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all 第46回リトバス草SS大会 - 大谷(主催代理) - 2009/12/04(Fri) 00:02:16 [No.544]
魔窟 - MVPに敬意を@10628 byte(無論遅刻だ) - 2009/12/05(Sat) 23:55:40 [No.564]
コタツで寝ると風邪をひくから気をつけろ - ひみつ@12273 byte 寝るまでが締切。遅刻 - 2009/12/05(Sat) 14:29:16 [No.563]
しめきり - 大谷(主催代理) - 2009/12/05(Sat) 00:19:06 [No.562]
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夢から覚めても - ひみつ5253 byte - 2009/12/04(Fri) 14:10:01 [No.552]
茨姫 - ひみつ@4641 byte - 2009/12/04(Fri) 14:08:40 [No.551]
寝ろ! - ひみつ 13716byte - 2009/12/04(Fri) 13:04:56 [No.549]
Re: 第46回リトバス草SS大会 - さいとう - 2009/12/04(Fri) 02:46:58 [No.548]
今回の投稿作について - 大谷(主催代理) - 2009/12/04(Fri) 13:50:30 [No.550]
図書館の君 - 秘密 8670 byte - 2009/12/04(Fri) 02:28:34 [No.547]
眠姫 - ひみつ 2432 byte - 2009/12/04(Fri) 00:08:42 [No.546]


コタツで寝ると風邪をひくから気をつけろ (No.544 への返信) - ひみつ@12273 byte 寝るまでが締切。遅刻

 年末の大掃除という恒例行事を終えて、途中に二人での共同作業の末に設置された炬燵に入り、理樹と鈴はのんびりと暖をとっていた。部屋も石油ストーブによってぽっかぽかのぬっくぬく。
 炬燵の温もりはいつの時代も変わらないものだなぁ、とそんなことを思いながら新聞のテレビ欄を眺めて、どの番組でカウントダウンしようかなぁ、と考える理樹。対面の鈴はもう完全に座椅子を倒して寝転がっている。きっと彼女の視線の先には、テレビで繰り広げられている紅白歌合戦が映っているのだろう、なんてことを思った。天板の上のみかんを手に取る。
「今何時だ?」
 皮を剥いているとそんな声が向こう側から聞こえた。薄皮についた白い部分も丁寧に取り除くことに余念の無い理樹は、「まだ紅白始まったばかりだから、そのぐらいの時間」と適当に答えた。鈴も鈴で「そうか」と適当に答えた。
 大掃除は滞り無く進んだ。元々小奇麗な男、直枝理樹の部屋は中々に整理整頓されていて、すぐに終わった。問題はその前。前日に行った鈴の部屋の大掃除だった。女とはなんぞや、という疑問が理樹の頭に浮かんだのは、決してジェンダーがどうとかではない。テレビで見るゴミ屋敷、というまではいかないものの、一目見てめちゃくちゃ汚いなこれ、という感想が出るくらい、めちゃくちゃ汚かったのだからしょうがない。男の子ならば誰しもが持つ、女性への純粋な妄想はこうして一つずつ瓦解していき、そうやって一歩ずつ大人になっていくのだ、ということを身を持って知った。理樹に関して言えば、主に鈴によって丁寧に一つずつぶっ壊されていっているので、今更どうこう言うことでもないかもしれない。
 テレビでは変わらず今年の歌謡曲が流れていた。ヒットしたかも怪しい聞いたことのない曲だったが、歌っている人はかわいいじゃないか。CDの売り上げと、日本の今後と、これからのマスメディアの存在意義を憂いながら、みかんを頬張った。
「みかんくれー」
 対面からニョキっと鈴の手が生えたので、そこに向かってみかんを転がす。ゆっくりとコロコロ転がるみかんは見事なカーブを描き、鈴の手の横をすり抜けて落ちた。「いたっ」とかわいい声がした。やばい、と理樹は思った。しかし、彼の予想に反してズズンと生えてきたのは鼻をおさえた涙目の鈴で、それはそれはとてもかわいらしい顔だった。理樹の胸がキュンと痛む。すぐに走って抱きしめて、赤くなってしまったお鼻をさすさすと撫でてあげたい衝動に駆られたが、炬燵の温もりがそれを邪魔して身動きがとれ無い状況であった。恐るべし炬燵。とか、理樹が思っていると、涙目の鈴はやっぱり怒っていて、座布団が彼の顔面目がけて発射される。甘んじてそれを受けることにした。ボフンという感じに顔に当たり、ぽとりと落ちた。それを尻の下に敷いた。
「おい、返せ」
「座椅子があるでしょ」
 という理樹の言葉に、それもそうだなと納得してみかんを手に取る。「今年も終わりか」と口から零れた。その言葉を聞いた理樹がキョトンとしていた。年の瀬にはいつも思う。今年も終わりか。これから何回思うのだろう。今年も終わりか、と何回呟くのだろう。紅白歌合戦は終わっていた。





