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all 第45回リトバス草SS大会 - 大谷(主催代理) - 2009/11/20(Fri) 00:00:56 [No.515]
それぞれの行方 - ひみつ@26023byte - 2009/11/21(Sat) 17:28:50 [No.531]
物足りませんの - ひみつ@19980 byte 超遅刻&ちょっとエロい - 2009/11/21(Sat) 13:15:42 [No.530]
しめきり - 大谷(主催代理) - 2009/11/21(Sat) 00:42:32 [No.528]
能美クドリャフカのキッスで殺せ! - ひみつ@17181byte - 2009/11/21(Sat) 00:37:09 [No.527]
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分割手数料10%OFF!! - himitsu@7665byte.co.jp/ - 2009/11/21(Sat) 00:03:59 [No.525]
Exit - 9266 byteの秘密 - 2009/11/20(Fri) 23:55:59 [No.523]
双子姉妹、増し増しで 〜エロシチュー編〜 - ひみつ@7093 byte - 2009/11/20(Fri) 23:31:29 [No.522]
風に溶けるその日まで - ひみつ@5725 byte - 2009/11/20(Fri) 23:27:21 [No.521]
成層圏を突き抜けて。 - ひみっつ@2043 byte - 2009/11/20(Fri) 21:39:22 [No.520]
冬の幻 - ひみつっすよ!@9629byte - 2009/11/20(Fri) 21:38:24 [No.519]
彼女たちの絆 - ひみつ4326 byte - 2009/11/20(Fri) 21:20:39 [No.518]


物足りませんの (No.515 への返信) - ひみつ@19980 byte 超遅刻&ちょっとエロい

「最近、物足りませんの」
 放課後、僕らはいつも二人きりの時間を持つ。
 大概は他愛ない話で、話をする場所もその日の気分で変えるが、今日はちょっとだけ違った。
 真人に少しばかり出て行ってもらって僕らの部屋で軽く触れ合いながら会話をしていると、不意に佐々美さんは真剣な表情でそんな爆弾発言をかましてくれた。
「え、ええ?あの、その……ごめんなさい」
 デートのセッティングが悪い?
 それとも夜のテクニックが足りないとか?
 どっちにしろ自己嫌悪だ。
「ああ、違いますの。そう言うわけではありませんわ」
 僕が落ち込んでしまったのを見て、佐々美さんは慌ててフォローに入る。
 いいよ、そんな慰めなくても。
「ごめんね。大丈夫、もっと頑張るから」
「ですからっ、そんなことありませんわ。わたくしは充分満足しておりますの。何より一緒にいられるだけで幸せですもの」
「……本当、佐々美さん」
 そう言ってくれると嬉しいけど。
 けれど彼女は僕の発言に少しだけ頬を膨らませる。
「……名前」
「え?」
「呼び捨てでいいと言っておりますのに」
「いや、でも……」
 どうにも女の子の名前を呼び捨てにするのは慣れてない。
 鈴みたいに付き合いがある程度長くないと、気恥ずかしさが先に立ってしまう。
「ダメ、ですの?」
「うっ……」
 上目遣いは反則です。
 そんなことされたら応えたくなるのが男ってやつだよね。
 でもいいのかな。もう一つ問題があるのに。
「分かったよ、それじゃあ……さ、さみ」
「はぅ」
 僕の言葉にビクンと身体を震わせる。
「佐々美」
「はぅぅ」
「さ・さ・み」
「はぅはぅ」
 なんか面白くなってきた。
「佐々美、佐々美、佐々美」
「はぅ、ひゃう……ひぅ〜」
 耳まで真っ赤にして佐々美さんは悶え始めてしまった。
 あまりにその様子が可愛くて調子に乗った僕は。
「佐々美、佐々美、佐々美、佐々美、佐々美、佐々美、佐々美、佐々美……」
 耳元で思いっきり囁いてしまったのだった。
 結果として。
「うう……トリップのしすぎで魂が吹っ飛ぶかと思いましたわ」
 荒い息をあげ、全身ぐったりとして僕に身体を預けていた佐々美さんが正気を取り戻したので十分近く経ってからだった。
「ごめんごめん」
 髪を撫でながら僕は必死に謝る。
 いやもう、反省しきりだ。
「いえ、こちらも油断しすぎましたわ。名前で呼ばれるのがあんなにも強力だったとは。そう言えば前に呼び捨てを諦めた理由もそれが原因でしたわね」
 どうやらうっかり忘れていたらしい。
「そうだね。これからはゆっくりと慣れていこう。僕も調子に乗らないよう気をつけるよ」
 二人で頑張ればきっと乗り越えられるはずだ。頑張ろう
「はい、そうですわね。いつかきっとこの困難に打ち勝ちましょう」
「うん」
 僕らは決心を固め微笑み合うのだった。

