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「んんっ?」 唇に何かが触れた感触に美魚は目を覚ました。 「あ、起きちゃいましたか」 「……三枝、さん?」 ぼーっとした表情のまま美魚は葉留佳の顔を見つめる。 「やはは、おはよう」 答える葉留佳は満面の笑顔だった。 なんとなくその表情を見て、美魚は顔を赤らめてしまう。 「お、おはようございます。……それで何故三枝さんが目の前にいらっしゃるのですか?」 「え?ああ、散歩してたらみおちんが寝てるのを見かけてさ。ついつい寝顔が見たくなっちゃいまして」 「なっ……」 葉留佳の言葉に更に美魚は顔を赤く染める。 普段冷静な彼女にあるまじき動揺。 そんな彼女が新鮮で、葉留佳は優しく笑う。 「みおちんって、ホント可愛いデスネ」 「五月蠅いですね。……そう言えば悪戯などしていませんか?」 葉留佳と言えば人が無防備な時にそう言うことを平気でやる性格だ。 手元に鏡がないことを残念に思い、牽制するように睨む。 「やはは、だいじょぶじょぶ。こまりん相手じゃないから顔にお絵かきはしてませんヨ」 「はぁー」 少し小毬を哀れに思いつつ、ホッと一息吐く。 葉留佳は悪戯者ではあるが嘘吐きではないので、やってないというならやっていないのだろう。 安心して美魚はそっと葉留佳の顔を見上げる。 けれど葉留佳は少しだけバツの悪そうな表情を浮かべていた。 「まあ悪戯はしてませんけど……ネ」 言いながら葉留佳はすっと自分の唇を指でなぞった。 その瞬間、起き抜けに感じた感触を思い出し、美魚は顔をこれでもかと真っ赤に染める。 そして口元を抑えながら震える声で尋ねた。 「さ、三枝さん、あなたもしかして」 「やはは……うん、キスしちゃった」 「っ!?」 あっけらかんと答えられ、美魚は絶句した。 やはりという予感はあった。けれど何故葉留佳がそうしたか、その理由が理解できない。 「何故……そのようなことを……」 「したかったから。だからしたの」 美魚の言葉に間髪入れずに葉留佳は答えた。 それはおそらく葉留佳の本心。 けれどそれが美魚には信じられない。 「したかったからって、そんな……そんなこと……なんでわたしなんかに……」 美魚は視線を逸らしながら問いかけた。 「それはみおちんは分かってると思ってたけど」 からかうでもなくただ事実を告げるような葉留佳の言葉。 「っ!?ば、馬鹿を言わないでくださいっ。あなたは、人が寝ていれば誰彼構わずキスをする、そういうことでしょうっ」 吐き捨てるように断定する美魚の言葉。けれどその声それに反して震えていた。 その事実に美魚は気付かない。気付けない。 葉留佳はそんな美魚の様子が愛おしく、僅かに頬を緩める。 「まさか。相手がみおちんだからだよ。じゃなきゃしないよ」 答えて、僅かに美魚の方へと身体を寄せる。 美魚は葉留佳の言葉に目を見開き、慌てて目を逸らした。 「悪趣味な冗談は聞きたくありません」 わざと素っ気なく答え、強引に話を打ち切ろうとした。 「冗談じゃ、ないよ」 けれど葉留佳の寂しそうな声に美魚の動きが止まる。 「……でもごめんね。嫌がること考えてなかった。本当ごめんなさい」 「ち、ちが……」 「はるちん馬鹿だから、もうしないようにするね」 葉留佳は力なく笑うと、ゆっくりと美魚から離れようとする。 「待ってください」 今にも離れようとする葉留佳の腕を美魚は必死に掴んだ。 そしてそのまま離さないようにギュッと自分の胸に抱きしめる。 「嫌じゃ、ないです。嫌なんて思うはずないです」 心の奥から絞り出すように美魚は想いを吐き出す。 