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all 第31回リトバス草SS大会 - 主催 - 2009/04/16(Thu) 20:43:24 [No.57]
しめきりる - 主催 - 2009/04/18(Sat) 00:26:33 [No.67]
甘美なる世界、その断片 - ひみつ@6760 byte ごめんなさい - 2009/04/18(Sat) 00:10:00 [No.66]
[削除] - - 2009/04/18(Sat) 00:05:34 [No.65]
カウリスマキの友人 - ひみつ@19947 byte - 2009/04/18(Sat) 00:00:50 [No.64]
家族だんらん - ひみつ@6750byte - 2009/04/17(Fri) 23:59:45 [No.63]
Gently Weeps(静かに泣く) - ひみつ@13001 byte - 2009/04/17(Fri) 23:58:54 [No.62]
ごーすと・はっぴーえんど? - ひみつ@7616 byte - 2009/04/17(Fri) 22:52:27 [No.61]
空色グライダー - ひみつ@20470 byte - 2009/04/17(Fri) 22:04:03 [No.60]
「せーのっ!」 - ひみつ@9983 byte - 2009/04/16(Thu) 22:25:38 [No.59]


「せーのっ!」 (No.57 への返信) - ひみつ@9983 byte

「理樹くんの馬鹿ー! 女顔ー! スケコマシー!」
「おうぇえええぇぇーーー!!?」

 おはよう、と言いかけた口が本人の意図しない声を発する。
 その声におどろいたスズメが数羽、空に逃げていく。その姿に狩猟本能を刺激された猫が数匹、駆けていく。
 登った太陽が寝ぼけた学校をあたためだしたころ。ゆるやかな時間の中ではたしてそこだけはおだやかさのカケラもなかった。

「急にどうしたのさ沙耶?」
「うるさいうるさいうるさい! この優柔不断! とーへんぼく!」
「いやいやいや、今のところ沙耶のほうがうるさいからね? とりあえず落ち着こうよ」
「理樹くんの……理樹くんは……理樹くんは恭介の嫁ーーーーー!!!!」
「さすがに最後のは聞き捨てならないよっ!?」

 嫁ーよめーめー……と一人ドップラー効果を残しながら走り去る沙耶。
 思わずツッコんでしまったことにより追いかけられなかった理樹。
 朝食でにぎわう学食でさけぶふたりに周りから好奇の目が集まる……ことはない。六割の生徒は「またか……」とあきらめているし、四割の生徒は関わりたくないのでガン無視だし、一割は「切なげな理樹くん萌エス……」とシャッターを切っている。
 ちなみに、全部あわせて十一割だが間違いではない。最後の一割は他校の生徒や先生だからだ。お前ら働け、勉強しろ。
 と、その一団の中から男子生徒が数人理樹に歩み寄った。恭介・真人・謙吾だ。

「何を憂いでいる? その年で生えてきたのかい?」
「いやまだだけど……それより聞いてよみんな。理由はわからないけど、沙耶を怒らせちゃったみたいなんだ」
「ああ、全部見てた。しかしなあ……『夫婦喧嘩は犬も食わない』と言うからな」
「なにぃ!? オレの知らない間に朱鷺戸 理樹になっちまったのかー!?」
「いやいやいや、それだと僕が婿入りしちゃってるから。て言うかまだ結婚してないから」

 理樹は幼なじみ三人に助けを求める。
 だが、恭介は応じなかった。恭介は理樹を強くしようと、あえて突き放す。

「……これはお前らふたりの問題だからな。俺たちがしてやれることはない」
「えぇっ!? 恭介は手伝ってくれないの?」

 両手を胸の前で組み、瞳をウルウルさせて、恭介を上目づかいでみつめる。
 こうかは ばつぐんだ!

「あ、いや、直接的な手伝いはできないがアドバイスていどならできるという意味であって、」

 棗 恭介、あっさり陥落。
 周りの二割の群衆も「涙目のりっきゅん萌えー!」とヒートアップ。
 ちなみに一割増えているが、OLとリーマンが加わったためである。お前らそんなに暇なのか、GWが十六連休あるクチなのか。

「ホントに?! ありがとう恭介!」

 嬉しさのあまりひょーん、と恭介に抱きつく理樹。
 真人はそれをうらやましそうに見つつも、口を開く。

「それで、今日はなにが原因なんだ? また筋肉関係か?」
「いや、朱鷺戸と理樹が筋肉でこじれたことなどないだろう」

 ここでロマンティック大統領の登場。

「そうだな……さしずめ、愛の言葉が足らなかったんじゃないか?」
「さすが、俺たちのロマンティック大統領だぜ!」
「理樹、昨日は朱鷺戸に何回愛をささやいた?」
「え? 一時間ごとに一回ぐらい?」
「ぅぐっ!?」
「すげぇな……休み時間になるたんびかよ」
「ちなみに、営みのほうなら朝晩一回ずつ。」
「うわぁぁぁぁぁ!!」