 鈴が「そばが食いたい」と言った。理樹は「どん兵衛あるよ」と言った。
 年越しそばを食べるには、紅白も終わって中々いい時間帯である。台所にある電動ポットを取りに行こうと理樹は思ったが、またしても炬燵の魔力に屈して、身動きが取れない。しかし、僕もどん兵衛が食べたい、と強く願うことでなんとかした。石油ストーブで部屋の中も暖かかったのでどうということもなかっただけだが。一つ襖を挟んでいたことで、台所は寒かったが、それも彼の予想範囲内であり、高校時代の野球で培った俊敏な動きにより、どん兵衛二つと電気ポットを素早く手にして炬燵に戻る。箸を忘れたことに気づき、断腸の思いで再び炬燵を抜け出し、襖を開き、寒い寒い台所にて俊敏な動きを見せ、箸を二膳握り、炬燵に滑り込む。
 鈴は、忙しいやつだな、と呆れていた。呆れながらもどん兵衛の蓋をしっかりと開けていた。欲望には素直に従う女の子なのだ。ポットからお湯を出す。スイッチ一つでお湯が出るようなものではなくて、旧型の丸い部分をグッと押し込むことで圧力によりお湯を出す方式のポット。それに若干苦戦したがなんとか内側の線まで辿り着いた。時計を見て時間を確認。あとは五分待つだけで完成である。そこで、ふと疑問に思う。
「なんでどん兵衛は五分なんだ?」
「いきなりだなぁ」とお湯を出しながら理樹。「麺が太いんじゃない?」適当に答えていた。
「そうか。太いのか」
 言われて気になり、蓋の隙間から覗く。お湯の匂いしかしない。カップの隣に粉末スープが横たわっていた。ああ、入れ忘れた。ぽりぽりと頭を掻いた後、溜め息混じりに粉末スープの袋に手をつけた。「こちら側のどこからでも開けることが出来ます」と書いてあるが、ビニールが伸びて捩れるだけでさっぱり開く気配が無かったので、理樹に渡して開けてもらうことにした。
「ありがとう」
 素直な言葉に「どういたしましてー」と返す。今年も終わりか。さっきの鈴の言葉が思い出される。対面の鈴は蓋を開けて麺にふうふうと息をかけていた。そういえば、時間を計っていなかった。鈴がお湯を入れて大体一分後だろうと思って、理樹も蓋を開けた。昆布だしの匂いが部屋に充満する。今年も終わりか、と思わせるものが揃っていた。
 




 そばを食べ終わり、理樹の入れた麦茶を二人で啜る。ブラウン管の中は年明けを前に慌ただしくなっていた。チャンネルを変えてみると、ライブだったり、芸人が遊んでいたり、と喧しいことこの上なくて、結局「ゆく年くる年」で落ち着いた。鈴は携帯を弄っている。それを見て、理樹も携帯を弄ってみたが迷惑メールがきていた。削除した。あとは、幼馴染他からの「よいお年を」メール数件。ピッピッと一斉送信で返して閉じた。鈴もメールを打っているのだろうか。
「メール?」
 忙しなく指を動かして携帯を弄繰り回している鈴に対して問いかける。
「いや、オセロ」
 あのメールすらまともに打てなかった女の子が今ではアプリでゲームが出来るほどに成長した。それはとても嬉しいことなんだけども。
 もうすぐ年明けだというのに、二人きりだというのに、鈴は携帯アプリでオセロをやっていたのだ。なんてことだ。その時、理樹に電流走る。かなりのショックだった。ショック過ぎて目にうっすらと透明な膜が張っていた。でも、泣かない。男の子だもん。違うことを考えることにした。
「何かやり残したことってある?」
「ん?」
 携帯を弄る手を止めて、鈴が理樹を見る。
「んー」天井を見上げて考える鈴。首を動かしてテレビに顔を向ける鈴。俯いて唸る鈴。「理樹はなんかあるか?」結局答えが見つからなかった鈴。
 質問を質問で返された理樹は、自分の中ではやり残したことはあるにはあるのだが、それはここ数年のやり残しで、今この場で言うのもなんだかなぁ、と思って「さあねぇー」とお茶を濁してみた。理樹の態度を見て、興味を失くしたようで、鈴は再び視線を携帯へと戻した。
 いつまで幼馴染でいる気だ。そんな恭介の言葉が思い浮かんだ。今年も終わりか。そんな鈴の言葉が思い出された。