そんな美魚の心からの叫びを聞いて葉留佳はゆっくりと振り返った。 「良かった、嫌われたのかと思っちゃいましたヨ」 葉留佳の表情は笑顔だった。。 「そんな嫌うはず……嫌ならもっと遠ざけます」 「だよね。そういうとこもまた好きデスよ」 さらりと告げられた言葉に美魚は思わず俯いてしまう。 自分の顔がだらしなく綻んでいないか、美魚は気が気ではなかった。 「やはは、嬉しいな。そんな風に喜んで貰えて」 葉留佳はと言うとそんな美魚の気も知らず、あっけらかんと喜びを表現する。 あまりにも普通に好意を表現する葉留佳に美魚は少しだけ苛立ちを覚える。 「で、ですが好きだからと言って寝込みを襲うのは許される行為ではありませんよ」 だからついつい皮肉を口にしてしまうが。 「あっ、じゃあ寝てなければオッケーなんだ」 「ぐっ、そ、それは……」 いつもと違い、あっさりとそれは躱されてしまう。 それだけでなく墓穴も掘り進めているようだ。 「あはは……そう言う素直なところも大好きですヨ」 「……さ、三枝さん!?」 葉留佳の腕を掴んでいた手を逆に握り締められ、美魚は驚きの声を上げる。 けれど葉留佳はそれを気にするでもなく更に近寄る。 「三枝さん、何を……」 「葉留佳」 「え?」 「葉留佳って呼んで」 その言葉を聞いた瞬間、美魚は身体は葉留佳の胸の中へと引き寄せられた。 「あ、あの……」 戸惑った表情で葉留佳の顔を見上げるが、彼女の表情は真剣そのものだった。 それを見て、諦めたように嘆息すると美魚はすっと息を吸い覚悟を決めた。 「……は、はるか……」 「うん、上出来ですヨ。愛してます、美魚」 「んんっ……んっ……」 何か言おうと開いた口を葉留佳の唇で塞がれ、僅かに身体をばたつかせる。 けれどその抵抗をすぐに止み、それどころか口の中に侵入してきたぬめりとした舌先を美魚は喜んで受け入れた。 「ぴちゃ……くちゅ……んちゅ……んっ……はる……んあっ……」 苦しそうに喘ぐ美魚の首に葉留佳の両腕が回され、力が込められた。 そのままグッと唇同士が重なり合う。それはまるで唇同士で蓋をし合っているようだ。 舌の動きも更に激しくなり、美魚もまた葉留佳の舌に自分の舌を絡めていく。ヌチュクチュと粘液質の音が辺りに響くが、どちらのそれを気にするでもなく、逆に嬉しそうに表情を向ける。 「ぴちゃっ……んんっ……んぅ……あっ……」 美魚は何度も何度も小刻みに身を震えさせる。 そしてそれに呼応するように葉留佳も身を震えさせ、髪を掻き乱す。 やがて鼻で息をするだけでは息苦しくなってくる。 「ぷはっ……」 どちらともなく唇を離し、二人は大きく息を吐いた。 「可愛いですね、みおちんは」 「……あなたもですよ」 「いやー、照れますネ。それじゃあ……んんっ」 「んぅ……あっ……」 再び葉留佳は美魚の唇を奪うと、彼女の薄い胸をそっとまさぐった。 美魚はそれに対し、僅かに目を見開いただけでされるがままに任せた。 「んあっ……」 葉留佳はそのまま美魚の身体を地面に横たえると、空いているもう片方の手を美魚のスカートの中へと滑らせ、その中に秘められた布きれへと指を伸ばす。 「んなっ……ふぁああ……」 初めてそこで美魚は身をよじるが、葉留佳の指が触れた瞬間、彼女は身体を大きく震わせ身を預けてしまうのだった。 「はい、ここまでー。ここからは有料ですよ、お客さ……あいたーっ」 脳天にもの凄い衝撃を受け、少女はその場にのたうち回った。 「何が有料ですか。いきなり直枝さんに抱きついたかと思えば、妄想を延々と垂れ流して」 地面をのたうち回る少女を美魚は汚物を見るように睨む。 