 とうとう耐えきれずに、謙吾はその場にくずれ落ちる。

「どうした、立て! 立ってくれロマンティック大統領!」
「恭介……俺のロマンティックは、もう必要ないのか……?」
「バカヤロウ! オレは必要だ!」
「真人……ふっ。ありがとう、お前たちと友達で本当によかった……」

 さらに友情を確かめあう男三人(彼女無し)。しかしその男三人(彼女無し)に無意識に追い打ちをかける理樹。

「まずはキスから入ったよ。そしたら沙耶ったらいきなり舌を入れてきて……」
「「「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 そして始まる官能小説も真っ青のエロトーク。《雪原をはい回る五匹の蛇》《そびえ立つ巨塔》《あたしだけを見て》《もう一回》などなど、全部書いたらどこぞの機関に検閲されること間違いなしの言葉の数々を、情感たっぷりに語られる。
 男三人(彼女無し)に大ダメージ。
 しかし三割のギャラリーは前かがみになりつつヘブン状態! ちなみにさらに一割増えているが、警察と医者が加わ(略)。お前ら街(略)。

「おまえらキショいんじゃーーー!!」

 そしてそのギャラリーを文字通り蹴って散らしているもう一人の幼なじみ。
 あらかた散らし終わると、理樹たちの近くに寄っていく。
 それを合図に、数名の女子生徒も集まってくる。リトルバスターズのメンバーが全集した。
 さすがに女性陣には聞かせたくないのか、いつの間にか理樹のエロトークは終わっていた

「わふっ!? 井ノ原さんたちが虫の息です!」
「なにやら面白いことになっていますが……どうしました?」
「い、いやーどうしちゃったんでしょーねー姉御?」
「はっはっは。本当は全部聞いていたくせに」
「なななななんのことやらさっぱりですヨ!」
「……はるか、かおがまっかだぞ」
「ホントだ。リンゴみたいだよ〜」

 一気ににぎやかになる。
 理樹は女性陣にも相談することにした。

「ちょうどよかった。実はみんなに相談したいことがあって……」
「なになに?」
「私たちでよかったら力になります!」
「うむ、少年に頼られるのはやぶさかではないな」

 なんとも頼もしい言葉が返ってきて、ほっとする。

「……とは言え、直枝さんが相談したいことはわかりきっていますけど」
「どーせ、さやのことだろ」
「うっ、そ、その通りだけど……」

 美魚だけでなく鈴にすらバレバレだったことに、理樹は言葉につまる。
 バレバレだったが、一応詳しく経緯を説明する。かくかくしかじか。

「というわけなんだけど」
「う〜ん……それだけだと、さやちゃんが怒っちゃった理由がわからないね」
「沙耶君のブルーデーは終わっているはずだしな」
「ぶるーでー? ……あー、あれな」
「鈴ちゃん、意味もわからずうなずくのはどーかと……」
「正直なんで怒ってるのか、どうしたらいいのかわからないんだ」

 理樹はため息をつく。

「ふむ。では本人に聞いてみようではないか」
「でも姉御ー、今から沙耶ちゃんを探すのは大変だと思いますヨ?」
「なに、心配いらんさ」

 唯湖は天井からぶら下がっていたヒモをくい、と引っ張った。

 バガン!!

 すると天井が割れて、ロープで縛られ吊られた沙耶が降ってきた。しかも亀甲縛り。ご丁寧にさるぐつわまでしている。

「すでに確保しておいた。」

 こともなげに言った。

「んむー! んがー!!」
「しかし……自分で縛っておいてなんだが……おっぱいとふとももがエロいな」
「んぬ? ……!! むあー! むなわー!!」

 ロープで締め付けられることによって、出てるところが強調され、さらにスカートがめくれあがってしまっている。

「はっ!?」

 言われて気づいた理樹が、がばっ、と後ろを振り向く。
 ダメージから復活していた恭介たちが、目を見開いて沙耶を見ていた。

   ♪あしーたまーた会ーう時ー♪

「み、見るナぁぁぁぁぁ!!!!」

   ♪笑いながーらサーミングー♪


 とすっ。×3


「目がっ!! 目がーーーッ!!」
「あっぎゃーーーーーー!!?」
「不可抗力だーーー!」

 せっかく精神的ダメージから復活したのに、今度は肉体的ダメージで再びマット(床)に沈む。

「沙耶! い、今下ろすから!」

 食堂のイスに飛び乗り――上履きのままだったので、いったん降りて靴下で再び上がる。
 沙耶の体を肩で支えるようにして、ロープの結び目をほどく。もちろん、感触を楽しむのも忘れない。
 やっとの思いで下ろした沙耶は、直後激しく落ち込んだ。

