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普段は透明なはずの吐いた息が白く光り、街路樹はキラキラ輝いている。 町中がイルミネーションで輝く今日はそう、クリスマス。 「早く早くっ!」 「そんなに急がなくても大丈夫よ、葉留佳」 私の右手が葉留佳の左手に引かれ、体全体が引っ張られる。 行き先はケーキ屋。今日は葉留佳と2人で姉妹水入らずで過ごす 大切な日で、私たちは前からとても楽しみにしていた。 特別な日に一緒にいる人は、互いの存在もまた特別なものに感じられるから。 「お姉ちゃん、どうかしたの?」 「……葉留佳と一緒にいられて嬉しいなって考えてただけよ。悪い?」 「ううん、お姉ちゃん大好きっ!」 そういうと同時に腕に抱きついてくる葉留佳。若干人目が気になるが、この心地よい瞬間を自分から終わらせたくはない。 それにしても最近素直になったと思う。前まではこんなこと恥ずかしくて言えなかったというのに。 きっと葉留佳が素直に好意を表してくれるからと思う。 「えっと……確かこの店ね」 手を繋いで入ったケーキ屋は、いかにもクリスマスという雰囲気で包まれている。 どれがいいかを吟味しようにも、人でごった返すことは容易に想像できたので、葉留佳と何にするか事前に決め予約注文しておいた。 ブッシュドノエルというクリスマス定番だと聞いたケーキがあるということでそれにした。 「お待たせしました、こちらでよろしいですか?」 店員の声が聞こえたのでそちらへと向き、ケーキを受け取る。 ちなみに前払い形式らしく、お金は私と葉留佳で半分ずつ出した。 「さ、早く戻って食べよっ!」 店員の声を背にして店を出た。 私の左手にはケーキの入った箱が、右手には葉留佳の左手がしっかりと握られている。 きれいな町並みを眺めながら話をしていると、あっという間に寮に着いた。 扉を開け、部屋の中へ入る。 そこで急に不安になった私は、不意に言葉が口をついて出た。 「葉留佳、他の皆と過ごさなくてよかったの?」 「なに言ってるの、私はお姉ちゃんと一緒に過ごしたいの。お姉ちゃんは私と過ごすのは……嫌?」 「な、そんなわけないじゃない! 私はいつだって葉留佳と一緒にいたいと……あ」 愚問だった上に墓穴だった。 葉留佳はニヤニヤしながらこっちを見てる……と思ったら、微笑んでいた。 私の一言で安心したような、そんな表情。 「さ、ケーキ切るわよ、ケーキ」 調子が狂いそうになったので、ケーキを切ることにして話題を切った。 ……ああっ、今のものすごく葉留佳に聞かせたい! でもいろいろ追求されたくないし止めておこう。突然どうしたのとか言われても困るし。 グラス、お皿、にナイフにフォーク。食べ物はケーキとジュース。準備はできた。 「じゃあお姉ちゃん」 「ええ、葉留佳」 「「メリークリスマス!」」 グラス同士のぶつかった音が部屋に響き渡った。 早速ケーキを一口食べてみる。 「あ、美味しい」 「だよねー、幸せー」 葉留佳は本当に幸せそうにケーキをほおばっている。 見つめていると、ふと目があった。 すると葉留佳は何かを思いついたようで。 「目、閉じて?」 「……ケーキ取る気でしょう」 「失礼な! そんなことしないって。もししたら私のも食べていいから」 「まあ、そこまで言うなら……」 言われたとおり目を閉じる。黒1色の視界では何も見えない。 まったく、何をしようというのか。 「あ、そうだお姉ちゃん」 「何よ? あむっ……」 私が口を開いた瞬間、何かがそこへと入れられた。 甘いこれは……ケーキ? 飲み込んで目を開けると、そこにはやや頬を赤く染めた葉留佳が映っていた。 「やはは、美味しい?」 「美味しいけど、いきなりはずるいわよ。じゃあ葉留佳、口あけて?」 「お姉ちゃんって、たまに大胆になりますネ」 「いいから、はい、あーん」 葉留佳が口をあけると同時にケーキを運ぶ。 