「頭くらくらする〜」 頭を抑え涙目で顔を上げる少女の顔形は美魚と目付きを除き全く同一だった。 彼女の名前は西園美鳥。美魚の正真正銘の双子の妹。 それがこの現実世界における彼女の役割である。 「ま、まあまあ美魚も落ち着いて。美鳥も大丈夫?」 二人の間に理樹は慌てて割って入り、少女に向けて手を伸ばす。 その顔が少し赤いのはご愛敬だろう。 「うう、ありがとう。理樹君は優しいね。それに比べてお姉ちゃんの鬼。実の妹の頭を本気で殴らないでよ〜」 美魚のことをじっと睨み付け、うーっと唸る。 「わたしにこんな変態な妹はいません」 「ひどっ!男同士の絡みが好きな人に言われたくないよ」 「身内を勝手に女性と絡める方が問題です」 「えー、ホモより百合の方がマシじゃない」 「その喧嘩、買いますよ。……そもそもなぜわたしと三枝さんなのですか」 「え?んなの一番仲いいでしょ。だから……」 「仲が良かったらあなたの中では怪しい関係なのですか?三枝さんはただの友達で仲間、それ以上でもそれ以下でもありません」 「面白くない答えだねー。いいじゃん、どうせアブノーマルな趣味してるんだからそれを広げても」 「そんなつもり毛頭ありません。……そう言えば最近二木さんの視線に妙な殺気が混じっているような感じを受けるのですが、変な噂流していませんよね」 「さあ、どうだろうね」 美鳥の受け答えに美魚は僅かに頬を引き攣らせる。 いい加減どちらが上か叩き込む必要があるかもしれないと、美魚は知らず知らずに拳を握りしめていた。 「だいたいさー、恋人を男の人と絡める本作ってる時点でおかしいよ。理樹君もそう思うよねー」 理樹に抱きつきながら美鳥は質問する。 「いや、それはその……」 抱きつかれたことに対する戸惑いもあり、理樹は答えに窮してしまう。 それを見て、美鳥は口元を歪める。 「ほーら、理樹君も嫌がってる。もうこの際こんなお姉ちゃんなんて捨ててあたしと付き合わない?」 そう口にした瞬間、猛烈な勢いで何かが美鳥の頬を掠めた。 その事実にしばし固まり壊れたブリキの玩具のように美鳥と理樹はゆっくり振り向くと、真っ白な日傘が木の幹に突き刺さっていた。 「外しましたか」 ボソッと平坦な美魚の声が二人の耳に届く。 「おおおお、お姉ちゃん、殺す気っ!!?ちょっと頭動かしてたら確実に風穴空いてたよっ」 「ええ、惜しかったです」 烈火の如く美鳥は怒鳴るが、対する美魚の声は氷のように冷ややかだった。 「ちょっとしたお茶目じゃない。そんなんで殺されちゃたまらないよ〜」 「……笑えない冗談は好きではありません」 美鳥はなんとか茶化そうとするが、美魚の声は相変わらず絶対零度だ。 「…………あーえっと、もしかして本気で怒ってる?」 「さあ?」 「あ〜ん、理樹君助けて〜」 とりつく島もないと分かったのか、美鳥は泣きそうな声で理樹に縋り付いた。 「あー、ほらほら。美鳥も反省してるみたいだし許してあげたら」 縋り付く美鳥の頭を苦笑しながら撫でつつ、理樹は美魚に笑いかけた。 そんな二人を見て美魚は小さく嘆息する。 「……別に本気ではないですよ」 「えー、嘘だー。あの攻撃完全に殺気が「なにか」……いえなんでもないです」 思わず美鳥は反論しそうになるが、美魚の鋭い目線に晒され慌てて口を紡いだ。 そんなやり取りにもう一度理樹は苦笑を浮かべる。 「まあそうやって反応して貰えるだけで僕は嬉しいかな」 美鳥の頭を撫でるのを止め、理樹は柔らかく美魚に微笑みかけた。 「直枝さん……」 そんな理樹に美魚は頬を紅潮させ、僅かに顔を俯かせるのだった。 すると美魚の様子に気付いたのか、今度は理樹まで頬を赤らめて下を向いてしまった。 