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No.593へ返信

all 第47回リトバス草SS大会 - 大谷(主催代理) - 2009/12/25(Fri) 00:00:45 [No.589]
しめきり - 大谷(主催代理) - 2009/12/26(Sat) 00:41:55 [No.604]
Last Story - 秘密@17236byte - 2009/12/26(Sat) 00:20:02 [No.602]
光り輝く聖なる夜 - ひみつ 6269 bite - 2009/12/25(Fri) 23:57:26 [No.598]
心を描く - 秘密@3993byte - 2009/12/25(Fri) 23:56:31 [No.597]
化野の鐘の声 - ? @10872 byte - 2009/12/25(Fri) 23:53:49 [No.596]
仮面の男 - 秘密 9954byte - 2009/12/25(Fri) 22:29:26 [No.595]
どこまで続く×どこまでも続け×それは無理だと誰かが... - ひみつ@19878 byte - 2009/12/25(Fri) 17:11:48 [No.594]
それではみなさんさようなら - ひみつ@9305 byte - 2009/12/25(Fri) 15:27:49 [No.593]
絵に描いたとしても時と共に何かが色褪せてしまうでし... - 秘密@19016 byte - 2009/12/25(Fri) 11:37:15 [No.592]
色彩 - 秘密 14400 byte - 2009/12/25(Fri) 01:17:43 [No.591]


それではみなさんさようなら (No.589 への返信) - ひみつ@9305 byte

 『それではみなさんさようなら』というタイトルの絵だった。絵の内容は、題名とは全然関係ないと思われる。男子四人、女子六人が笑顔でくっついている絵で、お世辞にもうまいとは言えない、というかド下手で失笑が漏れるてしまうような出来なのだが、なんでか目が離せなくなる不思議な魅力を持っていた。だけど、きっとそれは、タイトルと作者の行動によって呼び起こされたものであって、絵自身には大して力は無いのだろうと思う。
 作者である直枝理樹は、見事に飛び降り自殺を成し遂げた。たぶん恋人だったであろう棗鈴と手をつないで、学校の屋上から、お昼休みの人が溢れている時間。二人で仲良く空を飛び、重力に従い地面に向かい、トマトみたいに弾けた。弾ける瞬間、その着地点あたりでサンドウィッチをむしゃむしゃ食べていたのは何を隠そうこの私で。普通の神経しか持ち合わせていない私にとって人間の死体、しかも知り合いとあっては精神は持つはずもなく。一度ゲロを吐いた。軽く目眩が起こった。そのまま失神した。起きたらベットの上だった。保健室なんて飛び越えて、救急車で運ばれて、病院の個室で何故か点滴を受けていた。貧血もあったらしい。ブドウ糖が注入されている管を逆流する赤い血液が見えると、また気持ち悪くなって吐いた。おめでとう。トラウマゲットだぜ、みたいな。
 ゲロを放置して、しばらくボンヤリとしていると、看護師が部屋に入ってきた。「あら、おはようございます。気分はどうですか?」それに答えようとするが、看護師がすぐに振り返り扉を開けるので、返答出来なかった。最悪です、って言ってやりたかった。「先生ー、二木さん起きましたよー」人の話を聞かない人だ。「ん? どうしました?」と笑顔で私の顔をマジマジと見る。人の話を聞かないところ、自分を無駄に明るく見せようとするところ、そういうところが気に入らず、第一印象は最悪なものになった。その後その印象が払拭される事はないのだが。
 一度検査をするから、と言われてMRIだかCTだかよく分からない機械の上に寝転がされて、謎の吸盤をピトピト身体につけられて、ウィーンウィーンと音がなり、異常なしですお疲れ様です、でめでたく退院することになった。入院期間一日。とっとと帰ってシャワーが浴びたかった。