「それで、あれってなんだったの?」
 しばらく体を擦り合わせたりキスを交わしたり抱きしめ合ったりした後、ふと思い出し尋ねてみた。
「あれって、なんですの?」
「や、だから『最近物足りない』って」
 たいしたことじゃなかったのかな。
「ああ、すっかり忘れていましたわっ」
 どうやらそんなことはなかったらしい。
 単純に忘れていたらしく、抱き合っていた体を離し彼女は僕に向き直った。
「実は棗さんのことですの」
「鈴の?」
 なんだろう。何かあったのかな。
 最近は前みたいに言い争いもなくなったのでホッとしていたんだけど。
「その……最近前までのように突っかかってくることがなくなってきましたの」
「うん」
「それがその……物足りないと言いますか、ぶっちゃけて言えば刺激が足りませんの」
「えー」
 それ?それなの?
 よりによってそれがないことに物足りなさを感じてるの?
「バトルが発生することもなければ名前を呼び間違えられることも少なくなってしまって……」
「えーっと……」
 それはいいことなんじゃと思うが、佐々美さん的にはよくないらしい。
 深く溜息まで吐かれてしまった。
「そこでできればお願いがあるのですけれど」
「え、えっと……なんとなく予想できるけど……何?」
 出来れば外れて欲しいなあと思いながら尋ねてみる。
 彼女はと言うと僕の言葉にホッとしたような表情を見せ答えを口にした。
「その……前までのように関係に棗さんとなりたいのですが」
「……そうなれるよう僕にしてくれと」
「はい」
 頷かれたよ。頷かれちゃったよ。
 僕は頭を掻き毟りながら佐々美さんを見つめ返す。
「えっと、分かってると思うけど、鈴が突っかかってくることが少なくなったのは僕らの関係を認めてくれたところが大きいのであって」
「ええ。前は兄をとられる妹のような関係でしたものね」
「うん、所有権を主張してたね」
 あれは今思い出しても激しい攻防だった。
 僕は僕だけのものなんだと言う当たり前の主張は双方に却下され長い戦いが勃発。
 周りのみんなは微笑ましいものを見るように一歩引いており僕だけがオロオロ。
 二人の戦いは言い争いやバトル、野球の成績で争ったりとかなり多岐に亘った。
 けど僕自身は一貫して佐々美さんを好きだったので、最近やっと鈴も僕らの関係を認め僕らが一緒にいても何も言わなくなったんだけど。
「言い争いをさせるとなるとどうしても落ち着いたこの関係を掻き乱す必要があるんだけど」
「まっ、仕方ないですわね」
「いいんだっ」
 せっかく穏やかな関係になれて胸を撫で下ろしてたのに。
「大丈夫ですわよ。ちょっと突っつくだけできっとまた突っかかってくるようになりますわ」
「うーん、そうかなぁ……」
 鈴もだいぶ成長したし、ちょっとやそっとじゃ前みたいに言い争いに発展することはないと思うけどな。
 それになにより。
「今の関係が不満なの?」
 僕は凄く満足しているんだけど。
「そ、そんなことは。ですがやっぱり日常に刺激が欲しいですわ」
「やー、うーん」
 それを他に求めないで欲しいなと思うのは僕の我が儘なんだろうか。
 できれば僕自身でそれを満たしてあげたいんだけど。
「……お願い、出来ませんの」
「うっ……いや、その……」
「聞いて頂けましたら今日はいつも以上にサービスして差し上げますわよ」
 言いながら彼女はベッドから下り、僕の足の間に腰を下ろした。
「駄目ですかしら」
「ぐっ……」
 そんな状態で上目遣いにお願いしないで欲しい。
 しかもこんな可愛い彼女がこれからしてしてくれることを想像するともういっぱいいっぱいなわけで。
「はい……」
 僕はガクリと肩を落とし了承したのだった。
 とりあえず真人に今日は謙吾のところに泊まってもらうようメールを打つとしよう。
「クスッ……だからあなたのことは大好きですわ」
 佐々美さんは柔らかく微笑むと、慣れた手つきでズボンのチャックに触れたのだった。