「……………あー、二人の世界に入るのもいいんだけどさ。放置は寂しいかな」 一瞬にして周りが見えなくなった美魚たちに対し、美鳥は呆れたように呟いた。 「あ、いや、ごめん。ついうっかり」 「こほんっ」 二人は慌てて互いから視線を逸らす。 ……まあすぐさま互いを気にするように視線を彷徨わせるのだけれど。 「まあいいけどね。でもさー、これなら美魚の寝込み襲っちゃっても良かったんじゃない?」 「え?」 「ほらさっきあたしが話した感じでさ。美魚って理樹君の肩を枕にして寝こけてたじゃない。理樹君、何にもしなかったみたいだけどキスくらいしても罰当たんないって」 「あ、あれってちゃんと意味あったんだ」 思いつきをただ喋ってるとばかり思っていたので、理樹は心底驚いた表情を向ける。 なるほどだから美魚が目覚めてすぐ自分にタックルして話し始めたのかと一人頷く。 「そうだよ。はるちゃんを理樹君に置き換えてさ。ぶちゅーといった後なに崩し的にこの場でイタしてしまっても全然構わないんだし」 「構います」 怜悧な視線を美鳥に向けたまま美魚が反論する。 「なにより了承も取らずに唇を奪われたくありません」 「えー、相手理樹君なのに?」 「関係ありません」 キッパリとした言い様に美鳥は僅かに唇を尖らせた。 「理樹君もしたくないの?」 僅かに期待を込めて美鳥は理樹を見上げる。 「いや、美魚が嫌ならしないよ。確かに卑怯だしね」 「えー」 面白くないなあとばかりに頬を膨らます。 「……それとさ」 「ん、なに?」 言いづらそうな理樹の言葉に美鳥は首を傾げながら尋ねる。 「さっきみたいなのは止めて欲しいかな、なんて」 「さっきって?」 どれのことだろうと思考を巡らす。 「美魚と葉留佳さんがイチャイチャするって話。彼氏としては、さ」 「えー、女の子同士の創作なのに?」 「それでも、さ。美魚が僕以外とそう言うことするのって想像したくないし」 独占欲かなと恥ずかしそうに理樹は頬を掻いた。 「はぁー、愛されてるねえ。それに比べてお姉ちゃんは理樹君を男の人と絡めて悦に入ってる変態さんだし」 「い、いえその……」 ついっと視線を逸らし、美魚は顔を赤らめた。 「最近はそう言う想像をすることもなくなりまして。その……前はそうでもなかったのですが、直枝さんが男性の方と仲良くしているのを見るのは好きだったはずなのですが、最近はどうにも落ち着かなくなってしまいまして」 それ以上美魚は口に出来ず、頬を更に紅潮させてしまった。 「あ、あはは……男としてちょっと複雑だけど美魚の気持ちは素直に嬉しいかな」 「直枝さん」 「美魚」 そっと二人は手を握り合った。 そして互いの手の感触を楽しむように擦り合わせ、二人は微笑み合った。 「なんだこのバカップル。背中がむず痒い」 またも放置された美鳥は一人身体をくねらせ、その面倒くさい空気に耐える。 けれど美魚たちは彼女を気にするでもなく延々と手を握り合い、目と目で会話まで始めてしまった。 「だーもう、面倒くさい。見つめ合うだけなんて中学生のカップルでも今日日ないよ。キスくらいそこでしちゃいなって」 いい加減耐えきれなくなって叫ぶと、醒めた目線を美魚から向けられてしまう。その視線に思わず美鳥はひるんだ仕草を見せる。 「無粋ですね」 「いや、そう言われてもさ……」 「だいたいこうやって側にいられるだけでわたしたちは幸せなんですから、このままでいいんですよ」 「……理樹君も?」 美鳥はゲンナリとした表情のまま理樹に問いかけた。 「うん、まあ僕も触れ合えるだけで幸せかも」 予想通りの反応に美鳥は更に肩を落とした。 