 直枝理樹、棗鈴の葬式は共同という形で行われた。クラスメイトがいないという特殊な状況。片方は身寄りがほぼ無い状態、片方も親族からはみ出している状態。バス事故のこともあり、学園の理事あたりから資金提供と号令が出され、学校規模の盛大というとなにか変だが、大きなホールを借りて、学校の生徒全員参加の葬式が始まった。クラスごとに順番にご焼香をしていく。喪主は見たことない人だった。自分の番が来て、マナーにだけはうるさい家系に感謝して、スマートに焼香をあげる。彼らの棺の周りには、これまでの彼らの校内での活動の記録が置いてあった。その中に、直枝理樹が飛び降りるちょっと前の美術の時間に描いた絵もあった。仲間達と笑顔で、棗鈴は困り顔で。お世辞にもうまいとは言えないが、皆が好きだという彼の気持ちは伝わってきた気がした。遺影には満面の笑みの二人がいた。落ちる瞬間と同じ顔に見えた。私はトラウマ発動によりゲロを吐いた。
 まあ、多少のトラブルがあったにせよ、葬儀はスムーズに終りを迎えた。火葬場がすぐ横にある葬儀場だったので、移動はせずに済んだ。大人たちは火葬場に入っていく。私達生徒は外から、煙突からもくもく飛んでいく煙を見て、手を合わせた。さようなら、直枝理樹。さようなら、棗鈴。二人の顔を思い出して、ゲロを吐きそうになったが飲み込んだ。酸っぱくてツーンとして涙が出た。



 葬儀から数日が経ったところで、再び事件が起こった。再び私の目の前で。もう外でサンドウィッチは食べてはいけない、と思った。飛び降り自殺である。まるで直枝理樹と棗鈴の二人の行動ををなぞるように手をつないでの紐なしバンジージャンプ。当然普通の神経しか持ち合わせていない私は前回同様失神した。また病院に運ばれて、同じ看護師はまったく話を聞かないし、よく分からない機械で身体を検査されて、また一泊することになった。
 消灯後、非常口の看板の明かりが廊下から漏れて部屋に入ってくる。それがやたら眩しくて、気になって、私は眠れないでいた。カーテンに仕切られた狭い天井。なんとなくため息を吐く。あのバス事故の所為なのだろうか。直枝理樹と棗鈴は、家族よりも大切だったであろう仲間を失った。支えが無ければ生きていけなかったのかもしれないし、あの事故で自分たちだけ生き残ってしまったという重圧に耐えきれなくなったのかもしれない。更に二人の後を追うように起こった飛び降り。あの事故で大切な人を失ったのかもしれない。クラス単位で丸々全員お陀仏したのだから、その中に恋人や親友や兄や弟や姉や妹やそんな人達が紛れ込んでたとて不思議でも何でもない。現に私としても妹を一人失っている。あれはあれが馬鹿だったからしょうがないことなんじゃないかなって諦めた。結局仲良くなれなかったのに後を追うまでの義理はない。ごめんね葉留佳。眠いからお姉ちゃんもう寝るね。おやすみ葉留佳。



 私には学習能力というものが無いらしい。なんでまたお外でサンドウィッチなんぞを食べているのか。そのせいでまた目撃してしまった。これはもう夢の世界の出来事なんだろうか。なんで皆そう簡単に死ねるんだろう。いつから私は夢を見ているんだろう。訳が分かんなくなってきた。三度目の飛び降り自殺。また昼休み。また私の目の前。でも、今度は一人だった。女の子だった。ソフトボール部の子なのは知っている。名前は知らない。いい加減にして欲しい。流石に見慣れたのかもしれない。私は失神せずにいた。そのせいで、マジマジと見てしまった。彼女の死体を。ビクンビクンと一瞬跳ねた。気持ち悪くて、結局ゲロ吐いた。もうサンドウィッチ食べれないな、と他人事みたいに思った。