「はぁー」
 思いっきり溜息を吐く。
 昨日のことを思い出すだけで憂鬱だ。
「なんでまたあんなこと引き受けちゃったんだろう……」
 答えは明白なんだけどね。
 色香に負けは自分が悪い。
 まあその分思いっきり欲望は満たさせてもらったが。
「どうすべきかなあ」
 対価はもう貰っちゃったんだから動かないわけにはいかない。
 けどこんなことを彼女にお願いされる彼氏なんで世界中探してもいないんじゃなかろうか。
「はぁー」
 もう一度溜息を吐き、とりあえず鈴のところへ行こうと裏庭へと足を伸ばしたのだった。

「あ、いたいた」
 予想通り鈴は猫たちと遊んでいた。
 周りには他に誰もいないし、これはチャンスか。
「鈴」
「……ん、なんだ理樹か。どうかしたのか?」
「んー、まあどうかしたっていう言うか、鈴は何してるのかなって思って探しに来たんだけど」
「なんだ、なんかあるのか?」
 珍しそうに僕の顔を見上げる。
 そういえばここ最近鈴と全然遊んでないなぁ。
 唯一あるとすればリトルバスターズ全体でなにかイベントをする時くらいで、それ以外はとんと鈴と一緒にいなくなった。
 うーん、幼馴染なのにこれは拙いかもしれない。
「うん?なんだ、ボーとして。何か相談事でもあるのか。任せろ、今のあたしに解けない謎などない」
「いやいや、別にそう言う訳じゃなくてね」
 妙に偉そうだなぁ。
 まあ自分に自信が持てるようになった証なんだろうけど。
 最近は人見知りも少なくなってよくクラスの女子とも交流持てるようになったみたいだし、感慨深いや。
「……なんだその慈しむような目線は。なんかむかつくぞ」
「いやいや」
 ああ拙い。なんか兄か父親目線になってた。
「えーとね、相談とかじゃなくてただ鈴と喋りたいと思ってね」
「なあにぃ!?」
 鈴は思いっきり驚いたように後ろに飛び退く。
 ……そんなに驚くような発言だったかな。
「お前の彼女はさ行だろ」
「え?ああ、佐々美さんね。うんそうだけど、それとこれとは関係ないと思うよ」
「うー、だがいいのか?」
 不安そうに鈴は尋ねてくる。
 うーん、ほっぽりすぎたかなぁ。
「当然だよ。だって鈴は僕にとって大事な存在だもの」
「なぁっ!?」
 何故か鈴は顔を真っ赤に染めてしまった。
 変なの。まさか僕相手に緊張するわけないし。
「だ、大事って言ったか、今お前」
「え?言ったよ。何言ってるの、当然じゃない」
 いくら彼女が出来ようとも鈴が大事な幼馴染なのに代わりはないんだし。
 うーん、そう思われていなかったのはちょっと悲しい。
 これからはもう少し頻繁にコミュニケーションを取るべきかな。
「ほら、たまには買い物とか付き合うよ。もんぺちとか買いに行こうか」
 鈴の右手をぎゅっと握る。
「うわっ。むちゃくちゃ……いや、くちゃくちゃびっくりした」
 けれど鈴はその手を慌てて振り解く。
「鈴?」
「ち、ちが、別に理樹に手を握られたのが嫌なんじゃなくてな。その……うみゅ〜」
 そのまま俯き、おずおずと手を差し出してくる。
「か、覚悟は出来た」
「?変な鈴」
 首を傾げながらその手を取る。
 すると鈴はおずおずと口を開いた。
「そのだな……買い物はいいんだが、今日はもんぺちはいい」
「そうなの?」
「ああ。代わりに……その、こ、小毬ちゃんが前に教えてくれたお店があるからそこに行きたい」
「うん、いいよ。店の場所は分からないから案内頼める?」
「任せろ」
 僕が聞くと鈴は満面の笑みで頷いたのだった。