「うがー」
 鈴が突然声をあげて携帯を放り投げて、後ろに倒れ込んだ。そして、炬燵の中に潜り込んでいった。もうすぐカウントダウンが始まる。
「どうしたの?」
「うがー」
 うがーしか言えない身体になってしまった鈴を見て、どうせオセロで勝てなかったんだろうと決めつけて、テレビに視線を戻す。と、炬燵の中に入れた足に何かが触れる。何か、と言っても、この部屋には二人しかいない。つま先から始まったそれは、少しずつ上へと昇っていく。太ももまできたところで、期待感とかドキドキとかでビクっと足を伸ばしてしまう。「いてっ」と、鈴の足に当たった。「あ、ごめん」と謝る。「うがー」と鈴の呪いはまだ解けていなかった。太ももをさわさわされた。またビクッとなってしまった。
「も、もう鈴!」
「うみゅ?」
 呼ばれて起き上がり、小首を傾げて、「どうしたのん?」と表情で語り、かわいさアピール満載な鈴の返し方に、一度「ふぬおー」と悶絶した後に、深呼吸してみたが「へいへい!」とよく分からないテンションになってしまった理樹はもう既に限界だった。
「もうすぐカウントダウンが始まるね。つまり、これは僕の大人へのカウントダウンも始まったってことかい?」
「何を言ってるんだ、お前は」
「だけど、その前に言わなくちゃならないことがあるんだ」
「落ち着け。みかんでも食べて落ち着け」
「あふぅ」
 さわさわーっとした感覚は、太ももを越え、遂に股間部分に達していた。流石に、それは今年のやり残しを終わらせてからだと思い、胸の内にうずまく欲望をグッと抑え、股間を触る鈴の足を止めようと、炬燵の中に手を入れる。
 握ったそれは、なんだかもっさりしていた。毛深い。鈴の足は毛深かった。
「鈴は毛深いのか!」
「失礼なことを叫ぶな」
 そんな訳ないよね、と溜め息混じりに炬燵の中から引っこ抜く。黒くて柔らかい釣り目がちな女の子が「にゃー」と挨拶していた。
「おお、オバマじゃないか。いつのまに部屋に入ってきたんだ」
「わざとらしいな。鈴が入れたんでしょ」
「そいつは黒猫のオバマだ。今後ともよろしく」
「ここペット禁止だって言ったじゃんかー、もう」
「しょうがないだろ。新入りなんだから」
 何故か逆ギレ気味にプリプリする鈴。何がしょうがないのか分からないが、こいつに言ってもそれこそしょうがない、ということは分かったし、分かってた。
「そんなことよりカウントダウン始まるぞ」
「おお」
「にゃー」
 うまいことは話を逸らされた。まあいいや。
 テレビを見ると、あと一分もしないで年を越す。そんな状況になっていた。
 年を越すからといって何も変わりはしないし。目の前の鈴がその証拠だ。子供の頃からなんにも変わらない。僕たちの関係もなんにも変わらない。カウントダウンが始まった。ハッピーニューイヤー。
 とりあえず。
「あけおめ」





