の名残の暖かさが、一瞬で寒さに代わった。そんな晩秋。 1Kユニットバスつきの玄関がすぱーんと開き、がたーんと落ちた。ゆっくり開け閉めしないと蝶番が取れるのである。 それを気にも止めず泣きダッシュで去る葉留佳。 それを気にも止めずあぐらで憤慨する理樹。 それが、昼まで寝ていた佳奈多が見た光景だった。 とりあえず理樹をぶった。 双子姉妹、増し増しで 〜エロシチュー編〜 「で、どうしてこうなったの?」 「葉留佳さんに聞いてよっ」 とりあえず理樹をぶった。 「どうしてこうなったの?」 「……ケンカしたんだ」 「そんなの見ればわかるわよ。どうしてケンカになったの?」 「葉留佳さんが僕に……」 理樹は口を開きかけたところで、その時のことを思い出したのかくやしそうに唇を噛みしめた。 理樹がここまで怒りをあらわにするのはめずらしい。これはよっぽどのイタズラでも受けたらしい。 佳奈多はため息をついた。妹の悪癖に。 「僕に、『直エロ理樹』って言ったんだ!!」 佳奈多はため息をついた。理樹の小ささに。 佳奈多はすでにこのあとのバイトのことに頭を切り替えていた。 そんなことに気づかずに、理樹はだんだんとヒートアップしていく。 「なんだよ『直エロ』って! なんで名字でエロを宣言しなきゃいけないのさ! それに加えて『ロ理樹』だよ!? 僕がロリ好きに見えるのか、それとも僕自身がロリに見えるのかっ。どちらにしても腹立つ! まったく、たまたま着替えの場面に出くわしちゃっただけなのに……」 佳奈多は理樹の真っ正面に座ると、理樹の頬を包みこむように両手を添えた。 「また着替えを覗いたの?」 「あ」 さっ、と顔をそらす理樹。しかしぐりん、と引き戻される。やさしく添えられていたはずの佳奈多の手は、いつのまにか頬をわしづかんでいた。 「ねえ、これで着替えを覗いたのは何回目? トイレに入ってるときに無断でドアを開けたのは何回目? 水をぶちまけて濡れ濡れの透け透けにしたのは何回目? 急にナルコレプシって胸やお尻やふとももにつっこんできたのは何回目? ほら、答えてごらんなさいよ。ほら、答えてごらんなさいよ。ほら、答えてごらんなさいよ直エロ」 「すいませんでした」 拘束から逃れた理樹はすぐさまジャンピング土下座を決めた。それでも許されなかったので開脚前転土下座から反復横跳び土下座のコンボを決めた。 「下の人の迷惑になるからやめなさい」 ずっとびたーんびたーんびたーんしていた理樹は正座にフェイズシフト。 「それで、あの子にはなんて言ったの?」 「『ごくつぶし』」 「死ねばいいのに。直枝とか死ねばいいのに。氏ねじゃなくて死ね。二回死んで二回生き返るといいわ」 「あ、最終的には生きてていいんだ」 「ええ。最終的には生爪生皮はいで塩漬けにしてあげるわ」 「いっそ殺して!?」 「嫌なら葉留佳を探して誠心誠意謝ってさっさと連れて帰ってきなさい。タイムリミットは私がバイトから帰ってくるまで。いいわね?」 「了解! 直枝理樹、行きまーす」 そんなわけで理樹は、寒空のした葉留佳を探して三千里なのであった。 ………………。 …………。 ……。 「お帰りなさいませ、ご主人さま……って直枝?」 理樹はみなぎった。 「どうしたのよ。汗だくでハァハァしないでよ気持ちが悪い」 「僕、走った、町中、葉留佳さん、見つからない」 「それでどうして私のところに来るのよ? ……そうね、海の方は探した?」 「え? 寒いじゃん」 「いいから行きなさい」 「イエス、サー!」 「私は女よ」 「イエス、マム!」 「いってらっしゃいませ、ご主人さま」 理樹は超みなぎった。 コートのなかはみなぎった熱が充満していた。 海まで走った。 せっかくのみなぎりを冷ますかのように風がびゅうびゅうと吹いている。海風だ。寒い。氏ぬ。 はたしてそこには葉留佳がいた。縦横無尽にジッパーがついている水色パーカーを羽織り、デニム生地のハーフパンツから伸びた足は白黒のボーダーニーソックスに包まれている。 部屋着のまま飛びだしたせいか、震えながら海にむかって三角座りしている。 「葉留佳さーん! 僕だ! 結婚し、じゃない許してくださーい!」 前方倒立回転跳び土下座→ロンダート土下座→キャッと空中三回転土下座。 コレを見て許さない人はいないだろうと言わんばかりのコンビネーションだった。 