「あんなんでよかったのかなぁ」
 昨日のことを思い出しながら物思いに耽る。
 結局あの後夜遅くまで鈴と遊び歩き、疲れ果ててしまったので佐々美さんに報告も出来ていない。
「でもあれで突っついたことになるのかな」
 どうやればいいのか分からず、一昨日佐々美さんに尋ねておいたけど、ちょっと一緒に遊べばいいというアドバイスしか貰えなかった。
 けれどそんなんで前みたいに僕たちの間に入ってくるとは思えなかったので、昨日は可能な限り鈴の希望を聞くように動いた。
「でも頭を撫でるだとかクレープの食べさせ合いとかでよかったのかな」
 昔からやっていたことの繰り返ししかやっていないけど大丈夫だろうか。
 少し不安だったので口元に付いたクリームをティッシュじゃなく指で取ったりとか、肉体的接触をやや多めに取ってみたけどよく分からない。
「鈴と仲良くなる方法なんて考えたことなかったからなぁ」
 今日ももう少し頑張るべきかもしれない。
 鈴の様子を見て考えてみよう。
 などと思いながら教室の扉に手を掛ける。
「理樹」
 開口一番鈴が話しかけてくる。
 今日は何故か早めに出て行ってしまったので、今日鈴と会うのは初めてだ。
「ああ、鈴、おはよう」
 片手を上げて軽く挨拶をしたところ。
「理樹ー」
「ぐふぅ!!???」
 弾丸となって鈴が飛び込んできた。
 み、鳩尾が……息が出来ない。
 僕はしばらく死にかけた虫のようにビクンビクンと体を震わす。
 けれど鈴はそんな僕を気遣いもせずボディプレスを仕掛ける。
「ぐぇ!」
 蛙の潰れたような鳴き声ってきっとこんなのだろうな。
 などとどこか他人事のように感想を述べながら意識を手放そうとして。
「な、ななななな棗さんっ。いったい何をしていらっしゃいますのっ」
 馴染みのある声が聞こえたかと思うと、腕が抜けるんじゃないかと思うくらい強く引っ張られ、そのまま抱きしめられた。
「うぐ……」
 これは……胸?いや、たぶんそうだよね。
 いまいち感触が薄いけど慣れ親しんだものだしきっとそうだろう。
 ぎゅっと押しつけられるけど充分息が出来る。
 これが来ヶ谷さん……いや小毬さんくらいあれば窒息していたかもしれないけど、その辺は彼女の胸のがっかりさに感謝だ。
「い、嫌な予感がして駆けつけてみれば、何をなさろうとしましたの?」
「なんださせ子、邪魔するな。理樹はあたしんだ」
「何を言ってますの。この方は私の彼氏ですわ」
「うっさい。あたしにとっても理樹は大事なんだ」
 そのままぐいっと右腕を取られるとそのまま鈴の胸へ押しつけられる。
 小さいけれどふにふにと柔らかい感触が少し理性にヤバイ。
 目の前にも似たようなものが押しつけられているわけで、程よくシェイクされて血の気が引いていた頭に徐々に血液が戻ってくる。
「……何を棗さんになさいましたの?」
 佐々美さんはそっと僕に耳打ちする。
 その声が心なしか少し冷たい。
「い、いやー、一昨日のミッションをこなしただけなんですが……」
「わたくしはちょっとした刺激が欲しいだけでしたのに」
「えーと、失敗したかな」
 こんなに鈴が積極的に僕にくっついてくるとは思わなかった。
「ま、まるで恋人を取られたかのような態度ですわよ。……はっ、まさかあなた汚らわしいハーレム願望でも叶えようと」
「ないからっ。僕は佐々美さん一筋だから」
 酷い誤解だ。
 慌てて僕は首を振る。
 けれどそのやり取りは腕を思いっきり引かれることで中断させられてしまう。
「何をごちゃごちゃ喋ってるんだ。あたしの理樹から離れろ」
「だから誰があなたのですか。直枝さんは私のもので、わたくしは直枝さんのものなんですの。勝手に主張しないでくださる」
 それはもう数ヶ月前に見た激しいやり取りが児戯に見えるほど凄まじい口論。
 いい加減完全に切れたのか、佐々美さんは鈴から強引に僕を引き離すとそこから離れようとした。
「ちょ、佐々美さ……」
「黙って。詳しい昨日の状況を後で教えてくださりますわね」
 それは有無を言わさぬ口調。
 僕は黙って頷こうとして。
「きゃーっ!!??」
 その前に豪快に佐々美さんは吹っ飛ばされたのだった。
 無様に転がった僕は慌てて何が起こったか確認すると倒れた佐々美さんの側に鈴が舞い降りた。
 どうやら飛び蹴りを食らわしたらしい。
 その事実に慌てて佐々美さんの安否を確かめようとするが、その前にがばっと元気よく佐々美さんが立ち上がりそのまま拳を繰り出す。
 それはいい感じに鈴に額に突き刺さり、そのまま二人はバトルとは言えない凄惨な戦いを繰り広げたのだった。

