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「美魚ちん、私と結婚しよう」 「今日のお昼は何にしましょうか……」 「無視されたー!?」 「あ、すみません。独り言かと思いました」 「最初に美魚ちん、って呼んだじゃん!?」 「大体、なんで私の家に居るのですか? 警察呼びますよ?」 「鍵開いてましたヨ? 不用心ですね」 葉留佳が今居るのは美魚の部屋だった。 さほど広くもない、アパートの一部屋。けれども、一人暮らしには丁度良いくらいだ。 窓から差し込む陽の光が、室内を明るく照らしている。 「いや、まぁ、お昼をたかりに来たんですけどね」 「帰って下さい」 葉留佳がこうして美魚の元を訪れるのは、初めてでは無かった。 大学卒業後の社会人になっても今なお、交流がある。主に葉留佳が美魚の元へと無理矢理訪ねることがほとんどではあるが。 美魚も美魚で、なんだかんだため息を吐きながらも相手をする。 そう、決して仲が悪いわけじゃあないのだ。 「今からお昼?」 「あなたに食べさせるものはありません」 「ふっふっふ、ならば美魚ちんを食べちゃうぞー!」 「どうぞ」 「うぇっ!?」 「ほら、早くどうぞ。お好きなように」 腕を広げて、無抵抗を表す美魚。 まさかの返答に、葉留佳は少し顔を赤くして慌てる。忙しそうに、わたわたと腕を上下に振っている。 「や、えと、冗談でして……いや、美魚ちんは大好きだよ! ただ、こういうノリでえっちにゃことはいけないと思いますのですヨ」 慌てすぎて、日本語が大変なことになっていた。 そんな葉留佳を見て、美魚は小さく笑った。 「何本気にしてるんですか、痛いですよ。というか、赤くなるなんて三枝さんらしくないです。ぶっちゃけ、似合いません。美しくないです」 「なんかいろいろ毒舌吐かれたー!?」 笑顔で毒を吐く美魚。 葉留佳は、からかわれていたことが分かり、自分が間抜けな態度をとってしまったことに後悔した。 ふぅ、とため息を吐いて、美魚は飲み物を入れに動く。 「三枝さん、コーヒーと紅茶とお茶、どれが良いですか?」 「オレンジジュースで」 「分かりました、青汁ですね」 「それだけは勘弁を! なんなら美魚ちんの汁を――」 「分かりました、あなたには洗剤で」 「殺されるっ!?」 馬鹿みたいなやりとりをしつつも、ちゃんと希望したオレンジジュースを持ってくる。美魚自身は、麦茶のようだ。 飲み物を卓袱台に置いて、座る。葉留佳も同じように座った。 「美魚ちんは優しいねぇ。ちゃんとオレンジジュースを入れてくれる辺りが」 「1杯200フランですよ?」 「有料!? ていうか、それ古いフランスの通貨!」 「騒がしいですよ、三枝さん。もう少し静かに出来ないのですか?」 「美魚ちんがボケるからでしょ!」 「まぁ、そんなにラリラリしないで下さい」 「カリカリしてるの! ラリラリじゃあ私、ヤバイ人みたいじゃん!」 美魚の視線が、「あなたは充分ヤバイ人です。自信を持って下さい」と訴えているのが葉留佳には分かったが、あえて無視することにした。 叫びすぎて疲れたのか、葉留佳は飲み物を一気に飲み干す。 ぷはぁっと、まるで酒でも飲んだかのような声を上げた。 「で、本当の用事はなんですか?」 「いや、美魚ちんの顔が見たくなってね」 「私はあなたの顔見ると、吐き気を催しますけどね」 「私グロテスク!? いや、本当に美魚ちんに会いたかったんだってばぁ」 「寂しかったんですか?」 「うぐぅ……だって、リトルバスターズの仲間で一番気軽に会えるの、美魚ちんだけだもん」 リトルバスターズの仲間だったみんなは、それぞれの道を歩んでいる。もちろん、一年に一度くらいは集まったりするけれど、普段は会えるものではない。住んでいる場所も、生活も違うのだから。 そんな中、美魚と葉留佳の住んでいる場所はさほど遠くなかったのだ。会おうと思えば、いつでも会えてしまう距離だった。 「懐かしいですね。今でも思い出します……あの楽しかった日々を」 美魚は思い出す。 あの楽しかった日々を。 ◇◇◇ (∵) ◇◇◇ 「あぁ、本当に楽しかったですね」 「何今の!?」 「え? 回想ですけど。私と三枝さんが初めて出会った時の、三枝さんの表情です」 「私そんな顔してなかったよ!?」 「オレンジジュースおかわりします?」 「するー」 葉留佳の必死のツッコミは、軽く誤魔化された。 再びコップにオレンジジュースが注がれた。 「みなさん、元気ですかね」 「元気だと思うよ」 「あの頃がまるで夢のようです。長いようで短い。眠っていたかのよう。今は社会に向き合って、眠りから覚めたといった感じですかね」 「ならずっと眠っていたかった?」 「……いえ、それじゃあ駄目だと思います。こうやって、大人になってゆくのです。それに、今だって会おうと思えば誰にだって会えます。お金やら時間やらかかりますが、決して今生の別れでは無いのですから」 「ん、そだね」 二人とも、目の前の飲み物を一口飲む。 「三枝さんは、眠っていたかったですか? ずっと、夢のような時間を過ごしていたかったですか?」 「んー……さっきまではそう思ってたけど」 葉留佳は人指し指で頬を掻く。 そして、少しして、にははと笑った。 「美魚ちんの話聴いたら、私も同じように思えた。そうだよね、別に一生の別れじゃないんだし。それに、美魚ちんにはこうして気軽に会えるわけだしね!」 「なるべく来ないで欲しいですが」 「酷い!」 「冗談ですよ」 「ですよねー」 二人、なんとなく笑い合った。 なんだか、笑いたい気分だったのだ。 しばらくして、美魚が立ち上がる。 「さて、お昼にしますか。三枝さんも食べていきます?」 「もち! あ、それとさ……」 「はい?」 「いつまで三枝さんって呼ぶのさー。もう長い付き合いなんだし、名前で呼んでよ」 「嫌です」 「即断られた!? 私は美魚ちんって呼んでるのにー。あ、呼びにくいなら私も葉留佳ちんで良いよ!」 「では、葉ち留ん佳で」 「変なとこに入ったー!? 凄い呼びにくいし!」 「私にとって、いつまでも三枝さんは三枝さんですから。変える気はありません」 小さく笑いながら、美魚はそう言った。 そして、昼食を作りに台所へと向かう。 後ろでぎゃあぎゃあと文句を言っている葉留佳を無視しながら、「さて、今日は何を作ろうか」などと考えていた。 [No.552] 2009/12/04(Fri) 14:10:01 |
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