「ん? 理樹くんどったの? そんなところにうずくまって??」 見ていれば、だが。 理樹は葉留佳の背中にむかって土下座していた。超意味無い。 「あ、ちょうどいいところに! ねーねー理樹くん見て見てー」 「ヒトデ?」 「ヒトデー」 「ヒトでっていう」 「こーやって木の棒でつっつくと……ほら、ぐにゅりってなりましたヨ?」 波が届かない浜辺の一角。海から取り残された水溜まりにヒトデがいた。 葉留佳は延々これで遊んでいたらしい。 「っていうか、こんな時期にヒトデっているんだ」 「んー、わかんないデスよ? もしかしたらヒトデっぽいなにかかも……はっ!? ということはまさかはるちんは歴史の目撃者になってしまったのかー!?」 「ヒトデで歴史は動かないと思うよ……」 「そんなのやってみなきゃわからなっくしょーい!!」 盛大なくしゃみがヒトデを直撃。 理樹は着ていたトレンチコートを脱いで、葉留佳の肩にかけた。 「あったかい……」 「僕の(みなぎった)熱が残ってるからね。ほら、帰ろう?」 「ほーい」 ヒトデにばいばい、と手を振って、葉留佳は立ち上がった。 そしてふたりそろって家路をたどった。 「……あれ? はるちんなにか忘れてる気がしますヨ?」 「今日の晩ご飯のメニューじゃない?」 「あっ!! 今日私の当番だった! 理樹くん、なにか希望ある? 簡単に作れるやつで」 ………………。 …………。 ……。 「葉留佳さんなら今僕の横でシチュー作ってるよ……うん。じゃあね」 ぴっ。 「誰? かなた?」 「あと五分くらいで着くって」 「じゃあ最後の仕上げといきましょうかネ」 理樹は深目のお皿を三枚だすと、そこにご飯をよそった。 なんと二木・三枝家ではシチューにご飯派だったのだ! パン派の理樹はビビッた! しかし、半年ほどの共同生活を経て、理樹はふたりの色に染まってしまったのだった。 「アイエボラ〜アイエボリ〜」 「なにそれ」 「料理がおいしくなるおまじないですヨ? アイエボル〜アイエボレ〜」 「葉留佳さんって色んなおまじない持ってるよね」 「――ずぎげぼぶぶぶばぁ」 「いまなにか出たよ。ぜったいなにか出たよー?」 「ほいっと完成! あ、かなた帰ってきたっぽい! よそってよそって!」 閉じた(佳奈多が直した)ドアの向こうから、階段を上る音が聞こえてくる。そして。 「ただいま。はい、おみやげ」 「お帰りかなたおみやげなにー? ……塩?」 「直枝漬け用の……いえ、なんでもないわ」 「二木さん本気だった!?」 佳奈多は赤いマフラーと紺のダッフルコートを脱いで、コートかけにふたつまとめてつるす。 白いタートルネックの上からベージュのジャケットを着て、下は同色の膝丈スカート。そこから黒のストッキングが伸びている。 「かなた早く、はるちん特製シチューがチンザマシマシておられるのだぞばばーん!」 「外から帰ったら手洗いうがい。常識よ」 佳奈多はキッチンの蛇口をひねると、冷たさに身をすくめながら手洗いうがい。良い子だ。 「あれれー? うーん……」 「どうかしたの葉留佳さん」 「理樹くん、『チンザマシマシ』って、なにが増し増しになるんですかネ?」 「……さあ」 「チン……チン……チンギスハーン? 違うなぁ……ちん、珍、チン、チーン?」 「そんなにチンを連発しないでよ」 「え? ……あ゛っ!? うわぁぁぁ! うわぁぁぁ!!」 恥ずかしさをごまかすように、葉留佳はフードをすっぽりかぶる。そしてフード脇のひもをぎゅっと引っ張って閉じこもった。てるてる坊主の口から、しっぽのようにでろりと髪が生えていた。 「なにしてるの葉留佳?」 「理樹くんに辱められた! 乙女になに言わせるのさ直エロ理樹くん!」 「ちょっと表に出ようか、ごくつぶし」 「うわぁぁぁぁお゛ね゛え゛ち゛ゃ゛ん゛ー!!」 「死ねばいいのに。直枝とか死ねばいいのに。なんで生きてるのかしら。なんで息してるのかしら。酸素がもったいないわ死ねばいいのに」 姉妹の絆を前に、理樹はずたぼろになった。 このシチューやけにしょっぱいなぁ、と滲む夕日を見て思った [No.522] 2009/11/20(Fri) 23:31:29 |
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