「で、どういうことかしら」
 目の前には佳奈多さん。
 僕は床に正座してお説教を聞いていた。
 風紀委員はもう辞めたとはいえ、相変わらずのプレッシャーだ。
「い、いや、どうと言われてもよくあるバトルの延長って事で」
「いつものバトルであんな状況になるわけないでしょうがっ。二人とも保健室直行なのよ」
「は、はい……」
 来ヶ谷さんとかが止めてくれなければもっと酷い状況になっていたかもしれない。
 そう思うと身震いがする。
「まあなんかあなたがしたんでしょう。あとのフォローは私がしておくからどうにかしなさい。あの二人の管轄はあなたでしょう、直枝」
「はい」
 僕は床に額を擦りつけるように頭を下げたのだった。


「はぁ〜〜〜」
 さてどうしよう。
 どういった行動を取ればいいか全く分からない。
 最終的にはどうすればいいんだ?佐々美さんと鈴を仲良くすればいいのか?
 いや、でもそもそも昔のようなライバル関係を佐々美さんは望んでいたのだから、それに沿うように動くべきかもしれない。
 いやでもそれに失敗したからこういった事態になったわけで。
「どうしよ」
 僕はもう一度深く溜息を吐いて屋上へと出てきた。
 するとそこには。
「あ、理樹くん」
 小春のような笑顔の小毬さんがお菓子を食べていた。
「小毬さん。えっと、こんにちわ」
「うん、こんにちわ。さーちゃんたちは目、覚めた?」
「いや、まだだよ」
「そっかぁ。理樹くんも大変だね。……あ、お一つどうぞ」
 ドーナッツを一個差し出してくる。
「ありがとう小毬さん」
「いえいえ、どういたしまして」
 受け取り、彼女の隣に座る。
「……そう言えばなにか悩み事ですか」
「え?」
「なんか眉間に皺寄ってるよ」
「あー、いやうん……」
 どうしよっかな。
 あーでも二人とも小毬さんの親友なんだし、相談に乗ってもらうのもいいかもしれない。
「えっと実は……」
 そう思って、一昨日から今日までの事のあらすじを伝えたのだった。