 それから、雨が降るみたいにこの学校では人が降った。嘘みたいな話。屋上は元々立ち入り禁止だった。最初のジャンパーはドライバーで無理矢理窓をこじ開けて侵入したらしい。三回目が起こって以来、昼休みに教師が屋上前に張っていた。当然の対処だと思う。寧ろ遅すぎだ。それでも減らなかった。どうやってかは分からないが、皆気づいたら教師もドアもすり抜けて屋上に出てしまっていると言うのだ。何言ってんだ。夢見てんじゃないよ。現実見ろよ。
 呪いの学校として遂には週刊誌デビューを果たし、ワイドショーデビューを果たした。私は、推薦で決まる予定だった大学から、受験自体を拒否された。遣る瀬無い事態だ。風紀委員長として私も警備に駆り出された。それでも止まない人の雨。生徒数は死亡と退学、転校なんかでちょっとずつ減っていき、最終的に学校の閉鎖まで追い込まれた。それでも、飛び降りる人間は後を絶たず、受験勉強する時間も削って、私は教師とともに警備にあたった。他の風紀委員も一緒に。がんばりましょう。こんなこともう嫌です。僕はこの学校が好きだから、こんなのはもう見たくない。そう言って張り切っていた風紀委員の男の子が今度は飛び降りた。その前日、「不謹慎かもしれないですけど、三枝葉留佳がいなくなって風紀委員の活動にハリがなくなったんですよね」と言っていた。自ら死亡フラグを立てていたようだ。
 飛び降りた人たちにはリセットボタンでも見えたのだろうか。これは実は現実じゃなくて、夢で、人生やり直せるチャンスで、飛び降りることで自分の全てをチャラにして、また一から出来るって言うんなら私だってやりたいけど、そんなこと無い。いや、あるのかもしれないけど、試す勇気が無い。目の前でトマトジュースになる姿を三回も見たら、恐怖が先に立つってもんだ。
 あまりにも人が死に、私の感覚は段々と麻痺してきていた。ああ、今日もか。その程度しか思わないようになった。ゲロなんて吐かなくなった。
 校内の警備とか言って、私は廊下を歩いていた。賑やかだった校内は、今はシーンとして気持ちが悪い。何を思い立ったか、私はあのバス事故でほぼ全員が爆発したあのクラスの教室に行ってみることにした。全てはここから始まったのだから。
 カツカツと廊下に私の足音が響く。昼間に静寂包まれている学校は不気味だ。夜なら分かるが、それが昼だと言うことで余計に変な気分になる。あるはずのものが無い。無いはずのものがある。教室に着いて、最初に目に付いたのは、『それではみなさんさようなら』だった。その絵の中には私の妹がいた。笑っていた。私の前では見せることの無かった笑顔だ。まあ、葉留佳は葉留佳で一応幸せ掴めたみたいだからいいじゃん。寧ろ私の方がずっと苦しんでるんだから。ババアの相手なんてしてらんないよ。良かったね。ふざけんな。
 きっとこの絵が悪い。この絵が原因だ。そう思って破ってやろうと思った。いや、故人の描いたものを破るとか罰当たりにも程があるけども、なんかそうしないとダメな気になる。吸い込まれそうになる。この絵を見てると題名の通りの行動を起こしたくなる。気持ち悪い。私は絵を掴んだ。



 教師すらいなくなった校内を一人で歩く。目的地はただ一つ。昼休み、なんて誰が決めた。いつだって出来るんだから。夜だって。今は夕方だけど。
 階段を上り、踊り場で踊り、階段を駆け上がる。そして、屋上に到着。渡された合鍵で鍵を開けて、テンションに従い、ドアを蹴っ飛ばす。ブワッと風が私に向かって吹いていた。負けるもんか、と立ち向かう。フェンスの近くには一人、先客がいた。女の子だ。ソフトボール部の子かな。なんとなく見たことがあった。遠慮せずに近づいていく。彼女はこちらを見て怯えていた。そんな怖い顔してるだろうか。結構顔には自信があったんだけどな。ずんずん近づいて、最後は彼女を抱きしめた。なんでそんなことをしたのか自分でも分からない。勢いというものは怖い。彼女は、私の腕の中で泣き始めた。最初は嗚咽。最後は、ああああああああ、と叫びにも似た鳴き声だった。泣きつかれて眠りに落ちた。アスファルトの上に寝転がせて、私の上着を一枚かけてあげた。
 さて、と私はフェンスをよじ登る。よじ登って、向こう側に立った。
 結局、あの絵を破り捨てることなんて出来なかったし、リセットボタンも見えないし、受験勉強は進まないし、自殺も減らないし。目には見えない流れに踊らされているのを感じる。ここに立ってみても未だにリセットボタンなんて見えない。人生ゲームっていうならやり直したいものだ。いろいろ、もっと、上手くやれたんじゃないかなって思う。最初からやり直せるっていうなら、きっと今とは全然違う素晴らしい世界が待っていたかもしれない。もっと酷い世界かもしれないけど。人生、始まった時点で終着駅は死亡っていうのは決まっている。だから、ここで死のうが後で死のうがその前に死んでようが変わんない気がする。
 風が頬を凪ぐ。髪がバタバタと靡く。フェンスにはしっかりしがみつく。皆ここで何を見たんだろうって気になって立ってみた。リセットボタン? 仲間? そんなの見えないし、亡霊にすら会えない。オカルト要素皆無。
 ああ、でも綺麗な夕日だなって思って、フェンスを再びよじ登った。
 かーえろ。


[No.593] 2009/12/25(Fri) 15:27:49

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