「そんな昨日今日付き合い始めたばかりのカップルじゃあるまいし。大人の関係にだってなってるでしょ?」 知ってるんだからとばかりに目を細め、小悪魔じみた笑みを浮かべる。 「確かに昨日は舐めるように服の中を見られましたけど」 「ちょ、美魚ーっ!!」 「外も中も直枝さん色に染められ尽くしたと言いましょうか、ちょっと眠いです」 腰や顎も怠いですしと、少しだけ美魚は頬を膨らます。 そんな彼女を尻目に理樹と美鳥は顔を赤くして俯くしかなかった。 「あー、うん、仲がいいね」 「あははは……ごめんなさい」 なんとなく申し訳なくなって理樹は二人に頭を下げた。 そんな彼に美鳥は僅かに酷薄な笑みを浮かべる。 「エロ魔神」 「ぐっ」 「それとも美魚がエロいのかな」 「さあ?どちらにしろ直枝さんの所為ですけどね」 美魚は動じず涼しい表情のままだ。 「ですがそれはそれですよ。身体同士の繋がりも嫌ではありませんが触れ合えるだけで幸せになれるのもまた事実ですから」 「ふーん、そんなもん?」 「ええ。ですからわたしたちはこのままでいいんですよ」 「あっそ」 いい加減どうでも良くなったのか返事はおざなり気味だ。 「まあいいや、二人が仲いいのなら。あたしもう行くね。はるちゃんか誰かで遊んでくるよ」 「分かりました。あまり遅くなるんじゃないですよ」 「分かってるって。じゃあねー」 片手でヒラヒラと挨拶し、美鳥は立ち去っていったのだった。 「相変わらず美鳥は元気だね」 「そうですね」 言葉は途切れてしまうが、その沈黙もまた二人には心地いい。 そのまま手を触れ合わせ木へと寄りかかり、手の感触を楽しむようにどちらともなく二人は手を握り締め合うのだった。 「そう言えば直枝さんも寝不足、ですよね」 「え?うん、まあ……」 どう反応していいか分からず、理樹は曖昧に頷いた。 「それなら……どうぞ」 美魚はソッと足を崩すと、スカートを直しポンポンと腿を叩く。 「えっと……何を……」 「膝枕です。どうぞ」 「……いいの?」 おそるおそる理樹は聞き返した。 あまりに魅力的だが、こう言ったことは普段外ではあまりしないので戸惑ってしまう。 「駄目なら誘ったりなどしません」 「……はは、だよね」 美魚らしいキッパリとした口調。 僅かに苦笑を漏らし、理樹は素直に横になることを決めた。 「じゃあお邪魔して」 「どうぞ」 ゆっくりと頭を横たえる。 頭に当たる絶妙な柔らかさが非常に気持ちいい。 理樹は知らず知らずにほっと息を吐く。 「気に入っていただけたようで幸いです」 「まあ、美魚のだし、ね」 恥ずかしくなって理樹は視線を合わせず応える。 けれど美魚はそれで充分なのか、スッと理樹に髪に手櫛を入れながら微笑んだ。 そうやってしばらく美魚は理樹の髪を撫で、彼もまたそれを気持ちよさげに受け入れる。 そうこうしているうちに徐々に理樹の目蓋は下がってきた。 「構いませんよ、寝てしまって」 「……うん、ごめん。それじゃあ……」 身体から力を抜き、微睡みに身を任せていく。 そんな理樹に耳に柔らかい美魚の声が響く。 「ただ途中で口吻をしてしまうかもしれませんが」 「……え?」 寝ぼけた頭のまま首を巡らし、美魚の顔を確認する。 「事前に了承を得れば問題ないですよね」 そこには本当に幸せそうに微笑みを浮かべる美魚の姿があった。 「うん、そうだね」 その笑顔を目に焼き付け、理樹はゆっくりと意識を手放したのだった。 [No.553] 2009/12/04(Fri) 14:15:44 |
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