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『眠姫』 空は青く雲は白い、下は緑で遠くは灰色。ごろんと横になった芝生から遠くを眺める。病院に灰色って変にイメージを悪くするんじゃないかと、空っぽの頭に言葉が浮かぶ。本当に空っぽの頭なら何も考えられないのだろうけど。 曇り続きの最近にしては珍しい快晴。久方ぶりの太陽の光を布団を干すみたいに全身に浴びる。久しぶりの光を浴びて、遠くの灰色も光を浴びて真っ白になってしまえばいいのに。それなら中まで光が届くかなとか、そんな考えが頭をよぎったり。 「ダメだ」 気晴らしをしようかと思ったけど、どうにも気は晴れてくれないらしい。諦めて緑から起き上がり、灰色に向かって歩き出す。 空は青くて雲は白い。下も近くも灰色だけど、遠くは緑。 通り慣れた自動ドアをくぐると人工的な熱気と、不自然な薬品の臭いが鼻につく。身が引き締まるような寒さと自然の空気との違いは薄くて透明な板1つ。 カウンターにいる女性たちに張り付けた笑みで会釈をするのもいつもの事。 「ねえねえ、あのいい感じの男の子、よく見るけど誰のお見舞いに来てるのか知ってる?」 「ほら、あのバス事故」 「あれ? じゃああの男の子ってもしかして――」 エレベーターのドアが閉じて声が断ち切れる。ロビーの小さな喧噪とうってかわり、単調な機械音が響く狭い箱にいる事十数秒。薄汚れた廊下を歩いて病室へ。 「戻ったよ」 言葉が返らないとは分かっているけれど、声だけはちゃんとかける。そうじゃないと誰より自分が認めてしまいそうだから。 ベッドの上、変わらずに眠る。死とは寝息と胸の上下、そしてその体温以外に違いのないその体。けれどもそれは、とても薄くて大きな違い。 部屋の色は灰、窓から見える空は青時々白。そしてベッドで眠る淡い君。 そっと近づいて口づけを一つ。ほんのりとした温度が唇から伝わってくる、そして離れる。眠れる君は変わらない。眠姫は口づけでは目覚めない。いや、なにをしても変わらない。 目覚めないからこそ、眠姫。笑うこともなく、ただただ眠り続ける姫が目覚める事は、永遠にない。 「で、名前が一切でてないけど、イメージは誰?」 「主人公、理樹さん。眠姫、恭介さんです」 「僕!? しかも男なのに姫って!!」 「こちらの世界ならこの位は当然です。同人の事を知りたいと言ったのは理樹さんなのですから、早く馴染んで下さい」 「ホモ小説なのは予想外過ぎたけどね」 「わざわざ理樹さんの為に短くてソフトな作品を作ってきたのに。 いえ、それよりも! ホモとやおいとBLとで意味が違います。そこの辺りをしっかりと説明しなくてはいけないようですね」 過去まれに見る情熱で理樹に語る美魚に、うんざりした顔の理樹。教室の中には彼ら以外誰もいなく、遠くからたまに運動部の声が届けられるだけの、湖のような静けさの中。 窓の外、下は緑で上は青。近くに木々が遠くに雲が。小さな鳥が一羽だけ、のんびり世界を渡り飛ぶ。 [No.546] 2009/12/04(Fri) 00:08:42 |
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