「……スパイを自称しているあたしが、一般人に捕らわれるなんてお笑い種よね。ええそうよ、急に目の前に現われた来ヶ谷さんに何の抵抗も出来ずに押さえつけられたわよ。なにあれ、分身なんて馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの? しかも亀甲縛りよ? 笑えるわよね? 笑っちゃいなさいよ。あーっはっはっはって笑えばいいじゃない!
 あーはっはっは!」
「沙耶、落ち着いて沙耶! あれだから、来ヶ谷さんはナントカ超人とかにカテゴリされる存在だから! 大丈夫だから!」

 いつもの自虐モードに入った沙耶をなんとかなだめる。
 その一方で、「そうか、私は少年にそんな風に思われていたのか……」と地味にヘコんでいる人物が一名。小毬がその頭をよしよし、となでている。

「それに……縛られてる沙耶も……可愛かったよ」
「えっ……? (きゅんっ)」
「沙耶……」
「理樹くん……」
「……このふたりは本当にケンカしているのでしょうか?」
「はっ!?」

 瞳に星を入れてもじもじしていた沙耶は、美魚の言葉で我に返り、理樹から距離をとって立ち上がる。

「そうよ、あたし本気で怒ってるんだからね!」
「待ってよ沙耶、どうして怒ってるの?」
「そんなの自分の胸に聞きなさいよ!」
「ごめん、本当にわからないんだ……僕がなにか悪いことをしたならあやまるから、お願いだよ沙耶……。
 このまま沙耶に嫌われたままなんて、そんなの耐えられないよ……」
「う……」

 涙ながらの訴えに、さすがに沙耶もたじろぐ。

「だって……だって理樹くん……」
「うん」
「昨日……」
「昨日、僕がなにかした?」

 というか昨日はナニかしかしていない気がするのだが。
 そんなことを思っていたら、沙耶が真っ赤になって叫んだ。






「昨日、二回しかしてくれなかったじゃない!!!!」
「「「「「ぶっ!!??」」」」」






 沙耶のあまりにもあまりな爆弾発言に、鈴以外の女子が吹き出した。ちなみに唯湖は噴き出した。

「いつもは三回以上してくれるのに! あたしのこと飽きちゃったの!? 飽きたなら飽きたって言いなさいよ! もう、もう理樹くんなんか恭介さんのお嫁さんになっちゃえばいいんだー! うわーーーーん!!」
「違うよ沙耶、僕は恭介のお嫁さんにはならないよ。
 ――僕は、沙耶のお嫁さんだよ(キリッ)」
「えっ……? (きゅんきゅんっ)あ……でも、あたしも理樹くんのお嫁さんになりたい……」
「それも心配いらないよ。
 ――二人で、お嫁さんになればいいんだ(キリッ)」
「えっ……? (きゅんきゅんきゅんっ)」
「沙耶……」
「理樹……くん」
「沙耶」
「理樹くん」
「沙耶!」
「理樹くん!」

 熱い目で見つめあい、手と手を取り合うふたり。ふたりの時間が止まる。もう、周りなんか見えてない。

「わふー……なにやらいい雰囲気なのです……」
「クーちゃん見ちゃダメー!」

 小毬はクドのなけなしのおっぱいを両手で隠す。クドも小毬のおしりをつかむ。お互いにテンパっていた。

「はあ……わけがわかりませんが、ひとまず一件落着でしょうか?」
「うん? なんだおわったのか?」
「しかし……このままキスでもしちゃいそうなムードですネ」
「まあ葉留佳君が心配することはないだろう。いくらなんでも衆人環視の中でそんなことは、」


 むっちゅうううううううううううううううう。


「( д) ゜ ゜」
「うわ! くるがやの目がとんだぞ!? くちゃくちゃこわっ!」


 むっちゅうううううううううううううううう。

 一分たち二分過ぎ五分待っても離れなかったので、リトルバスターズは解散することにした。
 ぞろぞろと食堂を後にしながら、真人が声を上げた。

「あのよぉ……ふと思ったんだが、全員で今の気持ちを言葉にしたら、案外そろうんじゃね?」
「奇遇だな……俺もそう思っていたところだ」
「じゃあ、やってみるか?」

 先頭の恭介が足を止め、振り返る。体の前で握っていたこぶしを開きながら、前に突き出す。

「せーのっ!」
「「「「「「「「「あいつら、バカップルだ!!!!」」」」」」」」」

 本当にそろったことに全員が目を丸くし、しかし、間違っていないとうなずきあったのであった。



                    終


[No.59] 2009/04/16(Thu) 22:25:38

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