「うーん、さーちゃんが何も言わなければ平穏だったんだよね」
「いやまあそうだけど」
「でも理樹くんも駄目だよ。鈴ちゃんにそんなことしちゃ恋心が暴走しちゃうに決まってるよ」
「い、いやでも鈴がそんな風に思うなんて……」
「理樹くんってニブチンだよね」
 普段の笑顔もまま扱き下ろされて盛大にダメージを受ける。
 そんなに鈍いのかな。
「鈴ちゃんがどんな風に二人のこと見てたかなんて、周りからすればバレバレですよ」
「い、いやでも佐々美さんは兄妹みたいなものって……」
「さーちゃんも鈍いから」
 ばっさりだ。
 親友なのに容赦がない。
「理樹くんって女の子泣かせだよね」
「ぐっ」
 言い返せない。
 うーん、冷静に考えれば鈴と付き合う気ないのに鈴をその気にさせちゃったってことになるのか。
 そう考えれば確かに最低だ。
「どうすればいいかな。方法がとんと思いつかなくて」
 上手い具合に二人の関係をライバル関係に戻せればいいけど、それは凄い無理な気がする。
 だからといって僕は佐々美さん以外と付き合う気はないから、このまま鈴と仲良くという気もない。
 けれど鈴も大切な幼馴染だから振るみたいな方法も……。
「大丈夫ですよ。要は原因を取り除けばいいだけだから」
「原因?」
「そうですよ。さーちゃんはね、鈴ちゃんと仲良くしたいだけなの」
「え、そうなの?でも佐々美さんは鈴と軽い言い争いがしたいって……」
「さーちゃんは素直じゃないからその辺話半分がいいよ」
 凄い。今日の小毬さんは絶好調だ。
 いい具合に言葉に刃物が乗ってる。
「でね、二人を仲良くさせる方法なんて簡単ですよ」
「え、そうなの?」
「うん」
 言いながら、小毬さんは携帯をポケットにしまう。
 あれ?いつの間に携帯を出していたんだろう。
「えっとね、耳貸して……」
「うん」
 小毬さんは僕に近づこうと身を乗り出し。
「きゃん」
「え、うわっ!」
 思いきりのし掛かられてしまった。
「いたーい」
「わわ、小毬さん……」
 小毬さんの豊満な胸がむぎゅっと顔に押しつけられ、慌てて僕はそれを押しのけようとする。
「うああぁぁあん、そんなに強く握っちゃ駄目〜」
「うわっ、ご、ごめん」
 焦って少々力を入れすぎたようだ。
「もっと優しく……」
「うん、そうだね。もっと優しく……って、そうじゃないでしょっ」
 胸を押しつけられたまま激しく突っ込み。
「やぁん、そんなに息吹きかけないで〜」
「ご、ごめん。でも少しずれて」
「うん、おっけーですよ」
 小毬さんの頷いた気配がすると、彼女はずりずりと下へと動き出す。
 けれど小毬さんの顔が目の前の来たところで動きが止まってしまう。
「うえーん、お膝が痛くてこれ以上動けない〜」
「ええー」
 この体勢で?
 完全に密着しているので色々とやばいんだけど。
 特に下半身はピッタリくっついてて意識すると様々な意味で終わりを迎える。
「起き上がれない?」
「うん、むりー。理樹くん動ける?」
「え?いやー、上に動くスペースないしちょっと……」
「じゃあ痛くなくなるまで待つねー」
 言いながら小毬さんは全身から力を抜いた。
「ちょ、小毬さん、息がっ。息がかかってる」
 あろう事か小毬さんは首元に顔を埋めてしまった。
「えー、でもこれ落ち着くよ」
「いやいやいや、僕が落ち着かないから」
「さーちゃんって彼女がいるのに?」
「関係ないよ」
 素数を、素数を数えるんだ。
 反応しちゃいけない。
 むやみに小毬さんが腰を振って擦りつけているような気がするけど、きっとそれは気のせいだ。
「そう言えば理樹くんってお胸好きなんだ」
「え?」
「さっきからずっと触ってるよ」
「ええ?」
 そう言えばさっきから触ったままだった。
 思わず指を動かす。
「ひゃうっ……揉んじゃ駄目だよー」
「ご、ごめんなさーい」