 年明けからちょっとして。理樹お手製の甘酒が炬燵の上に登場していた。やっぱり正月はこれに限るね、と言う理樹。甘過ぎると文句をぶーたれながらも飲む鈴。
「なあ」
 甘酒片手に再び携帯を弄っていた鈴が問いかける。
「ん?」
「メールの一斉送信ってどうやるんだ?」
「……ああ」
 そういうことかと気づく。オセロなんかしてなかったんだ。皆にメールを打っていたんだ。慣れないことをしていたんだ。だから、「うがー」しか言えなくなっていたんだ。自分が放っったらかしにされていた訳ではないと思い、少しあの時の電流のショックは和らいだ理樹だった。実際には放ったらかしにされてたんだけども。
 手を伸ばし、「貸して」と鈴から携帯を受け取る。メールの内容は「あけおめ」とシンプル且つ、とても気持ちのこもった文章だった。しかも一斉送信しようとか、どんだけ適当なんだか。苦笑する。
 みんな宛てでいい? それでいい。やり方教えようか? 頼む。あのね、ここをこうして。反対からだとよう分からんな。
 鈴が立ちあがる。理樹の方へととてとてと歩き、のけ、と理樹を蹴飛ばす。ほんのり空いたスペースに身体を滑り込ませる。よし、教えろ。ふわりと甘い匂いが理樹の鼻を通り過ぎていく。クラっとした。
 鈴はあまり人にくっつくのが好きではなかった。幼馴染である理樹に対しても、それは言えた。だが、今の状況はどうだ。身体は密着しているし、顔は理樹の手元にある携帯のディスプレイを覗きこむために頬までぴったり。鈴の吐息が耳元で聞こえる。柔らかくて暖かい鈴の身体が。
 普段では起こりえない状況に、理樹の心臓はメルトダウン寸前。生唾を飲み込む。若干パニくりながらも、ここをこう! と教えてあげた。
「ふみゅ。分からん」
 鈴はアホだった。
「だから、ここをこう!」
「分からんから送っといて」
「えー」
「頼んだ」
「いや、でも、これから先どうすんの?」
「これから先もずっと理樹がやってくれるだろ」
「え」
「だって……」
 だって、なんだ。なんで黙る。なんで俯く。こてり、と鈴のおでこが肩に乗る。はあ、と熱い吐息が耳をくすぐる。ブルリ、と理樹の体が揺れる。心も揺れる。理性が揺さぶらられる。なんだこれは。とりあえず、膝でゴロゴロ喉を鳴らすオバマを撫でて落ち着くことにした。ヘタレ精神ここに極めり。それでもおさまらない動悸、息切れ、目眩、吐き気。そうだ病院に行こう。
 現実逃避もほどほどに。黒猫オバマも欠伸混じりに「チェンジ!」と叫んでいるように見える。変わらなきゃ。それでも顔を向けれないでいた。すぐ横の鈴の顔を見れないでいた。見たらひっくり返る。今までの世界が反転してしまう。そんな気がした。変化を求める自分と変化を恐れる自分のせめぎ合い。
 沈黙が続く。テレビで垂れ流されているバラエティ番組のおかげで重苦しさは微塵も無いのだが。早く何かしらの行動を起こさないと大変なことに。
「あのさ」
「ん」
「去年のやり残し、なんだけど。聞いて」
 意を決する。これは鈴がくれたチャンスなんだ。鈴も同じ気持ちだったんだ。いい加減ハッキリしない僕への叱咤激励なんだ。
 鈴の行動をそう解釈した理樹。ずっと言えなかった言葉。人生のやり残しみたいなものを、吐き出す。
「鈴がす、すすす、すー」
「スピー」
「そう、スピー! うわーんちくしょー!」
 耳元で鈴の「くかー」という声が聞こえた。ジュルリという音がした。
「はあ……」
 理樹の口から溜息が漏れる。人生で一番勇気をだした場面で、当の鈴は涎を垂らしてアホ面で幸せそうに寝てるのだ。遣る瀬無い。結局、鈴の予想外の行動はそういうことだった。ただ甘酒如きで酔っ払ったんだ。
 脱力してもう一度顔を肩に乗る鈴の方に向けると、やっぱり涎を垂らしたアホ面だった。あまりのアホっぽさに先程まで迸ってた下劣な情動も雲散していった。
 ふと、外から階段を昇ってくる数人の足音が聞こえる。聞き覚えのある声がぎゃあぎゃあと騒いでいる。
 鈴のメールを見て遊びに来たんだろうなぁ。結局、いろんな事がうまく出来ない去年だったなぁと終わった年を振り返る。まあ、でも。
 鈴の体温を感じながら、鈴の吐息を感じながら、甘酒を飲みながら、ちょっとした幸せを噛み締める。こんな幸せそうな鈴の姿で始まる今年はきっといい年になるんじゃないか。そう思えた。


[No.563] 2009/12/05(Sat) 14:29:16

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