「どう、美味しい?」 「うん、さっきよりも美味しい!」 満面の笑みで答える葉留佳に、不覚にも一瞬胸が高鳴ってしまった。 そりゃあ私のかわいい妹だし、愛おしく思うけど、この感情は…… 「うん? お姉ちゃんどしたの?」 思考を巡らせていると、葉留佳の声によって現実に引き戻された。 「別に何でもないわ」 「そうだ、この後外に行かない? 中庭とか」 「は? もう閉まってるわよ?」 「ちょっと話と見せたいものがあるんだ。だから、お願いっ!」 両手を合わせ、お願いのポーズをしながら私を上目遣いで見つめる葉留佳。 もう、そんな顔されたら断れないじゃない…… 寮を出て、街灯に照らされゆっくりと歩く。 しかし校門の前まで来て立ち止まらざるを得ない状況になってしまった。 「元風紀委員が校門を乗り越えるなんて、いいのかな?」 冗談めかした風に言う葉留佳。でも実際そこまで問題ではない。 「いいのよ、元だし。それに共犯でしょ?」 「見つかった場合、私とおねえちゃんじゃ被害の大きさが違うよ、だって……」 「別にそんなこと気にしなくていいわよ。ほら、誰かこないうちに行くわよ」 葉留佳と一緒なら何があってもかまいやしないと、そう思ってるから。 そして中庭へと着いた。葉留佳にとって思い出のベンチに2人腰掛け、ただ空を見つめる。 それはまるで宝石箱の中のようで、散りばめられた煌きに暫しの間目を奪われる。 「……目、閉じて?」 さっきと同じ台詞を繰り返した葉留佳は、闇を、いや、その中にある光を見つめたままそっぽを向き、私に表情を見せようとしない。 私もさっきと同じように、言われるがままに目を閉じた。 なんだろう、さっきはケーキを食べさせてくれた。今度は、キ、キスとか!? ……それはないか。 別にして欲しいわけではないけど、なぜかそんな予想が脳裏に浮かんだ。 「いいよ、目を開けて」 その十数秒後、許可が下りた。 放心中だったわけで、それに反応するのに少し掛かった。 そこには…… 「メリークリスマス、お姉ちゃんっ!」 一等星にも負けない笑顔と共に目に映るのは、蛍光ペンで描かれた絵。 そこにあるは、私と葉留佳がもみの木の下で笑いあっている素敵な絵。 私の記憶の限りでは、葉留佳に絵の才能はなかったはずだ。 しかしこの絵は、全くの素人が描くそれではない。きっと何枚も練習したのだろう。 そういえばやたらとゴミ箱が紙でいっぱいだった気がする。丸めてあってわざわざ見るのもはしたないと思いそのままにしておいた。 「葉留佳、これ……」 「うん、いつもお姉ちゃんにはお世話になりっぱなしだからね。大 好きな人に私の形に残る手作りをあげたかったんだ」 「……はるかーっ!」 「わ、ちょっとお姉ちゃん、苦しいってば」 感極まった私は、無意識のうちに声を上げ葉留佳に抱きついていた。 だってこんなもの見せられたらしょうがないじゃない! こんな嬉しいこと言われたらしょうがないじゃない! 「ありがとう……大好きよ、葉留佳」 赤くなった顔が見えないよう、抱きついたまま葉留佳の胸元に顔をうずめたままで囁く。 その中で葉留佳の動揺が手に取るように分かる。 「わ、私だってお姉ちゃんのこと大好きだよ?」 「さっきも聞いたわ」 「なら言わせないでよ、もう……」 「勝手に言ったんじゃない」 「あうぅ……でもいいや、ほんとに大好きだし」 「も、もう葉留佳ってば!」 少し落ち着いたところで葉留佳から一度体を離し、手を握り肩を寄せ合い、空を見上げる。 空には星達が輝いているけれど、私にはそれより葉留佳が描いた絵のほうが、そして葉留佳が1番輝いて見える。 この絵は私にとって大切な宝物になるだろう。 [No.598] 2009/12/25(Fri) 23:57:26 |
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