 顔が熱くなるのが分かる。
 慌てて小毬さんから視線を逸らすが、完全に意識しちゃった。
「んんぅ……はぁ……理樹くん、なんか当たってる……」
「言わないでぇー」
 悩ましい声を上げ、荒い息を吐く小毬さんに必死に僕は懇願した。
 うわーん、これで小毬さんの中で僕は変態さん確定だ。
 ショックだ、自己嫌悪だ、死にたい。
「けど……はぁ……理樹くんって胸大きいの好きなんだ」
「いや、そんなこと……」
「だって、だから……でしょ」
「いやいやいや……」
 そんなわけないから。
 というかそうじゃなきゃ佐々美さんと付き合ってないし。
「でも……」
 ついっと視線が下に動く。
「いやだから触れないで〜」
 あまりの恥ずかしさに身悶えする。
 うう、本気で死にたくなってきた。
「認めちゃいなよ、ゆー……んんっ」
 僅かに下半身が擦れ、甘い吐息が唇にかかる。
「胸、大っきい方が好きなんだよね」
「いや、その……」
 頭の中が沸騰してどう答えていいか分からず、答えに窮していると。
 ガターン
 などといやーな音が聞こえて、慌ててそちらに振り向くとそこには呆然と立ち竦む鈴の姿が。
「がーん、ですの」
 そしてその後ろには今にも崩れ落ちそうな佐々美さんの姿が。
「り、理樹……本当、なのか」
「い、いやその……」
 答える前にむぎゅっと胸板に小毬さんの胸が押しつけられる。
「む、胸か、胸なのか?ちっちゃいと駄目なのか?」
「いやいやいや、そんなこと……」
「その体勢で言われてもちっとも信用できん」
「ぐっ」
 仰るとおりで。
「な、直枝さん、信じていましたのに」
 わなわなと震えながら佐々美さんが呟く。
「い、いや佐々美さん、これはその違って」
 うん、言ってて全然説得力ないのがよく分かる。
 逆の立場ならショックでナルコレプシー再発しているかも。
「棗さんだけじゃ飽きたらず神北さんまで……」
「いや、だからちが……」
 必死に言い訳をしようとするが。
「うわーん、ですわ」
 泣きながら屋上から出て行ってしまった。
「理樹なんか嫌いだー」
 ついで後を追うように鈴が罵倒しながら出て行ってしまった。
「うわぁあ、ちょっと待って……」
 慌てて小毬さんの下から抜け出そうとするが。
「やん、理樹くん動いちゃ駄目〜」
 小毬さんの甘い声に一瞬止まってしまう。
 いや、でもここで追いかけないわけにはいかない。
「小毬さんごめん」
 僕は一言謝ると、動ける下に向かって這いずりそこから抜け出す。
 途中聞こえた甘い声や身悶えする身体、そして捲り上がったスカートから見えた黒いど派手なものを意識外へと追いやり、僕は慌てて佐々美さんたちを追いかけた。


 その後必死に探しまくったあげく、やっと食堂で自棄酒ならぬ自棄牛乳と自棄食いを敢行している二人を見つけ出した。
 二人は探してる間に意気投合したらしく、前より仲良くなったようだ。
 その辺、初期の目標は達成されたみたいだけど僕の望んだ状況じゃ全然ないので光速で土下座し、誤解を解くために多大な労力を払うのだった。


「やっぱり胸の大きさは武器になるんだ」
 自分の胸を軽く揉みながらぽつりと小毬は呟く。
 さきほど理樹に触れられた感覚を思い出し軽く身悶える。
 それに下着も気に入ってくれたようだと、抜け出した際の理樹の真っ赤な顔を思い出しほくそ笑む。
「これならまだまだチャンスはあるかもしれないね」
 言いながら僅かに考えを巡らせ、素敵な笑顔を浮かべた。
「ようしっ、とりあえずもっと喜んでもらえる下着を買ってこよ」
 そして屋上にはクスクスと小毬の楽しそうな笑い声が響き渡るのだった。


[No.530] 2009/11/21(Sat) 13:15:42

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